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第三章 東宮女御と斎宮女御

東宮女御と斎宮女御 -5

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***

 宗征の父親も学士だった。だから、宗征自身も学士になるのは当然の流れだった。優秀だという周囲の評価も得ていた。

「主上の下で、誠心誠意お仕えしたく存じます」

 その頃は、新しい帝が即位して学士も必要となるだろうと言われていた。宗征は帝に仕えたいと思っていたし、序列としてもそうなるはずだった。



「今、なんと」
「お前は東宮様の下で学士として仕えるのだ。東宮学士、立派なお役目であるぞ」

 どういう力が、どのように働いたのかはよく分からなかった。ついでに大夫の代理などという身の丈に合わないものまで付いてきた。押し付けられた。

「何故、私が東宮学士などに……」

 真面目で視野が広く、臣下からの信頼も厚いという帝に仕えることを願っていたのに。帝の弟の東宮は、生まれや摂関家の目論見によって軽視されている。宗征が気に食わないのは、軽視されていること自体ではなく、理不尽に扱われているというのに、へらへらとしてそれに甘んじていること。

「……お初にお目にかかります。源宗征と申します」
「おお、優秀な人物であると聞いているよ。俺は東宮になってまだ日が浅いからね、よろしく頼むよ」

 穏やかに明るく笑う人だと思った。それが、宗征にはやはり気に食わなかった。侮られて軽視されているのに、そんな風に笑う気がしれなかった。



 ある日、彰胤と共に渡殿を歩いていた時、菓子や食事を盛り付ける、高杯たかつきを掲げるようにして運んでいる女官がいた。

「それは何かな?」
「内大臣様から、主上へ献上のお菓子にございます」
「へー」

 彰胤は、菓子の上にかけられた薄布をめくると、数秒じっと見つめた。
 女官がどうしたら、と困って宗征に視線を送ってきた。宗征はため息をつきながら彰胤へ進言する。

「東宮様、そのあたりで――なっ!」
 彰胤はあろうことか、帝に献上する菓子をつまみ上げるとそのまま口に放り込んだ。

「うん、なかなかだね。これ、俺がもらっていくよ」
「えっ、あの」
「主上には別のものを俺から献上するって伝えといて」

 驚いている女官の手から高杯を取り上げると、すたすたと梨壺に引き返していった。女官も宗征も唖然としていたが、宗征は慌てて彰胤を追いかけた。

「東宮様! なりません、それは主上への献上の品でございます」
「主上へはちゃんと美味しいものを献上するって」

 この菓子は美味しくない、と言っているような口ぶりに、宗征は疑問を持った。

「先程はなかなか、とおっしゃっていましたが……」
「なかなか"厄介"って話だよ」

 彰胤は、梨壺に着くや否やその場に倒れ込んだ。

「くっ……」

「東宮様!?」
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