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夏~新規事業
3. 商品の宣伝方法
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エリサにとって騎士のイメージは、アイドルだ。
城内に侵入した悪者を退治した、遠征先で盗賊を捕まえた、といった活躍がうわさとして広がり、城下に現れると一目見ようと人が集まる。いろいろなタイプの見目麗しき騎士がそろっているのも、ポイントが高い。誰しも一人くらいはお気に入りの騎士を見つけることができる。
けれど騎士は、貴族令嬢の結婚相手としてはあまり人気がない。そして庶民からは高嶺の花だ。
騎士は国王に忠誠を誓う。そのため、建前上は家から独立して家名は捨て、騎士という身分になる。実際は出世も家の権力に左右されるらしいが、いちおう実力主義ということになっている。給料も良いので、跡継ぎでない令息に人気の職であるものの、継ぐ家のない人が多いので、結婚相手としては旨味がない。中には高位貴族もいるが、そういう人は騎士になる前にすでに婚約者がいる。
一方庶民から見れば、騎士に見初められれば貴族の仲間入りができると夢を見ることができるお相手だ。ただし、結婚相手に庶民を選ぶ騎士は少ない。そもそも、騎士がほれ込んで、身分差を乗り越えてでも結婚したいと望まない限り、庶民からお近づきになる機会はない。
つまり、遠くから眺めて黄色い声援を送るのがちょうどいい距離なのだ。
人気騎士とご令嬢の熱愛発覚にショックを受けてみたり、応援したり、近いようで交わらない。そういう意味でも、アイドルグループだな、と内心思っている。
エリサがミシェルを前にして冷静でいられるのも、ファンサービスをしているアイドルと接しているような気がしているからだ。今見せているのはファンの求める偶像で、そうと分かりながら黄色い声をあげるか、冷静に観察するかは、人それぞれ。
「では、お言葉に甘えまして。もしお会いできるのでしたら、セシル様にお会いしてみたいですわ。憧れですの」
「……セシルか。声をかけてみましょう」
「まあ、本当ですの? ミシェル様、ありがとうございます!」
気をよくしたエリサは、もう一つお願いをしてみることにした。ミシェルになら聞いてもらえる気がする。
「ミシェル様、ずうずうしいお願いなのですが、他にも騎士様を何名かご紹介いただけませんでしょうか」
「できないこともないけど、どうしてです?」
「はい。我が商会で現在、目覚ましに朝決まった時間に音の鳴る時計を開発しております。父の商会の従業員に使用してもらい、少し改良したのですが、それを規律の厳しい騎士様にもお試しいただけないかと思いまして」
軍需産業はもうからない。国のためだから安くしろと言われた場合、ジャンの商会では断れない。叙爵の経緯から軍需産業には手を出さないことにしているが、今ほしいのは騎士団に納入する伝手ではなく、憧れの騎士様が使っている同じものを手に入れたい、と思う層への宣伝効果だ。
騎士がアイドルならば、商品の宣伝に使えばいいのだ。ターゲットは騎士に憧れる少年少女を持つ下級貴族か少し裕福な庶民の家庭。商人は、人気が出ると見ると飛びついてくるから、こちらから宣伝する必要はない。
「ご実家に貢献なさるとは、素晴らしいですね。エリサ嬢、もしかして今日のことにはあまり乗り気ではなかったのでしょうか?」
「そんなことはありませんわ。憧れの騎士様とお会いできて、舞いあがっておりますの。うふふっ」
「美しいお嬢さんにそう言っていただけて、光栄です」
「まあ、お上手ですこと」
うそくさい微笑みと、うそくさい笑い声。
キツネとタヌキの化かし合いをやっているとお互いに分かっていながらも、笑顔で会話を続ける。
ミシェルとは気が合いそうだ。
ミシェルに騎士を紹介してもらう話は、とんとん拍子で進み、今日はミシェルとエリサの共同主催の、騎士四名との極秘お見合いパーティーもどきの日だ。開催場所はエリサの家の庭である。
なぜお見合いパーティーかというと、今回参加する騎士四名のうち、二名は婚約者がいなくて募集中だからだ。ミシェルからの連絡の手紙にわざわざそのことが書いてあったのは、その二名のためにフリーの令嬢を参加させてほしい、という要求なのだ。こちらからの一方的なお願いを聞いてもらうのではなくギブアンドテイクになって、エリサとしても気が楽だ。
こちらからの参加者は、婚約者のいるルイーズ、フリーのロクサーヌとイザベル、そしてエリサである。
今回のお見合いパーティーは、ミシェルが参加するということで、内密に参加者を探した。大っぴらに探せば、ミシェル目当てに人が集まってきてしまう。
まず最初に声をかけたロクサーヌは、学園でよく一緒に行動していた友人だ。はかなげでたおやかな容姿に似合わず、良い嫁ぎ先を探していろいろな男性にアプローチしている肉食系女子だ。
エリサの持ち札はそこで終わってしまったので、友人のルイーズに相談したところ、ルイーズがイザベルとともに参加することになった。イザベルはルイーズの遠縁の男爵令嬢で一つ年下なので、エリサは挨拶しかしたことがない。
「エリサ様、お招きありがとうございます」
「イザベル、今日は楽しんでね。ルイーズ、来てくれてありがとう」
「貴女の頼みだもの」
「ロクサーヌ、気合が入ってるわね」
「もちろんよ。騎士様なんて、私の理想だもの」
ロクサーヌから今日にかける並々ならぬ意気込みを感じる。学園にいたときとはお化粧が雲泥の差だ。ナチュラルに見えるように入念にほどこされたお化粧。この日のために新調したと思われる花を模したドレス。勝負をかける気だな。たとえ恋人にはなれなくても、ここで騎士とつながりが作れれば、ほかの騎士を紹介してもらえるかもしれないから、必死になるのも分かる。
エリサだって、ナタリーが必死になってミシェルとのお見合いの場を作らなければ、こうして騎士と話す機会など一生来なかったかもしれない。王宮の機密情報に触れる騎士を、伝手もなくお茶会に誘うことは難しい。
「エリサ、憧れの人に会えるなんて、いいわね」
「本当に。こんな機会に恵まれるなんて、日頃の行いがよかったのかしら」
「だったら婚約破棄されないでしょう」
「それもそうね」
あきれたようにロクサーヌに突っ込まれてしまったが、そのおかげで今日があるわけで、そう思うと婚約破棄騒動もまあ悪いばかりでもなかったということだ。どんな物事にも良し悪しの二面がある。良いほうだけを考えて前向きに生きていこう。
城内に侵入した悪者を退治した、遠征先で盗賊を捕まえた、といった活躍がうわさとして広がり、城下に現れると一目見ようと人が集まる。いろいろなタイプの見目麗しき騎士がそろっているのも、ポイントが高い。誰しも一人くらいはお気に入りの騎士を見つけることができる。
けれど騎士は、貴族令嬢の結婚相手としてはあまり人気がない。そして庶民からは高嶺の花だ。
騎士は国王に忠誠を誓う。そのため、建前上は家から独立して家名は捨て、騎士という身分になる。実際は出世も家の権力に左右されるらしいが、いちおう実力主義ということになっている。給料も良いので、跡継ぎでない令息に人気の職であるものの、継ぐ家のない人が多いので、結婚相手としては旨味がない。中には高位貴族もいるが、そういう人は騎士になる前にすでに婚約者がいる。
一方庶民から見れば、騎士に見初められれば貴族の仲間入りができると夢を見ることができるお相手だ。ただし、結婚相手に庶民を選ぶ騎士は少ない。そもそも、騎士がほれ込んで、身分差を乗り越えてでも結婚したいと望まない限り、庶民からお近づきになる機会はない。
つまり、遠くから眺めて黄色い声援を送るのがちょうどいい距離なのだ。
人気騎士とご令嬢の熱愛発覚にショックを受けてみたり、応援したり、近いようで交わらない。そういう意味でも、アイドルグループだな、と内心思っている。
エリサがミシェルを前にして冷静でいられるのも、ファンサービスをしているアイドルと接しているような気がしているからだ。今見せているのはファンの求める偶像で、そうと分かりながら黄色い声をあげるか、冷静に観察するかは、人それぞれ。
「では、お言葉に甘えまして。もしお会いできるのでしたら、セシル様にお会いしてみたいですわ。憧れですの」
「……セシルか。声をかけてみましょう」
「まあ、本当ですの? ミシェル様、ありがとうございます!」
気をよくしたエリサは、もう一つお願いをしてみることにした。ミシェルになら聞いてもらえる気がする。
「ミシェル様、ずうずうしいお願いなのですが、他にも騎士様を何名かご紹介いただけませんでしょうか」
「できないこともないけど、どうしてです?」
「はい。我が商会で現在、目覚ましに朝決まった時間に音の鳴る時計を開発しております。父の商会の従業員に使用してもらい、少し改良したのですが、それを規律の厳しい騎士様にもお試しいただけないかと思いまして」
軍需産業はもうからない。国のためだから安くしろと言われた場合、ジャンの商会では断れない。叙爵の経緯から軍需産業には手を出さないことにしているが、今ほしいのは騎士団に納入する伝手ではなく、憧れの騎士様が使っている同じものを手に入れたい、と思う層への宣伝効果だ。
騎士がアイドルならば、商品の宣伝に使えばいいのだ。ターゲットは騎士に憧れる少年少女を持つ下級貴族か少し裕福な庶民の家庭。商人は、人気が出ると見ると飛びついてくるから、こちらから宣伝する必要はない。
「ご実家に貢献なさるとは、素晴らしいですね。エリサ嬢、もしかして今日のことにはあまり乗り気ではなかったのでしょうか?」
「そんなことはありませんわ。憧れの騎士様とお会いできて、舞いあがっておりますの。うふふっ」
「美しいお嬢さんにそう言っていただけて、光栄です」
「まあ、お上手ですこと」
うそくさい微笑みと、うそくさい笑い声。
キツネとタヌキの化かし合いをやっているとお互いに分かっていながらも、笑顔で会話を続ける。
ミシェルとは気が合いそうだ。
ミシェルに騎士を紹介してもらう話は、とんとん拍子で進み、今日はミシェルとエリサの共同主催の、騎士四名との極秘お見合いパーティーもどきの日だ。開催場所はエリサの家の庭である。
なぜお見合いパーティーかというと、今回参加する騎士四名のうち、二名は婚約者がいなくて募集中だからだ。ミシェルからの連絡の手紙にわざわざそのことが書いてあったのは、その二名のためにフリーの令嬢を参加させてほしい、という要求なのだ。こちらからの一方的なお願いを聞いてもらうのではなくギブアンドテイクになって、エリサとしても気が楽だ。
こちらからの参加者は、婚約者のいるルイーズ、フリーのロクサーヌとイザベル、そしてエリサである。
今回のお見合いパーティーは、ミシェルが参加するということで、内密に参加者を探した。大っぴらに探せば、ミシェル目当てに人が集まってきてしまう。
まず最初に声をかけたロクサーヌは、学園でよく一緒に行動していた友人だ。はかなげでたおやかな容姿に似合わず、良い嫁ぎ先を探していろいろな男性にアプローチしている肉食系女子だ。
エリサの持ち札はそこで終わってしまったので、友人のルイーズに相談したところ、ルイーズがイザベルとともに参加することになった。イザベルはルイーズの遠縁の男爵令嬢で一つ年下なので、エリサは挨拶しかしたことがない。
「エリサ様、お招きありがとうございます」
「イザベル、今日は楽しんでね。ルイーズ、来てくれてありがとう」
「貴女の頼みだもの」
「ロクサーヌ、気合が入ってるわね」
「もちろんよ。騎士様なんて、私の理想だもの」
ロクサーヌから今日にかける並々ならぬ意気込みを感じる。学園にいたときとはお化粧が雲泥の差だ。ナチュラルに見えるように入念にほどこされたお化粧。この日のために新調したと思われる花を模したドレス。勝負をかける気だな。たとえ恋人にはなれなくても、ここで騎士とつながりが作れれば、ほかの騎士を紹介してもらえるかもしれないから、必死になるのも分かる。
エリサだって、ナタリーが必死になってミシェルとのお見合いの場を作らなければ、こうして騎士と話す機会など一生来なかったかもしれない。王宮の機密情報に触れる騎士を、伝手もなくお茶会に誘うことは難しい。
「エリサ、憧れの人に会えるなんて、いいわね」
「本当に。こんな機会に恵まれるなんて、日頃の行いがよかったのかしら」
「だったら婚約破棄されないでしょう」
「それもそうね」
あきれたようにロクサーヌに突っ込まれてしまったが、そのおかげで今日があるわけで、そう思うと婚約破棄騒動もまあ悪いばかりでもなかったということだ。どんな物事にも良し悪しの二面がある。良いほうだけを考えて前向きに生きていこう。
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