毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ

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三章 ― 子 ―

三章-11

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 紹子は頻繁に念誦堂に遊びに来るようになっていた。俊元や紫苑、紫檀とは違って、毒が効かないわけではないのに、気にせず香を作りにやってくる。

「女御様のとこに油を持って行った人は、分かったん?」
「いいえ。まだ調べているところだそうよ。数が多くて大変だとか」

 未だに特定出来ない杯の毒、そして今回の唐胡麻、明らかに毒に詳しい者が関わっている。菫子が見つけ出さなければ、帝も中宮も女御も、危険に晒してしまう。

「お正月の件、解決に協力した人って、藤小町やよね」
「それも勘?」
「うん。あとは流れ的にそうやなーって」

 香料を選びながら、紹子はさらりと言った。他にも勘づいている人はいるかもしれない。

「右近さんは、正月の儀式の時は、どこにいたの?」
「ちょうど嫌がらせされてた時やから、端っこの方やったなあ。離れてても、主上のおわすところは、装飾も華やかで豪華で、見たことのない綺麗な鳥までいて、絵巻物みたいやったよ」
「そうなの」

 紹子が、帝が倒れたところを目撃していれば、と思ったが、離れていたならあまり見えていないだろう。公には解決したとさせている正月のことをこれ以上掘り下げることもない。

「右近さん、香料選べたかしら」
「ねえー、藤小町と橘侍従様って、恋仲なん?」
「えっ!?」

 手に持っていた乳鉢を取り落とすところだった。

「あれ、違うん?」
「違うわ。調査に協力をしているだけで、そんな」
「でも、憎からず、って顔に書いてるんよね。あ、そうや、歌とか贈ってみたら」

 平安貴族の恋の始まりは、調度品などの隙間から相手を見る垣間見、そして歌を交わす、贈り物を贈る、など、実際に会うまで様々な方法で相手を知り、自分を知ってもらう。

 最たる手段はやはり、歌。顔の見えない相手を知るには、歌を交わすことが常である。

 ただ、俊元とは侍従と女官として初めから顔を合わしているし、そもそもそういうものでは、と紹子に言うでもなく口の中でもごもごと。

「出会いが常とは違うんなら、今から始めればいいんよ!」
「そう、かも、しれないわね」

 紹子の圧に押されて、菫子は頷いた。そこから、香のことはほったらかしで、歌を考える会になった。歌には疎い菫子は、苦戦したが、紹子とああでもないこうでもないと、考えるのは、少し楽しく思えた。



 菫子は一人の時にも、歌を考えていた。もしも、俊元に贈るとしたら、と何度も考えた。いいと思えるものが出来たら、紙にしたためてみようと、思えるようにもなった。何と言って渡そうかと。



――――当然のように、渡せるものと、思っていた。

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