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メガネスーツ女子と死後?の世界
頁39:勇者をやめた日とは 2
しおりを挟む沈黙が流れる。見つめ合った我々の間に。
何か言いたい事はきっとあるのだろう。しかし言葉が見つからないのか、それともシュウさんと脳内で会話しているのだろうか。そこまでは私にも分からないが。
「…ダンジョンであった事、覚えてますか」
「…え?」
会話をしつつ、そっと静かに【本】を開く。
「あの時はシュウさんが表に出ていましたけど、回転体の攻撃封じに壁際に逃げたら強制的に座標移動させられましたよね」
「あ、ウン」
「そして全滅後に追加されていた我々への制限。あれがどういう事なのか考えていました」
人差し指を顔の前で立て、誰もが分かる『静かに』のサインを彼に送る。鋭い眼差しも追加で。
「…!?」
そして【本】をもう片方の指先でそっと指し示す。意図が通じたのかそれともシュウさんが訳してくれたのか、彼も無言無音で【本】のチャットページを開く。
「ダンジョンを攻略する事で村の成長に繋がり、それが我々を遣わした存在の目的でもあるのであれば我々がボスを倒してしまっても問題は無かった筈です。なのに我々に科せられた制限はまるでそれを望んでいないかの様な内容ばかりでした。そこから導き出される答えは…」
次に私が口にする言葉への反応次第で、我々の上司の意図の一部がハッキリするだろう。
「ちょ…【超GOD】は、我々が英雄譚として語られる歴史を望んではいない、という事です」
同時に送るメッセージ。
《慌てず、焦らず、落ち着いて聞いて下さい。声にも出さないで下さい。いいですか、私達の…いや、私の居場所を中心としての会話や音声は【超GOD】とやらに聞かれています。》
《……マジで!?》
《マジで。》
「恐らくはどれだけ準備を整え万全の構えで再挑戦したとしても、至る場面で何かしらの制限や妨害を受けて最終的にはまた全滅する羽目になるでしょうね」
…否定も肯定も改変も起こらない。つまりこの仮説は取り敢えずは上司の意に添っているという証明だろう。
《そんな…。オレちゃんの夢が……💧》
《もう声に出しても大丈夫ですよ。ただ、一応発言内容には気を付けて下さい。》
《了解!》
「そんな…。オレちゃんの夢が……水滴…」
そこから言い直すのか。でも『水滴』まで言わないで下さい。丁寧か。
気を付けて下さいって言ったばかりでしょう。
「勇者として世界を救うのも創造主として世界を正しく導くのも『人類を繁栄させる』という結果で見れば同じでは? 寧ろ軍師の様な知的でクールなイメージもあって私は素敵だと思いますけどね」
「確かに!! これからはクールに行こうか!!」
乗り換え早っ。
この時点でクールからかなり遠い。まあ助かるけど。
「で、補佐官殿。お主ならあのダンジョンをどう攻め落とすと言うのじゃ?」
「何ですかその口調…まあいいですけど…」
それを考えるのが軍師役の貴方なんですが。
「本当ならばすぐにでも討伐部隊を編成して攻め落としたいですが、生憎そこまでの戦力は今現在の状況では産み出せません。ですのでまずは人々の生活水準を上げる為に辞典の編纂作業を進めましょう。その過程でも戦力増強に繋がる要素がかなりある筈ですし、新規産業を根付かせる為のCPも貯めなければなりません」
「はい、ヘンサン」
誰だよ。二回目。
「よ~~~し、じゃあ片っ端から【承諾】しちゃうヨ~!」
「待って下さい! 順番を間違えたら大勢の人が死にます!」
「うぇ…!?」
危うく虐殺軍師になる所だった…。
「な、ナンデ…?」
【本】を核ミサイルの発射スイッチの様に恐る恐る持つ彼。
でもある意味その表現は正しい。この【本】は単なる辞典ではない。扱い一つでこの星を滅ぼす事も繁栄させる事も出来るのだから。
まだまだ実体の掴み切れない奇妙な辞典。
創り上げていくと同時にこれを解き明かしていかなければならないのだ。私達は。
「さ、カミサマを始めましょうか。本当の意味で、ここから」
物語の出発は真夜中に宴の喧騒を聞きながら。
背に山ほどの責任を背負い、手には不思議な異世界辞典。
二度目の人生としてはきっと悪くは無い。そう思える様に。
頼りない相棒を添えて。
(次頁/40-1へ続く)
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