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メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁16:考察とは 3
しおりを挟む「分かりやすく説明する為に敢えて石の名称で実験してしまいましたが…本来ならばこの石にも石としての種類があり、組成なども石同士で大きく異なります。今私が大雑把に【石】と承諾してしまった事で、この石が持つ本当の名前を殺してしまいました…。これから先、こんな罪深い事を永遠としなきゃならないんだなって…」
「え? なんで?」
あっけらかんとした声で聞き返してくる。
「だから───」
「石は石でしょ? 石のプロフィールが分からなかったからって何か困るの??」
「えっ?」
何か、困る? いや困るだろう。……でも何が? 石の種類が分からなくて悩んだ事があっただろうか。
…違う、そういう話じゃない!
「いや、確かに石ならそんなに困らないかもしれませんが───」
「さっき登録した【杉】も同じだヨ。みさパンは頭がいいし責任感強そうだから、【辞典を創る】って言われて多分ガチの辞典を創ろうって思ってない? ナニカ・ナニモクとかまで完璧にしなきゃ!って」
図星だった。
彼はヘラヘラと続ける。
「オレちゃんが国語辞典を初めて読んだ時サ、何となく調べてみた言葉の細か~い部分って全く覚えられなかったし興味も湧かなかったんだよね。知りたい情報ってイッチバン浅い部分だけだったし。でも結局はそれだけで今も問題無く生きられちゃってる。…あ、2回死んでるかw」
自分の首を両手で絞める振りをして、舌を出しておどける。
「何言ってるんですか! たった一つの物に対して、どれだけの人がどれだけの研究を重ねて来た歴史があると───」
「それだ!」
私をビシっと指差す。
「キミが拘ってるその『モノのレキシ』!」
「…それが何ですか」
「それって、ドコのダレの歴史よ?」
…………へ?
「それってさ、元いた地球のダレカの、だよね?」
「え、まあ、そう…」
ズイっと顔を近づけてくる。
「そのダレカってこの世界と関係あるの? てかココ地球なの? 違くない?」
「た、確かにそうですけど…」
近すぎる彼につい目を逸らした。
「『辞典を創る』って言葉に囚われちゃってるのかもしれないけどサ、オレが想像してるオレらのミッションって、いつか本当の辞典を作ろうと考える誰かの為の『土台』創りなんじゃないかなって思うんだよネ。我ながら何言ってるのか意味分かんないケド…」
「土台…」
何となく、腑に落ちた。
「石は石、木は木。キミの言う通り種類とか言い出したらキリが無いと思うヨ。でもさ、それを研究したり分類するのは『この星の人達』の役目じゃね? ───その結果違う名前が付くかもしれんし、我々の知らない物になるかもしれない」
……なんだろう。神々廻さんと同じ顔をした二つ目の顔がまたしてもダブって見える。
彼の言葉が私の体に隅々まで染み渡り、何を言われてもYESと答えてしまいそうな錯覚に陥りそうになる。あれ…この感覚は確か……?
「だが…それこそが【歴史】じゃないのか?」
マズい!!
何がマズいのかは分からないが生物的本能で危険を感じ全力で脳を叩き起こすッ!
「───名前すらほったらかしにしてる癖に偉そうに言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ついでに後頭部をスパーーンと思い切りしばく。
何故だかもの凄くスッキリした! よく思い出せないけれど!!
「いったああああああ!? ちょ、いきなりナニスンノ!!」
「自分に酔っぱらっていたみたいでしたので」
「…………あれ、オカシイナ…? あ、いや、まあいっか」
…どういう意味だろうか?
「…でも、ありがとうございます」
「え゙っ…? なになにどうしたの!? なんかヤバいモンでも食った?」
本気のビビりを見せる彼。私を一体何だと思っているんだろう。
「何でですか! …その、ちょっと肩の荷が下りただけですよ」
こういう時、私も相手の目を見て言えなかったんだな、と思い知らされた。
私達が創ろうとしている物。それは決して地球の複製などではない。この星自身の歴史───。
「ふ~~ん…? なんか分かんないケド、よかったじゃん☆」
…あなた自分の言った事覚えてます…?
◇◆◇◆◇◆
何となく辞典に登録された物を見てみた。
まだ石と杉だけしかないが『鉱石類』と『植物』というタブでページ分けされている。今後登録する物が増えたらこのタブも細かくなっていくのだろう。
石という文字をタップ。すると表示画面が切り替わる。そして現れた説明文は…
《 石『いし』/鉱石類:(以下詳細)石。かたい。》
たったそれだけだった。
あまりの雑さに腰が抜けそうになった。
寧ろ抜けてしまったくらいが丁度いいのかも。なんて。
(次頁/17-1へ続く)
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