39 / 84
第三章 東宮女御と斎宮女御
東宮女御と斎宮女御 -2
しおりを挟む
「実は、以前、星詠みという言葉を偶然聞かれてしまったので、空の星に詳しい方とお伝えしたのでございます」
納得した。と同時に、未来が視える星詠みのことは知られていないようで、ほっとした。宿曜師である老師から一通り教えられているから、一応嘘ではない。
「宿曜師から教えを受けておりますが、きちんと陰陽師や宿曜師の職についていないものが、星の示す結果を口にしてはならないと言われております」
その職につき深く究めた者以外が、天文を見て吉凶を判断すると、天罰が下ると言われている。嘘か本当か、そのせいで亡くなった人までいるとか。それはむやみに素人が手を出さないように、という注意喚起な気はするけれど。
星詠みに関しては、宵子にしか視えていないものだし、空の星ではないから例外と思っている。
「そうなのね……でも、何か、きちんとしたものでなくてもいいの。ないかしら?」
口元で両手を合わせて、おねだりをしている様子が、わざとらしくなく可愛らしい。帝の寵愛も納得である。
宵子は、記憶を辿っていって、ちょうどいいものを引っ張り出した。
「では、十二宮のお話などはいかがでしょう」
「十二宮?」
「生まれた時に空にあった星で、その人の性格を占うものでございます。ままごとのようなものですが」
幼い宵子が星を嫌いにならないように、楽しませるために、老師が教えてくれたものだ。生まれた時の星だけで性格を言い当てるなんて、宿曜師であっても難しい。ただのお遊びだけれど、だからこそ楽しかった。
「ぜひ、聞かせてちょうだい」
淑子も興味津々のようで助かった。ついでに、仲子もわくわくした表情を浮かべている。
「では、紙にお生まれの日付を書いていただけますか」
淑子は傍にあった紙へさらさらと日付を書いてくれた。宵子はそれを受け取ると、老師から教えられた十二宮と照らし合わせて答える。
「斎宮女御様は、白羊宮でございます」
「白羊宮?」
「空に浮かぶ星を線でつなぎ合わせると、羊に見えることから、そう呼ばれます」
「面白いわね。それで、性格はどうなのかしら?」
「白羊宮の方は、純粋な心をお持ちで、素直で嘘が付けない。何事にも一生懸命に取り組まれる。と言ったところでしょうか」
失礼になることは言っていないと思うが、それでもそわそわしてしまう。淑子の表情を窺うと、幼い少女のように目を輝かせていた。
「まあ! 当たっているわ。わたくし嘘が付けないのよ、主上にもすぐばれてしまうの。この前、少し体調が優れなくてね。でも何ともありません、って主上に申し上げたら休んでいなさいと言われてしまったの」
それは、帝が淑子のことを大事にしていて、よく見ているからなのでは、と思ったけれど、口にはしない。
「ねえ、主上はどうなのかしら。教えてちょうだい」
「それは……不敬にあたりませんか」
「あら、大丈夫よ。妻が夫のことを聞くだけですもの」
確かにそう言われれば、問題ないように思えるが、ままごととはいえ帝の性格を、帝の妃に言うなんて、恐れ多い気もする。
淑子がさっそく紙に帝の生まれた日付を書き、宵子が見るのを待っている。
納得した。と同時に、未来が視える星詠みのことは知られていないようで、ほっとした。宿曜師である老師から一通り教えられているから、一応嘘ではない。
「宿曜師から教えを受けておりますが、きちんと陰陽師や宿曜師の職についていないものが、星の示す結果を口にしてはならないと言われております」
その職につき深く究めた者以外が、天文を見て吉凶を判断すると、天罰が下ると言われている。嘘か本当か、そのせいで亡くなった人までいるとか。それはむやみに素人が手を出さないように、という注意喚起な気はするけれど。
星詠みに関しては、宵子にしか視えていないものだし、空の星ではないから例外と思っている。
「そうなのね……でも、何か、きちんとしたものでなくてもいいの。ないかしら?」
口元で両手を合わせて、おねだりをしている様子が、わざとらしくなく可愛らしい。帝の寵愛も納得である。
宵子は、記憶を辿っていって、ちょうどいいものを引っ張り出した。
「では、十二宮のお話などはいかがでしょう」
「十二宮?」
「生まれた時に空にあった星で、その人の性格を占うものでございます。ままごとのようなものですが」
幼い宵子が星を嫌いにならないように、楽しませるために、老師が教えてくれたものだ。生まれた時の星だけで性格を言い当てるなんて、宿曜師であっても難しい。ただのお遊びだけれど、だからこそ楽しかった。
「ぜひ、聞かせてちょうだい」
淑子も興味津々のようで助かった。ついでに、仲子もわくわくした表情を浮かべている。
「では、紙にお生まれの日付を書いていただけますか」
淑子は傍にあった紙へさらさらと日付を書いてくれた。宵子はそれを受け取ると、老師から教えられた十二宮と照らし合わせて答える。
「斎宮女御様は、白羊宮でございます」
「白羊宮?」
「空に浮かぶ星を線でつなぎ合わせると、羊に見えることから、そう呼ばれます」
「面白いわね。それで、性格はどうなのかしら?」
「白羊宮の方は、純粋な心をお持ちで、素直で嘘が付けない。何事にも一生懸命に取り組まれる。と言ったところでしょうか」
失礼になることは言っていないと思うが、それでもそわそわしてしまう。淑子の表情を窺うと、幼い少女のように目を輝かせていた。
「まあ! 当たっているわ。わたくし嘘が付けないのよ、主上にもすぐばれてしまうの。この前、少し体調が優れなくてね。でも何ともありません、って主上に申し上げたら休んでいなさいと言われてしまったの」
それは、帝が淑子のことを大事にしていて、よく見ているからなのでは、と思ったけれど、口にはしない。
「ねえ、主上はどうなのかしら。教えてちょうだい」
「それは……不敬にあたりませんか」
「あら、大丈夫よ。妻が夫のことを聞くだけですもの」
確かにそう言われれば、問題ないように思えるが、ままごととはいえ帝の性格を、帝の妃に言うなんて、恐れ多い気もする。
淑子がさっそく紙に帝の生まれた日付を書き、宵子が見るのを待っている。
23
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
忌み子と呼ばれた巫女が幸せな花嫁となる日
葉南子
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞 奨励賞をいただきました!
応援ありがとうございました!
★「忌み子」と蔑まれた巫女の運命が変わる和風シンデレラストーリー★
妖が災厄をもたらしていた時代。
滅妖師《めつようし》が妖を討ち、巫女がその穢れを浄化することで、人々は平穏を保っていた──。
巫女の一族に生まれた結月は、銀色の髪の持ち主だった。
その銀髪ゆえに結月は「忌巫女」と呼ばれ、義妹や叔母、侍女たちから虐げられる日々を送る。
黒髪こそ巫女の力の象徴とされる中で、結月の銀髪は異端そのものだったからだ。
さらに幼い頃から「義妹が見合いをする日に屋敷を出ていけ」と命じられていた。
その日が訪れるまで、彼女は黙って耐え続け、何も望まない人生を受け入れていた。
そして、その見合いの日。
義妹の見合い相手は、滅妖師の名門・霧生院家の次期当主だと耳にする。
しかし自分には関係のない話だと、屋敷最後の日もいつものように淡々と過ごしていた。
そんな中、ふと一頭の蝶が結月の前に舞い降りる──。
※他サイトでも掲載しております
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
月花は愛され咲き誇る
緋村燐
キャラ文芸
月鬼。
月からやってきたという鬼は、それはそれは美しい姿をしていたそうだ。
時が経ち、その姿もはるか昔のこととなった現在。
色素が薄いものほど尊ばれる月鬼の一族の中、三津木香夜はみすぼらしい灰色の髪を持って生を受けた。
虐げられながらも生きてきたある日、日の本の国で一番の権力を持つ火鬼の一族の若君が嫁探しのために訪れる。
そのことが、香夜の運命を大きく変えることとなった――。
野いちご様
ベリーズカフェ様
ノベマ!様
小説家になろう様
エブリスタ様
カクヨム様
にも掲載しています。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
あやかしが家族になりました
山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ
いつもありがとうございます。
当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。
ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。
一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。
ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。
そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。
真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。
しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。
家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。
あやかし狐の京都裏町案内人
狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?
満月の夜に烏 ~うちひさす京にて、神の妻問いを受くる事
六花
キャラ文芸
第八回キャラ文芸大賞 奨励賞いただきました!
京貴族の茜子(あかねこ)は、幼い頃に罹患した熱病の後遺症で左目が化け物と化し、離れの陋屋に幽閉されていた。一方姉の梓子(あづさこ)は、同じ病にかかり痣が残りながらも森羅万象を操る通力を身につけ、ついには京の鎮護を担う社の若君から求婚される。
己の境遇を嘆くしかない茜子の夢に、ある夜、社の祭神が訪れ、茜子こそが吾が妻、番いとなる者だと告げた。茜子は現実から目を背けるように隻眼の神・千颯(ちはや)との逢瀬を重ねるが、熱心な求愛に、いつしか本気で夢に溺れていく。しかし茜子にも縁談が持ち込まれて……。
「わたしを攫ってよ、この現実(うつつ)から」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる