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迷宮の男
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仲間が皆死んだ。迷宮の入り口が崩れて外に出られなくなってから俺が一人になるまで一週間、食料は充分に足りたのだがこれだけの間に四人死んだ。
持久力の乏しい魔法使いは真っ先にくたばった。魔力が切れて動けなくなったところを小鬼共に持ってかれた。そいつはタンカーの幼馴染で許嫁でもあった。タンカーの野郎はずっと泣いていた。ただあまりに五月蝿いので俺達は奴から距離を取ってから焚き火を起こして、道中で狩った豚の化物を焼いて食ったりしていた。
そうしたら次はタンカーだ。気が付いたときには居なくなっていた。やつを迎えに行くとそこには小鬼共の死体が二三体転がってるだけだった。血痕は足跡のように点々と続いていてその先が小鬼の巣窟だということは良く知っていた。奴を見つけることはできなかったがそれ以上の捜索をすることはなかった。やつは死んだ。二人が何を考えていたかは分からない。ただ、俺は死んでいてほしかった。食料にも限りがあるからな。
さて、残る二人の剣士とシスターは俺が殺った。料理人兼薬師の俺は治癒薬と食料の残量を良く把握していた。このままではもう3日と持たないだろう。回復魔法を使うシスターは魔力が勿体ないと中々回復を使わないし剣士の野郎は大食らいでこの間の豚も半分は一人で食いやがった。だから少し恨みをのせて料理に毒を仕込んでおいた。二人はいつも通り俺のめしをうめえうめえと食べてから寝ている間に死んでいた。今思い返してみれば何故自分はこのようなことをしたのかと自分を殴りたくなる。今まで交代で寝て夜警していたのを一人で夜明けまで、偶に襲ってくるモンスターもジリ貧ながら一人で撃退、何より薄暗い迷宮の中でひとり食べる飯ほど不味い物はなかった。
閉じ込められてから4日ほどだった頃だろう。一匹の小鬼が襲ってきた。大きな盾を構えて。そうかあいつは死んだのか、と少し残念に思った。もしかしたら帰ってきて話し相手になってくれるのではないかと思っていたのにやはり死んでいたらしい。俺は小鬼を綻んだナイフで滅多刺しにするとそいつが持っていた盾を奪い返した。盾はサイズ感が良かったのでまな板代わりにした。
それからは低い天井をぼーっと眺めては襲ってくる敵を倒しての繰り返しだった。仲間は誰ひとりとして残っていないのに俺はただ戦い続けた。やることが無くて空中を眺めている時間も、怪我を負いながらの戦闘中もずっと…死にたくない。その一心だった。
そして7日目、ずっと寝ていなかった俺はもう精神的にもクタクタで、既にものを食べる気力すら残っていなかった。ナイフの刃は折れて剣士の剣も俺には振れない。いくら死にたくないと願っても敵が来てしまえばおしまいだ。
7日目の夜、足音が聞こえてきた。この数日の夜警で大体覚えた、小鬼だ。俺は疲れで震える体にムチを打って立ち上がり身構えた。小さな棍棒を担いで俺の目の前に立ち鋭い視線を俺に向けてくる。正直詰んだ。終わりだ。
「なぁ…ちょっと待ってくれよ…」
こんな言葉に意味はなかった。低能な小鬼共に言語が理解できるはずもないのだから。小鬼は「ギヒヒ…ヒヒ」と下卑た笑い声を上げた。俺が怯えていることは分かるのだろう。小鬼は一歩ずつ焦らすようにゆっくりと近づいてくる。
「く、来るなぁ!」
俺は小鬼に合わせて壁に向かって後退りしていく。後が無い壁までもう少しだった。小鬼の笑い声は勢いを増す。その時何か冷たいものが手に当たった。俺はとっさに視線をおろす。剣士の剣だ。俺は残った力を振り絞って座ったまま剣を構えた。戦闘態勢に入ってみると良く分かった。俺はどう転んでも勝てない。武器を得たのに全然助かった気がしなかった。目の前の小鬼がとても大きく感じられて死を実感した。そして小鬼の背後に何かを見た。
「あ…あぁ…」
いる!確かに見えた。小鬼の後ろに四つの人影がこちらを覗いている。誰も言葉を話さずただ冷たい視線を俺に向けてきていた。
「やめろ!そんな目で見るなぁ!くそ!来るな!あっちにいけ!嫌だ!いやだあ!」
小鬼はゆっくりとまるで抵抗しないのを知っているかのように棍棒を振りかざした。
持久力の乏しい魔法使いは真っ先にくたばった。魔力が切れて動けなくなったところを小鬼共に持ってかれた。そいつはタンカーの幼馴染で許嫁でもあった。タンカーの野郎はずっと泣いていた。ただあまりに五月蝿いので俺達は奴から距離を取ってから焚き火を起こして、道中で狩った豚の化物を焼いて食ったりしていた。
そうしたら次はタンカーだ。気が付いたときには居なくなっていた。やつを迎えに行くとそこには小鬼共の死体が二三体転がってるだけだった。血痕は足跡のように点々と続いていてその先が小鬼の巣窟だということは良く知っていた。奴を見つけることはできなかったがそれ以上の捜索をすることはなかった。やつは死んだ。二人が何を考えていたかは分からない。ただ、俺は死んでいてほしかった。食料にも限りがあるからな。
さて、残る二人の剣士とシスターは俺が殺った。料理人兼薬師の俺は治癒薬と食料の残量を良く把握していた。このままではもう3日と持たないだろう。回復魔法を使うシスターは魔力が勿体ないと中々回復を使わないし剣士の野郎は大食らいでこの間の豚も半分は一人で食いやがった。だから少し恨みをのせて料理に毒を仕込んでおいた。二人はいつも通り俺のめしをうめえうめえと食べてから寝ている間に死んでいた。今思い返してみれば何故自分はこのようなことをしたのかと自分を殴りたくなる。今まで交代で寝て夜警していたのを一人で夜明けまで、偶に襲ってくるモンスターもジリ貧ながら一人で撃退、何より薄暗い迷宮の中でひとり食べる飯ほど不味い物はなかった。
閉じ込められてから4日ほどだった頃だろう。一匹の小鬼が襲ってきた。大きな盾を構えて。そうかあいつは死んだのか、と少し残念に思った。もしかしたら帰ってきて話し相手になってくれるのではないかと思っていたのにやはり死んでいたらしい。俺は小鬼を綻んだナイフで滅多刺しにするとそいつが持っていた盾を奪い返した。盾はサイズ感が良かったのでまな板代わりにした。
それからは低い天井をぼーっと眺めては襲ってくる敵を倒しての繰り返しだった。仲間は誰ひとりとして残っていないのに俺はただ戦い続けた。やることが無くて空中を眺めている時間も、怪我を負いながらの戦闘中もずっと…死にたくない。その一心だった。
そして7日目、ずっと寝ていなかった俺はもう精神的にもクタクタで、既にものを食べる気力すら残っていなかった。ナイフの刃は折れて剣士の剣も俺には振れない。いくら死にたくないと願っても敵が来てしまえばおしまいだ。
7日目の夜、足音が聞こえてきた。この数日の夜警で大体覚えた、小鬼だ。俺は疲れで震える体にムチを打って立ち上がり身構えた。小さな棍棒を担いで俺の目の前に立ち鋭い視線を俺に向けてくる。正直詰んだ。終わりだ。
「なぁ…ちょっと待ってくれよ…」
こんな言葉に意味はなかった。低能な小鬼共に言語が理解できるはずもないのだから。小鬼は「ギヒヒ…ヒヒ」と下卑た笑い声を上げた。俺が怯えていることは分かるのだろう。小鬼は一歩ずつ焦らすようにゆっくりと近づいてくる。
「く、来るなぁ!」
俺は小鬼に合わせて壁に向かって後退りしていく。後が無い壁までもう少しだった。小鬼の笑い声は勢いを増す。その時何か冷たいものが手に当たった。俺はとっさに視線をおろす。剣士の剣だ。俺は残った力を振り絞って座ったまま剣を構えた。戦闘態勢に入ってみると良く分かった。俺はどう転んでも勝てない。武器を得たのに全然助かった気がしなかった。目の前の小鬼がとても大きく感じられて死を実感した。そして小鬼の背後に何かを見た。
「あ…あぁ…」
いる!確かに見えた。小鬼の後ろに四つの人影がこちらを覗いている。誰も言葉を話さずただ冷たい視線を俺に向けてきていた。
「やめろ!そんな目で見るなぁ!くそ!来るな!あっちにいけ!嫌だ!いやだあ!」
小鬼はゆっくりとまるで抵抗しないのを知っているかのように棍棒を振りかざした。
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