毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ

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一章 ― 始 ―

一章-12

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5月11日(水)

『clover_fieldさんがライブ配信を開始しました。リアルタイムで視聴しよう!』

 待ち望んでいた通知が、スマホの画面に表示されたのを確認し、画面の上の部分にあらわれた通知バーをタップする。
 四・七インチのディスプレイでは、彼女が信奉していると言っても良い、ひとつ年上の女子が微笑んでいた。

「はぁ~、ヨツバちゃん、今日も可愛いべな~」

 そんな独り言をつぶやくと、画面の中の白草四葉が笑顔で語りだす。

「みんな、おはよう! クローバー・フィールドの白草四葉です。『メイクとヘアで大変身! 隠れた魅力を引き出して、いままでの自分から変身ちゃおう!』が合い言葉!」

「わたしは、人間にとって、いちばん大事なのは、中身だと思う。でも、他人が最初に見るのは、やっぱり外見なのよね(苦笑)」

昨夜ゆうべは、美容に大切な八時間睡眠ができなかった……勉強と……放課後に、学校でちょっと刺激的なことがあったから、気持ちが落ち着かなかったんだ」

「だから――――――今朝は、いつもと違うルーティンをしようと思ってるの!……って、スゴイ! もう、こんなにコメントと質問が来ちゃった」

 スマートフォンの画面の中には、次々に視聴者からのコメントや質問が表示される。

 ribbon_cat1101:おはよう! ヨツバちゃん今日も楽しみにしてるよ。

   golden_pudding0416:今日は、どんなルーティンを紹介してくれるの?

 chocolat_rollO9:夜ふかしした次の朝のモーニング・ルーティンを教えて

「それじゃ、さっそく、答えて行くね! まずは――――――chocolatショコラ_rollO9ロールオーナインさん、うん! カワイイ名前ね! 『夜ふかしした次の朝のモーニング・ルーティンを教えて』」

「とっても、良い質問ね、chocolatショコラ! このバリー・ベノムのリバイバル・アイ・パッチは、目の隈に効果バツグン!」

#バリー・ベノム
#リバイバル・アイ・パッチ

「コーヒーを飲んあとは、お肌が水分不足気味。だから、アノのグロウオイルを塗るの! お肌がツヤツヤになるよ。それから、クリームブラシをちょこっと」

#アノ
#グロウオイル

「つぎは、snowスノー_fieldフィールドちゃん! いつも、ありがとう。『明日は、証明写真の撮影があるのに、ニキビができてしまったべ……ヨツバちゃんなら、どうやって対処するか教えてほしいべ』」

「!」

 snow_fieldの名前が呼ばれた瞬間、彼女は、スマホを両手で固く握りしめて、つぶやく。

「今日も、わたすのコメントを拾ってくれた……ありがとう、ヨツバちゃん……」

 彼女が、両手で握ったスマホを胸のあたりに押し当てながら、感慨にふけっている間にも、画面の中のインフルエンサーは、語り続ける。

「ニキビの対処法ルールその1! 絶対に指で潰すのはダメ! 対処法ルールその2! どうしても、早く治したい場合は、トイレット・ペーパーにハミガキ粉を染み込ませて、ニキビの部分に当ててみて。そのまま、一晩寝たあと、翌朝にぬるま湯で洗い流すとバッチリだよ! ただし、ハミガキ粉は、ホワイトニング成分の入っていないものと白一色のクリーム状のものを選んでね」

 自分の質問に答えているヨツバの言葉を聞き漏らすまいと、再びスマホの画面に目を向けた彼女は、食い入るように、自身が、カリスマと崇める相手の姿を見つめる。
 画面の向こうの彼女は、ライブ配信の締めに入っている。

「――――――と、いうことで、今朝のライブ配信は、ここまで! 今夜のライブでは、初心者向けのフットネイルを紹介させてもらうね。シールタイプだから、とっても簡単にフィットさせられるし……なにより、女子だけなく、男の子の目も釘付けだった、ってことをわたし自身が体験しちゃったから……今夜の配信も楽しみにしていてね。それじゃ、また、夜に! バイバイ!」

(はぁ~。今日もありがとう、ヨツバちゃん。こんなヒトと同じ学校に通えているなんて奇跡だべ……)

 クローバー・フィールドの配信が終わったあとも、余韻にひたりながら、再びスマホを両手で抱きしめて、胸にあてた。
 そうして、彼女は決意を固める。

(ヨツバちゃんが関わっている広報部に、わたすも入部するべ……)
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