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天才少女と転移少女

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「眠い…」

黒く長い髪の下では眠そうな黒目が覗いており、セーラー服のような服装をしている少女が言う。



私の名は西園寺さいおんじ鏡華きょうか

つい3年前までは渋谷にいる普通の中学生だった…と思う。
鬼を斬るアニメや最強のイケメンがいるアニメが流行っている極々普通の場所…

私はそんななんの変哲もない世界に生まれたごく普通の中学生…と言うよりは限りなく陰キャに近い見た目…と言うか、見た目はガチガチの陰キャだったが、まあそれ以外はただの中学生…かな?

私は何よりも本を読むのが好きでラノベとか雑学とかとにかく手当り次第に見つけた電子書籍を買ってたりしてた…はず。

ここ最近、妙に元の世界の事が思い出しにくくなってきてる…
私をここに連れてきた女神様はこの世界に適応してきている証拠だとか言ってたっけ?

女神様は記憶の安定化の加護を授けようとしてくれたけど、私はそれを拒否した。

この世界から元の世界には戻れないと知っていたし、そう聞かされていた。
だから、今さら前の世界の事など覚えてても仕方がないと言うわけだ。

代わりにとてつもないステータス能力スキル固有能力ユニークスキル、そして…
終焉を冠する女神の加護エンデ・グローリカの宮愛をもらったんだっけ。

まあ、今のところ生かせる場面が無くて、私には持て余した力なんだけどさ。

そうそう、元の世界で持ってたスマホはこっちでは何かと便利な魔道具になってるんだ。

私のようなヒトには危険な魔素…
あー、こっちではプラムって言うんだっけ?
その魔素の濃度を測る機能とか、周囲にモンスターが発生した時に教えてくれる機能とか、言葉の翻訳機能とか少量の収納魔法、初級魔法の記録機能とかもあるんだっけ?

とにかく元の世界に居た時なんか比べ物にならないくらい、いろいろ便利な機能が私のスマホにはあるんだ。



私はそんな事を考えながら、いつものように顔を洗って歯を磨く。

「ふわぁ…」

私は小さく欠伸をして、出かける用意をする。

「確か、今日は学園祭があるから、早めに行かないと良い場所が取れなくなるよって、あの子も言ってたよね。」

私はこっちに来てから、お世話になっている女の子の事を思い出す。

「あの子はいつ来るんだろ…?」

私はそんな事を考えながら、試合会場へと歩き始める。



「まだ2時間前だって言うのに凄い行列だ…」

私がそんな事を言いながら列に並んで待つ。

そして、私の前の人が中に入ると次は私の番だ。

「あら?その顔は…鏡華さんですね?」

受付の犬族の女性がにこやかに笑う。

「あ、はい。そうですけど…」

私が不安そうに言ってると思われたのか、女性が「ククク」と笑い声をこぼす。

「貴方にはこの番号の席に案内するようにアルフェノーツのお嬢様に言われてるんですよ。入ったら、すぐ右にありますので、ここに座っててください。」

そう言って、「12」と書かれた紙と席番が書かれた紙を受け取る。

「ありがとうございます!」

「どういたしまして!それじゃ、楽しんで行ってね!」

私は笑顔で見送る犬族の女性の前を通って言われた通りの席に着く。

「さてと…後はあの子を…あ、居た!」

私は探していた右腕が包帯で隠されている優雅な雰囲気が漂う女の子を見つける。

「遠くからでも優雅な振る舞いが見て取れる。育ちが良い証拠だね。」

女の子は戦いの場にはふさわしくない異質でそれにて強者の余裕を感じるオーラを出していた。

何人かが「白き覇王だ!」とか「アルフェノーツだ!」とか言っていた。

その子は私に気がつくとウィンクをする。

私はそれに小さく手を振って応えるが、周囲の何人かの男が勘違いして「あの子、俺にウィンクしてくれたよな!」とか言っていた。

そんな始まる前から大盛り上がりの会場は規定の時間になると突然真っ暗になる。

それと同時に全ての客席から音が消えた。

中央に集まったスポットライトに照らされたのは特別ゲストの「破壊王」だ。

「今年もこの時期がやって参りました。これよりフィレスタ学園祭の開会を宣言致しますっ!」

それと同時に会場の照明が全てつけられて、一気に周りが明るくなるとともに天井が開き、客席から大歓声が響き渡る。

「今年は私、エレナが特別ゲストとして呼ばれてまいりました。今年の優勝者にはなんと!この私から豪華景品が与えられまーす!」

再び湧き上がる会場に向けてエレナは続ける。



エレナは破壊と創造の現人神あらひとかみとまで呼ばれる文字通りのチート能力を持っている天才少女で既にいくつもの分野で博士号を獲得している上に己の健脚一つでどんな相手も叩き潰すと言うとんでもない怪力も持っていると言われているほどだ。

私たち冒険者達はもちろん、様々な分野で活躍する博士たちからも尊敬と憧れを一身に受ける。

オマケにビジュアルも完璧で隙がない為、日本で言うファッション誌にも載っている人でもある。

ただし、その日常や冒険者としての仕事内容は明らかになっておらず、未だに謎が多い人でもあるようだ。



「今年はパーティー戦の部と個人の部の二部構成でのお送りとなります!本日はその中でもパーティー戦の部が行われ、トーナメント方式で参加する組によるくじ引きが行われます。それぞれがくじを引き終わり次第、予選のトーナメント表の番号に従って学年ごとの部の優勝パーティーと敗者復活戦による敗者復活枠の系6組のみが本戦への切手を手に出来ます。その後、本戦へ進んだ6組によって、予選と同じくクジ引きが行われ、優勝争いをしていただく流れとなっております。
ルールは2つ。
1、相手チームが全員戦闘不能となれば勝利。
2、相手チームが全員戦闘不能になった時点で攻撃行為は禁止となります。
これを破ってしまうと失格となり、次に進む権利を剥奪されてしまうので注意してください。」

そして、運命のくじ引きが終わり、トーナメント表にそれぞれのチームのリーダーやチーム名が表示される。

「それでは!ただいまより1年生による第一試合、カエデ率いるパーティーVSガルラ率いるパーティーの試合が開始いたします!両者のパーティー以外の選手は控え室に移動してください!」

両者パーティーの6人以外の全ての選手が控え室に移動する。

「それでは…位置についてください。」

3対3で両方ともチームメンバーの数は同じ様だ。

「では、試合開始ぃ!」

それと同時にに魔法や剣の打ち合いが始まる。

その戦いが激化する事にボルテージが上がっていき、決着が着く…

それを繰り返して18組ほどが戦い終わった後、エレナが言う。

「それでは、第10試合、アリス率いるパーティーVSロッキー率いるゴルンベルグです!」

アリス側はアリスと金髪の長い髪の女の子がいた。

対するロッキー側はゴリゴリのゴリマッチョが4人とアリスの側が不利なように見える。

だが、彼女の真の実力を知る者からすれば、どちらが優位かなど考えるまでもない。

「では、試合開始ぃ!」

エレナが元気よく言うと同時にアリスが腰に差した剣を抜いたと思ったら一瞬で全員の背後に移動し、腰に剣を戻すとゴルンベルグのメンバーが全員、同時に倒れて戦闘不能となる。

金髪の少女は持っている杖で地面に落書きをしていた事から、アリスが1人でやった事だとわかる。

…と言うか、少女が落書きをして居なくても、アリスが1人でやったことは誰の目で見てもわかっただろう。

「すげぇ…」「今の見えたか?」「あれが…白き覇王か…」
そんな声が多少聞こえたと同時に会場が一瞬で静まる。

「な、なんと!アリスが一瞬でゴルンベルグを全滅させてしまいましたぁぁぁぁぁぁあ!」

一年の部の初戦はこれが最後であったが、アリスの圧倒的過ぎる力の前に残った10組のうちの8組が棄権をすると言う異例の事態が発生する。

「なんということでしょう!白き覇王:アリスの圧倒的な力の前にたった一組を覗いて全組が棄権してしまいましたぁ!」

会場はブーイングの嵐に見舞われたが、優勝戦が始まると静まる。

「それでは、決勝戦!アリス率いるパーティーVSマリア率いる紅蓮の星です!」

アリス側は相変わらずアリスととても長い髪の金髪の女の子だけだった。

紅蓮の星は魔導師風の格好をした真っ赤な短い髪の黄金に輝く眼を持った女の子を筆頭に近接武器を持ったものが2名、杖を持った男の子が1名、白い服の如何にも癒しの魔法が使えそうな女の子が1名の5人パーティーだ。

アリスが白い服の女の子を見て驚いたように言う。

「白魔法が扱えるとは驚きました。」

「うん!僕も彼女を見つけるのに苦労したよ!君に勝つ為に最高のパーティーを組みたかったし、手加減は無用だよ!」

女の子はその黄金の眼を輝かせながら言う。

「…それなら、少しは期待してますよ。」

「へへん!後で泣きを見ても知らないからね!」

互いに売り文句を言って位置に着く。

「では、試合開始ぃ!」

エレナがそう言って手を振り下ろした瞬間、アリスの目の前に剣を持った男の子が現れて、アリスに振り下ろす。

「先手を取るのは良い心がけです。ですが、残念でしたね。」

アリスはそれをわざと紙一重で避けて、反撃の剣技を叩き込む。

「グッ…無念…」

一瞬で剣を持った男の子がやられ、背後から迫っていた暗器を手にした女の子が金髪の女の子の「ファイア」によって怯んだ隙をついて、アリスが斬り捨てる。

「ガハッ!?」

女の子はなんとか一撃だけ耐えるが、金髪の女の子の「エアロ」で吹き飛ばされて倒れる。

「リエラはグレイとリシェイラの回復を!ダンデは作戦通りに動きなさい!」

マリアの指示でそれぞれが動く。

「させない…」

リリアがそう言って地面に杖を突き刺して目を閉じる。

「大地よ…我が声に応え、その力を解放せよ…」

リリアの周囲に魔法陣が展開され、とてつもない魔力が発生する。

「私の魔力も使ってください!」

アリスがそう言って高密度の魔力の玉を投げ渡すとリリアはそれを受け取ると同時に魔術に組み込む。

アリスの無尽蔵に溢れる魔力を濃縮した強力な魔力球を使った魔法はとてつもない威力になる事を放たれる前から察する事が出来た。

「マズい…!リリアを止めろ!」

マリアが味方に指示するのと同時にアリスからとてつもなく高密度の魔力が放たれる。

「くそっ!あいつの魔力が強過ぎて魔力が練れねぇ!」

「ダメです!回復が間に合いません!」

マリア達に焦りの表情が見える。

「大地よ…我が声に従い、爆ぜよ…」

リリアが目を見開いて大地に聞かせるように言う。

「アースクエイク」

アリスとリリアの周囲以外のフィールドの全ての地中に爆発が起き、その影響で大地が突き上げた衝撃でマリア達のパーティーをほぼ全滅させる。

本来ならアースクエイクは初級魔法なので、対象の足元の地面が盛り上がるだけなのだが、アリスが極度に濃縮した魔力が強過ぎて、凄まじい威力になったのだ。

「はぁ…はぁ…」

リエラと呼ばれていた白魔法使いの女の子を覗いて完全に戦闘不能の状態だった。

誰が見てもわかるほどの即死クラスの威力になっており、それが避ける事も出来ないほどの広範囲に放たれたはずなのだが、リエラだけは肩で息をするだけに留まっており無傷だった。

これが何を意味するのかは素人が見ても分かる。

リエラは間違いなく強い。

その事実だけを残してリエラは淡々と言う。

「私たちの負けです…」

リエラが審判のエレナに降参の仕草をする。

「勝負ありっ!勝者、アリス率いるパーティー!」

「「「…うおおおおおおお!!!!」」」

一瞬の間を置いて、会場が大盛り上がりを見せる。

「リリアさん、お疲れさまでした。」

「魔力…尽きた…」

アリスはヘナヘナとその場に座り込むリリアに肩を貸しながら控え室に戻る。

マリア達は一足先に転移魔法によって医療室に運ばれていた。

その後、一年の部の敗者復活戦をそれぞれの部で行い、本戦の一年の部のチームが以下のように決定される。



一年の部:アリス率いるパーティー、紅蓮の星



私は席を立ち、アリスを探す。

「キョーカさーん!」

アリスが私を見つけて手を振る。

「アリスちゃん、優勝おめでとうございます!」

私はニコッと微笑んで自分よりも小さな少女の頭を撫でる。

「アッハハ!まだ予選を突破しただけですよ~!でも、ありがとうございます!」

少女は嬉しそうに微笑みながら言う。

「アリス…この人…誰?」

「リリアさん、この人はアルフェノーツの屋敷でともに暮らしているキョーカさんです。なんでも転生者アリクスなんだそうですよ。」

「ふ~ん…」

リリアはアリスの後ろに隠れながらも私の事が気になる様子で見ていた。

リリアの方がアリスよりも大きいので、顔以外ははみ出しているが…

「初めまして!私は西園寺鏡華よ!良かったら、仲良くしてやって
ね!」

私は出来るだけ優しく微笑んで言う。

「ん…よろしく…」

リリアはアリスの後ろに隠れながらだったが、手を出して握手を求める。

私もそれに応じて握手をするとリリアの予想外の握る力の強さに驚く。

「ごめん…」

リリアは私が驚いて目を見開いたのを見て、申し訳なさそうに手を引っこめる。

「あ、いや、大丈夫だよ。少しびっくりしただけで…」

私がそんな事を言ってるとアリスが楽しげに笑う。

「アハハ!キョーカが驚くなんて珍しいですね!もしかして、リリアの力強さに驚きました?」

アリスが楽しげにそう言うとリリアは少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

「はい…リリアさんが魔法を使っていたのを見て、あまり力が強くないのかな?と思ってたもので…」

「そうですね。リリアさんはちょっと特別で力が凄く強いみたいですよ。この間もくしゃみした勢いで学園菜園のリンゴ握りつぶしてましたもんね。」

「恥ずかしい…」

アリスが自慢げに言うとリリアは恥ずかしいと言いながら、顔をさらに赤くしていた、

「恥ずかしがる事なんてないですよ!むしろ、冒険者たるもの、強くなくてはいけませんので、誇るべき才能ですよ!」

「リリアは…別に冒険者になりたいわけでは…」

リリアはアリスの視線を避けるように目を逸らして言う。

「にゃはは!わかってますよ。マリアさんの付き添いで入学されたんですよね。」

「うん…でも…アリスと会えたのは良かった…かな…」

リリアはアリスの目を見ながら嬉しそうに微笑む。

「アハハ!それはありがたいことですね!この感じなら、リリアさんもキョーカと仲良くなれるかもしれませんね!キョーカはほんとに面白い人ですし!」

アリスがそう言うとリリアは私を見る。

その目は緊張と興味が入り交じった目をしていた。

「リリアは別に…」

私はリリアの目線に合わせて腰を屈める。

「じゃあ、私もお二人の間に混ぜてもらえるかな?私もリリアさんと仲良くなりたいし…ね?」

私がそう言うとアリスが「いいこと思いついた!」と言いたげに手をポンと叩く。

「確かキョーカは白魔法も使えましたよね?」

「そうだねぇ…確か…回復魔法、浄化魔法、補助魔法、聖属性魔法なんかが使えるよ。回復魔法に関しては傷を治すのはもちろん、失った魔力を回復させる事も出来るし、浄化魔法による不死族アンデッドの浄化、補助魔法による様々な強化、聖属性魔法による攻撃や防御なんかも出来るって聞いてるよ。」

「すごい…攻防一体…だね?」

リリアが感心しているとアリスは「うんうん」と頷いて言う。

「キョーカ、貴方も私のパーティーに入ってください!と言うか、問答無用で入ってもらいますよ!」

満面の笑みでアリスは言うと包帯でぐるぐる巻きの右手を出す。

リリアは不思議そうにその手を見ていた。

「えっと…実践はまだなんだけど…」

私はアリスの手に手を乗せる。

「それでも良くて、アリスちゃんの役に立てるなら頑張るよ!アルフェノーツの皆にはお世話になってるし、なにより他でもない恩人のアリスちゃんの頼みだからね!」

そこにリリアが手を乗せる。

「リリアも…同じ…アリスの為に…頑張る…」

「それじゃ、決まりですね!」

アリスがとても可愛らしい笑顔で笑って言う。

「これからは3人で頑張るぞー!おー!」

そう言ってアリスは2人とともに手を上げて元気よく言う。

こうして、私たち3人のパーティーが結成された。

「あ、せっかくパーティー組むんだから、名前考えないといけませんよね!」

アリスは思いついたように楽しそうに言う。

「アリスと愉快な仲間たち…とか?」

「愉快な仲間たち…」

リリアがわりと真剣な表情で言うとアリスは苦笑していた。

「ん~…あんまり良いのが思い浮かばないけど…」

私が言うと2人から期待の眼差しで見られる。

「スタッカーションなんてどう?」

2人が目を合わせながら「どう言う意味だろ?」と言いたげに視線を送りあっていた。

「元は私の世界の音楽用語のスタッカートで意味は一音一音切り離して短く演奏する事なんだけど…それを連携と言うナビゲーション…簡単に言えば、道案内みたいな感じかな?それで私たちを音に例えて、皆で力を合わせて高みに行こう…みたいな…」

私が言うと2人が黙り込む。

「どう…かな?」

少し不安になった私が言うとアリスが「キラキラ」と音が聞こえそうなほど目を輝かせて私を見る。

「さすがキョーカですっ!私たちが力を合わせて夢の行き先への道を歩んで行く…そんな感じがしてステキです!」

私が言いたかった事をアリスが分かりやすくまとめて言う。

「じゃあ…決まり?」

「はい!私たち3人のパーティーはスタッカーションです!」

アリスが元気に言うとリリアが気合を入れるかのように「おー」と拳を突き出す。

「気に入ってもらえて良かったぁ…」

私はホッと胸を撫で下ろす。

こうして、私たち3人のパーティー…スタッカーションは賑やかに始まりを告げるのであった。

「そうだ!早速、明日のパーティー戦の本戦から、このパーティーで出来ないか聞いてみましょう!」

「いいね…リリアも着いてく…」

2人がとても楽しそうに言う。

「えっと…パーティー戦って、事前に登録したパーティーじゃないとダメじゃなかったっけ?」

「本来なら、そうなんだけど、多分いけると思います。」

「えぇ…」

そんな事を言いながら、受付に事情を話すと「歓迎しますよ!」との事だった。

「ね?言った通りだったでしょう?」

アリスは自慢げに胸を張ってドヤ顔していた。

私はアリスの無いものが強調されてしまっている事に突っ込まない様にした。

「私はまさかの即答でびっくりしたけどね。」

「皆…キョーカの力…気になってる…それもある…多分…」

リリアは小さく頷きながら言う。

「なるほど…それなら、下手な戦いは見せられないね。」

私がそんな事を言うと…

「アハハ!気楽に行きましょう!変に力が入ってぎこちなくなるなんて事になっても困りますしね。」

アリスが楽しそうに笑いながら言う。

「フフッ…楽しみ…」

リリアもとても楽しそうに笑っていた。

この後、2日に渡って2年と3年の予選が開催されるので、私たちはその間に少し鍛えておくことにした。



そんな翌朝の事である。

日が昇るまでまだ時間があるが、私は学園内のギルドに来ていた。

「あら?キョーカさん、今日はどのダンジョンへ行くんですか?」

ギルドの受付嬢がにこやかな笑みを浮かべながら話しかけてくる。

「そうですね…今日はこのC級?のダンジョンに行きたいんですけど…」

「了解でーす!それじゃ、ちょっと待っててくださいね。」

受付嬢は元気良くそう言うと「許可証」と書かれた1枚の紙とダンジョンの詳細が書かれた資料を手に戻ってくる。

「はい。許可証と資料ですよ。キョーカさんの強さはわかってますが、くれぐれも無理はしないでくださいね。」

「はい!では、行ってきます!」

私はギルドから出てすぐの竜車の業者の男性に言う。

男性は引退した冒険者で、元S級冒険者だったそうだ。

「すみません。このダンジョンまで連れて行ってもらえませんか?」

「おう。嬢ちゃんか。嬢ちゃんが相手なら、いつでも出れるぜ!」

少しして、目的地に着く。

「んじゃ、俺はここで待ってるから、さっさと行ってきな。」

「はい!行ってきます!」

私は少し重たい扉を開けてダンジョンに潜入する。

すると、入口に足を踏み入れた途端にカチリと音がして背後の扉が閉まって開かなくなる。

「ここはみたいね…あー、こっちだと、って言うんだっけ?」

私は入る度に地形が変わるこのダンジョンを制覇するか、デジョンストーンでダンジョンの外へ帰還するかをしなければ、このダンジョンからは出られない事を理解する。

「よーし!チャチャッと片付けてしまいますか!」

私は気合を入れてダンジョンを散策する。

「えっと…」


資料によると現在わかってる事は3つ。


1つ、このダンジョンは入る度に地形が変わるシークレットダンジョンである事。
2つ、ダンジョンの階層は9Fである事。
3つ、ボスはランダムに選ばれたC~A級のモンスターである事。
ただし、稀にSS級相当のボスが現れる事があるので注意する事。



私は「SS級」の文字を見て目を丸くする。

「嘘でしょ…A級ですら、バケモノクラスなのにSS級も出るの?!」

その声に反応したD級モンスターのモグラみたいなモンスターのホールクレイが目の前に飛び出してくる。

「うわぁ!?って、驚いてる場合じゃないわ!」

私は急いで戦闘態勢を整える。

「ヂヂッ!ヂヂィ!」

ホールクレイが威嚇をするかのように鳴く。

「悪いけど、君は敵じゃないよ。せやっ!」

私の縦振りの一閃でホールクレイは一瞬で真っ二つになって死体が霧状に崩壊する。



通常の場合、基本的にはモンスターを倒しても霧散する事は無いのだが、逆にシークレットダンジョンの場合は基本的にモンスターの死体は霧散し、稀に素材を落とし、さらにランクによって一定の確率で核を落とす事があり、核は召喚魔法の契約時の契約素材になったり、人形魔法ドールマジックで使う事もあるが一番核を落としやすいとされる最低ランクのE級のモンスターですら、貴重品扱いされるほどの超低確率なので、核を使うものは避けられる傾向にある。



「ふぅ…びっくりしたけど、倒せたね。」

私はそんな調子で襲ってくるE~C級モンスター達を倒しながら、先に進む。

そして、8階層と思われる階層に突入した瞬間、周囲の雰囲気がガラリと変わったのを感じる。

「これは…ダンジョン災害の一種、モンスターの大発生イベントスタンピードの兆候?!」

私は一緒にこっちに来たスマホに内蔵されていた魔素計を見ながら言う。

「気を引き締めて、行かないと…さすがの私でも軍団で来られたら、修行どころじゃ無くなっちゃうわ。」

私はそう思いながら、自身に瞬足スピードアップをかけて駆け抜けようと考える。

「「「グオオオオオオオオオオー!」」」

すぐ近くで大発生イベントが起きた事を理解した。

スマホの魔素計が危険領域に踏み込んだ事を指し示す。

「くっ…ここから逃げるにはあまりに時間が無い…デジョンストーンを使うしか…」

そう思って、カバンからデジョンストーンを取り出した瞬間、足元が揺れて地面がヒビ割れたせいでデジョンストーンを落としてしまう。

「さいっあく!なんですけどー!」

私は出来る限り手を伸ばすが、僅かにデジョンストーンには届かず、さらにヒビ割れて崩落しそうだったので、急いでその場を離れる。

予想通りに通路は崩壊し、下の階層がボス部屋である事がわかる。

その時、スマホから音声データで警告が発せられる。

『警告、付近に巨大なモンスター反応を検知しました。直ちにこの場所を離れてください。繰り返します。付近に巨大なモンスター反応を検知しました。直ちにこの場所を離れてください。』

これはS級以上のモンスターが近くに現れた時にのみ発生する警告音だ。

つまり、起こり得る中で最悪の結果になった。

「内容を確認した限り、ボスはA級より高い場合はSS級になる。そして、ボスはSS級で周囲は大発生イベントの真っ只中でデジョンストーンをボス部屋に落としてしまった。戻ろうにもここがシークレットダンジョンのせいで前の階層の階段はこちら側からは消失してるし、誰も助けに来る人が居ない…」

私は完全に詰んだと思った。

「くそおおおおおおー!こんなところで死んでたまるかぁ!」

私はなんとか大発生イベントだけでも収めようと目の前の部屋に突撃する。

予想通り、そこには大量のモンスターがいたが、この部屋のモンスターは全てC級以下だったので、私にとっては一撃で倒せる様な雑魚ばかりだが、かなり体力を消耗させられる。

『警告。周囲に多数のモンスター反応あり。およそ、A級相当の大発生イベントと推定。直ちに帰還してください。繰り返します。周囲に多数のモンスター反応あり。およそ、A級相当の大発生イベントと推定。直ちに帰還してください。』

「うっわ…よりにもよって、A級の大発生イベントなの…?」

一応、私自身はS級モンスターも討伐出来る力はあるが、それでもかなり厳しい戦いになるのは間違いなかった。



基本的にはA級の大発生イベントの場合はA級までのモンスターが大発生する事が多いのだが、その中からS級モンスターも出てくる場合があり、最悪の場合にはS級モンスターに囲まれて終わりと言う可能性もあるのだ。

故に、鏡華が"S級モンスターも討伐出来る力があるが"と思考するに至る。

今の鏡華の実力ではS級はタイマンでなければ勝機が無いと言っても過言では無いため、絶体絶命の状況である。



「こうなったら、ヤケクソじゃあああああああ!」

私は視界に入ったモンスターに次々と斬りかかって行き、白魔法も惜しみなく使う。



「すみません。ここにキョーカは来てないですか?」

アリスが学園内のギルドの受付嬢に言う。

「あら、キョーカさんなら、3時間前にこのC級ダンジョンに潜入されてますよ。」

リリアはなんとなく嫌な予感がした。

「アリス…ダンジョン…行こう…」

「そうですね。キョーカが3時間も入りっぱなしなのは不安要素が強いですね。」

アリスは受付嬢に言う。

「すみません。私たちもそこのダンジョンに行かせてもらえませんか?」

「はーい!すぐ持ってきますね!」

受付嬢はそう言うとすぐに許可証とダンジョンの詳細資料を持ってくる。

「アリスさん、貴方が強いのはわかっていますが、くれぐれも無理はしないでくださいね。」

「えぇ…もちろんですわ。万全過ぎるくらいに準備をしますよ。」

アリスに連れられてリリアはギルドを出る。

「アリス…」

リリアは不安を隠すこと無くアリスを見つめる。

「わかってます。キョーカほどの実力者が苦戦する様なダンジョンです。大発生イベントが起きている事も想定されます。リリアさん、まずは手分けして必要なものを買い揃えましょう。怪我もしているでしょうから、回復薬と魔力回復薬はかなり多めに持って行くと良いでしょう。」

鏡華が自分と同程度…いや、本来はそれ以上の実力を持っていると知っているアリスはしっかりと指示を出してリリアに言う。

「わかった。」

こうして、アリスとリリアは急いで買い物をするのであった。





「はぁ…はぁ…」

私は走って逃げていた。

「ちょっと数が多過ぎるわよ…あれじゃ、いくら倒してもキリがないじゃない!」

私は小道にそれて身を隠す。

「とりあえず、魔力回復薬を飲んで回復魔法を使わないと…」

私はカバンに入れていた2本の魔力回復薬を一気に飲み干して、猪突猛進で突っ込んだ為に出来た自身の体の無数の傷に回復魔法をかける。

「ふぅ…これで少しはマシになったわね…」

私はまだ近くで物音がするのを聞きながら、呼吸を整える。

「あれから随分と長く戦ったけど、勢いが衰えるどころかどんどん勢いを増してきてるわ…大発生イベントって、倒しまくって数を減らせば収まるんじゃ無かったっけ?」

今の状態では確実にボス部屋に行けない、かと言ってどんどん規模が大きくなるこの謎の大発生イベントを殲滅出来るほどの力はもう残ってない。

まさに絶体絶命の状態だ。

「グルル?」

一匹のB級モンスターのダークウルフが私を見つける。

「ヤバ…」と思ったのも束の間、ダークウルフは「アオーン!」と遠吠えし、仲間を呼ぶ。

増援がやってくる前に私は行動する。

「うるさい!ディメンションレイ!」

私の突き出した手のひらに浮かび上がった魔法陣から無数の光の束が放たれて、ダークウルフを消滅させる。

「急いで、ここから離れよう…」

私は他のモンスターと出会う前に表に出て新しい隠れ場所を探す。

「おっと…」

手頃な小道を見つけたと思ったら、小さな子供が居た。

子供は私を見ると首を傾げながら言う。

「おや?こんなところでどうしたんだい?外は危ないよ。」

そう言いながら、黒いフードを被った 萌葱色もえぎいろの髪の子供は言う。

「すみません。大発生イベントに巻き込まれてしまって…」

「ふーん?まあ、ここに入れば、しばらくは安全だから、お嬢さんはここに居なよ。」

「そんなっ!?子供を引きずり出してまで使いたくないよ。どうせなら、一緒に隠れない?」

私がそう言うと子供は萌葱色の髪の下から青緑の右眼を覗かせながら言う。

「少なくともお主200人分は生きてるはずなのだが…まあ良い。」

子供は「ちょいちょい」と音が聞こえそうな仕草で手招きする。

「こっちよ。」

私は子供について行く。

「そういや、お嬢さんの名前は?」

歩きながら子供は言う。

「私は西園寺鏡華だよ。」

「西園寺…という事は転移者ね…」

子供は意味ありげに言う。

「はい…とは言っても、もう3年ほどこの世界にいるんだけど…」

「そうか…」

子供は何か言いたげだったが、そのまま進む。

「ワシはシエラだよ。」

「シエラちゃんね。」

「うむ。」

しばらく進むと行き止まりになる。

「行き止まり…だね。」

私がそう呟くと子供が壁に向かって何かを呟いた。

すると、「ゴゴゴゴゴ…」と音を立てて壁が動く。

「おわっ?!ま、まだ続いてたんだ。」

私は気にする様子も無い子供の後ろを着いていく。

私と子供が通るとまた「ゴゴゴゴゴ…」と音を立てて壁が出来上がる。

「どう言う技術なんだろ…」

「それは土魔法を応用して作ったものよ。」

「そうなんだ!シエラちゃんは凄いね。」

私がそう言って褒めるとシエラは少しだけ嬉しそうに言う。

「当然よ。4000年以上も生きてれば自然と身につくわ。」

「よ、4000年?!シエラちゃんって…もしかして…」

「うむ。ワシの種族は精霊族ロリフだよ。」

そう言いながら、シエラはフードをハンガーの様なものにかける。



シエラの属する精霊族ロリフは簡単に言えば、君たちの世界で言うエルフの特徴をより尖らせたような種族だ。

違いと言えば、産まれてから4年で人間の13歳ほどまで成長するが、その後は身体の成長はほぼ止まっており、子を産める体になるまでに最低でも1500年かかると言われている。

身体の成長が非常に遅く、身体能力が非常に高い事以外はエルフとほぼ区別がつかないの差だ。

ちなみにこの世界では、エルフは森人族エルフとなっており、森人族の場合は人間より魔力が非常に多く、ある一定まで身体が成長すると寿命を迎えるまでほとんど身体が変化する事はなくなるが、寿命は人間とさほど変わらないのが特徴だ。

精霊族にも当てはまる事だが、森人族の中には時折魔力を全く持たずに身体能力が桁外れに高い個体が産まれることもある。
この個体に対しては、何故か魔法の効きが非常に悪く、ほとんどの魔法が意味をなさないために必然的に近接戦闘を強いられるそうだ。



綺麗に整えられた長い髪、三角形の耳、胸部の地平線が顕になる。

「じ、じゃあ…シエラ…さん?」

「今さら、で呼ばれても嬉しくもなんともないわ。今まで通りで良い。敬語も無しよ。」

「じゃあ、シエラちゃん呼びのままでいくね。私の事も鏡華でいいよ。」

「うむ。」

シエラはそう言うと私を奥のリビングらしき部屋に案内する。

「少し待ってて。鏡華が好きそうなものを作ってあげるよ。」

「あ、私も手伝おうか?」

「いや、良い。ワシ1人分しか通れないくらい狭いから、むしろそこで待っててくれる方が助かる。」

「そ、そうなんだ。」

シエラはテキパキと手際良く料理を作る。

そして、少ししてたくさんの料理を両手に持って出てくる。

「ほれ、ワシお手製の肉じゃがだよ。」

「ありがとうございます!」

私はシエラから箸を受け取って手を合わせる。

「いただきます!」

私は肉じゃがを少し取って食べる。

「う…」

私は衝撃を受ける。

「美味すぎるっ!まさか、異世界でこんなに美味しい肉じゃがを食べれるなんて夢みたい!じゃがいももホクホクでお肉も柔らかくて美味しい!そして、なんと言ってもこの汁が美味しすぎる!ほんとにこんなに美味しい肉じゃがが食べられるなんて夢みたいだ!」

私がそう言って褒め称えているとシエラは嬉しそうに言う。

「当然よ。なんたって、ワシは1500年前に召喚された異世界人ニホンジンの料理人の一番弟子だからね。彼の指導は厳しかったけど、彼のおかげでこの世界の食事の発展が段違いに進んだからね。食の神様として祀る人もいるくらい伝説的な人なのよ。」

「そうなんだ!じゃあ、私もその人に感謝しながら食べないとね!」

「うむ。ワシも一番弟子として鼻が高いよ。」

シエラはまるで自分の事の様に嬉しそうな顔をしていた。

「む?このダンジョンにまた新しい冒険者が来たようだよ。2人パーティーみたいだよ。」

「えっ…」

私が驚いているとシエラはフードをハンガーから取って着る。

「鏡華を迎えに来たのよ。冒険者って、そういうものだと聞いたわ。」

「そ、そうなんだ…」

私はある2人を思い浮かべる。

「うむ。まあ、階段から上がることは出来ぬが、大発生イベントもほどほどに沈めておくべきだろうよ。」

シエラはそう言って入ってきた壁の方へ移動する。

「あの!私も行きます!こう見えて、転移者なので役に立てると思うし!それに…」

シエラがニヤリと笑う。

「私を探してるなら、私から会いに行くべきだからね!」

私はシエラの目を見る。

「初めからそのつもりよ。着いてきなさいな。」

こうして、私とシエラは二人が合流しやすくなる様に大発生イベントに立ち向かう事になった。

「めんどくさいけど、顔見知りの命には変えられないわ。」

そんな事を言いながら、壁を開けてダンジョンの中に出る。

 「グルル!?」

突然壁の中から出てきた私たちに驚いた様子の狼みたいなA級モンスターのイクスウルフを15体ほど視認すると同時にシエラがもの凄い速さでそれらを全滅させた。

よく見るとシエラの両手には短い短剣が握られていた。

「ここから戦い続きになるわよ!鏡華もさっさと武器を構えなさい!」

「は、はい!」

私が一体倒す間にシエラは10体以上討伐していた。

それも上位のランクのものばかりを倒して、私の負担を極力減らすかのような動きだった。

「気をつけろよ。この大発生イベントはボス部屋のSS級の野郎が引き起こしてる。想定外の敵が出て来る可能性もあるからな!」

「了解!」

私は剣を利き手の左手で構えていつでも道具を使える様に右手はバックに置いておく。

シエラは一瞬驚いた様子で見ていたが、私がC級の討伐に成功すると小さく頷いてモンスターの群れに突撃する。

私はシエラが狩りきれなかった雑魚を狩る形になった。

しばらく、シエラと狩り続けていると私の目でもわかるくらいに大発生イベントの規模が小さくなった事に気がつく。

「ちょっと休憩しよう。規模が回復するまでには猶予があるわ。それまでに鏡華の魔力も体力も回復しないとね。」

シエラはペットボトルみたいな容器に入れた水を一気に飲み干して言う。

「今のうちに殲滅した方が良くない?って言いたいところだけど、魔力がもたないか…私もシエラちゃんくらい強かったらなぁ…」

私が魔力回復薬を飲みながら言うとシエラは静かに言う。

「鏡華に少しだけ、の事…教えてあげるわ。私はかつて勇者と呼ばれたパーティーの一員だったの。」

「えっと…確か、勇者ターミヤ率いる邪神討伐を目標としたパーティー…なんだよね?」

「あぁ…より正確に言うなら、外なる神の王クトゥリアの覚醒を目的とした混沌の知識ニャルラトホテプ侵略者アザトゥーイの撃退が目的だったのよ。奴らはこちら側からでは絶対に倒せない敵であり、絶対的な力を持つものだった…」

シエラはゆっくりと目を閉じる。

「私たちは神、悪魔、妖精、人間…そして…」

シエラはゆっくりと目を開けるとローブの右足の足元を上げて、その下のズボンの裾を上げる。

「これは…」

そこには不思議な紋章があった。

シエラは元に戻すと言う。

「これは覚醒した大罪を持つものにのみ浮かび上がる紋章よ…とは言っても、既に別の誰かに引き継がれてるから、今はただの紋章ね。」

「そうなんだ」

シエラは話を続けるよと言いたげに私の目を見る。

「神、悪魔、妖精、7人の勇者と大罪の名を持つ7人の罪なる者セブリアとそれらを束ねる大罪王…原罪セブルスが力を合わせてようやく奴らの力の一部を封印し、撃退する事に成功したわ。それが3850年前、初めの外なる者の襲撃よ。」

シエラは少しだけ辛そうな表情を見せたが、すぐに表情を元に戻す。

「2500年前、2度目の襲撃があった。その時は力の一部を封印していた事もあり、被害は大きかったものの一度目よりは被害は少なく、罪なるものと人間のみで、撃退時に侵略者の身体の一部を封印する事に成功したわ。」

シエラは服の裾を一度ギュッと握り締めたが、そのまま何もせずに離す。

「1000年前、3度目の襲撃があった。その時には神、悪魔、妖精、勇者の力を合わせたが、封印していた一部を取り返されてしまったわ。これが今のところ最後ではあるけど、この時は神界が破壊され、こちら側にも甚大な被害が出たわ。奴らは大量の黒い外なる怪物イア・クトゥルを率いて来たの。外なる怪物たちには既存の武器では効力が大きく落ち、世界樹の加護があるものか外なる怪物の素材を用いた専用の武具でなければ、ほとんどダメージを与えられなかったわ。その為、初めの一体を倒すまでは時間稼ぎしか出来なかったの。」

シエラはまるで何かを察知したかのように壁を見る。

「そろそろ、鏡華の仲間も来ると思うわよ。それと大発生イベントも再発の兆候が見え始めたわ。」

シエラはそのまま奥に歩き始める。

私も着いて行こうとするとシエラが淡々と言う。

「貴方はここに居なさい。後はワシが全部倒すわ。」

シエラが暗闇の奥に消えると同時に壁から見覚えのある二人が出て来る。

「ふぅ…やっとここまで来れましたね…」

「うん…」

二人ともそれなりに消耗している様だった。

そのうちの一人、猫族の少女が私に気がつく。

「キョーカ!」

アリスが私に飛びつく。

「うおっと…危ないから、急に飛びつかないでよ…」

「あ、ごめんなさい。」

アリスはそう言って、私から離れる。

「これ…使って…」

「ありがとう!」

私はリリアから魔力回復薬2本と回復薬1本を受け取って全て飲む。

「キョーカ、このフロアには私たち以外にも誰かいますか?」

アリスが周りを警戒する様な仕草をして言う。

「うん。私を助けてくれたシエラって人が居るよ。大発生イベントを全て倒すって言ってた。」

「へっ?この規模だとS級レベルの大発生イベントですよ!?いくらなんでもそれは危険過ぎます!」

アリスは当然の様に驚いた表情を見せた後、すぐに気配の元に行こうとする。

「いや、シエラなら多分大丈夫。だって、A級くらいなら、瞬殺しちゃうもん。」

「えぇー!?そんなに強いんですか!?」

アリスはまたまた驚いた表情で言う。

「うん。ほんとに強いよ…あの人の戦いぶりを見てると私なんて赤ちゃんみたいなものだと思っちゃうくらい…」

鏡華はどこか遠くを見るような目をしていた。

「そうなんですね。私達も頑張らないといけないですね。」

アリスがそう言うと周囲の空気が変わる。

私たちは戦闘態勢を整える。

「キョーカ」

「うん!」

私はアリスの呼び掛けに応える。

「行きますよ!」

アリスが先頭を走り、その後ろを私とリリアが走る。

そして、おそらくシエラが逃したであろうE~C級のモンスターたちを次々と倒しながら、階段まで行く。

「キョーカ、この下にはSS級のボスが居るんですよね?」

アリスが階段の先を睨む様に見て言う。

「そうなんだよ…そのうえ、そこにデジョンストーンを落としちゃったから…」

私はとんでもない事を思い出してしまった。

アリスたちはデジョンストーンを持っていないので、必然的にボス部屋に進まなければ帰れない事を意味していた。

「命を賭ける覚悟が必要ですね…」

アリスが大真面目な顔をして言う。

アリスはS級も軽々と討伐してしまえるが、SS級ともなると弱い相手でもS級を100体同時に討伐出来るくらいの強さが無いと厳しいと言われているほどの強さなのだ。

それほどまでにSS級は強いのだ。

今の私たちでは勝機はほぼ無い。

「…シエラって人に協力してもらう?」

リリアが不安そうにアリスに言う。

「そうですね…今の私たちでは太刀打ち出来ないと言っても過言では無いと思います。ただ…そのシエラさんが協力してくれるか…」

アリスがそんな事を言っていると通路の暗がりからシエラが出てくる。

「話は聞いたわ。」

シエラはフードを被ったまま言う。

「あなたは?」

アリスがシエラに言う。

「む?そこの鏡華からワシの事を聞いてたのではないのか?まあ良い…」

シエラは眠そうにあくびをして言う。

「ワシはシエラよ。お前たちは鏡華の仲間…で良いのだろう?」

たまたまシエラの視線の先に居たアリスが言う。

「はい!私たちはキョーカとパーティーを組んでますよ。とは言っても、昨日組んだばかりなんですけどね。私はアリス・アルフェノーツでこっちはリリアです。」

「そうか」

シエラはそれ以上は何も言わなかった。

「あの…」

アリスが不安そうに声をかける。

「ぐぅ…」

なんとシエラは立ったまま寝ていた。

「ね、寝てる…」

リリアが引き気味に言う。

「シエラさん、起きてください!」

アリスが慌ててシエラを起こす。

「…む?」

シエラが目を覚ます。

「ふわぁ…いつの間にか寝てたみたいね…」

シエラは眠そうに目を擦りながら言う。

「えぇ~…」

アリスが困惑の表情を隠す事無くこぼす。

「そうそう。ボス部屋のあやつの事だが…」

シエラがそういうとアリスたちの顔も引き締めた顔になる。

「結論から言うと今の状況では倒せないわよ。ただし、お前たちを外に送る事は出来るよ。」

シエラはそう言うとアリスの手に不思議な魔力を持つ石を渡す。

「これは…」

アリスがそう言うとシエラは言う。

脱出デジョンの魔法が刻まれた石だよ。冒険者風に言うなら、デジョンストーン…だっけ?」

シエラはそう言うとアリスから離れる。

「それに魔力を流せば、お前たちはダンジョンの外まで出られるよ。」

「なら、シエラさんも一緒に…」

アリスがそう言うとシエラは首を振る。

「ワシはここに残るよ。それはあくまでもお前たちみたいなうっかり者へ渡す用に持ってただけよ。」

「そ、そんなっ!いくら強かったとしてもこんなところに私と同じくらいの子を放って帰るなんて出来ません!シエラさんも一緒に戻りましょう!」

アリスがそう言うとシエラは威圧感さえ感じる様な声で言う。

「今の君たちに何が出来る?」

私たちはその声で動けなくなってしまった。

「君たちはSS級相手に手も足も出ないのだろう?そんな状況でワシの心配をしておる場合か?」

シエラは思わず後退りするアリスにさらに言う。

「良いか?お嬢ちゃん、この事はよーく覚えておけ。力無き者に民は救えぬ。目の前の命を助けるなら、力が無ければならぬ。かつて、世界を救った勇者にも強大な力があった。だが、お前たちはどうだ?」

シエラは威圧感を消してどこか遠くを見ているかのような目で言う。

「お前たちは…今のお前たちは弱い。弱き者が戦場に立てばどうなるか…それが分からぬほど幼くは無いだろう?」

私たちは何も言い返す事は出来なかった。

シエラの言う通り、私たちには力が無かった。

白き覇王と呼ばれているアリスもその事は十分に理解しただろう。
シエラと私たちでは文字通りに格が違う。
もしシエラが敵対すれば、間違いなく瞬殺される事は想像に容易い。

少しの沈黙の後、シエラは優しく微笑んで言う。

「ワシは一人でも大丈夫だ。数百年…いや、数千年以上、一人で旅をしているからな。」

シエラがそういった事でアリスとリリアがとても驚いた表情をする。

私は自分と同じ反応をする2人を見るとシエラは不思議そうな顔をしていた。

「もしかして…シエラさんって…」

アリスがしばらく前にも見たような反応をする。

「ワシは精霊族よ。だから、見た目通りの年齢では無いの。」

シエラはそう言うとボス部屋に続く階段の扉に手をかける。

「早く帰りなよ。ワシはこの先に行ってボスを倒す。倒した後はここもすぐに崩れ始めるわ。」

シエラは重そうな扉を開けてボス部屋へ続く階段への通路に入り、扉を閉める。

「行っちゃった…」

リリアがそう言うとアリスが扉を見ながら言う。

「あの扉はSS級以上の資格が無ければ開けられないみたいですね。それを軽々と開けてしまったシエラさんの実力はかなり上のものだと思います。」

真剣な表情をしたままアリスは言う。

「私たちにはもうシエラさんを追いかける事は出来ませんし、早めにこれを使いましょう。きっと、シエラさんならボスも倒せますし、ボスが倒れたダンジョンは崩壊しますからね。」

アリスはそう言うとデジョンストーンに魔力を込める。

私とリリアがアリスの肩に手を乗せるとアリスが脱出デジョンの魔法を使う。

身体に浮遊感を感じ、視界が真っ白になる。

そして、気がつくとダンジョンの入口にいた。

「お、やっと出てきたか。」

竜車の業者の男性が笑いながら言う。

「お待たせしてしまってごめんなさい。実は…」

アリスが男性に事情を説明すると男性は納得した様子で頷いていた。

「なるほどな…しっかし、あの伝説に語られるシエラさんに会えたとは運がいいね。」

話を聞いてみるとシエラは滅多に人前に姿を現さず、見かけてもすぐに何処かへと見失ってしまうような神出鬼没な人なんだそう。

それと私たちが見た容姿とは違って、灰色の長い髪の毛で目は青緑の右目しか見えず、背が高くて胸も大きいとの事だった。

アリスとリリアがお互いの顔を近づけて小さな声で話す。

「私たちの見たシエラさんとは姿が違うみたいですね。」

「多分、変化の魔法使ってる…」

「リリアさんもそう思いますよね。今度会ったら聞いてみましょうか。」

「うん…そうしよう…」

男性が話終わると同時にダンジョンの入口が「ゴゴゴゴ…」と音を立てて崩れる。

「誰かがボスを倒したみたいだな。」

男性が言う。

しかし、中からシエラと思われる人が出て来なかった。

「シエラさん、出て来ませんね…」

アリスが小さく呟く。

「ボス部屋の宝箱を取ってダンジョンの外に出ないとダンジョンは消えないし、転移でも使ったんじゃないか?俺としては会ってみたかったけどな。」

男性がそう言って帰る用意をしていたので、私たちも竜車に乗って帰る。



誰も居なくなったダンジョン跡に一人の黄金色の長い髪の毛の少女が現れる。

「あいつら行ったみたいよ。」

「そうか…」

そう言ってもう一人の少女が現れる。

「ねぇ…シエラ、ほんとに良かったの?」

シエラは首を傾げる。

「あの子…アリスちゃんの事よ。」

「クロノ、僕らはもう関係ないんだ。無理に関わる必要は無い。」

クロノと呼ばれた少女は「ふ~ん」と興味なさげに言う。

「ま、あんたがそう思うなら、それでいっか」

クロノはそう言うと転移でどこかに行ってしまう。

「さてと…僕も次の場所に行かないとね…」

シエラはそう呟いて転移を使う。

「…」

はその様子を静かに見ていた。










~つけもの~

「おーい!作者ー!エレナちゃんが遊びに来てやったから、菓子でもよこしやがれー!」

あら?化けうさぎのコスプレですか?
ハロウィンにはまだ日がありますよ?

「トリックオアトリック、イタズラしちゃうぞ♡」

いや、拒否権ナシですか…
って、やめろぉ!その手を離せー!

「はい。完成。」

いや、完成じゃないが…
なんで私が女の子の兎族にならないといけないんですか…

「あれ?女の子になりたい願望無かったっけ?」

え?なんで知ってるの…
これについてはTwitterでも言ったことないですよ?

「前のアカウントで言ってたじゃん。確か…ハゲ丸みたいな名前のやつ。」

それって10年くらい前のやつじゃ…
なんでそんなところも見てんだよ…

「好奇心旺盛な8歳児だからね。しょうがないね。」

いや、好奇心旺盛にも程がありますってばよ…

「そう言えば、今年のハロウィンネタは書くの?」

いや、ハロウィンネタとか言わないで?!
まあ、書いてもいいですけど、多分当日には間に合わないっすね。
本編とリアルが忙しいので…

「ふ~ん?私とパリスちゃんのイチャラブパーティーとかあるんだけどなぁ~」

あ、それなら、パリスちゃんに却下されましたよ。
アリスさんがいないなら遠慮しますって…

「うっうっ…私のパリスちゃん…」

…どんまい、エレナちゃん。

「こうなったら、ヤケ酒じゃあ!」

待て待て待てぇい!
あんたはまだ20歳過ぎとらんやろがいっ!

「え?異世界なのに、日本の法律適応しちゃうんですか?!さすがにそれは多様性が黙ってませんって!」

それどっかの異世界ものに外国人が突っ込んだやつじゃん…
なんで、異世界なのに温泉に行こうとか言うんだ!みたいな事とか言ってたやつ…

「私は別に日本の文化で固まっててもいいと思うけどなぁ…だって、どこに向けたものかと言われたら、日本人に向けたものである場合が多いでしょ?それなら、日本の文化に寄せた方が読み手も読みやすいだろうし、言葉も日本語の言い回しにならないと突然オリジナル言語で話し始めたら話が全くわからない事にもなりかねないしね。」

つい2行前で多様性とか言ってた人が何言ってるんですかねぇ…
でも、私も日本の文化が異世界にあってもおかしくないとは思います。
だって、モデルとなるものが無ければ作者としても世界をイメージしにくいですからね。
だから、異世界に温泉があっても不思議じゃないですし、ハンバーガー屋があってもおかしくないですもん。
なんなら、チュパカブラ専門のペット屋とかあってもいいですよね!

「その反面、確かに異世界の文化を~みたいな話もわかるにはわかるんだよね。でも、その異世界の文化って誰が考えるの?って言ったら、その異世界を書く作者が考える事だもんね。後、チュパカブラって語感だけで選んだだろ。」

その通りです!
だから、第三者がその世界の文化に口出しする権利は無いと思うんです。
それこそ、そちらさんの言う多様性を無視してる事になりませんかと…
まあ、チュパカブラってヤギの血を吸う者って意味らしいですからね。
スペイン語でチュパが吸う、カブラがヤギ、合わせてチュパカブラでヤギの血を吸う者なんですよね。
どっから血は来たんだい?

「…と、多様性とチュパカブラについて語ってもらったところで、次回で過去編は最後になります。次回もゆっくりしていってね!!ちなみにチュパカブラって、直訳した英語だとゴートサッカーらしいですね。ヤギサッカー?」

あの…まだ次回では終わらないです…
だいたい3話分くらいあります…
後、ヤギサッカーの発想はありませんでした。

「え?そろそろ飽きられない?大丈夫?」

どうでしょう?
まあ、必ず一人は追ってくれてるのはしおりを見てわかるんですけど…

「え~?!作者の癖に固定客つけてんの~?」

いや、ひでぇ言い草だな…
後、固定客とか言うな。
なんか卑猥だろ。

「固定客で卑猥って…さすが変態ですね笑い。まあ、そんな作者にも見てくれる人がいて良かったね。」

ほんとにありがたい限りです。
それに最近はたまにお気に入りもしていただけてるので、新規さんも来てくれてるんだなと思うと感慨深いものがありますね。
後、変態は関係ないだろ。

「伊達に2年もやってないってことだね。」

まあ、裏を返せば2年も書いてるのに総計では100話程度で完結もしてないと言えるんですよね。
個人的には早く完結させて、新しい物語を書いて、今度こそカオス化しないようにするんだ。

「アンタの頭じゃ無理でしょ。変態だし。」

いや、だから、変態は関係ないでしょ…
ただ私の頭では極めて難しいのは否めないですね。
記憶力ニワトリの思考回路が常にラリってるカカポなので…

「ここに天敵が居ない土地の好奇心旺盛な可愛いオウムさんと同じ思考回路だと思ってる哀れな凡夫が居ますね。」

凡夫?!
…はっ!これはフリなのでは?!

「私天才じゃん!みたいな顔でこっちみないでくれる?」

大丈夫。私、引きこもりだからっ!

「おい!そこは最強だからって言えよ!」

いやぁ…さすがに経歴詐称は良くないかなと思いまして…

「経歴詐称ってほどの経歴詐称でもないでしょ…と言うか、経歴詐称になるのかな…これ…」

ま、まあ、いいじゃないですか…
伝わったでしょ?

「うん…まあ…正確にはアンタは引きこもりでも無いような?」

確かに休日にはよく出かけるし、引きこもりってほどの引きこもりでは無いとは思いますけど…
まあ、細けぇことはいいんだよ。

「以上、A型のクセに死ぬほどズボラな作者のどうでもいい情報のコーナーでした。」

いや、なんで血液型知ってるんですか…
これこそほんとに言った事無いんですけど…

「フッ…こう見えて、なろう系主人公ですから…」

めっちゃドヤ顔で言いますやん…
てか、地味にその設定気に入ったんですね。

「何かと便利な言葉だよね。なろう系主人公って。」

言われてみるとそうですね。
なんかヤベぇことしても、なろう系主人公だから~で片付けられるので、乱用はしない方がいいですけど、なかなかに便利な設定です。

「てなわけで、なろう系主人公権限で茶番の強制終了しますね。」

あ、はい。
ほんと…便利な設定ですね…

「ところで、ゆっくりしていってね!についてのツッコミは?」

あっ…
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