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第四章 舞姫と代理

舞姫と代理 -12

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 知っているだけで罪になること、それを背負わされたと、理解はしている。けれど、それに対する怒りは沸いてこなかった。同じものを背負うことを嬉しいとさえ思う。相手が愛おしい人なら、地獄でも構わない。

 ――藤壺の御方の気持ちが、少し分かったかもしれない

「話していただけて、嬉しいですよ」

 宵子は、彰胤の手にそっと触れて力を抜かせて、手をそっと離した。そして、両腕でしっかりと彰胤を抱きしめた。強張っている背中を、何度も何度も手のひらで撫でた。やがて、こてんと宵子の肩に、彰胤がもたれかかった。

「宵子は、俺を甘やかすのが上手いね」
「彰胤様の妃、でございますから」

 しばらく、二人の間には心地のいい静寂が流れていた。

 ぽつりと、彰胤が呟く。

「前に、俺のことを太陽だと、言っていただろう」
「はい」

「そんなことはないんだよ。本当に太陽なのは、兄上の方だ。こんなのを弟と言ってくれて、宮中に置いてくれている。先帝の子ではないと分かってからも、一切態度を変えなかったんだ。あんなに太陽そのものな人、他にはいない」

 太陽の妃が、宵子の言うところの望月である弘子であるから、ぴったりだね、と彰胤は付け足していた。抱きしめているから顔は見えないけれど、悲しそうな声音が耳に触れている。

 宵子にとって、彰胤が太陽であったことは本当のこと。でも、それが彰胤を苦しめるのなら、もう言わないと決めた。

「……では、彰胤様は、星のような方でございますね」
「星?」
「暗く、心細い夜を優しく照らしてくれる、夜空に輝く星でございます」

 思ったままを口にしたが、彰胤が嫌な気持ちになっていないか、不安で、宵子は体を離して表情を窺った。驚いているようだったが、そこには嬉しさも混ざっている。

「じゃあ、やっぱり冬の宮の俺と、朔の姫の君が出会えたのはきっと運命だね。冬の朔日が、一番星が綺麗に見えると聞く。君がいるから、俺は輝く星でいられる」

 今まで、蔑称でしかなかった『朔の姫』が特別に美しいものに思えた。この人の隣にいるから、宵子は笑顔でいられる。

「今更だけれど、取引を越えて、本当の妃になってくれるかい。宵子」
「もちろんでございます、どこまでもお傍に。彰胤様」

 二人の距離が近付き、鼻先が触れそうなところでそっと目を閉じた。触れあった唇は、甘く、溶けてしまいそうだった。今までで一番近くで見る彰胤の笑顔が、愛おしい。その目にはもう、凶星はなかった。それを確かめて、宵子はもう一度目を閉じた。

(四章・了)
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