知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~

degirock/でじろっく

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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題

頁50:試される者とは 1

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 重そうな装飾で全身を包んでいるミニチュアお爺さんがスーッと宙に浮かぶ。飛ぶ眼フライングアイだって飛び回っているのだから今更宙に浮かぶ生物に驚きはしないが、これだけは分かる。周囲の空気が張り詰めて今にも破裂しそうな程に緊張している。

「ちょ、ちょ、じーさん、落ち着いて!」

 雪之進ゆきのしん君と浮かぶお爺さんの間に挟まれる私という、言わば入り込むすきの無い状態で恐らく自分がどこに挟まればいいのは分からずに混乱している神々廻ししばさんがアワアワしている。
 
『【つづり人】は下がっておれ。おんしらは戦闘職プルーフにはなれんし、なる心算つもりもないんじゃろう?』
「ツヅリビトぉ…?」

 成程、我々の事は知られているらしい。やはり戦闘職プルーフにはなれなかったか。

「お爺さん…、その…」
ゆるされるかどうかはが決める。それが例えでもな』
「…!」

 この方もまた、生み出された自分の使命が押し付けられた物であると理解しているのか。
 雪之進ゆきのしん君は試されているのだろう。え置かれた戦闘職プルーフでは無く自らの意思で戦う道を選んだ者として。その心が惰性だせいなのか、本当の意味で歩み始めた『ヒト』としてき起こる物であるのか。
 私は対峙する二者の間から離れた。

「ちょっとみさベリーさん!?」
神々廻ししばさん、【本】だけは傷付けない様に死守して下さい。ペナルティーで挽肉ミンチにされますよ」

 恐らくは戦闘状態とみなされているから【辞典】ストラペディア虚空物置インベントリへの格納は制限されているだろう。そう考えると突発的戦闘になった時に【辞典】ストラペディアを守りながら戦わなければならないという制限ハンデは痛い。

「ナニソレこわい!!」

 悲鳴を上げると彼は本を抱き締めてガードした。隙間だらけだけど。
 雪之進ゆきのしん君は弓を引いた状態で微動びどうだにしていない。つるを引いた姿勢を維持するだけでも相当な筋力を要するのにピンで留めたかの様に静かにたたずんでいた。その瞳はまばたきもせずにただ標的のみを見据えて。恐ろしい集中力だ。
 彼に何か一言伝えようと思ったけれど多分今はどんな言葉も聞こえないだろう。
 私はビビっている神々廻ししばさんを引っ張って(多分)安全な場所まで退避した。

「ユッシー大丈夫かよ…」
「分かりません。でもあのお爺さんの口振りからすると彼は試されているみたいですね」
「試されているって…強さトカ? でもアイツめっちゃ強いんでしょ?」

 神々廻ししばさんは直接彼の戦いを見ていた訳では無いから想像だろうけれど、私でさえ常人離れした彼の身体能力には驚かされたしその点においては十分に戦士として及第点きゅうだいてんなのでは思う。お爺さんがそれを見抜けていないとは思えない。

「お爺さんは『心が決める』と言っていました。それはつまり純粋な強さでは無く彼がどう考えて戦闘職プルーフになりたいか、という意味では無いでしょうか」
「復讐の為じゃないの??」
「それは確かにそうなんですが…」

 何て言えばいいのだろうか…。私自身も感情にとぼしい方だし他人の考え方を真剣に理解しようとした事は無かった。実の父親の心でさえ。
 パリッ!っと辺りに静電気が走った様な音が響いた。実体を持たない空気の塊が辺りを押し退ける感覚が広がる。

「お…始まっちゃったヨ!」
「【本】をしっかり守ってて下さいね」
「イエス・マム!!」
「うるさい! 静かに!」

 完全に迷惑な観客だった。
 それは兎も角として…雪之進ゆきのしん君は大丈夫だろうかと彼の方を見やる。
 しかし動きがあるものと思い込んでいた予想とは違い、相変わらず石像の様に動かない一人と一人。

「うっ…」

 急に雪之進ゆきのしん君が姿勢をくずうずくまった。






   (次頁/50-2へ続く)





       
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