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メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁27:最初の結末とは 2
しおりを挟む「え…?」
言葉の意味を図りかねる。彼を助けた事なんてあっただろうか?
「お喋りは生き残った後だ」
我々のダメージを知ってか知らずか、飛ぶ眼達はじりじりと間を詰めてくる。
「あんた、足に来てるだろ。動けるのか?」
「バレてましたか…でもまあ何とか。一か八かですが、さっきよりももっと壁ギリギリまで下がってみましょう。それで少しでも時間が稼げれば治癒に回せます」
「…成程な」
提案の意図を汲んでくれた様だ。
相手の攻撃方法は基本的には高速での体当たりだ。つまり躱されれば通り過ぎるしかない。では通り過ぎたすぐ後ろが固い壁だったら? 当然ながらそのまま激突するだけだ。突進の勢いが強ければ強い程激突のダメージは大きくなる。警戒して攻撃の手が緩まれば再生で回復出来るし、もし突っ込んで来るなら躱せば良いだけの事だ。
飛ぶ眼達から視線を外さずにゆっくりと後退する。網膜に表示された縮小地図の現在地に近付いてくる壁を表すライン。
我々の作戦に気付いたのか、向こうの動きに若干の躊躇いの様な空気を感じた。よし、作戦通り……
《 戦闘域より一定時間以上の不正な逸脱を確認。二秒後に強制的に移動します。》
視界に、突然現れた【文字】。
縮小地図の様に網膜に直接映し出されているのか。
「え…?」
「マジかよ…!」
瞬時に理解したらしいシュウさんに質問するよりも先に変化は訪れた。
体全体が引っ張られる感覚。そして一瞬で変化した周囲の景色。
「ここは…」
「最悪だな。ど真ん中だ」
何の? いや、私も理解が追い付いた。確かに最悪という表現が相応しかった。
彼らにとって攻撃するのに最適な位置に獲物が勝手に移動してくれた訳だ。つまり、部屋の中央に。
「囲まれたな。クソが、嵌め防止システムかよ」
ハメ…? どう意味か分からないが恐らくはゲーム関連の用語だろうか。それを質問する余裕は既に無かった。
「嘘でしょ…」
かなり減ったとは言え、十分に脅威である数の瞳が我々を包囲しつつ見つめている。そして更に気付いてしまった。
「見ろよ。ここにきて大本命のお出ましだ」
「そう…ですね」
飛び回る回転型達の中、その一匹はいた。
「あれ、角…ですよね」
「角、だな」
ギョロっとした目の上、人間で言えば額か前髪の生え際にあたりそうな位置に一本、骨格無視な大きな角を生やした飛ぶ眼。もうここまでくれば私にだって分かる。
あれが、討伐目標───。
他の個体とは変わらない眼なのに、なぜか射竦められた様に視線を外せずに見つめ合った。
「嵯神!!」
急に名前を呼ばれて我に返る。そしてその声の響きが何を意味していたのかも。
「くっ!」
縮小地図でも分かる、背後から迫り来る気配。回転型|《フライングアイ》の攻撃が開始されたのだ。初撃は寸での所で躱したが、足から伝わる鈍い痛みはまだ攻撃の際の衝突には耐えられないだろうという分析結果をもたらした。それでも必死に二撃目を躱す。
視界の端でシュウさんが敵の攻撃後の隙を狙って攻撃を試みた様だがその蹴りは空を切った。それ以前に明らかに力が入っていない。恐らく見た目以上に消耗が激しいのだ。…どうする。どうする。どうする。どうすればいい?
次々と襲い来る回転体。紙一重で回避を繰り返すが、その度に足に鈍痛が走る。治るそばから負傷しているみたいにその痛みは次第に強くなっていく。
「あっ…」
とうとう、バランスを崩してしまった。恐らくはその瞬間だけを狙っていたのだろう。角付きが想像通り、その角を突き出しこちらに突撃していた。これはもう……
死を覚悟した。厳密には死なないのだけれど、それでも恐らく一度は死ぬだろう。
勝利以外に脱出が出来ないのであれば、我々全員が死んだらどうなるのだろうか。再生出来る我々ならともかく、死が許されない人達は? 走馬灯とも思えなくもない長考に耽っていた。
「どけ」
そんな私の体を、何かが弾き飛ばした。
(次頁/27-3へ続く)
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