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前編
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社務所の一室に、透明な瓶がずらりと並んだ棚があった。瓶の中には様々な色のガラス玉が入っていた。キラキラと輝く飴玉のようで、すごく綺麗。同じ赤色でも少しずつ、色が違うように見える。
「どうして色が違うんですか」
「気の色は、その人間の魂の色と同じだ。全く同じ人間はいない、魂の色もそれぞれに違う。色が黒ずんでいたり、くすんでいるものは陰の気だな。さっきみたいな」
「どの色がいいとか」
「色はあまり関係ない。陽の気であれば、力にはなるが、一番は感謝だな。なんせ、神だからな」
叶は、瓶の中から黄色のガラス玉を一つ取ると、優月の手のひらに乗せた。ハムスターのような、小さな動物を手に乗せたかのようなじんわりとした温かさがあった。
「この黄色のガラス玉が、感謝の、ですか」
「そう。ただし、この色は山吹色。こっちは、菜の花色、黄蘗色、鳥の子色、梔子色」
「え、何て」
叶が指さしたのは、色合いは違うものの全て黄色いガラス玉だった。同じ黄色でも呼び名がそんな風に違うなんて知らなかった。
「気の色は、和名で呼ぶんだ。まあ、いずれ分かるようになる」
「私の色はどれ、ですか」
優月は、自分の気の色がどんな色をしているのか、気になった。こんなに綺麗な中の一つになれる色。
「ああ、さっき取ったものはもう瓶に入れて、紛れてしまったな。すまない」
「えー……」
「かんざしを持っていても、自分の色は視えないから、まあ、別の機会にな」
いい笑顔で誤魔化されてしまったような気がする。
ほとんどの瓶には、色とりどりのガラス玉がたくさん入っている。だが、ガラス玉がたった一つだけしか入っていない瓶があった。入っているガラス玉は、濃いピンク色をしていて、とても綺麗だった。惹かれて思わず手を伸ばした。
「待て」
叶の鋭い声と、袖を掴まれたことで伸ばした手は宙で止まった。
「あっ、ごめんなさい。勝手に触ろうとして」
「いや。そういう意味ではなくてな、それは温かいを通り越して熱いんだ。触ると危ない」
「熱い……じゃあ、これだけ特別、なんですね」
「ああ」
「これは、何色っていうんですか」
触れるなと言われたからなのか、このガラス玉が一層綺麗なものに見える。
「薄紅色だ」
叶はそれだけ答えると、棚の端の方にある瓶の蓋を開けて、さっきの赤黒いガラス玉を入れていた。からん、とガラス玉同士がぶつかる音がした。
「力にならないのに、陰の気も仕舞うんですね」
「これを食べたがる珍味好きの神がいてな。そいつに引き取らせるんだ」
「食べる……?」
「そいつの趣味が変わっているだけだ。俺は食べない」
優月はどこかほっとして息をついた。あんなに暗くて冷たいものを食べるなんて、身震いがしてしまう。赤黒い先輩の気を見て、さっきの会話に少し疑問が出た。
「……もし、気を全部取ってしまったら、どうなる、んですか」
「全部、か。そうなれば、起こった出来事から感情まで、全て忘れてなかったことになる」
「!」
「まあ、気を全部取るなんて、あまりにも膨大な力がいる。そんな馬鹿な事をする神は普通いない」
叶は、安心させるように穏やかに微笑んだ。興味本位で聞いてみたら、恐ろしい答えが返ってきて、優月は知らず知らずのうちに顔を強張らせていたらしい。忘れてしまうなんて、怖いし悲しい。だが、あったこと自体忘れてしまうのなら、悲しいとすら思わないのだろうか。
「この話はここまで。本題に移ろうか」
「本題?」
「ここで巫女のバイトをするか、の話だ」
「どうして色が違うんですか」
「気の色は、その人間の魂の色と同じだ。全く同じ人間はいない、魂の色もそれぞれに違う。色が黒ずんでいたり、くすんでいるものは陰の気だな。さっきみたいな」
「どの色がいいとか」
「色はあまり関係ない。陽の気であれば、力にはなるが、一番は感謝だな。なんせ、神だからな」
叶は、瓶の中から黄色のガラス玉を一つ取ると、優月の手のひらに乗せた。ハムスターのような、小さな動物を手に乗せたかのようなじんわりとした温かさがあった。
「この黄色のガラス玉が、感謝の、ですか」
「そう。ただし、この色は山吹色。こっちは、菜の花色、黄蘗色、鳥の子色、梔子色」
「え、何て」
叶が指さしたのは、色合いは違うものの全て黄色いガラス玉だった。同じ黄色でも呼び名がそんな風に違うなんて知らなかった。
「気の色は、和名で呼ぶんだ。まあ、いずれ分かるようになる」
「私の色はどれ、ですか」
優月は、自分の気の色がどんな色をしているのか、気になった。こんなに綺麗な中の一つになれる色。
「ああ、さっき取ったものはもう瓶に入れて、紛れてしまったな。すまない」
「えー……」
「かんざしを持っていても、自分の色は視えないから、まあ、別の機会にな」
いい笑顔で誤魔化されてしまったような気がする。
ほとんどの瓶には、色とりどりのガラス玉がたくさん入っている。だが、ガラス玉がたった一つだけしか入っていない瓶があった。入っているガラス玉は、濃いピンク色をしていて、とても綺麗だった。惹かれて思わず手を伸ばした。
「待て」
叶の鋭い声と、袖を掴まれたことで伸ばした手は宙で止まった。
「あっ、ごめんなさい。勝手に触ろうとして」
「いや。そういう意味ではなくてな、それは温かいを通り越して熱いんだ。触ると危ない」
「熱い……じゃあ、これだけ特別、なんですね」
「ああ」
「これは、何色っていうんですか」
触れるなと言われたからなのか、このガラス玉が一層綺麗なものに見える。
「薄紅色だ」
叶はそれだけ答えると、棚の端の方にある瓶の蓋を開けて、さっきの赤黒いガラス玉を入れていた。からん、とガラス玉同士がぶつかる音がした。
「力にならないのに、陰の気も仕舞うんですね」
「これを食べたがる珍味好きの神がいてな。そいつに引き取らせるんだ」
「食べる……?」
「そいつの趣味が変わっているだけだ。俺は食べない」
優月はどこかほっとして息をついた。あんなに暗くて冷たいものを食べるなんて、身震いがしてしまう。赤黒い先輩の気を見て、さっきの会話に少し疑問が出た。
「……もし、気を全部取ってしまったら、どうなる、んですか」
「全部、か。そうなれば、起こった出来事から感情まで、全て忘れてなかったことになる」
「!」
「まあ、気を全部取るなんて、あまりにも膨大な力がいる。そんな馬鹿な事をする神は普通いない」
叶は、安心させるように穏やかに微笑んだ。興味本位で聞いてみたら、恐ろしい答えが返ってきて、優月は知らず知らずのうちに顔を強張らせていたらしい。忘れてしまうなんて、怖いし悲しい。だが、あったこと自体忘れてしまうのなら、悲しいとすら思わないのだろうか。
「この話はここまで。本題に移ろうか」
「本題?」
「ここで巫女のバイトをするか、の話だ」
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