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一章 ― 始 ―

一章-14

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 戸を開けると、双子がなだれ込んできた。

「わあ」
「いてて」

 どうやら、戸にぴたりと体をくっつけて話を聞いていたらしい。二人とも軽やかに体勢を戻すと、菫子にずいっと近付いた。

「あんた、凄いじゃん! 梅が毒になるとか初めて知ったんだけど」
「凄い。知らないこと、たくさん知ってる」

 立て続けに褒められて、何だかくすぐったい。男子が、菫子に座るように手で示してきたので、戸を閉めてからそこに座った。いい子いい子と、頭を撫でてくれた。褒められるためにやったのではないが、それでも心と頬はほころんだ。

「もうー、ほんとに子どもみたい。可愛く見えてきた。あ、そうだ、あたしたちがあんたの兄とか姉になってあげる」
「え?」

「あたしたち、うんと長く生きてるから、父と母でもいいけど。ねえ、お兄はどう?」
「いいよ。見た目は、弟と妹だけど」

 よく分かっていない菫子に構わず、二人は膝の上にちょこんと座ってきた。急に触れられたことに驚くが、嫌ではないし、怖さは徐々に少なくなってきた。

「一緒に住むんだから、いいじゃん。家族っぽい感じで」
「嫌?」

 男子にそう聞かれて、すぐに菫子は首を横に振った。あまり考えずに体が動いたことに、自分でも驚いた。でも当然だ。一緒にいようと言ってくれることが、嫌なはずがない。

「ねえ、あんたの名前は?」
「毒小町か藤小町って呼ばれているわ」

「名は? あー、滅多に言わないんだったっけ。じゃあ、言わなくてもいいけど、それに関連した名前、付けてよ」
「名前を付けるなんて、わたしがしていいの」
「呼び名ないから、決めて」

 確かに、二人はお互い名前を呼んでいるところを見たことがなかったし、名乗ってもいない。呼ぶ名がないのは不便だ。菫子の名に関連した名前、という注文だが、どうしたらいいか。菫子は二人の顔を見ながら、考えた。

 菫、双子、赤色と青色……。紫……。

「えっと、紫檀したん紫苑しおんは、どうかしら」
 前者を男子に、後者を女子に当てて伝えてみた。どんな反応が返ってくるか、妙に緊張した。

「紫苑! いいじゃん! あたし気に入った」
「うん、紫檀。いい」

 二人の、紫檀と紫苑の笑顔につられて、菫子も笑顔になった。
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