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後編

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 ただ、少し不思議なことがある。茉莉花を助けたことだけでなく、神社に来たことすら覚えていないことだ。まるっと記憶がないなんて不自然だ。それに、何とか幼い茉莉花の手を握ったが、その後二人で一緒に落ちてしまった時、誰かに助けてもらったような気がするのだ。茉莉花の命の恩人は、もう一人いるかもしれない。でも、思い出せない。

「お姉さん! あたし恩返しがしたいです。ここで働かせてください!」
 咄嗟に叶を見たが、首を横に振っていた。
「中学生を雇うのは駄目だ」

 叶の言う通り、中学生を働かせるのは無理だ。でも、断るのもここまで言ってくれている茉莉花の気持ちを蔑ろにするようで、忍びない。
 優月は考える。相手の言うことをただ聞くのではなく、どうすれば相手のためになるのか。

「ジャスミン、ここで働いてもらうのは出来ないの」
「そんな」
「でも、巫女のアルバイトは私一人だけで寂しいんだ。だから、放課後に時間があったら、話し相手になって欲しいな」
「それで、お姉さんは嬉しいですか? 恩返しになりますか?」
「もちろん」

 茉莉花の顔からしょんぼりが消えて、わくわくした笑顔に変わった。何度も頷いて、あたしいっぱい来る! と言ってくれている。

「しょっちゅう来るのなら、視えないと不便だな。優月、お守りの袋を一つ持ってきてくれないか。こいつに合うものを」
「え、うん。――ちょっと待っててね」

 前半は叶に、後半は茉莉花に言って、応接室を出た。お守りの袋は少しずつ進めていたのである程度の数にはなってきていた。ジャスミンの花のような、白くて小さな花が咲いている布で作ったものを見つけて、優月はそれを手に取った。

「気を視認するには資質がいるが、俺を視るだけなら出来るだろう。幸い、こんなにもたくさん陽の気があるからな」

 叶は、さっきガラス玉に入れたばかりの天色の気をお守りの中に入れていった。優月を通じてそれを茉莉花に手渡した。

「これは?」
「特別なお守りだよ。大事に持ってて」
「分かりました――っていつの間にか小さい子がいる!」

 茉莉花にも叶が視えるようになったらしい。なんで、どこから来たの、と質問攻めをする茉莉花を優月はまあまあと落ち着かせた。

「えっと、この子はこの神社の神様なの」
「神様!? えっ、じゃあさっきお礼言ったところには、誰もいないんですか」
「突っ込むところそこか。まあ、後の説明は優月に任せる」
「分かった」

 質問がたくさんあります、と顔に書いてある茉莉花を見て、優月は思わず笑ってしまった。これまで通り叶がいて、茉莉花も加わるなら、これからもっとここでの仕事が楽しくなりそうだ。
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