知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~

degirock/でじろっく

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メガネスーツ女子と死後?の世界

頁36:追悼の儀とは 2

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「ヤ、なんでもないっス…」

 そう。合掌して黙祷もくとうささげたのはいいのだが、終わるタイミングが決まっていなかったのだ。
 途中で私もあれ?とは思っていた。けれどこの完全な静寂と雰囲気の中で言葉を発するのがどうしても躊躇ためらわれてしまい、気付けば体感で一時間近くが経過していた。恐らく元の日本でも記録的な長さの黙祷もくとうに違いない。
 その永遠の黙祷を破ったのは他でもない、神々廻ししばさんのお腹の音だった。辺りは爆笑に包まれ今に至る。
 今回ばかりは心から感謝した。あとでお祈りの意味に修正を加えようかしら…。

「さ、みんなも疲れただろう、今日は細かい事は忘れて大いに楽しんでおくれ!」

 よしこさんの音頭に沸き上がる村の人達。沢山の松明たいまつに火がともされ墓地と周辺を煌々こうこうと照らし、この星で生まれたこの星独自の追悼ついとうの儀、という不思議なうたげが始まった。
 ちなみに松明たいまつはまだ松明っぽく見える名称不確定状態で、まさかの熱を感じられない驚愕きょうがく仕様だった…。

「そう言えば…私達って食事とか不要なのでは?」

 神々廻ししばさんに小声で問い掛ける。

「そういやそうだったよネ…? ああ、もしかしてアレかな、能力の制限の中にあった【身体能力のプラス補正は全て解除】ってヤツ」
「…という事は、私達もこれからはお腹も空いて眠くもなって…その…」
「あ、そうか、トイレも行きたくなるのか!」
声が大きいです!!声が大きい!!

 心と言葉が同時に飛び出した。
 それが聴こえたのか、ひろしさんが大きい声で答える。

「トイレって何だ? ああ分かった! うんこなら家の裏手でやってくれ!!」
「ひろっさん声がデカいからね!?」

 あなたが言わないで下さい。ていうかどストレートにう……うん………いやアレ(うんこ)って言わないで!!
 まだこの星にはデリカシーという物は生まれていないのだろう。まあその価値観が本当の意味で注視される様になったのは地球でもごく最近だが。
 ていうか何故トイレは認識されてないのにアレ(うんこ)は浸透してるんだろう。

「何も食ってないカラまだ出ないっス! まずはメシで! あ、みさチンもトイレ行きたかったら遠慮せずにへぶシッ!?」

 デリカシーの存在しているはずの元地球人なのにデリカシー皆無かいむな彼を問答無用で引っ叩いた。

「ぶはははは! あんちゃん、相変わらず尻に敷かれてんな!」
「ナハハハ、まあね!!」
「そういう関係じゃありませんので!!」

 ああ、この人達にはもう何言っても燃料にしかならないんだろうな…。私は半分あきらめた。
 村人の輪の中に飛び込んで行く神々廻ししばさんの後に続こうとして、ふと視線に気付く。

「…あれ?」

 うたげの輪から離れた建物の陰に、子供の姿。子供と言うにはそこまで幼くも見えないが、私と目が合うとスッと隠れてしまった。
 あんな子、前に来た時にいただろうか…? たまたま遭遇しなかっただけか。

「おや、どうしたんだい?」

 おかしな方向を眺めていた私によしこさんが話しかけてくる。

「あ、いえ、向こうに子供の姿が見えたもので…」
「ああ…」

 よしこさんが言葉に詰まる。

「あの子はね…ゆきえさんとしょういちの…敵対生物ヴィクティムの犠牲になった夫婦の一人息子さ…」
「…!」

 当然の可能性を忘れていた。
 人は木の股から生まれて来る訳ではない。必ず血縁者がいるのだ。親兄弟、子供がいる人だって当然───。

「ミサキちゃん、今はそっとしておいてやっておくれ」

 無意識にその子の方へ向かおうとした私をよしこさんが制した。

「残念だけど気持ちの面で私達に出来る事は何もないのよ…」

 私にも親を失った経験はあるが、私の場合は恐らく特殊でその子の心に寄り添う事は難しいかもしれない。
 よしこさんの言う通りだと思った。

「でも───旅人さんなら、あの子ももしかしたら…。ミサキさん、もしあの子があなた達を頼った時は…」

 私はよしこさんの手を両手で握る。

「安心して下さい、その時は全力で力になります」

 神様に誓って、と言おうと思ったが、とりあえずのカミサマは自分達だったと思い出した。
 ならば自分の魂に誓おう。


 ついでに神々廻ししばさんの魂にも。
 頼りないけど。








   (次頁/37-1へ続く)





      
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