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メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁26:初めてのボス戦とは 1
しおりを挟む開け放たれた扉の向こうはそこそこの広さの空間だろうという予想はついた。なぜ曖昧な表現なのかと言うと、今までずっと明るかった洞窟内が急に薄暗くなったからだ。視界のかなり奥に壁が辛うじて見える。地面と壁面が交差する部分の緩やかなカーブを追って見るに、恐らくは手前の安全地帯と同じ様に妙に整った半球状の空間なのだろう。最早天然洞窟なんて概念は皆無だ。
ボスが待ち構えているというだけでも緊張するのに、薄暗さで視界が悪いのは嫌な予感しかしなかった。
「縮小地図には敵対生物の反応はありませんが…」
「今はね」
「え?」
神々廻さんは大きめの深呼吸を一つすると、眼前の薄闇に眼を凝らした。
「多分だけど、暫く進んだら扉が閉まって出られなくなると思うから」
「え!? 閉じ込められるんですか!?」
「バトルの間だけだと思うヨ。『ボスからは逃げられない』、それがお決まりだからネ。逆に勝てば出られるようになるハズ」
そういう物なのか。なんだか平行宇宙の地球と言うよりゲームの中の地球みたいに思えてきた。
…仮にそうであってもなくても大差は無いのだろうけれど。
「ミニマップの表示も扉が閉まる瞬間に集中してて。予想通りなら突然現れるから」
「ええ!? そうなんですか!?」
圧倒的不利じゃないか。それとも本当に初級ダンジョンであるならばそこまでシビアでもないのか? いや油断は禁物だ。見立てを甘くして窮地に立たされたら目も当てられない。再生能力が落ちている以上軽い怪我でも動きに影響が出る。
「それじゃ…行こう」
彼の背中から緊張が伝わってくる。探索開始からここへ至るまでの僅かな時間だがその身のこなしは明らかに変化していた。勿論手練れの格闘家に比べたら一般人の域をまだまだ出ないが、本気で自らを弑しに来る存在と真正面から対峙する事で急激に感覚が研ぎ澄まされていったのだろう。意識して動く際の無駄がごっそりと削り落とされている。その成長に素直に関心しつつ、それ以上に自ら先に立って進むという人間性の変化に多少の驚きを感じた。
…なんだ私、偉そうに。
高くなっている自分の鼻を自分で叩き込み、彼の後に続いて空洞内に進入する。ゲームでの経験を踏まえてなのか一歩一歩が非常に慎重かつ緩やかだ。
「来る!!」
「!!」
これがゲーマーの勘と言う奴なのだろうか、彼が叫んだ直後に背後の重い扉が勢いよく閉ざされた。そして明るくなる周囲。良かった、暗いままだったら非常に不利だった。
「神々廻さん、敵表示が!」
縮小地図の範囲内には表示こそされている物の、肝心な敵対生物の姿は見えない。
「数が多い!? 囲まれる前に包囲網の外まで下がろっ!」
「はい!」
少数であれば先程の様に背中合わせで対処出来るかもしれないが、まだ複数体を相手するのに不安がある彼にはこの数は荷が重い。それに確認出来ているのはまだ網膜の縮小地図の範囲内だけだ。ここがそれを優に超える広さの空間である以上はもっと出現していると考えられる。
たった今通り抜けたばかりの扉付近まで後退し、改めて場を観察する。
まだ姿は見えない。移動している様子も無い。
「上か!?」
彼の声に反射で天井付近に目を凝らすが敵影は見つからず。
「まさか、地面の下から───」
その考えに至った瞬間、正解と言わんばかりに地面のあちこちの土が盛り上がり始めた。
「……7、8、9……少なくても10匹以上いるってばヨ…」
声に悲壮感が漂っているが無理も無い。それでも来てしまった以上はやるしかないのだ。退路も塞がれている。
そして、土の下からこのダンジョンの支配者がその姿を現し───
「…んん?」
(次頁/26-2へ続く)
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