星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~

鈴木しぐれ

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第四章 舞姫と代理

舞姫と代理 -2

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「着物、こんなに重いのですね……」
「舞姫は豪華に着飾るのが慣習だからね。練習用ではあるけど、本番に似た衣装で練習しないと意味ないからね」

 さすがに音楽までは用意出来ないから、弘子の手拍子に合わせて舞っていく。巴が、頑張れ、と小さく拳を上げて応援してくれている。

「そこで体を半回転させて」
「はい」
「扇は描かれた絵が見えるように、倒し過ぎないで」
「は、はい」
「指先まで気を遣って」

 短い言葉で、的確に弘子の指導が飛んでくる。舞自体は覚えれば出来ないことはないのだが、儀式で神に捧げるため、美しく仕上げるとなると、気を付ける点がいくつもある。そして、舞の拍子はゆっくりとしたものだから、一見すると楽に見えるが、ゆっくりした動きの分、足や腕に負担がかかる。

「少し体の重心がずれているか。たぶん、いつもより疲れるでしょう?」
「はい、少し……」
「休憩にしようか」

 弘子が、侍女たちに指示をして酒を持って来させた。小さい盃で、控えめな酒盛りということだろうか。

「よろしいのですか。お酒をいただいても」
「そんなに高い酒じゃないからね。……ああ、私が出家しているのに飲んでもいいのかってことね」

 宵子は、小さく頷いて弘子の反応を窺った。出家の身で飲むことは大丈夫なのか、心配になってしまった。

「酒を断たねばならない、という決まりはないよ。もちろん、溺れるのはだめだけれど。酒は神に捧げるものでもある。舞姫の練習には沿っているわ」

 一部、こじつけのような気もするけれど、この人が言うとそういうものか、と思ってしまう妙な説得力がある。宵子は、小さく笑って酒の瓶を手に取った。

「二の宮様、お注ぎします」
「あら、ありがとう」

 宵子と弘子は、盃を軽く合わせて乾杯をする。強い酒ではなく、甘さが感じられる上品な酒だった。

「気に入ったようで良かった」
 宵子の反応を見て、弘子はそう言った。巴が興味を示したようで、宵子の盃に近寄ってくる。

「巴、お酒はだめよ」
 舌を出して、酒を掬い取ろうとしていた巴が、動きを止める。ちらりと宵子の方を見て、もう一度、酒に近づく。

「だめって言っているでしょ」
 少し強めに言うと、ようやく引き下がった。妖は何でも食べると言っていたが、酒は酔うかもしれないから、ここでは辞めておいた方がいい。

「よく懐いているね、その妖」
「はい――えっ」
「むう!?」

 宵子も巴も、思わず驚きの声を上げてしまった。巴が妖だなんて、言っていないはずなのに。

「だって、その猫、あまりにも人の言葉を理解しているから。舞の練習の時も、じっと見ていたし。そういうものがいることは知っていたよ。まあ、実際会うのは初めてだけれど」
「あの、申し訳ございません。すぐに連れ帰りますので」

 さあっと血の気が引く。妖と偽って連れてきたことも、内親王に対して失礼になってしまう。宵子は、巴を抱えて立ち上がろうとしたが、着物が重くてすぐに立てない。

「待って、帰らなくていいわ」
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