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メガネスーツ女子と死後?の世界
頁33:気候とは 1
しおりを挟むお願い、お願いします神々廻さん気付いて。どうか。
そんならしくないお願いを胸中で必死に捧げる程に私は追い詰められていた。
料理は確かに苦手ではないし、なんなら同年代の同性の平均よりは出来る方だと思っていた。
しかしそれはあくまでも元の地球での基準だった。大事な事を忘れていたのだ。ここは異世界で、殆どの物が名前を持っていなかった。そう、ひとえに我々のせいなのではあるが。
「あの…ミサキさん…、その、本当に大丈夫…?」
よしこさんが本気の心配をそれでもオブラートに包んでそっと寄越してくれている。どうしてここで『駄目ですごめんなさい!』と言えないのだろうか。私の馬鹿。
「ちょ、ちょっと私の国の作法と違ったもので…緊張してしまって…オホホ…」
なんだ作法が違うって。小笠原流か。
私が今左手に掴んでいる『食材』と、右手に握っている『刃物』。そしてそれを切る為の『調理台』の上の『まな板』。
これだけ見れば元の世界の料理の風景とそこまで大差は無い。
しかしそれはあくまでもそれらの存在が確定していればこそ。
「し、新鮮すぎてどうやって切ったらいい物か迷ってしまいまして…ええと…このタマネギ…?」
ああ、やってしまった。どう見てもタマネギには見えないのに。それっぽい外見をしている気もするし全くもって的外れな気もする。とにかく見た目や感触から得られる筈の情報が完全に不鮮明だった。
もうヤケクソに表現するのであれば『ああああ』だ。それ位に訳が分からない。それだけじゃない。『包丁っぽい刃物』も『足が四本ある風に見える調理台』も『まな板かもしれない木の板』もそこにあるのに存在が認識出来ない。近くにも遠くにも感じる。
「あらぁ、『 』だとそれタマネギって言うのねぇ? 変わった名前だわ…」
ごめんなさいタマネギにはどうしても見えないんですが反射でもう…。
現状は、左手に握っているかもしれない『ああああ』を、掴んでいるのかどうかも分からない右手の『ああああ』で、高いのか低いのかも分からない『ああああ』に乗っているっぽい、サイズの分からない『ああああ』の上で切ろうとしているのだけれど、これなら目隠しした状態で真剣を握って目の前にぶら下がった米粒を一刀両断する方が遥かに正確な作業が出来る気がする。
お願い神々廻さん、一秒でも早く【承諾】して下さい…。このままじゃ自分の手首刻みそうです本気で。
しかしこういう時に限ってチャラ神様は気付いてくれない。あちらも作業が激化しているのだろうか。まあ棺五つ分の穴を掘るのだからちょっとした土木工事作業みたいになっているのだろう。
ええいもうこうなったら仕方無い!
「離れてて下さい…」
「えっ? えっ??」
私は謎の食材を謎のまな板の上に横たえると、謎の調理台との距離を可能な限り何とか測り、足の位置と重心を確認し、握れているかも分からない謎の包丁を大上段に構え…
「ちょ、ミサキさ───」
目標に向かって真っ直ぐに叩き込むッ!!!
まさかの爆砕された名無しのモノ達の悲鳴が……聴こえた気がした。
あれ?? なんで弾け飛んだの???
「…よしこさん、お怪我はありませんでしたか?」
「…あなたがね」
御尤もです本当にごめんなさい。
野菜の汁とか砕かれた物の破片とか埃とかで薄汚れた姿で、私はひたすら平謝りしたのだった。
あれ? 村の外れの方から何だか歓声が聴こえた様な…? 神々廻さんが何かやらかしたのだろうか。いや人の事言えないんですけど。
(次頁/33-2へ続く)
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