知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~

degirock/でじろっく

文字の大きさ
上 下
8 / 114
メガネスーツ女子と無慈悲なる神と終わらない残業

頁05:役割とは 1

しおりを挟む
         





 衝撃により分子レベルまで分解された体と共に、思考も虚空こくうへと霧散むさんしていく。

 何が何なのか結局分からずに、私は再び死んだ。そう思った。

「───う…」

 視界がぼんやりと映し出される。
 最初に想像したのは全てが滅茶滅茶に破壊しつくされた光景だった。しかし───

「…あれ…、嘘…私、生きてるの…?」

 世界は先程と全く変わらず、ほこり一つ立っていない白い大地と奥行きの感じられない単色の青空。
 そして傷ひとつ負っていない自分自身。それどころか服に汚れも無く、あれだけの衝撃だったのにも関わらず眼鏡も顔の定位置からズレていなかった。

『『 いや、死んだよ!!!!! 』』
「──────あグュぇっ!!!??」

 自分の声とは思えない吐瀉物としゃぶつかたまりみたいな音が飛び出した。
 背後から───いやもう背後からなのかどうかも分からない巨大な声が、音圧が、振動が、私の全身をし潰したのだ。
 今度こそ分かった。自分の体がグチャグチャにひしゃげ、体のいたる部分から弾けた風船の様に真っ赤な血がを交えてき出す。間違いなく、死ぬ。いや、死んだ。
 眼鏡は粉々に粉砕し、破裂した眼球がそれでもかろうじてとらえたのは先程落下した巨大すぎる物体───胡坐あぐらをかいたまま上空へと消えた【彼】の姿だった。そうか、【枠】とはそういう意味か。
 今更それが分かった所でどうしようもないな、と消えゆく命の最期を私は自嘲じちょうくくった。





 ◆◇◆◇◆◇





「いつまで寝てんのヨ~。ホラ起きて」

 首の後ろ…えり?の辺りをつかみ上げられ、無理矢理上体を起こされる。

「………っ!!!」

 覚醒した意識がまず優先したのは呼吸が出来るのかの再確認だった。

「───随分とテンション上がってるじゃないか」

 軽薄な顔がいやらしい笑みを浮かべこちらを覗き込んでいた。
 その顔を見た瞬間 、先程のあの恐ろしく巨大な姿がフラッシュバックし、内臓がひっくり返る感覚に胃の中身を吐き出しそうになった。
 結局何も出はしなかったが、一層の事吐き出せたら楽だったのに。

「これで分かって貰えたか?」

 必死で呼吸を整えながら彼をにらみつけてうなずく。

「…あなたが【人間の枠】から外れた化け物だという事は」
「は?」

 一瞬彼はぽかんとしてその言葉の意味を考えていた様だが、クスクスと笑うと私を指さした。
 どうして彼の表情が先程から別人と被って映るのだろうか。
 ひとつだけ分かるのは事か。

「───何言ってんのさ、?」
「…は?」

 私をさした指と逆の手をあごの下に当て、続ける。

「もうキミ、。キミも立派なバケモノだよ、おめでとう☆」
「…!」

 嘘かと思いたかったが、またしても否定出来る理由が無かった。彼が嘘を吐くメリットも。
 そもそもこんな空間でヒトである事にこだわる意味があるのだろうか。意志が揺らぐ。

「あれ、もっと喜ぶかと思ってたんだけどなァ。死んでも死なない体ってアガらない?」

「…時とタイミングによります」
「あっちゃー…。そっか、そりゃ確かにそうだワ!」

 やっちまった!という表情は果たして本心なのだろうか。この存在が幾重いくえにも重なっている様に思えてますます分からなくなった。

「…それで、私という人間を呼び寄せて死なない体にして、何をさせようと言うんですか」
「おお、殺されたってのに切り替えが早いね!?」

 起きた事実はもう飲み込むしかない。
 これが夢でも現実でも、私はここに確かに立ってしまっているのだから。

「えっと、確かオレが地球モドキの制作者でって話はしたよね?」
「ええ」
「よっしゃよっしゃ」

 そう言うと彼は指をパチンと鳴らした。すると私と彼との間の空間に先程見た地球に似た天体のホログラム?が浮かび上がる。
 先程はバスケットボールくらいだったが今度は両手でも抱えきれない程の大きさだ。
 しかも地球儀みたいな平面地図ではなく、海、陸地、山岳地帯が立体的に表されていて、雲に見える白い霧の塊がいたる場所に浮かんでいる。
 本当に宇宙から眺めている感覚だった。
 所々に極小サイズの街?みたいな物も見える。

「我ながらよく出来てると思わない? これ本当に宇宙に浮かんでるこの星の映像なんだヨ~!」
「えっ、実物…なんですか……!?」

 改めてよく見る。良く見るというかむしろ顔が地表に触れるくらいに接近して凝視ぎょうしする。
 緑の草原に見える場所では動物の様な何かが群れを成して移動している。白く高い山脈にかかる厚い霧の下では雪が。街っぽいと思った物体は確かに集落だ。人型の動くつぶつぶも見える。

「オレちゃんがこの場所に引き込まれた時に押し付けられた役割は、地球と同じ場所にあるけどを【限りなく地球にする事】だったんだよね」
「役、割…? それは、誰から言われたんですか?」

 私の脳の常識と倫理りんり感のリミッターが少し外れてきたのを感じる。

「分かんね。考えたトコでオレの頭じゃ無理だろうし、だから勝手に『超GODちょうゴッド』って名前つけた」
「ああ…そう…」

 それでいいのか。うらやましい。そして改めて残念な人だ。

「めんどくさ!って最初は思ったけどこれ以外にやる事も無かったし、作り始めたら意外にハマっちゃってさ☆ 気が付いたら何百年分も時間経っててめっちゃだしwwww」

 なんでその文章の流れで『い』という単語が出てくるんだろう。こういう人達の文化は本当に謎だ。お風呂に入ってなかったのだろうか。

「何百年…って」
「ああ、ここは時間とか関係ナイみたい。まあどうせ死なないし? 『欲しい!』と望まない限りはメシもトイレタイムも睡眠も無くてOKだから作業に没頭ぼっとうするには最高の環境だよね♪ …あ! でも風呂は入ってたからね?」

 お風呂は入ってたのか。いや待って違う、そこじゃない。
 作業に没頭って、も…? 
 ……待った。まずは深く考えるをやめよう。人の常識はもう通用しないっぽいし。

「そんなわけで失敗も何度もあったけどこうしてやっと地球っぽい環境と人類が整ったワケ。生態系ピラミッドは何となく出来上がったからカミサマとしての最初のミッションはコンプリって感じ? 天体規模の災害でもなきゃもう人類が絶滅する可能性は低いっショ☆」

 軽い口調でサラッと流してはいるが、言ってる内容が事実であるならば彼の所業しょぎょうは紛れも無く『一般的にあがめられる神』の領域だ。
 ただ、規模が大きすぎるからか命の創生に対する倫理感が薄いのが気になった。良くも悪くもこれが神、という存在なのか。
 この星の表面で生きている人達からすればまさか自分達を創造した存在がこんな会話をしているだなんて想像もつかないだろうが。

「それで、肝心のは? 『歴史だ文化だ魔法だってのを考えるのが苦手』だと言ってましたけど、それに関する事ですか」
「…よく覚えてたねェ…二回も死ぬ衝撃体験挟んでるってのに…」
「職業柄です」

 元、だけど。

「まァその通りなんだけどさ。今この星の人類は弥生時代から江戸時代くらいまでの世界の文明をミックスしたような状態で、そりゃもうゴッチャゴチャなのヨ。畑耕したり狩りしたり。なろうぜ系のテンプレっぽい組合とか組織もボチボチ生まれてはいるみたいだケド…あ、これ言っても分からないか;」
「いえ、何となく話のノリは掴めてきたのでイメージで補完します」
「優秀…!」
「どうも」

 自分を殺した相手にめられるのは複雑だった。普通の人生じゃ絶対に経験できない。

「で、オレちゃんに与えられた次のミッションが『世界設定』なワケ」









   (次頁/05-2へ続く)






       
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...