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再び、忘れられし現実へ
説明キャラが出てくると大抵物語は加速する。ましてやオカマじゃもう遅い
しおりを挟む一瞬の沈黙が恐ろしく長く感じた。まるで知覚の外で実は番外編を数本ぶち込まれていたかのように。(メタァ)
『まあ今日まで普通の日常を送って来たアナタにいきなりこんな事を言っても混乱させるだけだと思うけど♥ いずれ知るなら早い方がいいじゃない? 真実も恋もオカマも♥♥』
オカマ知る必要無くない?
「あ、あのっ、その、怪人、っていうのは…?」
モモの目がギラっと鋭く光った。気がした。
『読んで字の如く、怪しい人よッ!!』
「異議あり!!!」
心のマサカズも一緒に叫んだ。
『異議は棄却するワ』
異議はあっさりと棄却されてしまった。
ってなんでやねん。
「さっき言ってた話から予想して、この組織はその怪人とやらと戦う為の組織って事ですよね!? 青沼さんも桃井さんも戦ってきたって事ですよね!? それなのに " 怪しい人 " ってだけで片付けないで下さいよ!」
『ん~、でもぉ、まだアナタ、戦うって決めたわけでも無いでしょう? 変な先入観与えちゃうともし日常に帰りたくなった時に色々と弊害が出ちゃうしぃ』
むぐ、っと言葉に詰まった。
確かに話が突飛すぎて何の決断も出来る段階ではない。ましてや戦うだとか怪人だとか言われても " 命を賭ける " なんて判断が出来るはずもない。
「…青沼さんは、その " 怪人 " と戦った事があるんですよね?」
俺は背後のキモい布団玉(【出遭って3分で人生相談? モモの部屋にカモンボーイ❤】参照)に問い掛けた。参照が長ぇ。
≪…ん? ああ、あるぞ。何回もな…≫
何だろうこの大地の妖怪みたいな物体。
「その…どうでした? 怪人って」
≪そうだなあ…、うん…、…めっちゃ怪しい奴d≫
「役立たず!!」
≪ひどいっ!?≫
妖怪布団玉がビクッと痙攣する。
俺はちょっとだけ頼ってみた事を早くも後悔した。モモに向き直り、再び手の中のマイクに話し掛ける。
「自分がどうしたいかってのをハッキリさせたいから…もう少しその怪人とか、敵対組織みたいなのについて知りたいんですけど…」
それは正直な気持ちだった。俺は多分、感情だけを先行させて物事を決意したり突っ走ったり出来ないタイプだから。ビビりだと言われたらその通りなんだろうけど… " あの日の経験 " がどうしても自分の心にブレーキをかけてしまう。
『んー…、司令さん、彼はこう言ってるけどどうするぅ?』
モモはずっと沈黙を守っていた司令に指示を仰いだ。
「zzz...」
「寝てんのかい!!」
オカマとまさかのユニゾンツッコミしてしまうとは。瞬間すら心重ねたくなかったのに。
『やっだー!❤ アタシ達チョー息ピッタリモッコリー❤❤ もしかして前世では恋人同士だったんじゃなーーい!?✨❤』
もしそうだとしたら絶対に恋人を射ち堕として敢えて業を背負ったと思います。
「む…?」
あ、司令が起きた。
『司令、おはモッコリ❤ それで、いいかしら?』
「………よし!!!(サムズアップ)」
いいのかよ。
何がよし!だか分かってないでしょ。そんな美形の寝起き超絶人たらしスマイルで。
『OKが出たから少しだけね。…って言っても実は敵の組織と言うモノについては殆ど全貌が掴めていない状態なのよね。本部が結成されてからもう何十年かになるけど、対峙した怪人は数あれどそこから先の繋がりについてはサッパリ分からず。我々の組織も現れた怪人をその場対処するくらいしか成果を上げられていない状況よ』
「なん…十年!?」
予想外の単位に言葉を失う。
『やっだー! 女の歳に反応しないでよもーぅ♥』
してねえだよ。ていうか0歳でしょあなた。特濃の。
「そんな昔から調査してて、成果無しなんですか…!?」
途方も無い高さの壁を乗り越えなければならない様な感覚に眩暈を覚えた。もし自分がこの組織の一員に加わった場合、その終わりの見えない戦いの日常に放り込まれるという事になるのか。
『全くのゼロってワケじゃないわよぉ?』
モモが俺の心境を悟ったのか助け船を出してきた。
『かなり稀な例だけど、怪人の捕縛に成功したパターンもあるわよ』
「捕縛!? 捕まえたって事ですか?」
『なに縛られる妄想してるのよこのドM♥』
してねぇだよ。なんで隙あらばソッチに飛ぶんだよ欠陥AI。
「稀な例、って…捕まえるのはそんなに難しいんですか?」
適度に弱らせて捕獲、って訳にはいかないのだろうか。
『特撮の話をまたするけど、戦って負けた怪人って、どうなってた?』
ああ、またこの顔だ。善とも悪ともつかないズルい機械の顔。
「どうなってたって…だいたいは必殺技でドカーン…」
あ。
「ドカー……ン…?」
『あったりーーーーイケメーーーーン♪♥ クラッカーの前田ーーー★』
モモは謎の人物の名を呼んだ。
『とまあ、そろそろ怒られそうだから真面目な話ね』
DVDプレーヤーの電源ボタンに手を伸ばしかけていた俺を見てポンコツAIは察した様だった。
『出現した怪人の対処にあたった場合、結果はほぼ3つに分かれるの』
「3つ?」
モモが握った右手を顔の横に上げる。
『1つ目。逃げられる。でもまあ撃退出来たという意味では一応の作戦成功よね』
人差し指を立てた。
『2つ目。敗北』
中指を立てた。
『戦略的撤退、もしくは戦闘員が再起不能の重体に陥った場合。救援が間に合わない様な状況ならば、戦闘区域を強制的に空間凍結させる。凍結された空間を解除する技術は今の所無し。怪人を逃がすくらいならば! …の、破れかぶれの処置。ファンタジーに慣れ親しんだアナタ達なら、この文字面が何を表現してるか容易に想像がつくわよね?』
背中に嫌な汗が流れた。
それはつまり…死ぬ事も出来ずに怪人と共に永久にそこに釘付けにされるという意味だろう。
『ここで言う " 戦闘区域 " ってのは当然だけど表の世界に干渉しない様にコピーされた複製戦闘用空間の事ね。この空間は現実と同じ座標に存在しつつも現実からは干渉出来ないという素敵なご都合空間よ』
そういう事言わないで下さい。
『そして3つ目の結果、それが勝利』
なんだろう、本来なら喜ぶ?べきはずのその2文字が、モモの言い方のせいもあるのかもしれないけど不吉さを孕んでいる気がしてならない。
『戦って、見事怪人を倒したら、どういう訳だか彼等は存在を消されるかのように爆散するの。散り散りになる、ってレベルじゃなくてね。まず大きく弾け、そしてバラバラになった体パーツは次々と分子レベルで空間に溶けていくのよ。徹底してるわよね』
徹底してる? 何が?
モモはフリーズしている俺にまるでクイズのヒントでも出すかのように続けた。
『どうしてそこまでして存在を消す必要があるのかしらね? もしアタシが怪人を操る立場だったら何をされると困るかしら? そう考えた時思い付くのは " 情報を与えてしまう事 " 』
「情報…ですか?」
『アナタにはまだ想像もつかないでしょうけど、アタシ達の組織の技術って実はかなり凄いのよぉ?』
…ゑ? あんな防犯装置を作るような組織が…?(【どハイテクとどアナログがお手手つないで俺の脳を殺しに来るんですが】参照)
いや、だから参照長いて。
『もし怪人の細胞のひとかけらでさえ回収する事が出来たなら、それは雄弁に数多くの事実を語ってくれるでしょうね。だからアタシならそうはさせない。相手も同じだとアタシはそう予想してるワ』
うわすっごい悪そうな顔。勝てる気がしない。
「AIが予想って…」
『さて、そこでさっきの捕縛の話ねん♪』
ウキウキくねくねしないでくれませんか。
『ある戦闘行動中、偶然にも怪人を捕縛する事に成功したチームがあった。どうやったのかと言うと、前から理論として提唱されてはいたけど様々な問題により実現不可だった " 超限定的な空間凍結 " を奇跡的に成功させたの』
「超…限定的?」
ヤバい、またしても理解が追いつかなくなってきたぞ。
ファンタジー慣れしてる現代っ子じゃ無かったのか俺!
『敗北の際に戦闘区域を空間凍結させる、って言ったわよね?』
「え、ええ…」
モモがため息混じりに聞いてきた。
理解力の無さに呆れられているのだろう。本当にすいません。
『普通に考えれば予想つくと思うけど、そんなトンでもファンタジー処理をするには想像を絶する大掛かりな設備が必要で、特定の誰かを狙って…なんてデリケートで精密な事なんて出来ないワケ。だから乱暴だけど水槽の様に閉じられた複製戦闘区域をレジンみたいな物質で満たして丸ごと固めちゃう、みたいなのが本来の空間凍結』
モモは説明しながら自らが映るテレビ画面内の余白にCG画像で【固められた水槽の立体図】を表示してくれた。(どうやってるんだろう)
『だけど何とかしてこの大がかりで大雑把な空間凍結を指定の目標だけに定められないか?と躍起になって研究されてたのが " 超限定的空間凍結 " ね』
モモのCG画像が、固まった水槽から固まった怪人っぽい人型シルエットに変わる。
「え、そんな精密な事は出来ないんじゃなかったんですか?」
先程モモ自身がそれは不可能だと言ったばかりだ。
その素直な問いにモモは少し憂いを帯びた表情で回答する。
『ええ、残念ながらまだ科学の技術力では実現には至っていないワ。でもね、人間には…特にアナタ達のような " 力 " に目覚めた者は、時として科学を超えたのよ』
過去形…?
ああ、つまり恐らくは、そういう意味なのだろう。
『まあそんなこんなで多くの犠牲を払ったけれど、その怪人を見事超限定空間凍結して捕らえる事が出来ましたとさ。メデタシメデタシ』
あんなにはしゃいでふざけてハジけてたモモが棒読みでパチパチと手を叩く。
「そ、その怪人は…どうなったんですか…?」
そんなモモの雰囲気に気圧されながら聞いた。聞くべきだったのか。
モモは視線だけをチラッとこちらに寄越し、しかしすぐにそれを外すと遠くの方を眺めながらゆっくりと答え始める。
『……本部の研究者達の間で散々議論を交わされた結果、その怪人はとある実験的処置を経て偶然的奇跡的に空間凍結から解凍された。分解消滅される事無く、ね。本来ならまだ技術的に有り得ない凍結解除の成功と分解消滅の阻止を自分達の功績だと勘違いして喜んだ研究者は、ついでに怪人という初めての素材を散々調べ上げた───』
モモの語り口が冷たく、そして計り知れない闇を吐き出すかのように聞こえた気がした。なぜだろうか。
情報を伝えるだけの存在のハズなのにこんなに感情が露わになるなんて…
司令が、視界の端で不意に視線を外した。
───ああ、そうか。
その先は聞きたくない。予想が出来てしまったから。
とてもファンタジーで、吐き気のする残酷なシナリオだから。
でも、聞かないでいたらいつまでもこの先には進めない。
『いい顔ね。ある程度は予想してたかしら。…そう、その怪人は───』
呼吸を必要としない機械生命体がひと呼吸置いた。
『───アナタ達と同じ、人間だった』
やっぱりそうか。
ただ悪を叩いてオシマイ。それで済むワケないよな。
───じゃあ?
コノヒトタチハ、ナニトタタカッテイルンダロウ?
俺という世界が、問い掛けた。
(本編次話【たぶん僕等は『シリアスすぎると死んじゃう病』なのかもしれない】へ続くッ!!)
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