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1年目 マトゥオーソ編
10. 朝採り完熟果物のお届け
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次の日の朝、まず果物を一つ採ってウィオと半分こして味わってから、箱がいっぱいになるまで買取用に収穫した。
収穫できる果物はまだたくさんあるんだけど、傷んじゃうと買い取ってもらえないし、何より中途半端に傷つけてももったいないから、また来よう。この場所はもう覚えたから、いつでも採りに来ることができる。
森の入り口近くの村に預けていたお馬さんを引き取って、ガストーの街に向けて出発だ。
お馬さんに括り付けた箱に衝撃を伝えないために、ゆっくり進む。
『馬車で来て、藁とかの上に箱を置くのとどっちがいいかなあ』
「そうだな。冒険者を雇って箱を運ばせるか。ギルドに相談してみよう」
森の入り口から半日くらい歩くから、ウィオだけじゃ箱が運べない。
もうシーズンも終わりだから、場所を隠しておく必要もない。来年また同じところで採れる保証はないし、来年オレたちがここに来るかも分からない。
だったら美味しいものをみんなで味わったほうが幸せだよね。
ゆっくり進んで夕方前に街に着いたけど、門の前は混雑している。
並んでいると、甘いいい香りがする、と周りに人達が言っているのが聞こえる。やっぱり分かっちゃうよね。
そのうちに、馬から降りて手綱を持っているウィオに、近づいてくる人がいた。
「冒険者殿、もしやこの香りはレリアの実ですか」
「そうです」
内緒話するように小さな声で話しかけてきたんだけど、オレたちのちょっと前に並んでる商会の馬車から来たから、商人なんだろう。幻の果物の香りを知っているとは、さすが商人。
「一つ譲っていただけないでしょうか。ギルドの買取価格の倍はお支払いします」
「すでに売り先が決まっている。食べたければベルジュという宿に聞いてくれ」
商人さんはその情報をいただけただけで満足です、と言ってホクホク顔で馬車に戻っていった。
これはあっという間に話が広がりそうだね。
まずはギルドに買い取ってもらってもらおう。
「蜂蜜入りの巣だ。あとレリアの実はこのうちの四つを買い取ってほしい」
「残りはお売りいただけないのですか?」
「匂いを使役獣に覚えさせるのに実物を用意してもらった宿に売ると約束している」
とても残念そうな顔をしているけど、ギルドでは実物を用意できなかったから仕方がないと納得してくれたみたいだ。
果物は状態も良いからと高値で買い取ってもらえたので、雪に埋める作戦は成功だったみたい。
「まだ収穫できる実があったんだが、また買い取ってもらえるか?」
「もちろんです」
「ならば運ぶために冒険者を雇いたいので、また明日相談に来る」
もっと手に入ると分かって、係の人がとたんに笑顔になった。
後ろで冒険者たちの、あの値段で買取ってことはあの実はもしかして幻のやつかと囁いている声が聞こえるから、どこで採ってきたんだと聞かれないうちに、美味しいご飯が待っている宿に帰ろう。
お馬さんを引きながら宿に帰ると、ドアマンが今日も笑顔でお帰りなさいませと迎えてくれた。こっちは冒険者の格好で森から帰りたてなのに態度が変わらないって、さすがプロフェッショナル。
お馬さんを託して建物に入ると、さっそく客室係さんが満面の笑みで寄ってきた。
「お帰りなさいませ。お望みの果実ならば当宿にと聞いたとおっしゃるお客様がすでにいらっしゃっています」
「門で聞かれたから答えておいた」
あの商人さん、行動が早いね。早速宿を変えて、一口でもいいから食べさせてほしいと言っているらしい。早い者勝ちだから急ぐに越したことはないのかな。
お酒を貸してくれたレストランの人も呼んであるからまずは買取の話をと言われたので、さっさと終わらせてしまおう。オレは森を走り回ってちょっと汚れてるんだけど、幻の果物の前では目を瞑ってくれるらしい。
「この八個だ。四個は冒険者ギルドに売った」
「おおっ、これは本物ですね。状態も良い」
「素晴らしいですね。このように良いものを見たのは初めてです」
本物ってわざわざ口に出すってことは、今までレリアの実と言って偽物を持ってきた人がいたのかも。幻の果実だと騙されるかもしれないね。
四個もいいのですか、と聞く客室係さんの声が震えている。オレたち二個も食べちゃったって言わないほうがいいかも。
ギルドに入ってもほとんどが王都に行っちゃうからこの街でもあまり出回らなくて、王都まで運んでる間に傷んでだめになっちゃいそうなものだけがこの街で売られるらしい。
ギルド買取価格に二割増しで買い取ってもらえた。ギルドに下ろしたものは、多分倍近い値段で売られるから、それでも十分にお買い得なんだって。
夕食のデザートに出しますねって言われたけど、オレたちは既に食べてるからと断った。
加工されて何かのソースとかに使われるなら食べたいけど、そのままだったらもぎたてで食べた時の味を越えることはないでしょう。
『ねえ、これって凍らせてもいいのか聞いて?』
「凍らせても味は落ちないのか?」
「小さく切って凍らせたものも美味しいと聞きます。王宮ではそのようにして召し上がるそうです。量が手に入りませんのでやったことはありませんが……」
『じゃあ、オレが雪で固めて凍らせちゃうから、お父さんたちに持って帰ろう!』
今は実の下四分の一が雪に埋まっているような感じで冷やしているけど、雪に埋め込んで凍らせてしまえば移動で傷んだりもしないだろう。
美味しいものを持って帰るって約束したから、次に採りに行くときの一箱はお持ち帰り決定。
オレのチートってこういう時のためにあるんだから、使わないとね。
収穫できる果物はまだたくさんあるんだけど、傷んじゃうと買い取ってもらえないし、何より中途半端に傷つけてももったいないから、また来よう。この場所はもう覚えたから、いつでも採りに来ることができる。
森の入り口近くの村に預けていたお馬さんを引き取って、ガストーの街に向けて出発だ。
お馬さんに括り付けた箱に衝撃を伝えないために、ゆっくり進む。
『馬車で来て、藁とかの上に箱を置くのとどっちがいいかなあ』
「そうだな。冒険者を雇って箱を運ばせるか。ギルドに相談してみよう」
森の入り口から半日くらい歩くから、ウィオだけじゃ箱が運べない。
もうシーズンも終わりだから、場所を隠しておく必要もない。来年また同じところで採れる保証はないし、来年オレたちがここに来るかも分からない。
だったら美味しいものをみんなで味わったほうが幸せだよね。
ゆっくり進んで夕方前に街に着いたけど、門の前は混雑している。
並んでいると、甘いいい香りがする、と周りに人達が言っているのが聞こえる。やっぱり分かっちゃうよね。
そのうちに、馬から降りて手綱を持っているウィオに、近づいてくる人がいた。
「冒険者殿、もしやこの香りはレリアの実ですか」
「そうです」
内緒話するように小さな声で話しかけてきたんだけど、オレたちのちょっと前に並んでる商会の馬車から来たから、商人なんだろう。幻の果物の香りを知っているとは、さすが商人。
「一つ譲っていただけないでしょうか。ギルドの買取価格の倍はお支払いします」
「すでに売り先が決まっている。食べたければベルジュという宿に聞いてくれ」
商人さんはその情報をいただけただけで満足です、と言ってホクホク顔で馬車に戻っていった。
これはあっという間に話が広がりそうだね。
まずはギルドに買い取ってもらってもらおう。
「蜂蜜入りの巣だ。あとレリアの実はこのうちの四つを買い取ってほしい」
「残りはお売りいただけないのですか?」
「匂いを使役獣に覚えさせるのに実物を用意してもらった宿に売ると約束している」
とても残念そうな顔をしているけど、ギルドでは実物を用意できなかったから仕方がないと納得してくれたみたいだ。
果物は状態も良いからと高値で買い取ってもらえたので、雪に埋める作戦は成功だったみたい。
「まだ収穫できる実があったんだが、また買い取ってもらえるか?」
「もちろんです」
「ならば運ぶために冒険者を雇いたいので、また明日相談に来る」
もっと手に入ると分かって、係の人がとたんに笑顔になった。
後ろで冒険者たちの、あの値段で買取ってことはあの実はもしかして幻のやつかと囁いている声が聞こえるから、どこで採ってきたんだと聞かれないうちに、美味しいご飯が待っている宿に帰ろう。
お馬さんを引きながら宿に帰ると、ドアマンが今日も笑顔でお帰りなさいませと迎えてくれた。こっちは冒険者の格好で森から帰りたてなのに態度が変わらないって、さすがプロフェッショナル。
お馬さんを託して建物に入ると、さっそく客室係さんが満面の笑みで寄ってきた。
「お帰りなさいませ。お望みの果実ならば当宿にと聞いたとおっしゃるお客様がすでにいらっしゃっています」
「門で聞かれたから答えておいた」
あの商人さん、行動が早いね。早速宿を変えて、一口でもいいから食べさせてほしいと言っているらしい。早い者勝ちだから急ぐに越したことはないのかな。
お酒を貸してくれたレストランの人も呼んであるからまずは買取の話をと言われたので、さっさと終わらせてしまおう。オレは森を走り回ってちょっと汚れてるんだけど、幻の果物の前では目を瞑ってくれるらしい。
「この八個だ。四個は冒険者ギルドに売った」
「おおっ、これは本物ですね。状態も良い」
「素晴らしいですね。このように良いものを見たのは初めてです」
本物ってわざわざ口に出すってことは、今までレリアの実と言って偽物を持ってきた人がいたのかも。幻の果実だと騙されるかもしれないね。
四個もいいのですか、と聞く客室係さんの声が震えている。オレたち二個も食べちゃったって言わないほうがいいかも。
ギルドに入ってもほとんどが王都に行っちゃうからこの街でもあまり出回らなくて、王都まで運んでる間に傷んでだめになっちゃいそうなものだけがこの街で売られるらしい。
ギルド買取価格に二割増しで買い取ってもらえた。ギルドに下ろしたものは、多分倍近い値段で売られるから、それでも十分にお買い得なんだって。
夕食のデザートに出しますねって言われたけど、オレたちは既に食べてるからと断った。
加工されて何かのソースとかに使われるなら食べたいけど、そのままだったらもぎたてで食べた時の味を越えることはないでしょう。
『ねえ、これって凍らせてもいいのか聞いて?』
「凍らせても味は落ちないのか?」
「小さく切って凍らせたものも美味しいと聞きます。王宮ではそのようにして召し上がるそうです。量が手に入りませんのでやったことはありませんが……」
『じゃあ、オレが雪で固めて凍らせちゃうから、お父さんたちに持って帰ろう!』
今は実の下四分の一が雪に埋まっているような感じで冷やしているけど、雪に埋め込んで凍らせてしまえば移動で傷んだりもしないだろう。
美味しいものを持って帰るって約束したから、次に採りに行くときの一箱はお持ち帰り決定。
オレのチートってこういう時のためにあるんだから、使わないとね。
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