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第二章 桐壺と澪標
桐壺と澪標 -7
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「お持ち致しました」
仲子が、例の紙を持って戻ってきた。宵子はそれを受け取って、改めてその中身を確認した。確かに、あの時の指示が書かれている。宵子は、それを彰胤に手渡した。
「ははっ、何とまあ直接的な指示だな。歌に紛れ込ませたものを想像していたけど、ここまではっきり書いてあれば、必死にもなるか」
「あら、本当に無粋な指示でございますね。もっと雅やかに言えないのですかね。中納言様は感性がいまいちでいらっしゃいます?」
彰胤に見せられた紙を見て、仲子がそんなことを言う。暗殺の指示を雅やかにするのもどうかと思うけれど。
「これがあれば、交渉も上手くいくだろうな」
「何をなさるおつもりですか」
仲子が、訝しげに尋ねた。彰胤はその質問を待っていたかのように、にんまりと笑みを浮かべて答えた。
「君には、姉上の養女になってもらう」
「養女ですか……!?」
「女二の宮様のご養女!?」
宵子と仲子は同時に声を上げた。予想以上の反応に、彰胤はご満悦のようだった。
彰胤の姉、女二の宮は彰胤と母を同じくする内親王である。当然、帝とも腹違いの姉弟になる。夫に先立たれて出家したと聞いたことがある。
「姉上は出家なさっているから、共に住むとか、特別な儀式をするというわけではないよ。姫と藤原家の縁を切るっていうのが、一番の目的」
「……そのために、わたしに藤原家を捨てよとおっしゃったのですか」
「そう。いらないだろう、君を蔑ろにする家との縁なんて。俺にとっても、妃に迎えるにあたって摂関家との関わりはない方がいい」
摂関家との繋がりを排するという理由だけでいいのに、彰胤ははっきりと宵子にとって藤原家はいらないと言った。宵子が、今まで縛られていたものから、解放するように。
「中納言も、皇族の一員には手が出せないだろうからね。だめ押しで、この紙を返すから手を引けって言うつもり」
「それがあれば、父上を失脚させることも出来るのではございませんか。父上が東宮様を暗殺しようとした、唯一の証拠ですから」
「うーん、五分五分だと思うんだ。冬の宮に味方する者は少ないからね。それに、君が主犯として担ぎ上げられて、最悪の場合、中納言は関係なくて、姫が女房たちを主導してやった、なんて筋書きにされるかもしれない」
「それは……」
色々な噂が飛び交う朔の姫ならば、なすりつけるのは簡単なことかもしれない。宵子が反論したところで、聞いてもらえないことは想像出来る。
「君が欲しいと言ったのは俺だからね。心配の種は取り除くよ」
「ありがとうございます。東宮様」
「じゃあ、早速取り掛かるよ。ある程度の準備はしてあるから、早く済むと思う」
宵子は、桐壺に戻ってきた。まだ昼にもなっていない時間で、仲子がお茶の用意をしてくれるという。
父との交渉が上手くいくのか、養女なんて大それたことが可能なのか、色々と考えてしまう。お茶を口にしてもあまり落ち着かない。
仲子が、例の紙を持って戻ってきた。宵子はそれを受け取って、改めてその中身を確認した。確かに、あの時の指示が書かれている。宵子は、それを彰胤に手渡した。
「ははっ、何とまあ直接的な指示だな。歌に紛れ込ませたものを想像していたけど、ここまではっきり書いてあれば、必死にもなるか」
「あら、本当に無粋な指示でございますね。もっと雅やかに言えないのですかね。中納言様は感性がいまいちでいらっしゃいます?」
彰胤に見せられた紙を見て、仲子がそんなことを言う。暗殺の指示を雅やかにするのもどうかと思うけれど。
「これがあれば、交渉も上手くいくだろうな」
「何をなさるおつもりですか」
仲子が、訝しげに尋ねた。彰胤はその質問を待っていたかのように、にんまりと笑みを浮かべて答えた。
「君には、姉上の養女になってもらう」
「養女ですか……!?」
「女二の宮様のご養女!?」
宵子と仲子は同時に声を上げた。予想以上の反応に、彰胤はご満悦のようだった。
彰胤の姉、女二の宮は彰胤と母を同じくする内親王である。当然、帝とも腹違いの姉弟になる。夫に先立たれて出家したと聞いたことがある。
「姉上は出家なさっているから、共に住むとか、特別な儀式をするというわけではないよ。姫と藤原家の縁を切るっていうのが、一番の目的」
「……そのために、わたしに藤原家を捨てよとおっしゃったのですか」
「そう。いらないだろう、君を蔑ろにする家との縁なんて。俺にとっても、妃に迎えるにあたって摂関家との関わりはない方がいい」
摂関家との繋がりを排するという理由だけでいいのに、彰胤ははっきりと宵子にとって藤原家はいらないと言った。宵子が、今まで縛られていたものから、解放するように。
「中納言も、皇族の一員には手が出せないだろうからね。だめ押しで、この紙を返すから手を引けって言うつもり」
「それがあれば、父上を失脚させることも出来るのではございませんか。父上が東宮様を暗殺しようとした、唯一の証拠ですから」
「うーん、五分五分だと思うんだ。冬の宮に味方する者は少ないからね。それに、君が主犯として担ぎ上げられて、最悪の場合、中納言は関係なくて、姫が女房たちを主導してやった、なんて筋書きにされるかもしれない」
「それは……」
色々な噂が飛び交う朔の姫ならば、なすりつけるのは簡単なことかもしれない。宵子が反論したところで、聞いてもらえないことは想像出来る。
「君が欲しいと言ったのは俺だからね。心配の種は取り除くよ」
「ありがとうございます。東宮様」
「じゃあ、早速取り掛かるよ。ある程度の準備はしてあるから、早く済むと思う」
宵子は、桐壺に戻ってきた。まだ昼にもなっていない時間で、仲子がお茶の用意をしてくれるという。
父との交渉が上手くいくのか、養女なんて大それたことが可能なのか、色々と考えてしまう。お茶を口にしてもあまり落ち着かない。
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