星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~

鈴木しぐれ

文字の大きさ
上 下
54 / 84
第三章 東宮女御と斎宮女御

東宮女御と斎宮女御 -17

しおりを挟む


 霜月一日。朔旦冬至の宴の日。

 いくつかの妨害を受けつつも、つつがなく宴の準備をやり遂げた。摂関家の思惑通りにはさせなかった。

 すると、摂関家は、彰胤と宵子は宴を欠席するようにと言ってきた。主催として準備を完璧に終えたから、慣習として帝が出席者の前で、その成果を褒めなければならなくなる。それは困るから、欠席しろと。まあ、本心が露わになった主張に、当然だが宗征と仲子は怒っていた。

「まあまあ。そこまで相手に言わせたのなら、これは俺たちの勝ちだよ。宴自体は、しきたりばかりで面倒だから、欠席しよう。梨壺でゆっくりしよう」

 彰胤は軽い口調でそう言って二人をなだめていた。とはいえ、準備をした主催側が誰もいないと宴が進まないから、宗征と仲子が駆り出された。

「新しい着物を用意してくれてありがとう」

 宵子が縫った桜重ねの着物を、彰胤は着てくれている。迷惑だと思い込んで、一度、縫うことをやめてしまったが、でもやはり着て欲しいと何とか今日に間に合わせた。

「とても良くお似合いでございます」
「せっかくの着物を他の者に見せびらかして自慢したかったな。宴は面倒だけど、そこは残念だよ」

 華やかな装いの彰胤を、見て欲しい。こんなにかっこいいのだと。でも、宵子だけで独り占めしていたいとも思う。贅沢な悩みだと口元が緩んだ。

「なんじゃ、宴に行けぬというのに、何だか嬉しそうじゃのう」
「そういう巴はご機嫌斜めね」
「宴で出る菓子を楽しみにしておったのじゃ」

「いや、そもそも猫の姿だと宴には出られないと思うよ。正式な場だから動物はだめだと思う」
「なんじゃと!」
 巴は、尻尾をぴんと立てて驚きの声を上げた。よほど楽しみにしていたらしい。

「ただいま戻りましたー」
 宗征と仲子が、梨壺に戻ってきた。宗征がなぜか満足したような顔をしている。

「宗征、何かいいことでもあったかい」
「席次が例の十二宮というものの順になっているため、どういう並びなのか誰も分からず困惑しておりまして。文句が出そうなところで斎宮女御様の御采配と告げると、困惑したまま、黙りこくっておりました。その様子が滑稽で」

 宗征が、思い出して小さく笑っていた。それを見て、可愛い、と呟いた仲子の口元を宵子は見逃さなかった。

「何か、いい匂いがするのじゃ!」
「わっ、巴ちょっと待ってて」

 仲子が持っている箱に、巴が飛びかからんばかりの勢いで近付いた。確かに、いい匂いがしている。

「宴の料理とお菓子、お酒を持ってきました!」
「え、いいの。持って来ても」
「だって、主催側でございますから。当然でございます」

 仲子が持っている重箱の中には、美味しそうな料理、次の段にはお菓子があった。宗征の懐からは、酒が出てきた。もう、宴の準備は完璧だ。

「ここでも、朔旦冬至の宴、始めようか」

 彰胤の言葉を合図に、小さな宴が始まった。四人と一匹だけの宴。どんな豪華な宴よりもきっとここが一番楽しい。


(三章・了)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

忌み子と呼ばれた巫女が幸せな花嫁となる日

葉南子
キャラ文芸
★「忌み子」と蔑まれた巫女の運命が変わる和風シンデレラストーリー★ 妖が災厄をもたらしていた時代。 滅妖師《めつようし》が妖を討ち、巫女がその穢れを浄化することで、人々は平穏を保っていた──。 巫女の一族に生まれた結月は、銀色の髪の持ち主だった。 その銀髪ゆえに結月は「忌巫女」と呼ばれ、義妹や叔母、侍女たちから虐げられる日々を送る。 黒髪こそ巫女の力の象徴とされる中で、結月の銀髪は異端そのものだったからだ。 さらに幼い頃から「義妹が見合いをする日に屋敷を出ていけ」と命じられていた。 その日が訪れるまで、彼女は黙って耐え続け、何も望まない人生を受け入れていた。 そして、その見合いの日。 義妹の見合い相手は、滅妖師の名門・霧生院家の次期当主だと耳にする。 しかし自分には関係のない話だと、屋敷最後の日もいつものように淡々と過ごしていた。 そんな中、ふと一頭の蝶が結月の前に舞い降りる──。   ※他サイトでも掲載しております

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

姫の歳月〜貴公子に見染められた異形の姫は永遠の契りで溺愛される

花野未季
恋愛
最愛の母が亡くなる際に、頭に鉢を被せられた “鉢かぶり姫” ーー以来、彼女は『異形』と忌み嫌われ、ある日とうとう生家を追い出されてしまう。 たどり着いた貴族の館で、下働きとして暮らし始めた彼女を見染めたのは、その家の四男坊である宰相君。ふたりは激しい恋に落ちるのだが……。 平安ファンタジーですが、時代設定はふんわりです(゚∀゚) 御伽草子『鉢かづき』が原作です(^^; 登場人物は元ネタより増やし、キャラも変えています。 『格調高く』を目指していましたが、どんどん格調低く(?)なっていきます。ゲスい人も場面も出てきます…(°▽°) 今回も山なしオチなし意味なしですが、お楽しみいただけたら幸いです(≧∀≦) ☆参考文献)『お伽草子』ちくま文庫/『古語辞典』講談社 ☆表紙画像は、イラストAC様より“ くり坊 ” 先生の素敵なイラストをお借りしています♪

鬼の御宿の嫁入り狐

梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中! 【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】  鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。  彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。  優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。 「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」  劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。  そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?  育ててくれた鬼の家族。  自分と同じ妖狐の一族。  腹部に残る火傷痕。  人々が語る『狐の嫁入り』──。  空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

明治あやかし黄昏座

鈴木しぐれ
キャラ文芸
時は、明治二十年。 浅草にある黄昏座は、妖を題材にした芝居を上演する、妖による妖のための芝居小屋。 記憶をなくした主人公は、ひょんなことから狐の青年、琥珀と出会う。黄昏座の座員、そして自らも”妖”であることを知る。主人公は失われた記憶を探しつつ、彼らと共に芝居を作り上げることになる。 提灯からアーク灯、木造からレンガ造り、着物から洋装、世の中が目まぐるしく変化する明治の時代。 妖が生き残るすべは――芝居にあり。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

処理中です...