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一章 ― 始 ―

一章-16

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「そういえば、童女には遅れて症状が出たのに、主上はすぐに症状が出たのはどうしてだろう」

「そうですね。童女の毒性がわずかに、銀の瓶に反応が出ないほど少量、移っていたのかもしれません。ただ、症状の出方は体質によるところが大きいので、毒に耐性のない主上であれば、あり得る範囲かと」

「ん? 待って、主上の耐性のこと、話していなかった?」

 何のことか分からず、菫子は首を傾げた。毒に耐性があるのは俊元の方で、帝は毒に耐性はないのではなかったか。

「ああ、そうか。藤小町が自分で気付いたから、話しそびれていたのか。主上に毒が効かないという話は確かに虚偽だ。でも半分本当なんだ」
「どういうことでしょう?」

「幼い頃から、毒に体を慣らしておいでで、常人よりは毒に強いお体でいらっしゃる。そうだな、毒に耐性がない常人を一とし、俺のような全く効かない者を十とするならば、主上は四から五の耐性をお持ちだ」

「常人なら死んでしまうような毒でも、重症で済むということですか」

 言いながら、菫子はさあっと血の気が引いていくのを感じた。それが本当ならば、事件は終わってなどいない。

「主上が耐性をお持ちなら、青梅の毒にあたることはございません! それほどの耐性がおありなら、盃程度の梅の粉で、熱を出されるはずがありません」

「!? ならば、別の毒が盛られていた、と」
「その可能性が高いです」

 だが、童女の口にした毒は青梅で間違いない。犯人もそれを認めている。ということは、その時、帝にだけ別の毒を盛った? 誰が、どうやって。

「まずいな。俺は主上が盃をお飲みになってすぐ、童女の元に行ったから、詳しい状況が分からない。もちろん主上自身にお尋ねしてみるけれど、当日お傍にいた方々に話を聞かなくては……」

「正月の事件は終わっていないと、公表しなくてよいのですか」
「真犯人は、隠しおおせたと油断しているはずだ。その間に調べを進める。藤小町、もう少し、協力してもらえるかな」

「はい」

 終わりは、まだ先のことのようだ。
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