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第四章 舞姫と代理
舞姫と代理 -3
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「許してくださるのですか」
「許すも何も、面白いじゃない。人の言葉も話せるのか」
「しゃべれるのじゃ」
「おおー」
巴は諦めたらしく、普通に話し出してしまった。弘子は、両手を叩いて面白がっていた。特に問題にはならなそうで、ほっとした。
「女御、そんなに他人の顔色を窺う必要はないよ。育ってきた環境もあるのだろうけれど、この子は、あなたの家族なのでしょう。堂々と紹介していいの」
「家族……」
宵子は、巴をじっと見つめた。少し照れているようだが、巴ははっきりと答えた。
「当然なのじゃ! 主は家族なのじゃ」
「ありがとう、巴。二の宮様も、ありがとうございます」
「家族といえば、あなたは私の養女なのよね。急に娘が出来るなんて、不思議な感じね。お母様と呼んでもいいけれど? 年齢を考えるとお姉様でもありか」
「そ、そんな、恐れ多い……」
「ははっ。まあ、私も慣れないし、今のままでいいわ」
弘子は、楽しそうにそう笑った。本当の母は、宵子を生んですぐに亡くなったから、顔も知らないけれど、こういう素敵な女性であったなら、と思う。
「本当に、面白い子ね。舞の練習は真面目にしているのに、供は妖だなんて、意外な一面もあって。彰胤が惚れるのも分かるわ」
「ほう、あやつは姉には惚れているとかいう話をするのか、意外じゃのう」
「言ったというか、顔に出ていた、という感じね」
「二の宮様は、東宮様と仲がよろしいのですね」
「まあね。せっかくだから、彰胤の昔の話でもしようか。小さい頃はけっこう、やんちゃでね。外で一緒に遊んでいて、泥だらけになって帰って乳母に怒られたり。家の細い隙間に隠れて、出られなくなって、彰胤がいなくなったと騒ぎになったり」
弘子の口から語られる幼い彰胤は、無邪気で元気な子どもそのもので、その光景を想像して、その可愛さに勝手に頬が緩んでしまう。
「でもまあ、母上が亡くなってからは、勉学に励んでいたね。義兄、いや主上と一緒に僧都から色々と学んでいたよ」
僧都は、僧正に次ぐ地位にいる僧で、幼い親王たちに学びを与えることもあると聞く。高貴な生まれの子には、それ相応の師がつくということ。
「東宮になってからは、立場のあるのでしょうけど、あまり人を寄せ付けなくなったわ」
おそらく、東宮という立場の他に、澪標のお役目を担っているからだろうけれど、そのことは、弘子は知らない。だから何も言わないようにと、彰胤から事前に言われていた。
「まあ、あなたが彰胤の傍にいてくれるのなら、心配はしていないけれどね」
あっけらかんと弘子は笑った。このさっぱりとした性格は、彰胤と似ていて、やはり姉弟なのだと感じた。
「おぬしら、性格がそっくりじゃのう。あまり顔は似ておらぬが」
「そうだね。私は父似で、彰胤は母似じゃないかな」
巴の発言に特に気を悪くした様子もなく、今は亡き両親のことを考えたのか、弘子は少し寂しそうに笑った。
「さて、休憩はこれくらいにして、練習を再開しようか」
「はい。よろしくお願いいたします」
「許すも何も、面白いじゃない。人の言葉も話せるのか」
「しゃべれるのじゃ」
「おおー」
巴は諦めたらしく、普通に話し出してしまった。弘子は、両手を叩いて面白がっていた。特に問題にはならなそうで、ほっとした。
「女御、そんなに他人の顔色を窺う必要はないよ。育ってきた環境もあるのだろうけれど、この子は、あなたの家族なのでしょう。堂々と紹介していいの」
「家族……」
宵子は、巴をじっと見つめた。少し照れているようだが、巴ははっきりと答えた。
「当然なのじゃ! 主は家族なのじゃ」
「ありがとう、巴。二の宮様も、ありがとうございます」
「家族といえば、あなたは私の養女なのよね。急に娘が出来るなんて、不思議な感じね。お母様と呼んでもいいけれど? 年齢を考えるとお姉様でもありか」
「そ、そんな、恐れ多い……」
「ははっ。まあ、私も慣れないし、今のままでいいわ」
弘子は、楽しそうにそう笑った。本当の母は、宵子を生んですぐに亡くなったから、顔も知らないけれど、こういう素敵な女性であったなら、と思う。
「本当に、面白い子ね。舞の練習は真面目にしているのに、供は妖だなんて、意外な一面もあって。彰胤が惚れるのも分かるわ」
「ほう、あやつは姉には惚れているとかいう話をするのか、意外じゃのう」
「言ったというか、顔に出ていた、という感じね」
「二の宮様は、東宮様と仲がよろしいのですね」
「まあね。せっかくだから、彰胤の昔の話でもしようか。小さい頃はけっこう、やんちゃでね。外で一緒に遊んでいて、泥だらけになって帰って乳母に怒られたり。家の細い隙間に隠れて、出られなくなって、彰胤がいなくなったと騒ぎになったり」
弘子の口から語られる幼い彰胤は、無邪気で元気な子どもそのもので、その光景を想像して、その可愛さに勝手に頬が緩んでしまう。
「でもまあ、母上が亡くなってからは、勉学に励んでいたね。義兄、いや主上と一緒に僧都から色々と学んでいたよ」
僧都は、僧正に次ぐ地位にいる僧で、幼い親王たちに学びを与えることもあると聞く。高貴な生まれの子には、それ相応の師がつくということ。
「東宮になってからは、立場のあるのでしょうけど、あまり人を寄せ付けなくなったわ」
おそらく、東宮という立場の他に、澪標のお役目を担っているからだろうけれど、そのことは、弘子は知らない。だから何も言わないようにと、彰胤から事前に言われていた。
「まあ、あなたが彰胤の傍にいてくれるのなら、心配はしていないけれどね」
あっけらかんと弘子は笑った。このさっぱりとした性格は、彰胤と似ていて、やはり姉弟なのだと感じた。
「おぬしら、性格がそっくりじゃのう。あまり顔は似ておらぬが」
「そうだね。私は父似で、彰胤は母似じゃないかな」
巴の発言に特に気を悪くした様子もなく、今は亡き両親のことを考えたのか、弘子は少し寂しそうに笑った。
「さて、休憩はこれくらいにして、練習を再開しようか」
「はい。よろしくお願いいたします」
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