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後編

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「命の恩人を探しているの?」
「はい」
「ここへ来てくれたのも何かの縁だし、私も協力するよ」
「いいんですか?」

 少女は、ぱあっと笑顔になった。感情がそのまま顔に出るタイプにようだ。暑いから社務所の中へどうぞ、と少女を中へと案内した。一番手前の部屋は応接室のようになっていて、テーブルを挟んで背もたれの低い椅子が並んでいる。

「あたし、三好みよし茉莉花まりかって言います。皆、ジャスミンって呼びます」

 確か、茉莉花はジャスミンの別名だったはず。なんて可愛らしいあだ名だろう。優月も簡単に自己紹介を済ませて、さっそく茉莉花の言った、命の恩人について聞いてみた。

「あたしが四歳か五歳の時に、木に登って降りられなくなったのを、助けてもらったんです。でもそれが誰だか分からなくて」
「何か、覚えていることはない?」
「あたしよりもちょっと年上の女の子でした。その子も高いところは苦手って、泣きながら一生懸命登ってきてくれて、もう大丈夫ってあたしの手を握ってくれて。でも、その後一緒に落ちちゃって」
「えっ」

 落ちてしまったのなら、助けられていないような気もするが。
「あたし、気を失ってたみたいで、でも怪我はしてなかったんです。お母さんが言うには、あたし一人で倒れてたって。でも絶対に誰かいたんです。その子が助けてくれたんです。じゃなきゃ、あそこから落ちて怪我がないなんて、あり得ないんです!」

 茉莉花は、テーブルに手をついて、前のめりになって訴えてきた。とりあえず、落ち着いて、と手で示して茉莉花には再び座ってもらった。

「どうして、十年以上前のその子のことを、今探しているの?」
「学校の作文で、尊敬する人ってお題が出て、真っ先に思い付いたのが、その子だったんです。自分だって怖いのに、あたしを助けてくれた人。その人に会って、どうして助けてくれたのって聞きたいし、ありがとうって言いたいんです」
「なるほど……」

 茉莉花の願いは、分かった。十年以上前の名前も分からない人探しとなると、大変かもしれない。叶も話を聞きながら、顎に手を当てて何やら難しい顔をしている。

「やっぱり、無理、ですか……?」
 茉莉花がしゅんと耳が垂れて落ち込むうさぎのような表情になっていた。その顔を見て、ハッとした。神頼みをするくらい、あのベルが視えるくらい、強く想っていることを諦めさせたくない。

「無理じゃないよ。絶対に見つかるとは言い切れないけど、でも茉莉花ちゃんの大切な人、私も全力で探すから」
「ありがとうございます! あと、あたしのことはジャスミンでいいですよ!」
「じゃあ、ジャスミン。もっと詳しく聞かせて欲しいの。何年前のことか、場所はどこか、女の子の特徴、小さなことでも覚えていることを」
「ええっと」

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