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四章 ― 鬼 ―
四章-6
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ばんっと無遠慮に戸が開かれた。先ほどの役人が立っていて、菫子たちを見下ろしていた。
「こいつは仲間か?」
投げつけるようにして、人をこちらに飛ばしてきた。何とか避けて、足元を見ると、見慣れた女房がうずくまっていた。
「右近さん!?」
「ええと、忘れ物取りに来ただけやよ。なのに、この人が怖い顔して」
「……! 右近さん、手!」
倒れ込んだ紹子の手が、わずかに菫子の髪に触れてしまっていた。反射的に離した紹子の手には、黒い花の痣。
さあっと、すごい勢いで血の気が引いていくのが分かった。紹子が、毒に触れてしまった。菫子の毒のせいで、紹子が死んでしまう。
「ああ……いやああああああ」
役人が、毒小町の毒は本物のようだ。用心しろ、女房を連れて行け、と話している声が、とても遠くで聞こえた。
「藤小町!」
「う、右近さん、わたし、わたしのせいで……っ」
「そんな顔せんで。うち、体は丈夫やし、こんなのどうってことない。大丈夫大丈夫、おっとっと」
紹子は、にっこりと笑顔を浮かべながらそう言った。だが、足元がふらついている。役人に腕を持たれ、連行されていってしまった。紹子は、ずっと、菫子に向かって、大丈夫、と言い続けてくれた。
役人が、この化け物め、絶対に出てくるな、と言って、戸を乱暴に閉めた。戸を勝手に開けたのは、そっちじゃないかと混乱しきった頭で、そんなどうでもいいことを思った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「藤小町」
紫苑が声をかけてくれるが、何も聞きたくないと首を振った。菫子の手は、箪笥をがさごそとある物を探していた。懐剣が、見つからない。
「探してるのは、これ?」
紫檀の手に、菫子が探していた懐剣があった。そんなところにあったのか。紫檀に、貸して、と手を伸ばしても渡してくれない。
「お願い。貸して、わたしがいたから、こんなことになった……」
「だめ。死ぬのは、だめ」
「わたしのせいで、右近さんは……! もっと早くこうすべきだったの。幸せになりたいなんて馬鹿げたことを言って、生きてしまったから、こんなことに」
「でも、あたしは藤小町が死ぬとこなんて見たくない!」
人が死ぬところを見たくない、いつだったか言ったことが自分に返ってくるとは。でも、じゃあ、どうしたら。
「ううっ……」
菫子は、声を押し殺して泣いた。菫子が泣く資格はない。分かっている。でも止められなかった。
「右近さん……っ」
「こいつは仲間か?」
投げつけるようにして、人をこちらに飛ばしてきた。何とか避けて、足元を見ると、見慣れた女房がうずくまっていた。
「右近さん!?」
「ええと、忘れ物取りに来ただけやよ。なのに、この人が怖い顔して」
「……! 右近さん、手!」
倒れ込んだ紹子の手が、わずかに菫子の髪に触れてしまっていた。反射的に離した紹子の手には、黒い花の痣。
さあっと、すごい勢いで血の気が引いていくのが分かった。紹子が、毒に触れてしまった。菫子の毒のせいで、紹子が死んでしまう。
「ああ……いやああああああ」
役人が、毒小町の毒は本物のようだ。用心しろ、女房を連れて行け、と話している声が、とても遠くで聞こえた。
「藤小町!」
「う、右近さん、わたし、わたしのせいで……っ」
「そんな顔せんで。うち、体は丈夫やし、こんなのどうってことない。大丈夫大丈夫、おっとっと」
紹子は、にっこりと笑顔を浮かべながらそう言った。だが、足元がふらついている。役人に腕を持たれ、連行されていってしまった。紹子は、ずっと、菫子に向かって、大丈夫、と言い続けてくれた。
役人が、この化け物め、絶対に出てくるな、と言って、戸を乱暴に閉めた。戸を勝手に開けたのは、そっちじゃないかと混乱しきった頭で、そんなどうでもいいことを思った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「藤小町」
紫苑が声をかけてくれるが、何も聞きたくないと首を振った。菫子の手は、箪笥をがさごそとある物を探していた。懐剣が、見つからない。
「探してるのは、これ?」
紫檀の手に、菫子が探していた懐剣があった。そんなところにあったのか。紫檀に、貸して、と手を伸ばしても渡してくれない。
「お願い。貸して、わたしがいたから、こんなことになった……」
「だめ。死ぬのは、だめ」
「わたしのせいで、右近さんは……! もっと早くこうすべきだったの。幸せになりたいなんて馬鹿げたことを言って、生きてしまったから、こんなことに」
「でも、あたしは藤小町が死ぬとこなんて見たくない!」
人が死ぬところを見たくない、いつだったか言ったことが自分に返ってくるとは。でも、じゃあ、どうしたら。
「ううっ……」
菫子は、声を押し殺して泣いた。菫子が泣く資格はない。分かっている。でも止められなかった。
「右近さん……っ」
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