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メガネスーツ女子と未知との遭遇

頁23:対複数戦闘とは 1

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 そろりそろりと洞窟内を進む。
 どういう訳か私が前、神々廻ししばさんが後ろだ。普通逆じゃないだろうか? まあいいけど。

《縮小地図があるからと言ってもたった20メートルです。暗闇で無いならば目視の方がずっと遠くまで届くので、私が前方で神々廻ししばさんが後方とそれぞれ分担しながら注意して進みましょう。》
《了解しました!》

 ちなみに私を上官みたいに仮定しているのであれば『了解』は不適切だ。
 それにしても…洞窟と言うから鍾乳洞しょうにゅうどうの様な『ゴツゴツの岩だらけで滑りやすく段差や起伏きふくの多い困難な道程どうてい』を想像していたのだけれど、道はほとんど平坦で通路もそこそこ広く、おまけに明るさもあるので拍子抜けだった。
 天然の洞窟、というよりは人為的に作られた『洞窟っぽい通路』みたいな。まあそもそも本の力により世界に強制的に産み出された時点である意味人工の洞窟と言えるのかもしれないが。

「うわわッ!」

 あんなに声を出す事に神経質になっていた神々廻ししばさんが声を上げる。縮小地図にはまだ何も映っていない。咄嗟とっさに振り返ると洞窟の入り口の方からやってくる飛ぶ眼フライングアイの姿が。恐らく視認された。隠れても無駄だろう。

「どどどどうしよう!」

 それに答えるよりも先に向こうが滑空かっくうして来る。前回みたいに警戒するタイプじゃない様だ。

「どいて!」
「はい喜んで!!」

 どくなよ!!と神速で突っ込んだ。心の中で。
 迫り来る飛ぶ眼フライングアイを真正面に見据みすえ、集中する。
 爪も牙も見当たらないあの形状で攻撃をするのであれば、恐らくは大きな羽による攻撃か体当たり。しかし羽は空中を主戦場とする彼らにとって生命線とも言えるはず。恐らくは後者が攻撃手段だ。
 き出しの目は普通の生物ならば弱点でもあるが、それを隠さないという事は目そのものは攻撃の邪魔にはなっていないという意味だ。ならば必ず突っ込んで来る!

「危ない!」

 どいたクセに何を今更。
 余計な力を抜いた直立姿勢から右足を半歩後ろに、脳天から足元へ真っ直ぐ突き抜けた一本のじくをイメージし、それを曲げない様に。軽く握り締めた右の拳と腕は強弓こわゆみを引きしぼるがごとく脇に携え───

セイ!!」

 ほんのわずかな軸の回転力に乗せて解き放たれた全力の拳を、真っ直ぐに突き進んできた飛ぶ眼フライングアイの眼球中心に叩き込む!
 もしかしたらグチャっとかグニュって気持ち悪い図になるかも…と覚悟していたけれど、意外にもバレーボールを殴った様な張りのある感触だった。その翼の生えたバレーボールは予想外の反撃により派手に吹っ飛び洞窟の岩肌に叩きつけられた。そのまま動かないのをしっかり確認して残心を解く。
 …ごめんね。

「うおお…! すげえ…!!」
「真っ直ぐ飛んでくるボールをただ弾き飛ばしただけです」

 手をパンパンとはたいて身嗜みだしなみを整える。

「! うしろ!!」
「!?」

 縮小地図に表示された『点』に気付き、振り向くよりも先に頭の角度を横にらす。たった今私の頭があった空間を突き抜けていく球体。
 完全には避け切れずに羽がかすったのだろうか、頬が浅く切り裂かれ、髪が一房ひとふさ宙に舞った。

「 観沙稀みさきちゃん! 大丈夫!?」

 彼が慌てて駆け寄ってくる。

「あわわわわわ…血、血が…!!」
「は?」

 彼の目線の先辺りを手の甲で拭うと、べったりと血が。浅いと思ったけれどそこそこ深く切れていた様だ。気付いた事による痛みがワンテンポ遅れて走るがこれしきなら影響はない。

んですし、今は敵に集中しましょう」

 縮小地図が強制的に視界に浮かんでいる為、集中するのにこれ以上余計な物体を視野に入れたくないので眼鏡を外しジャケットの内ポケットにしまう。

「え、メガネ外して見えるの!?」
「ええ、伊達だてなので」
「そうなの!?」

 地図に新たに表示される敵影が一つ。

「挟まれた!!」
「みたいですね。それでは一匹ずつ担当しましょう」
「マジで!?」

 何を今更。二回目。

「何の問題も無い雑魚、ですよ。いいですか、あれはただ真っ直ぐ飛んでくるボールだと思って下さい。目玉なんてむしろ的です。目を背けずにちゃんと軌道きどうを見て、拳を突き出すだけで倒せます」
「簡単に言うけどさァ…」
。ではそっちはお願いします!」

 背中を預け、私は私の相手を見据える。
 彼の身体能力や特技については何も知らないが、この先こうして背中を預けなければならない瞬間はきっと何度も訪れるだろう。その度に不安になるのか? 否、今の私に必要なのは彼を信じる事それだけだ。

「あのサ!」
「何ですかもう?」
「キミ、メガネ外してもキレイだね!」
「はい!?」

 このタイミングで言う事か? 思わず腰から砕けそうになった。
 …まあ、緊張もついでに解れたから良しとしますか。
 今回だけは。


 そう言えば、さっき私の名前をちゃんと呼んでたな。名前で呼ばれるのは抵抗があるけれどそれは別として、どうして普段は普通に呼ばないんだろう?
 まあ、いいか。








   (次頁/23-2へ続く)






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