毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ

文字の大きさ
上 下
70 / 74
終章 ― 幸 ―

終章-2

しおりを挟む



 翌日の清涼殿、昨日とは雰囲気が全く違っていた。各省の卿や大輔、大納言、大臣までが集められていた。事件の概要やその処分はすでに下されているため、ここにいる者、皆の知るところである。

 その後の帝からの呼び出し、公的な発言となれば、緊張するのは当然。

 浅紫や深緋の袍を身に纏った高位の者たちが、ここまで緊張している姿は、滅多に見られない。一方、俊元の用意した夏物の着物を纏って、紫檀と紫苑は機嫌よく体を揺らしている。二人が両隣にいるから、菫子自身は緊張のしようがなかった。

「主上がいらっしゃいます」

 俊元の声に、皆が頭を垂れた。菫子も、鈍色の唐衣をさらりと揺らして同様に頭を下げた。他の人がいるのに、鈍色の着物でいいのかと確認したら、その方がよいと返された。

 先ほどから視線が刺さるが、菫子は毅然とすることを心がけた。

「今日そなたらを集めたのは、毒小町のことについてだ」

 その場の空気がぴりっと鋭くなった。帝からの目配せを受けて、俊元が説明のために一歩前に出た。

「一部の役人によって、一連の事件の犯人は毒小町である、という話がありました。その役人は真犯人により指示を受けて、そのような虚偽を述べたと認めております。今回、並々ならぬ知識を持って事件を解決した者こそ、毒小町なのです」

 驚きや困惑の声で、臣下たちがざわついた。毒小町が犯人、という話を聞いていた者もいれば、そもそも毒小町が実在することを帝が認めたことに驚いている者もいる。

「この者を、引き続き尚薬として、任ずることとします」
「恐れながら主上」

 臣下の一人が、声を上げた。浅紫色の袍、二位もしくは三位の者で、この場面で意見出来るほどには度胸があるようだ。

「なんだ、申してみよ」
「毒小町は、触れれば死ぬ毒を持っているのでございましょう。そのような者を宮中におくなど」

 帝と俊元はこの意見は予想していたようで、一つ頷いてそれを聞き入れた。

「毒小町の毒は、死に至るような強力なものではなく、黒い花のような痣と共に高熱が出る程度のものでございます。通常、この童子たちが護衛をし、宮中を移動する際は事前に告知しますので、不用意な接触は避けられましょう」

 俊元は、付け足すように、もしも触れてしまった場合は解熱の薬を用意する、と言っていた。
 納得しきれていない臣下たちを見回して、帝がすっと立ち上がった。

「毒小町は、人々に害をなすつもりはなく、忠誠を誓っておる。このように」
「わたしは主上に変わらぬ忠誠をお誓い申し上げます」

 菫子は、帝へ深々と頭を下げた。紫檀と紫苑も同様に。

 菫子のことを認めさせると共に、帝が毒小町という切り札を手中に収めていると示している。通常触れるような状況でない中、黒い痣が現れ、高熱が出たとしたら。それは自ら菫子に接触しに行ったか、帝が菫子を使って秘密裏に罰を与えた、という推測が成り立つ。

 帝にそのつもりはないだろうし、菫子も罰のために毒を使うことなどしない。ただ、臣下たちの中には、推測が頭に浮かぶだろう。

 帝は、これ以上私に逆らうな、と暗に言っているのだ。毒小町を公にした上で、帝の立場をより強固なものにする。何とも、したたかな御方だ。

 その後、細かな質問に答え、最終的には菫子が尚薬でいることを認められた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

処理中です...