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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題

頁45:カミサマの暴走とは 2

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「おーい、どうした大きな声出して?」

 ひろしさんが沢山の村人を引き連れて戻って来た。板に見える気がする物体やら杭に見える気のする物体を沢山手にしている。柵でも作るのだろうか。

「ひろっさん! 川! カワ!! この辺に無い!?」

 解き放たれた野獣の様な剣幕でひろしさんに詰め寄る彼に完全にドン引きのひろしさん。

「か、カワ!? カワってなんだ?」
「んがああああああああめんどくせえええええ!! えっと、水が大量にあってドンブラコって流れてる場所!! それなら分かる!?」

 あまりの変貌へんぼうぶりに訳も分からず狼狽ろうばいしているひろしさんだが、尋常じんじょうでない彼の様子に身の危険を感じたのか必死で記憶を洗っている様だった。本当にごめんなさい。

「そ、それなら───」

 ひろしさんが思い当たる場所の方向を指差す。

「この方向に真っ直ぐ行けば」
「アリガトひろっさああぁぁぁぁぁんジャガイモトイレェェェェェェェェ……… … …」

 最後まで聞かずに爆走して行ってしまった…。

「あの馬鹿…!」

 ゲリラ雨に巻き込まれた後みたいに呆然と立ち尽くしている皆さん。

「じょ…嬢ちゃん…一体何が…? ジャガイモトイレって…??」

 完全に取り残されてしまったひろしさんに本当ならしっかり説明すべきなのだが、ひろしさんには申し訳無いがあの様子の彼を放っておく訳にもいかない。

「えっと、私達の国ではかなり珍しい物が見つかったらしくて…テンションが上がってしまった様ですわ…ホホ…。いけない、ちょっと私も行ってきますね」

 駄目だ、私もグダグダだ。そんなに急に頭回るかい。

「え!? 外に行こうってのか!? 危険だぞ、俺も行こうか?」

 村の仲間を失った傷の癒えないひろしさんが申し出てくれるが、ひろしさんを連れていく事で更に怪我をさせてしまう可能性がある。それは私も避けたい。

「心配だとは思いますが御心配無く。私達、こう見えて実は強いんですよ? ずっと旅をしていますので(嘘)」

 それでも不安にさせない様に最大の強がりを見せたつもりだ。

「そ、そりゃ確かにそうだが…」
「ひろしさんはこの村を守るという大切な役目があるじゃないですか。大丈夫です、私達も絶対に無理も無茶もしませんから」
「むぅ…。分かった、気を付けて行って来るんだぞ。絶対に無茶はしないでくれよ。約束してくれ」

 その目が、あふれんばかりの彼の心情を物語っていた。私達が罪を背負って生きていく事を決めた様に、ひろしさんもまた誰かが傷付けばその痛みを背負うのだろう。
 その痛みの一つに我々が加わる訳にはいかない。絶対に。

「約束します。絶対に怪我せず無茶もせず戻ってきますので」
「ん。じゃあ気を付けて行って来てくれ! にーちゃんを頼むぞ」
「はい、じゃあ! !」

 それは『ただいま』と言わなければならないという、私への呪縛。今度こそ皆を裏切らない様にと。
 一時の別れの言葉を贈ると私は神々廻ししばさんの消えていった方角へと走り出した。
 色んな声が背後から聴こえた。いずれも温かい物ばかりだった。
 だからこそ、後ろを振り返る様な事はしない。


 これがトイレの為では無かったならもう少し感動的なシーンだったのだろうか。








   (次頁:46へ続く)





          
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