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メガネスーツ女子と死後?の世界
頁32:労働奉仕とは 2
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「おや旅人さん、どうしたんだい?」
(たぶん)村の中心では女性陣がせかせかと炊き出しの作業に追われていた。半分が我々の為であると思うと申し訳ない気もした。
「あの、これ、ひろしさんから渡す様に頼まれまして」
私は抱えた木箱をその女性に差し出した。
確か、最初にこの村に来た時にひろしさんと話していたよしこさん、だった筈。
「ああ、ひろしさんの『 』の『 』ね? 助かるわぁ」
お、久々に無音。もし中身が野菜とかの食材で合っているのであれば『畑』の『(野菜名)』だろうか。椅子の時の様に存在していても名前が与えられていない場合は無音になるっぽいな。
「あの…失礼ですが、確か…よしこさん、でしたっけ? 私達が以前お邪魔した時にひろしさんと話していた…」
すると彼女は目を真ん丸にして驚いた。
「あらやだ、覚えていてくれたのかい? 嬉しいねえ!」
元の地球であれば高齢者と判別されてしまう年齢であろうよしこさんは、田舎のおばあちゃんの様に生命力溢れる人となりだった。
「あの…この度は本当にご心配をおかけしまして…」
「や~だ、何言ってるのもう! あたし達が勝手にもてなして勝手に心配してただけよ。でも無事で本当に良かったわぁ」
心からそう思ってくれているのが分かるだけに、自分らのしでかした事の重さが圧し掛かる。本来ならばこのもてなしを受ける資格など無いのに。
けれど皆さんの厚意を無下にするのは私のエゴだ。我々の罪は我々がひっそりと背負うしかない。
「私も何か手伝いたいのですがお手伝い出来る事はありませんか?」
「えっ、そんな悪いわ」
「いえ、連れもひろしさん達を手伝ってますし私だけ何もしない訳にはいきません」
「そう? じゃあ…お願いしようかしらねぇ。あ、そうそう。あなたお名前は?」
くるりと振り返り私を見て聞いてくる。
「あ、嵯神 観沙稀です。宜しくお願い致します」
浅くお辞儀を添えて自己紹介すると、よしこさんはきょとんとした顔だった。
「サガミミサキ…さん? あら、変わったお名前なのね。『 』の方は少し長いお名前なのかしら」
うん…? もしかしたら名字という概念は無いのか…? 確かに名字だファーストネームだというのは元の地球の仕組みではあるけれど。変な所が異世界っぽい。
「あ、ミサキで大丈夫です」
思わず名前の方を言ってしまったが、ひろしさんやよしこさんの他の人達もみんな『氏名』の『名』が名前なのだとしたら『嵯神』や『神々廻』という響きは違和感があるかもしれない。
まあこの村の人達ならば「外国の方は変わったお名前なのね~」で済ましてくれそうではあるが。いや絶対に済ましてくれるだろうな…。
「じゃあミサキさん、あなたお料理は出来る?」
「はい、一通りは学びました」
「あら素敵。可愛いのに何でも出来ちゃうのね。羨ましいわぁ」
「いや、そんな…」
後頭部がムズムズする。相変わらず褒められ慣れていないな、と内心苦笑した。
父の没後はなるべく誰にも頼らず自活していた。外食も殆どしなかったので自分を生かすための最低限の知識だけではあるが自炊関連の技術はそれなりに身についていた。
その自信が、仇となって自らを襲うとはこの時は思いもしなかった。
(次話/33-1へ続く)
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