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メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁10:秘めたる想いとは 2
しおりを挟むズビィィィィィッ!!
「……どうも」
正座したままの彼がおずおずと差し出した箱ティッシュ(しっとり触感)を借りると、人目も憚らず盛大に鼻水をかんだ。
ちなみに私も正座していた。
超広大な空間で妙にこじんまりとした一角だった。辺りが夜だったらいっそ焚火でも囲みたい。
丸めたティッシュを空間に開けた穴に投げ捨てる。もう一枚引き抜いたティッシュで涙の痕を拭いてそれもポイ。なんて【力】の無駄遣いだろう。
鏡が無いから化粧が崩れたかどうかまでは分からないが、とりあえず気持ちはスッキリした。
「………」
彼がめっちゃソワソワしている。本当にこれが先程私を蹂躙した人物なのだろうか。二面性を疑いたくなる。
…うん? 二面性? 私は一体何を言っているのだろうか…??
ああ、そう言えば。
「…名前」
「え?」
「…名前は?」
「あ、その、まだ考えてな」
「あなたの名前です!」
何を言われたのかまたしても理解が追い付かないのか、呆気にとられる彼。
「あ…、神々廻 志雄、です。宜しく…お願いします」
珍しい苗字だ。でも確かどういう文字だったかは知ってる。
「神々が廻る、と書いて神々廻でしたっけ。珍しい苗字ですね」
彼、改め神々廻さんが目を丸くする。
「すげぇ! 一発で分かった人初めてなんですけど!? やっぱり頭いいんだね!?」
「どうも」
頭がいいかどうかは分からない。難読語なんて所詮は知っているか知らないか程度の差だ。
「私の事はもう知っているかと存じますが、改めまして、嵯神 観沙稀と申します。今後ともよろしくお願い致します」
正座でも斜め45度の完璧なお辞儀をすると、目の前に差し出された右手に気が付いた。
「…なんですか、これ」
ジト目で見上げる。
「えっ? この流れだと次は握手じゃね?って思って」
「握手してもらえると本当に思っているのだとしたら、心底軽蔑します」
「やっ!? ヤだなぁ~!! ジョークだって、ジョーク!! あは、あははははは!!」
大量の汗を拭きだしながら慌てて取り繕う。この人多汗症なのかしら。
「みっともない姿を見せてしまい申し訳ありません。自分自身の事でどうしても整理できない部分がありまして…。でももう大丈夫ですから」
まだ幾分かは気持ちに無理をしているのは理解しているが、整理がつくのを座して待っている程弱くなりたくはない。
「あ、あのさ、みッチー」
「みッチーって言うな」
構わず続ける彼。
「オレがこんな事言うのは間違ってるんだろうけどさ…、その…、泣きたい時とか怒りたい時って、我慢しないで爆発しちゃった方がいいんじゃないかナ」
「はぁ?」
本当に、どの口が言うのだろう。
「オレの昔の話をした所で今はどうせ信じてもらえないと思うから言わないけどさ、心が叫びたがってるの、多分ずっと抑えてきたんじゃない? みッキー」
「みッキーも後々面倒になるのでやめて下さい」
構わず続ける彼。鉄人か。
「みさティーがオレなんかよりもずっと頭がよくて多分強いんだろうってのは嫌っちゅー程分かったよ。だからひどい事しちゃったのはオレはこれからもずっと謝ろうと思う。それしか思いつかないし。でも…」
…? 何を言いたいのだろう。
「もしこれから先、また『超泣きたい…』とか『めっちゃ怒りたい!』って思ったら我慢しないでそうして欲しいって思った。モチ見られたくないってならオレどっかに引っ込むからサ!」
はぁ、とため息を吐く。
「どうしてそんな風に思うんですか。あなたには関係無い話でしょう」
「どうしてって…」
何か言い辛そうに顎をポリポリとかく。
「……最初に見た時の顔より、今の方がなんかキレイな顔してるからサ。もしかしたら、って……」
「はぁ~~~~~!?」
「ごごごゴメン!! 何でもない! 忘れて!!」
自分でも相当恥ずかしかったのか、彼は【力】を使ってまで恐ろしい勢いで遠くへ逃げた。チキンめ。
……何となく両手で自分の顔を撫で回してみる。なんて事は無い、いつも通りの自分の顔だ。
無意識にクスッと笑いが漏れた。一生の不覚。
私は遥か彼方まで意識を飛ばし、点火する。
瞬時に目の前に現れる彼。
「ヒィィィィィィゴメンんんんん!!!!」
両手で顔を覆って蹲っている。
「いつまでビビってるんですか。行きますよ」
「い、行くって…どこに?」
覆った指のスキマからこちらを伺う彼。
私は地球モドキのホログラムを出現させるとサムズアップで指し示す。
「RPGみたいな冒険の世界へ、でしょ」
「まじですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
◇◆◇◆◇◆
遠くに逃げた神々廻さんを【力】で補足した時、たまたま聴こえてしまった。
それは声だったのか、心だったのか。【力】というフィルター越しだったせいでハッキリとはしないけれど。
『ホントごめん…。オレも、あんなに泣いてた姿、忘れられなくなったかもしんない。ごめんな、みーちゃん。オレ、マジ馬鹿だったワ…』
【力】で彼を目の前に引き戻した時、彼は両手で顔を覆っていた。
人にあんな事言っておきながら怖がる振りして涙を隠すなんて、ズルい男だと思った。
少しだけ、心が軽くなった。気がした。多分。
それから、みーちゃんだけは絶対やめて。お父さんの記憶が汚れるから。
(次頁/11-1へ続く)
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