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第一章 朔の姫と冬の宮

朔の姫と冬の宮 -7

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 宵子は、正面から彰胤と向かい合い、その目をじっと見つめた。深く黒い瞳は、吸い込まれそうなほど美しい。

「東宮様には、(北)の方角に凶星がございます。はっきりとは大きさが分からないので、まだ日付は定まっていないようですが」
「ほう。方角というのは?」

「その方の基準となる場所から見た方角になります。普通は住んでいるところが基準となるかと」
「なるほどな」

 彰胤は、楽しそうに頷いている。ここまで言ったのなら、と思い、先ほどから気になっていた臣下の凶星も、口にした。

「あなたにも、凶星が視えます。明日、いぬい(北西)の方角にお気をつけください」
「あ、ああ……」

 彰胤とは違い、戸惑った返事だった。あなたに良くないことが起こる、と言われて喜ぶ者などいるわけがない。当然の反応だ。臣下は彰胤に対して声をかけた。

「東宮様、そろそろお戻りにならないと。正式なご訪問ではないのですから」
「えー、もう駄目か」
「駄目でございます」

「仕方ないかあ。ではまたな。婚姻の儀の日程が決まれば知らせるよ」
「はい。ありがとうございます」

 彰胤は立ち上がり、臣下が持ち上げた御簾をくぐって渡殿へ出た。宵子も、見送りのために渡殿へ出た。空には、少なくなっているものの、今も星が降り注いでいる。

「君は、星は好きかい」
「はい。いつでも空にあり、美しいものでございますから」
「流星は、よばひ星とも言う。尾がない方が良いとされるが、君はどう思う?」

 口元に笑顔を浮かべていて、穏やかさには変わりはないが、試すような少し鋭い空気を肌で感じた。宵子は、一つ息を吸ってから答えた。

「流星よりも、噂の尾の方がなくて良いものと思います」
「ははっ、うん、それは俺も同感だな」

 彰胤の纏う空気が柔らかくなり、満足げな笑顔になって帰っていった。笑顔の種類が多い人だと思った。

 今のやり取りは、かの有名な随筆、枕草子の『星はすばる』から始まる一節に掛けたもの。流星に尾はいらないと書かれていることについて聞かれたので、先ほど話題にあがった宵子の噂の尾ひれの方がいらない、という返しをしたのだ。どうやらお気に召したようで、老師との問答が役に立った。

「何とか、追い返されなかったわ……」

 宵子はへたりと座り込み、星空を見上げた。流星雨を見ていただけだったのに、想定外の客人で何とも慌ただしい夜になってしまった。妃を追い返す冷酷な冬の宮、という前評判とはだいぶ違っているように感じた。

 色々と考えなきゃいけないけれど、どっと疲れが襲ってきて、宵子は部屋の中に戻り、早々に眠りについた。
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