106 / 114
メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁50:試される者とは 1
しおりを挟む重そうな装飾で全身を包んでいるミニチュアお爺さんがスーッと宙に浮かぶ。飛ぶ眼だって飛び回っているのだから今更宙に浮かぶ生物に驚きはしないが、これだけは分かる。周囲の空気が張り詰めて今にも破裂しそうな程に緊張している。
「ちょ、ちょ、じーさん、落ち着いて!」
雪之進君と浮かぶお爺さんの間に挟まれる私という、言わば入り込む隙の無い状態で恐らく自分がどこに挟まればいいのは分からずに混乱している神々廻さんがアワアワしている。
『【綴り人】は下がっておれ。おんしらは戦闘職にはなれんし、なる心算もないんじゃろう?』
「ツヅリビトぉ…?」
成程、我々の事は知られているらしい。やはり戦闘職にはなれなかったか。
「お爺さん…、その…」
『赦されるかどうかは心が決める。それが例え創られた物でもな』
「…!」
この方もまた、生み出された自分の使命が押し付けられた物であると理解しているのか。
雪之進君は試されているのだろう。据え置かれた戦闘職では無く自らの意思で戦う道を選んだ者として。その心が惰性なのか、本当の意味で歩み始めた『ヒト』として沸き起こる物であるのか。
私は対峙する二者の間から離れた。
「ちょっとみさベリーさん!?」
「神々廻さん、【本】だけは傷付けない様に死守して下さい。ペナルティーで挽肉にされますよ」
恐らくは戦闘状態とみなされているから【辞典】の虚空物置への格納は制限されているだろう。そう考えると突発的戦闘になった時に【辞典】を守りながら戦わなければならないという制限は痛い。
「ナニソレこわい!!」
悲鳴を上げると彼は本を抱き締めてガードした。隙間だらけだけど。
雪之進君は弓を引いた状態で微動だにしていない。弦を引いた姿勢を維持するだけでも相当な筋力を要するのにピンで留めたかの様に静かに佇んでいた。その瞳は瞬きもせずにただ標的のみを見据えて。恐ろしい集中力だ。
彼に何か一言伝えようと思ったけれど多分今はどんな言葉も聞こえないだろう。
私はビビっている神々廻さんを引っ張って(多分)安全な場所まで退避した。
「ユッシー大丈夫かよ…」
「分かりません。でもあのお爺さんの口振りからすると彼は試されているみたいですね」
「試されているって…強さトカ? でもアイツめっちゃ強いんでしょ?」
神々廻さんは直接彼の戦いを見ていた訳では無いから想像だろうけれど、私でさえ常人離れした彼の身体能力には驚かされたしその点においては十分に戦士として及第点なのでは思う。お爺さんがそれを見抜けていないとは思えない。
「お爺さんは『心が決める』と言っていました。それはつまり純粋な強さでは無く彼がどう考えて戦闘職になりたいか、という意味では無いでしょうか」
「復讐の為じゃないの??」
「それは確かにそうなんですが…」
何て言えばいいのだろうか…。私自身も感情に乏しい方だし他人の考え方を真剣に理解しようとした事は無かった。実の父親の心でさえ。
パリッ!っと辺りに静電気が走った様な音が響いた。実体を持たない空気の塊が辺りを押し退ける感覚が広がる。
「お…始まっちゃったヨ!」
「【本】をしっかり守ってて下さいね」
「イエス・マム!!」
「うるさい! 静かに!」
完全に迷惑な観客だった。
それは兎も角として…雪之進君は大丈夫だろうかと彼の方を見やる。
しかし動きがあるものと思い込んでいた予想とは違い、相変わらず石像の様に動かない一人と一人。
「うっ…」
急に雪之進君が姿勢を崩し蹲った。
(次頁/50-2へ続く)
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる