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魔王都市とルネリス
63話
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「なんだか誰かが住んでそうな場所ですね。」
パリスが少しだけ不安そうに洞窟の中を見回す。
私たちは急に降り出した雨を凌ぐ為に近くの洞穴に駆け込んだのだが、確かにただの洞窟と言うよりは人が生活している洞窟って感じはしていた。
そんな事を考えていると奥から龍の翼を持った猫族の少女が眠そうにやってくる。
「お姉さん…おかえ…」
少女はそこまで言うと私の顔を見て目を見開く。
私は少女の前に立って言う。
「お邪魔してごめんなさい。凄い雨が降ってきちゃって、雨宿りさせてもらいたいのだけれど…良いかしら?」
少女は眠そうな目で考えるように首を傾げながら言う。
「うーん…お姉さんがいいよって言ったら大丈夫…かな?」
「じゃあ、そのお姉さんをここで待たせてもらっても良い?」
「うん…良いよ~…多分…」
少女はそう言うと眠そうに目を擦る。
「あ、そうだ。まだ私たち名前を言ってなかったよね。」
少女は「言われてみれば」と言う様な表情をして言う。
「ソルはソルって名前だよ…」
ソルは眠そうな声で言う。
「私はアリスだよ!」
「リリア…」
「パ、パリスです!」
「私はクレアじゃよ」
「俺はウルカだ。」
それぞれの自己紹介が終わるとソルは眠そうに奥の方に行く。
雨が段々と強くなり始める。
「う~ん…どんどん酷くなってるね…」
「雨…滝…みたい…」
私がそう呟くとリリアが少し楽しそうに言う。
「寒いのじゃ…ウルカ、何か燃えそうな物とか持っておらぬか?」
「何も持ってねぇよ。それと服着たらどうだ?」
「いや、びっちょびちょなのを着れるわけ無いじゃろ…」
いつの間にか、濡れた服を全部脱いでいたクレアが凄く寒そうな声でウルカと話していた。
「アリスさん、あちらの方から誰かがこちらに向かって来てるみたいですけど、どうします?」
パリスが指を指した方向は私たちの目ではただただ滝のような雨が降っている光景以外は何も見えなかった。
「う~ん…ソルさんを起こした方が良い…のかな?」
「多分、お姉さんだよ…」
「ひゃいっ?!」
私が言った直後に後ろから聞こえたソルの声にパリスが飛び上がって驚く。
「ソルさん、おはようございます。」
「ん、おはよう…」
ソルは眠そうに欠伸をすると洞窟の奥から少し大きめの箱と毛皮のコートを持ってくる。
「クレアさん…これ着て…」
ソルは全裸で震えるクレアにコートを渡す。
「ありがとうなのじゃ!」
「うん…」
ソルは短く返すと箱の中から魔道調理器具を出す。
「危ないから…」
ソルはそう言って皆を遠ざけると魔力を流して火を起こす。
「ソルさん、良かったら私たちの取ってきた食材を使ってくれませんか?雨宿りさせていただいたお礼とクレアにコートを貸していただいたお礼として差し上げたいのですが…」
私がそう言うとソルは軽く首を振って言う。
「大丈夫…お姉さん、凄い量取ってくる…いつも食べきれないの…」
それを聞いたクレアが何故か凄く目を輝かせていた。
「帰ったわよ~」
その声の方を向くと目を疑うくらいの美しい女性が文字通り山の様に食料を持ち帰っていた。
「お姉さん…」
ソルは少しだけ嬉しそうに女性に駆け寄る。
私達もその女性の前まで近づいて言う。
「すみません。急に雨が降ってきたので、雨宿りさせてもらってます。」
私がそう言うと女性は嬉しそうに笑う。
「なら、ナイスタイミングねっ♪ちょうど豊作だったから、貴方たちの分も一緒に作っちゃうわよ~」
女性はそう言うと山の様な食材をそれぞれ用途ごとに分けながら、調理へととりかかっていた。
私も何か手伝おうかとするとソルがテーブルらしき場所を指さす。
「あっちに食卓ある…後はお姉さんに任せてて…」
「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうぜ!」
ウルカとクレアが我先にと走る。
「わかったわ。じゃあ、先に座ってるね」
私達もヨダレを垂らしながら待ってる2人の元へと行く。
…
「お待たせしたわね♪」
女性がソルと一緒に山盛りの料理を持ってくる。
「美味そうだな!」
「美味しそうなのじゃ!」
ほぼ同時にウルカとクレアが言う。
「見ず知らずの私たちの為にありがとうございます。」
私がそう言うとパリスが少しだけ震えた声で言う。
「あの…ありがとうございます…」
女性は嬉しそうに笑って言う。
「旅は道連れ、世は情けってね♪たーんとお食べ!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
…
「美味かったのじゃ…」
「美味かったぜ」
ウルカとクレアはグデーンとだらしなく大きくなったお腹を出して寝転がるとそのまま寝てしまった。
「美味しかったです…ごちそうさまでした…」
パリスは最後の一口を食べると女性にお礼を言う。
「お食事、とても美味しかったです。」
私がそう言うとリリアも私の後ろで小さく頷いていた。
「アッハハ!満足してもらえたなら作ったかいがあるわね♪あ、片付けはソルちゃんに任せてやってね!あの子のやる事の一環だから。」
ソルは相変わらず眠そうな表情で黙々と皆が食べた後の食器を洗っていた。
骨付き肉もあったが、クレアが残った骨もお菓子でも食べるかの様にバリバリと食べてしまったので文字通り綺麗に完食していた。
「そうそう。」
女性は思い出した様に私を見る。
「そういえば、私、まだ名乗ってなかったわよね?」
女性はそう言うと次の瞬間、とんでもない名を口に出す。
「私はヴァルディースよ。広く知られた名としては邪神エンデの方がわかりやすいかしら?」
「えっ…」
私たちが驚いて固まっていると私の右腕からもの凄い勢いでシルフが出てくる。
『邪神エンデ!何故お前がここに居るんだ!』
邪神を名乗った女性は睨む様に見るシルフに言う。
「そんなに怖い顔をされちゃうと話せるものも話せなくなってしまうわよ。」
邪神を名乗った女性はどこか楽しげに微笑む。
『どの口が言ってるんだよ!』
シルフが勢いよくツッコミを入れる。
「お父様、一旦落ち着いてください。ヴァルディースさんのお話を聞いてから判断しても遅くは無いはずですよ。少なくとも、私たちに楽しそうに料理を振舞ってくれた今のヴァルディースさんからは敵意は感じませんし…」
私がシルフに言うとシルフは渋々と言いたげに…と言うか嫌そうに言う。
『むぅ…可愛い可愛いアリスちゃんの頼みだから聞くけど、ボクはお前のやった事は許さないからな!』
「そうね…以前の私はほんとに酷い事をしたと思うわ…あれだけやれば封印されるのも当然ね。」
そこまで言うと少し間を開けて真剣な表情で話し始める。
「まずはシルフ様の質問に答えます。結論から言いますと邪神教団によって完全にでは無いですが、私の封印が解かれました。今はまだ不完全な状態ですが、現在も邪神としての力を持っています。」
『じゃあ、今のお前は不完全だから、殺そうと思えば殺せると?』
シルフが構えながら言う。
「その問に対しては今の貴方でも殺害可能です。ですので、今ここで私が貴方に殺されれば、邪神エンデは完全に消滅します。ですが、今は邪神である私を殺すよりも優先した方が良いであろう事が起こっております。」
ヴァルディースはそこまで言うと深呼吸をして言う。
「異形がこの世界に入りこんでいます。」
『なんだって!?』
私は異形と言われてもよく分からなかったが、シルフの表情から察するにとてつもない危機が迫ってると見て間違いないだろう。
「リリアさん…リリアさん…確か異形の怪物の物語がありましたよね?」
パリスがリリアの傍で小さな声で言うとリリアは小さく頷く。
「黒い怪物…世界を混沌に変える…何よりも黒い黒へと世を誘う…」
「パリスの村とは少し違った内容みたいですけど、終わりは同じそうですね。」
パリスとリリアが小声で話していると…
『お姉様!突然の報告を失礼します!先程、フィレスタ王国に大量のモンスターの群れが襲いかかってきました!ランクはF~A級とあまり強くは無いのですが、3体だけ異常な強さの化物が居たんです!まるで御伽噺で出てくる「異形の化物」みたいな黒い体色の化物です!今はセイクリッドや街にいた冒険者の皆様と力を合わせて全て撃退しましたが、セイクリッドの2番隊と3番隊、他にもS級パーティ2組が化物によって壊滅してしまいました。被害数は化物の被害だけでもかなりのものです。幸いにも王族関係者や民間人の方々には大きな被害はありませんでした。お姉様のパーティへの被害はグレンとマリアが軽い怪我をした程度で屋敷は半壊しましたが、屋敷の者達には被害はありませんでした。ですが、屋敷の者たちを護るためにゼルシアさん、カレンさん、サリアさんが意識不明の重体となっています。』
私の脳内に聞き覚えのある声が響く。
ヴァルディースが私の肩に触れて言う。
「突然ですまないが、君は黒い体色の化物が現れたと言ったかい!」
『私の魔法に干渉してる?!じゃなくて…こほん。そうですが、どちら様でしょう?』
リリーフィルは驚いた様に声を出すと小さく咳払いをして肯定する。
ヴァルディースがそのまま私の肩に触れたまま私にウインクして言う。
「私はアリスちゃんの仲間のヴァルディースだとだけ、名乗っておくよ!早速で悪いがその化物の特徴を教えてくれないかしら?」
『わかりました。お姉様の仲間であるなら、お教えいたしますが、その前に私も名乗っておきますね。私はリリーフィル・アンクレスト・アルフェノーツと申します。早速ですが、怪物についての特徴をお伝えします。』
1体目はヤギのようなD級モンスターのホワイトゴートによく似た姿の真っ黒な体色にスライムの様に体の一部を自在に伸縮させる能力のある怪物だった。
2体目は二足歩行のトカゲみたいなB級モンスターのリザードマンによく似た姿の黒い体色で即死性の毒のブレスを扱う能力のある怪物だった。
3体目はその姿がとんでもないものだったそうだ。
『発見したマリアさんの情報によれば、3体目の怪物は紛れもなく黒い服を着たレグレスだったそうです。』
「なんだって!?」
私が思わず大声をあげるとクレアが飛び起きる。
「な、なんじゃ?!」
「うるせぇな…」
クレアの大声にイライラした様子のウルカが起きる。
その瞬間、突然リリーフィルの波魔法が途切れる。
「ごめんなさい、そのレグレスとやらについて教えてもらえないかしら?」
ヴァルディースがそう言うとシルフが言う。
『アリスをイジメてた人間の元冒険者だよ。今は奴隷商の罪や国家に対する反逆を起こしたとして指名手配されているはずだが…』
シルフはとても嫌そうな顔をする。
『アリスちゃん、もしかすると奴らの本当の目的はアリスちゃんの血でも無く、邪神の復活でも無い…異形の神を呼び寄せる事かもしれない!』
「もしそれがあちらの狙いなら、私が戦った異形の力を持った猫族の少女が居たのも頷ける。異形の神を呼び寄せる一環として異形の力を呼び寄せたとすれば、さっきは混沌が助けてくれたけど、今の私たちでは到底手が出ないわね。もちろん、アリスちゃんもそれは同様よ。奴らは文字通り外界からの侵略者。外界からの移動にも耐えうる強靭な肉体や魂を持つわ。それ故に、同じ異形の力か世界樹の力が必要なのよ。」
ヴァルディースがそう言うとシルフが驚いた様子で言う。
『あの混沌が人助けしたのか!?いや、それはどうでもいい。混沌が味方をしてくれているなら、少しは時間があるって事だ。』
シルフが言い切ると同時にシルフの体が空気に溶けるように消える。
「現界する為の精霊力が切れたのかしらね。」
ヴァルディースはポツリとそう言うと私を見る。
「アリスちゃん、貴方の他にも世界樹の力を持つ人物が4人居るはずよ。少なくとも1人はこの近くに居るわ。異形の神は異形たちの王なのだけれど、そいつが目覚めてしまうとこの世界を含めてたくさんの世界が異形によって滅ぶわ。既にフィレスタ王国が攻め込まれている事から、この世界の各地で異形が暴れているに違いないわね。」
パリスが私の服の裾を握りしめて言う。
「あの…世界樹の力ってどうやれば手に入るんですか?」
「世界樹の力は世界樹が選んだものにしか得る事の出来ない特殊な力なんだけど、今のパリスちゃんには世界樹が選んだ証拠の王の印が無いから、多分得られないわね。」
パリスは名乗ってないはずの自分の名前を呼ばれて少しだけ驚いた表情をしていたが、すぐに理解した様子で残念そうに肩を落として言う。
「そうですか…」
「そんなに残念がることは無いわよ?誰にも負けないくらい強くなれば、世界樹の力さえも超える様な力を手に出来ることだってあるんだからね。」
「なら、パリスももっと頑張らなくてはいけませんね。アリスさんのお役に立つ為にも強くなりますよ~!」
ヴァルディースの励ましによって元気を取り戻したパリスが気合を入れていた。
食器を片付け終わったソルが静かに言う。
「ソルの役目も終わりかな…」
ソルはそう言うと淡々と出て行く用意をしようとする。
「あら、何処へ行くのかしら?」
ヴァルディースがそう尋ねるとソルは少しだけ寂しそうに言う。
「ソルの役目…お姉さんを安全なところに連れて行く…それが終わった…だから…」
ヴァルディースはソルの頬を両手で包んで言う。
「貴方の役目はまだ終わってなんかないわ。」
ヴァルディースがチラリと一瞬だけ私を見る。
「この世界に安全なところなんてないわ…例え、あの子が覚醒したとしても…ね…」
「じゃあ…ソルは…主様に…」
ソルは少しだけ泣きそうな声で言う。
「大丈夫よ。アイツはそんなやつじゃないわ。だって、今、この世界で一番力を持ってる私にソルちゃんを任せたのよ?私じゃなくて、ソルちゃんの身の安全を一番に心配してるから、この世界に安全なところなんてないと知っておきながら、ソルちゃんに安全なところを探して来いと命令したのよ。アイツはそういう事を何食わぬ顔でやるわ。」
ヴァルディースのハッキリとした声がソルに元気を与えたようだ。
「そうなんだ…じゃあ、これからもよろしくね…お姉さん…」
ソルは少しだけ嬉しそうに笑って言った。
気がつけば、雨は上がって虹が出ていた。
パリスが少しだけ不安そうに洞窟の中を見回す。
私たちは急に降り出した雨を凌ぐ為に近くの洞穴に駆け込んだのだが、確かにただの洞窟と言うよりは人が生活している洞窟って感じはしていた。
そんな事を考えていると奥から龍の翼を持った猫族の少女が眠そうにやってくる。
「お姉さん…おかえ…」
少女はそこまで言うと私の顔を見て目を見開く。
私は少女の前に立って言う。
「お邪魔してごめんなさい。凄い雨が降ってきちゃって、雨宿りさせてもらいたいのだけれど…良いかしら?」
少女は眠そうな目で考えるように首を傾げながら言う。
「うーん…お姉さんがいいよって言ったら大丈夫…かな?」
「じゃあ、そのお姉さんをここで待たせてもらっても良い?」
「うん…良いよ~…多分…」
少女はそう言うと眠そうに目を擦る。
「あ、そうだ。まだ私たち名前を言ってなかったよね。」
少女は「言われてみれば」と言う様な表情をして言う。
「ソルはソルって名前だよ…」
ソルは眠そうな声で言う。
「私はアリスだよ!」
「リリア…」
「パ、パリスです!」
「私はクレアじゃよ」
「俺はウルカだ。」
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雨が段々と強くなり始める。
「う~ん…どんどん酷くなってるね…」
「雨…滝…みたい…」
私がそう呟くとリリアが少し楽しそうに言う。
「寒いのじゃ…ウルカ、何か燃えそうな物とか持っておらぬか?」
「何も持ってねぇよ。それと服着たらどうだ?」
「いや、びっちょびちょなのを着れるわけ無いじゃろ…」
いつの間にか、濡れた服を全部脱いでいたクレアが凄く寒そうな声でウルカと話していた。
「アリスさん、あちらの方から誰かがこちらに向かって来てるみたいですけど、どうします?」
パリスが指を指した方向は私たちの目ではただただ滝のような雨が降っている光景以外は何も見えなかった。
「う~ん…ソルさんを起こした方が良い…のかな?」
「多分、お姉さんだよ…」
「ひゃいっ?!」
私が言った直後に後ろから聞こえたソルの声にパリスが飛び上がって驚く。
「ソルさん、おはようございます。」
「ん、おはよう…」
ソルは眠そうに欠伸をすると洞窟の奥から少し大きめの箱と毛皮のコートを持ってくる。
「クレアさん…これ着て…」
ソルは全裸で震えるクレアにコートを渡す。
「ありがとうなのじゃ!」
「うん…」
ソルは短く返すと箱の中から魔道調理器具を出す。
「危ないから…」
ソルはそう言って皆を遠ざけると魔力を流して火を起こす。
「ソルさん、良かったら私たちの取ってきた食材を使ってくれませんか?雨宿りさせていただいたお礼とクレアにコートを貸していただいたお礼として差し上げたいのですが…」
私がそう言うとソルは軽く首を振って言う。
「大丈夫…お姉さん、凄い量取ってくる…いつも食べきれないの…」
それを聞いたクレアが何故か凄く目を輝かせていた。
「帰ったわよ~」
その声の方を向くと目を疑うくらいの美しい女性が文字通り山の様に食料を持ち帰っていた。
「お姉さん…」
ソルは少しだけ嬉しそうに女性に駆け寄る。
私達もその女性の前まで近づいて言う。
「すみません。急に雨が降ってきたので、雨宿りさせてもらってます。」
私がそう言うと女性は嬉しそうに笑う。
「なら、ナイスタイミングねっ♪ちょうど豊作だったから、貴方たちの分も一緒に作っちゃうわよ~」
女性はそう言うと山の様な食材をそれぞれ用途ごとに分けながら、調理へととりかかっていた。
私も何か手伝おうかとするとソルがテーブルらしき場所を指さす。
「あっちに食卓ある…後はお姉さんに任せてて…」
「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうぜ!」
ウルカとクレアが我先にと走る。
「わかったわ。じゃあ、先に座ってるね」
私達もヨダレを垂らしながら待ってる2人の元へと行く。
…
「お待たせしたわね♪」
女性がソルと一緒に山盛りの料理を持ってくる。
「美味そうだな!」
「美味しそうなのじゃ!」
ほぼ同時にウルカとクレアが言う。
「見ず知らずの私たちの為にありがとうございます。」
私がそう言うとパリスが少しだけ震えた声で言う。
「あの…ありがとうございます…」
女性は嬉しそうに笑って言う。
「旅は道連れ、世は情けってね♪たーんとお食べ!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
…
「美味かったのじゃ…」
「美味かったぜ」
ウルカとクレアはグデーンとだらしなく大きくなったお腹を出して寝転がるとそのまま寝てしまった。
「美味しかったです…ごちそうさまでした…」
パリスは最後の一口を食べると女性にお礼を言う。
「お食事、とても美味しかったです。」
私がそう言うとリリアも私の後ろで小さく頷いていた。
「アッハハ!満足してもらえたなら作ったかいがあるわね♪あ、片付けはソルちゃんに任せてやってね!あの子のやる事の一環だから。」
ソルは相変わらず眠そうな表情で黙々と皆が食べた後の食器を洗っていた。
骨付き肉もあったが、クレアが残った骨もお菓子でも食べるかの様にバリバリと食べてしまったので文字通り綺麗に完食していた。
「そうそう。」
女性は思い出した様に私を見る。
「そういえば、私、まだ名乗ってなかったわよね?」
女性はそう言うと次の瞬間、とんでもない名を口に出す。
「私はヴァルディースよ。広く知られた名としては邪神エンデの方がわかりやすいかしら?」
「えっ…」
私たちが驚いて固まっていると私の右腕からもの凄い勢いでシルフが出てくる。
『邪神エンデ!何故お前がここに居るんだ!』
邪神を名乗った女性は睨む様に見るシルフに言う。
「そんなに怖い顔をされちゃうと話せるものも話せなくなってしまうわよ。」
邪神を名乗った女性はどこか楽しげに微笑む。
『どの口が言ってるんだよ!』
シルフが勢いよくツッコミを入れる。
「お父様、一旦落ち着いてください。ヴァルディースさんのお話を聞いてから判断しても遅くは無いはずですよ。少なくとも、私たちに楽しそうに料理を振舞ってくれた今のヴァルディースさんからは敵意は感じませんし…」
私がシルフに言うとシルフは渋々と言いたげに…と言うか嫌そうに言う。
『むぅ…可愛い可愛いアリスちゃんの頼みだから聞くけど、ボクはお前のやった事は許さないからな!』
「そうね…以前の私はほんとに酷い事をしたと思うわ…あれだけやれば封印されるのも当然ね。」
そこまで言うと少し間を開けて真剣な表情で話し始める。
「まずはシルフ様の質問に答えます。結論から言いますと邪神教団によって完全にでは無いですが、私の封印が解かれました。今はまだ不完全な状態ですが、現在も邪神としての力を持っています。」
『じゃあ、今のお前は不完全だから、殺そうと思えば殺せると?』
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「その問に対しては今の貴方でも殺害可能です。ですので、今ここで私が貴方に殺されれば、邪神エンデは完全に消滅します。ですが、今は邪神である私を殺すよりも優先した方が良いであろう事が起こっております。」
ヴァルディースはそこまで言うと深呼吸をして言う。
「異形がこの世界に入りこんでいます。」
『なんだって!?』
私は異形と言われてもよく分からなかったが、シルフの表情から察するにとてつもない危機が迫ってると見て間違いないだろう。
「リリアさん…リリアさん…確か異形の怪物の物語がありましたよね?」
パリスがリリアの傍で小さな声で言うとリリアは小さく頷く。
「黒い怪物…世界を混沌に変える…何よりも黒い黒へと世を誘う…」
「パリスの村とは少し違った内容みたいですけど、終わりは同じそうですね。」
パリスとリリアが小声で話していると…
『お姉様!突然の報告を失礼します!先程、フィレスタ王国に大量のモンスターの群れが襲いかかってきました!ランクはF~A級とあまり強くは無いのですが、3体だけ異常な強さの化物が居たんです!まるで御伽噺で出てくる「異形の化物」みたいな黒い体色の化物です!今はセイクリッドや街にいた冒険者の皆様と力を合わせて全て撃退しましたが、セイクリッドの2番隊と3番隊、他にもS級パーティ2組が化物によって壊滅してしまいました。被害数は化物の被害だけでもかなりのものです。幸いにも王族関係者や民間人の方々には大きな被害はありませんでした。お姉様のパーティへの被害はグレンとマリアが軽い怪我をした程度で屋敷は半壊しましたが、屋敷の者達には被害はありませんでした。ですが、屋敷の者たちを護るためにゼルシアさん、カレンさん、サリアさんが意識不明の重体となっています。』
私の脳内に聞き覚えのある声が響く。
ヴァルディースが私の肩に触れて言う。
「突然ですまないが、君は黒い体色の化物が現れたと言ったかい!」
『私の魔法に干渉してる?!じゃなくて…こほん。そうですが、どちら様でしょう?』
リリーフィルは驚いた様に声を出すと小さく咳払いをして肯定する。
ヴァルディースがそのまま私の肩に触れたまま私にウインクして言う。
「私はアリスちゃんの仲間のヴァルディースだとだけ、名乗っておくよ!早速で悪いがその化物の特徴を教えてくれないかしら?」
『わかりました。お姉様の仲間であるなら、お教えいたしますが、その前に私も名乗っておきますね。私はリリーフィル・アンクレスト・アルフェノーツと申します。早速ですが、怪物についての特徴をお伝えします。』
1体目はヤギのようなD級モンスターのホワイトゴートによく似た姿の真っ黒な体色にスライムの様に体の一部を自在に伸縮させる能力のある怪物だった。
2体目は二足歩行のトカゲみたいなB級モンスターのリザードマンによく似た姿の黒い体色で即死性の毒のブレスを扱う能力のある怪物だった。
3体目はその姿がとんでもないものだったそうだ。
『発見したマリアさんの情報によれば、3体目の怪物は紛れもなく黒い服を着たレグレスだったそうです。』
「なんだって!?」
私が思わず大声をあげるとクレアが飛び起きる。
「な、なんじゃ?!」
「うるせぇな…」
クレアの大声にイライラした様子のウルカが起きる。
その瞬間、突然リリーフィルの波魔法が途切れる。
「ごめんなさい、そのレグレスとやらについて教えてもらえないかしら?」
ヴァルディースがそう言うとシルフが言う。
『アリスをイジメてた人間の元冒険者だよ。今は奴隷商の罪や国家に対する反逆を起こしたとして指名手配されているはずだが…』
シルフはとても嫌そうな顔をする。
『アリスちゃん、もしかすると奴らの本当の目的はアリスちゃんの血でも無く、邪神の復活でも無い…異形の神を呼び寄せる事かもしれない!』
「もしそれがあちらの狙いなら、私が戦った異形の力を持った猫族の少女が居たのも頷ける。異形の神を呼び寄せる一環として異形の力を呼び寄せたとすれば、さっきは混沌が助けてくれたけど、今の私たちでは到底手が出ないわね。もちろん、アリスちゃんもそれは同様よ。奴らは文字通り外界からの侵略者。外界からの移動にも耐えうる強靭な肉体や魂を持つわ。それ故に、同じ異形の力か世界樹の力が必要なのよ。」
ヴァルディースがそう言うとシルフが驚いた様子で言う。
『あの混沌が人助けしたのか!?いや、それはどうでもいい。混沌が味方をしてくれているなら、少しは時間があるって事だ。』
シルフが言い切ると同時にシルフの体が空気に溶けるように消える。
「現界する為の精霊力が切れたのかしらね。」
ヴァルディースはポツリとそう言うと私を見る。
「アリスちゃん、貴方の他にも世界樹の力を持つ人物が4人居るはずよ。少なくとも1人はこの近くに居るわ。異形の神は異形たちの王なのだけれど、そいつが目覚めてしまうとこの世界を含めてたくさんの世界が異形によって滅ぶわ。既にフィレスタ王国が攻め込まれている事から、この世界の各地で異形が暴れているに違いないわね。」
パリスが私の服の裾を握りしめて言う。
「あの…世界樹の力ってどうやれば手に入るんですか?」
「世界樹の力は世界樹が選んだものにしか得る事の出来ない特殊な力なんだけど、今のパリスちゃんには世界樹が選んだ証拠の王の印が無いから、多分得られないわね。」
パリスは名乗ってないはずの自分の名前を呼ばれて少しだけ驚いた表情をしていたが、すぐに理解した様子で残念そうに肩を落として言う。
「そうですか…」
「そんなに残念がることは無いわよ?誰にも負けないくらい強くなれば、世界樹の力さえも超える様な力を手に出来ることだってあるんだからね。」
「なら、パリスももっと頑張らなくてはいけませんね。アリスさんのお役に立つ為にも強くなりますよ~!」
ヴァルディースの励ましによって元気を取り戻したパリスが気合を入れていた。
食器を片付け終わったソルが静かに言う。
「ソルの役目も終わりかな…」
ソルはそう言うと淡々と出て行く用意をしようとする。
「あら、何処へ行くのかしら?」
ヴァルディースがそう尋ねるとソルは少しだけ寂しそうに言う。
「ソルの役目…お姉さんを安全なところに連れて行く…それが終わった…だから…」
ヴァルディースはソルの頬を両手で包んで言う。
「貴方の役目はまだ終わってなんかないわ。」
ヴァルディースがチラリと一瞬だけ私を見る。
「この世界に安全なところなんてないわ…例え、あの子が覚醒したとしても…ね…」
「じゃあ…ソルは…主様に…」
ソルは少しだけ泣きそうな声で言う。
「大丈夫よ。アイツはそんなやつじゃないわ。だって、今、この世界で一番力を持ってる私にソルちゃんを任せたのよ?私じゃなくて、ソルちゃんの身の安全を一番に心配してるから、この世界に安全なところなんてないと知っておきながら、ソルちゃんに安全なところを探して来いと命令したのよ。アイツはそういう事を何食わぬ顔でやるわ。」
ヴァルディースのハッキリとした声がソルに元気を与えたようだ。
「そうなんだ…じゃあ、これからもよろしくね…お姉さん…」
ソルは少しだけ嬉しそうに笑って言った。
気がつけば、雨は上がって虹が出ていた。
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