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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁42:命名と新事実とは
しおりを挟む「え………?? えっと…───南米アンデス山脈で生まれたとされている。15世紀にヨーロッパへ持ち帰られたが気候差で食用までには育たず、18世紀頃に漸く食用栽培に成功した。日本には17世紀頃にジャカルタから伝わり飢饉の度に重宝された。ちなみに『ジャガイモ』という名称は『ジャガタライモ』が訛った物だと言われている。…これでどうだ?」
シュウさんと入れ替わったのか。ズルい。回答者が二人いる様な物ではないか。
まあ、対策はしてるけど。
「正解です」
「やった! じゃあ」
「よく考えましたが、やはり駄目ですね」
「ナンデェーーー!?」
コロコロ入れ替わられると対応に困る。
「考えます、って言いましたよね? なので物凄く考えて悩んだ末の結論です」
「ぐぬぬぬ…!」
ミッション1は別に承諾システム外なので彼が無理矢理押し通そうと思えば可能なのだが、私の意見も聞いてからにしてくれているだけ協力しようという気持ちは伝わった。押し付けるだけは流石に可愛そうだから折衷案を出す。
「人々の命がかかっているかもしれないので…申し訳ありません。でもトイレ問題が解決したら次はジャガイモを検討しましょう」
「マジで!? イヤッホーーーーーウ♪」
全く、自由なカミサマだこと…。
大喜びの彼を尻目に【提案】の【承諾】を進める。この時間だけでもかなりの数の事物が世界に定着した。なるべく影響が薄そうな物を選択しているが、それらがどう転がって事件を引き起こすか予想もつかないのでドキドキしっぱなしだった。
次は…同じ画像で【提案】が二つ? 『鍬』と『鋤』って…似て非なる物じゃないか。ボヤっとしているけれどこの形状ならば恐らくは『鍬』で間違い無いだろう。農具だし世界への影響は心配せずとも大丈夫かしら。
「『鍬』、【承諾】っと…」
同一の物での【提案】の場合、片方を【承諾】すると自動的にもう片方は却下される仕様らしい。まあ当然か。
「あ、コレ! 穴掘る時に爆発したやつ!」
「はぃ?」
どう見てもただの鍬だ。なのに爆発した…?
いや待て、私もしたじゃないか。調理場で。
「どういう事ですか?」
腕を組んで頭を傾け記憶を辿る神々廻さん。
「や、たけしさんからコレ…鍬だっけ? コレを渡されて、でも【辞典】に登録されてなくてどう扱ったらいいか分からなくてサ、もうどうにでもなれって叩きつけたらちゅどぉぉぉん。だったヨ」
「分からない物を、叩きつけて……?」
状況としては似ている。今は『タマネギ(仮)』以外は名称を与えられたが、私も手にした包丁を調理台に乗せたまな板の上の『タマネギ(仮)』に向けて大きく振り下ろした。その結果がアレだ。
神々廻さんもまだ無名だった『鍬』を無名だった『土』に振り下ろしている。被害?の差は力加減や質量の差だろうか?
「もしかして…オレちゃん、スキルに目覚めちゃった系トカ…!? だとしたらダンジョンソロ攻略も可能じゃね…?」
まだ勇者願望が抜けきらない創造者がグフグフ含み笑いをしているのを無視して私は立ち上がり、辺りを見回す。
まだまだ名前の無い物などゴマンとある。そう、誰かの家の軒先に干されている?タマネギ(仮)とか。ビジュアルが怖い。
申し訳無いけれどそれを一つ拝借し、食べられるかもしれないのでと命名を後回しにしていた謎の花を一輪摘む。
「あの…ナニしてるの…?」
ついでに盥の様に見えるまだ無名の小さな桶状物体も借りる。
その桶の中に謎の花を横たえ、真上にタマネギ(仮)を握った手を伸ばす。
「一応、離れていて下さい」
「え? ちょ…」
手の中の物体を離すと、当たり前の様に星の引力に引かれ落下し───
「き、消えた!? ナンデっ!?」
桶の中に落ちたと思った瞬間、桶も花もタマネギ(仮)も纏めて消滅した。音も無く。
私は無言で追加の花とタマネギ(仮)を数セット集める。お借りしますと言ってもこれじゃあ返せないかもしれないな、と脳内で謝罪しつつ。桶はコストがひどそうだから次は無しで。代わりに拳大の石を一つ。
花を等間隔に地面に並べ、同じ数のタマネギ(仮)を小脇に抱える。まずは石を手に持ち、一つ目の花に同じ様に落とす。
既に名称を与えられた石は当たり前だが花を圧し潰してバウンドすると地面に転がった。
次はタマネギ(仮)を持ち、隣の花に落とす。
ボゴォッ!!
軽い地鳴りと鈍い音がしたと思った瞬間、花があった場所に直径30センチほどの穴が開いた。深さは…計り知れない。ちなみに花とタマネギ(仮)は跡形も無かった。
では次。
…紫基調のマーブル模様の小さな水溜まりが誕生した。匂いはしないが絶対に触りたくない。後で埋めよう。
とりあえず次。
…樹が生えた。これも名称が必要なのか何の樹か認識しにくい。高さは10mを優に超えているだろうか、かなり大きい。みんな起きてなくて良かった。
そして最後の一つ。
「うげっ…」
途中からドン引きしていた神々廻さんがその光景に耐えきれずにとうとう声を漏らした。
私も流石にこの結果は予想していなかった。胃液が込み上げそうになるのを必死で抑える。
「ギ…アァア…ギャァ……」
それは、か細く小さな奇声を上げ、程なくして動かなくなった。
人とも動物とも取れない、生物の基本構造を滅茶苦茶に無視した奇形パーツの塊が───。
「な、な、な……!?」
状況が掴めずにガクガクと震える彼に、何とか胃を落ち着かせながら考えた結論を述べる。
「不確定な存在同士の融合と、それによる存在確率の暴走…かもしれません。…これ、本当にあなたの特技にしますか?」
駄目神様が全力で首を横に振った。
(次頁:43-1へ続く)
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