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メガネスーツ女子と死後?の世界
頁39:勇者をやめた日とは 1
しおりを挟む「お待たせしました~っス」
神々廻さんが両手に木製ジョッキを持って戻って来た。その内の片方を私に手渡す。手は洗った様だがTシャツの裾が濡れてヨレヨレになっていた。服で拭くとか信じられない。
いや、シャレじゃないですからね? 本当に。
「ありがとうございます」
成程、『食器類』という名称を得ただけあって今度はちゃんと認識出来る。ただ『輪郭が分かっただけ』みたいな感じでどこか朧気で不完全ゆえの不安感は残っていた。
「んああああああああ!!! 水がこんなにウマいなんてえええええええ!!!!」
うるさいなもう。そんなに辛かったのだろうか。
私は受け取ったジョッキの水面に映る揺れる月を眺めながら、どうやって話していくかを考えていた。
「これからの事ですが…」
「ん? ああ、今度こそ負けないヨ…万全の準備で叩きのめしちゃる! オレちゃんの勇者への道はまだ始まったばかりなのだ!」
うおおお、と手にしたジョッキごと勢い良く万歳をしたせいで中に残っていた水を頭に被る駄目カミサマ。
何をやっているんだか…。
「その事ですが───」
「え?」
一呼吸分の沈黙を置いて、彼を見る。
「勇者になるの、やめましょう」
◇◆◇◆◇◆
「な、な、ナニ? どゆこと?? ナンデ??」
折角溢れ出したやる気を堰き止められた勇者見習い様が慌てる。
「いいですか? そもそも私達に与えられた役職は『創造者』と『編纂者』です。星そのものの理を創り出し記録するのが我々の役目である以上、既にこの星の生物である敵対生物との戦いはこの星の人類の役目です。それに恐らくは我々は戦闘職にはなれないと思いますし」
「で、でもサ…」
「戦闘に特化した職に就けず、トンデモ能力も封じられ、身体能力も一般人と同じ。そして死ねばこの星に多大なるペナルティーが科される爆弾持ち。それでも我々が前線で命懸けで戦う必要があるのでしょうか?」
淡々と事実だけを並べていく私に納得出来なかったのか彼が反論した。
「じゃああのダンジョンは誰が攻略するってのサ! この村の人!? ひろしさん!? ひろしさんには悪いけど絶対にやられちゃうヨ!? オレ達と違ってあの人生き返れないんだよ!? それなのに───」
「戦わないとは言ってません」
「───へ?」
眼鏡のブリッジをクイっと直す。ズレていた訳ではないけれど。
「攻略手順を変えるだけです。ハッキリ言って我々の能力は今後歴史の経過と共に強力になっていくであろう敵対生物とは差が開いていくでしょう。しかしそれはあくまでも『個人の能力として』の話です」
「つまり?」
「もし自分が大きな会社の社長で、社員もそれなりに揃っている体制の中で細かい仕事を受注したら神々廻さんならどうしますか? 任せられる程度の細かな事案に対して社長自ら出向きますか?」
指二本で顎を摘まんでムムムと顔を横に倒し悩むと…
「や、部下に任すわ、任せられる内容なら。めんどいし」
「めんどいは余計ですけど、まあつまりはその通りです。我々はあくまでも最高のお膳立てをするだけしたら後は眺めるのみで、『出来る事は出来る者に託す』。これが我々の攻略法です」
彼も何となくは理解出来たらしいが、慌てて聞き返してくる。
「でも、だから、ひろしさんだけじゃヤツらには───」
言い掛けて、自ら気付いたのだろうか。
「もしかして…増やすの…? 戦闘職のヒト…」
「正解です。そして同時に増強させます。個人としての能力、そして人類全体としての水準を。それを導くのが我々のすべき事だと私は判断しました。貴方の言い方を借りるのであれば、これはRPGではなく建国シミュレーションです」
(次頁/39-2へ続く)
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