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現代の常識学

第二冠の夢

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「しかし、困りましたね…私の能力でも情報が集まらない相手ですか…」

私の権能のおかげでグライベル国王も権能持ちであることはわかりました。

少なくとも、私の権能が通用しない相手であるようですね。

まあ、情報が集まらないなら、自力で集めていくしかありませんが…

「まあ、小細工が通用しないなら、地道に情報を集めるか、カチコミで勝負に出るかだよね。私は後者だけど。」

シェラが眠そうに欠伸をして言う。

「貴方はもう少し考えて行動してくださいよ…」

ティアラが呆れた様子で言う。

「大丈夫っしょ!今までこれで間違えたことないもん!」

シェラが堂々と言う。

「はあぁ…貴方と言う人は…」

ティアラはさっきよりもさらに呆れた様子で…と言うか、完全に呆れて頭を押さえている。

そんなやりとりをしている間に馬車がヴェルエス大森林の入口につく。

「ここから先はこの馬車では通れませんが、如何いたしましょう?」

私が答えるよりも先にシェラが言う。

「なら、ここからは歩きで向かうよ。私なら馬車を森の中も走れるように改造することは出来るけど、森の中じゃただのデカい的にしかならないからね。」

シェラは異空間から盾を取り出すと馬車から降りる。

「まーた、シェラ様は先走って…すみませんが、エリスさんも一緒に来てくれませんか?」

ティアラが困ったように目を閉じる。

「いいですよ。」

私はシェラとティアラについて行くことにする。

とは言っても、シェラが1人で突っ走っているのを追いかけているだけだが…

業者は危険なので先に王都に帰ってもらうことにした。

少し先でシェラが手を振っている。

その隣には人形の中に拘束されたままのライガがいる。

「やっときた!2人とも遅いよ~」

シェラが大笑いしながら言う。

「貴方が何も考えずに飛び出しただけです。良いですか?今は単独行動じゃないんですよ?いい加減、そこを理解した行動をしてください!私だって、いつも貴方のお守りを出来るとは限らないんですからね?」

怒ったティアラが強い口調で言う。

申し訳ないが、私もティアラと同じ意見だった。

「まあまあ、問題が起きた訳じゃないから良いじゃないの。」

シェラはまるで聞く気が無いような感じで軽く受け流そうとしていた。

それがティアラの怒りのボルテージを上げることになるのは当然の結果で…

「…いい加減にしろよ?」

ティアラの周囲が揺らいだような気がした。

「ティアラちゃん?」

シェラが様子がおかしいティアラを見て急いでライガの居る人形を地面の中へと避難させる。

「いつもいつも…私の言うことを全く聞かずに危ない行動ばかりして…今回ばかりは絶対に許さねぇ!覚悟しろ!」

ティアラの怒りが爆発してしまったようだ。

ティアラが力を解放して羊のような形の真っ黒の角が現れる。

さらに悪魔のような形の真っ白な翼がある姿になる。

「マズイことになっちゃったねぇ…」

シェラが面倒くさそうに言う。

ティアラの身体から灼熱の炎が発せられる。

「焼き焦がせ!ブレイズ!」

ティアラの振り払った右手から高温の炎の弾が発射される。

あまりの高熱に陽炎が揺らぐのがわかる。

「わわっ!?フリーズ!」

シェラはで両手を前に突き出して魔法を発動させる。

突き出された両手の手のひらから、極寒の吹雪が吹いて炎の弾を打ち消す。

(無詠唱でこの威力…シェラさんが本気で詠唱しちゃったら、世界が永久凍土になりそう…)

「まだまだぁ!大地を焦がせ!グランドインフェルノ!」

私は咄嗟に身体強化で空中に逃げる。

シェラの周囲を除いて、ティアラの周囲があまりの熱量に全てが蒸発していた。

(あっつ!?魔障壁を展開しなかったら、確実に全身が消し飛んでいたわ…)

事実、私の突き出した左腕にかなり酷い火傷を負ってしまったのだ。

他にも全身に火傷のような症状がある。

「ティアラちゃん、危ないでしょ!」

一瞬でティアラの目の前に現れたシェラが燃え盛るティアラの脳天目掛けて拳骨を振り下ろす。

「あがっ?!」

角が木っ端微塵に砕けたティアラが白目を向いて気絶する。

「全くもう…」

シェラは重力によって地面に叩きつけられる前にティアラを抱き締める。

「…ハッ…!?シェラ様…?私は…いったい…」

元の姿に戻ったティアラは怒りで我を忘れていたのか、少し不思議そうな表情をしてシェラを見ていた。

「大丈夫よ。貴方は何も悪くないわ。だから、気にしないでね?」

そう言うシェラの瞳は優しいお母さんのようだった。

ティアラは何かを察したような表情になった。

「私、とんでもないことをしてしまったようですね…」

「まあまあ、ティアラちゃんは悪くないんだから気にしないの。」

「…その通りではありますが、私の立場を考えれば、絶対にやってはいけない行為です。」

シェラが落ち込むティアラの頭を優しく撫でる。

「ティアラちゃん、よーく覚えてて。私相手に遠慮なんかしないこと。貴方が止めなきゃ、誰も止める人が居ないわ。例え止められなくても、その一声があるだけで意味がある。ティアラちゃんならわかるでしょ?」

ティアラは「ヤレヤレ」と言いたげに小さくため息をつく。

「貴方と言う人は…ほんとに変な人です…」

私は突然酷い頭痛を感じる。

「うっ…」

意識を失いかけて倒れそうになって膝をつく。

「わわっ?!エリスちゃん、酷い怪我じゃない!」

私の意識が吹き飛ぶ直前にシェラが何かを言った気がした。

「ガイアヒール!」

そんな声が聞こえたと同時に私の意識は飛んでいった。





目を開けると懐かしい風景が広がっていた。

(ここは…)

私はを動かす。

「…ん?」

私は身体を見回す。

「あれぇ?!私、ちっちゃくなってる?!」

「エリスはまだ子供なんだから、当たり前だろ。」

私と同じ金髪碧眼の髪の短い背の高い少年が呆れた様子で言う。

「お兄様…」

私の表情が不安げに見えたのだろう。

少年が安心させるかのように微笑んで言う。

「安心しろ。俺が完璧にこなしてやるからさ。お前がやりたいこと全部出来るように全力を尽くすからな!」

小さくも力強い手が私の頭を撫でる。

「お兄様はそれでよろしいのですか?お兄様にもやりたいことはあるのでしょう?」

「何言ってやがる。俺は王族として、やるべきことをやらなければならないんだ。自分勝手に妹のお前に押しつけるなんてダサいことするくらいなら、死んだ方がマシだね!それにさ…」

少年が続きを言おうとした瞬間だった、目の前の扉が開いて上裸の筋骨隆々で胸に大きな傷跡のある大男が現れる。

大男は汗まみれの体をタオルで拭きながら言う。

「ガッハッハッ!お前たち、ワシを待っていてくれたのか?可愛いやつじゃのう!」

大きく押し潰されそうな手が私の頭を揺らす。

「アワワ…」

「お父様…いえ、アーミア王、力が強過ぎます。エリスが危ないですよ。」

少年が優しく私の体を抱き寄せる。

「おぉ!すまんすまん!ガーヴァレスの時のように撫でてしもうたわい。」

ガーヴァレスはポケットからクシを取り出して、くしゃくしゃになった私の髪を整えながら言う。

「エリスは私よりも小さいし、力も弱いのですから、加減はしっかりしてください。エリスが怪我でもしてしまえば、世話係のカルネに怒られますよ。」

「うむぅ…カルネに怒られるのだけは勘弁じゃ。あやつを怒らせると怖いからのう…」


カルネは幼少期のエリスの護衛であり、世話係も兼任している中犬族ちゅうけんぞくの女性だ。

エリスと同い年の娘、ルインの母親であり、華奢な見かけによらず、バルバロス…アーミア王よりも力が強いのだ。

カルネは元A級冒険者であり、強靭な脚技で龍種のモンスターを含む数多のモンスターたちを倒してきた歴戦の勇士だった。

しかし、ある依頼でモンスターとの戦闘中に乱入してきた正体不明のモンスターの攻撃によって、大きな怪我をしてしまったため引退をしたらしい。

それがきっかけで職がなくて王都を彷徨っていたところをアーミア王に拾われて、私の護衛になったんだ。

カルネのいつも長い前髪で隠れている右眼には大きな傷跡が残っており、他にもお腹や右腕にも傷跡が残っている。

右眼の傷よりはわかりにくいとは言え、その傷跡は見てるだけでも痛みを感じてしまいそうになる。

右眼はそれよりも深く、見てるだけでも目が疼き、痛みを感じる。

右眼の傷跡は呪いのような力で切り裂かれた傷だから、ほとんど治らず、痛みが継続し、見た者にも同じような痛みを与えるので前髪で隠しているのだと言っていた。

この正体不明のモンスター自体は討伐したが、倒した瞬間に一瞬で霧散したため、外見が真っ黒な狼型であること以外は何もわかってないそうだ。


「よし。もういいぞ、エリス。」

そう言ってガーヴァレスがクシをしまう。

「お兄様、ありがとう!」

「どういたしまして」

ガーヴァレスが無邪気に笑う私の頭を撫でる。

そんな微笑ましい光景に思わず笑顔が溢れる二人にバルバロスが言う。

「ガーヴァレス、エリス、そろそろ昼飯を食いに行くぞ!一日三食、バランスよく食べることも強い体への道じゃからな!」

「ムフー」と言う音が聞こえてきそうなほど嬉しそうにはしゃぐ姿は普通の平民の少年のようであった。

「はい!お父様!」

元気よく返事をするガーヴァレスもまた少年のような笑顔だった。





心地よい風に目を開ける。

「…夢…だったのかな…?」

私は元の身体に戻っていることを確認しながら言う。

「おはようございます。エリス王女様。」

「うわわっ!?びっくりしました…」

私は驚いて飛び上がりながら声の主を見る。

「驚かせてしまってごめんなさい。私はシェラ様のメイドのオリオンです。」

美の神を彷彿とさせるような美しい容姿の女性がにこやかに微笑みながら言う。

「あ、えっと…私はエリスです。」

私はまだ夢の中にいるような気分だった。

「はい。存じておりますよ♪第二冠のお姫様なんですよね!」

オリオンはとても嬉しそうな声で満面の笑みを見せる。

私自身は王族であるが故によく見たような表情だが、彼女の場合はそんな有象無象の笑みとは違い、心の底からの笑顔のように感じる。

夢であったとしても、夢では無かったにしてもこんなに嬉しそうにしてもらえるとこっちまで嬉しくなる。

そういえば…と私が疑問に思った瞬間だった。

「ご安心してくださいませ。ちゃんと現実ですよ♪それとここはシェラ様の魔道具の中の世界なんです。ここなら安全に休めるだろうとお考えになられたようですね。いざと言う時のために私が居て良かったです。」

「そうだったんですね。シェラさんには助けてもらってばっかりですね…」

「アハハ!シェラ様が聞いたら、「あれ?私、なんかしたっけ?」とか言っちゃいそうです♪」

「おおー!今のとてもシェラさんに似てましたね!」

「フッフーン♪私は神様なので、なんでも出来ちゃうのです!ドヤァ…」

そう言って、胸を張ってドヤ顔する姿はとても愛らしいものがある。


大きいなぁ…私もあれの半分で良いから大きくなるといいなぁ…


「シェラ様の好みに合わせてますからね。とは言っても、シェラ様の理想の姿と言う意味での好みですけどね♪」

「そ、そうなんですね。」


シェラさん、今でも十分大きいのに、もっと大きくなりたいんだ…

私なんか、男みたいな胸だなとか言われちゃうのに…

神様は残酷だ…

…いや、目の前にも神様いるけども!


「ふむ…少しだけなら、私の力でも大きく出来るかもしれませんね。私はエリスさんのように可愛らしい容姿も素敵だと思うのですけど…」

訂正、目の前の女神様はとても素敵です。

「大きくしてください!お願いします!」

食い気味に言う私にオリオンは少しだけ引いていた。

「では、始めますよ~!」

そう言ってオリオンがどこからともなく先に星がついたステッキを取り出す。

「アブラカターブリヤッメンモティンモッティーオープァーイオキッナマーシマーシデッカーオーピィアーイ…ラッシャーイマセー!」

オリオンが謎の呪文を唱えながら、ステッキをクルクル回す。

不思議な感覚が体を包み込むのを感じる。

不思議な感覚が無くなる。

私は恐る恐る下を向く。

「…」


あれ?なんか変わった?


そんなことを思っているとオリオンが言う。

「一応、僅かには大きくなったと思いますよ。ほとんど変わらないくらいしか変わりませんでしたが…とても言い難いですが、これ以上はダメみたいですね…」

一応、直接触ればわかる程度の違いだった。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ…」

受け入れたくない事実に膝を着く。

「お力になれなくてごめんなさい…代わりにと言ってはなんですが…」

そう言ってオリオンが不思議な力を感じる赤と白の紐で編んだ首飾りを差し出す。

「これをつければ一時的にですが、自分の姿を変化させることが出来ます。効果が切れた時は魔力を流してあげるとまた変化出来るようになりますよ。」

私は藁にもすがる思いで、それを首につける。

「もっと大きくなりますように…もっと大きくなりますように…!」

私はありったけの魔力を流す。

「エ、エリスさん?!」

オリオンが驚いた様子で言う。

眩い光が視界を白く染める。

「きゃああああああ!」

オリオンの叫び声が聞こえた気がした。

視界が元に戻ると私は下を向く。

そこには立派な谷間ができ…

「…あれ?なんか…思ってたより小さいような…」

ふと周りを見るとさっきまでいたはずのオリオンの姿が見当たらない。

「あれ…オリオンさんはどちらに行かれたのでしょう?」


そう思っていると何かが足の裏を押してるような感覚がする。

気になって足を退けるとそこには小さくなったオリオンさんがいた。

いや、逆だ!私の体が巨人族ギガントみたいにでっかくなっちゃったんだ!


「ごめんなさい!何が起きたのかあまりわかってなくて…」

私が手ですくうように持ち上げて言うとオリオンは服に着いた土を払い落として言う。

「…エリスさんのお姿が大きくなってしまったんですよ。多分、魔力の過剰供給が原因だと思うのですが。」

「えっと…元に戻るにはどうすれば…」

「今差しあげた首飾りを外すか、時間が経てば魔力切れで元通りになると思うのですが…」

私はオリオンを地面に下ろして首飾りを外そうと試みるが…

「あれ?どこを探しても見つかりませんね…」

私は内心焦りながら探す。

しかし、見つからなかったので、オリオンの力を借りることにした。

「では、行きますよ…探知サーチ!」

オリオンがそう宣言するとオリオンの左眼が紅くなる。

「これは…」

オリオンが驚いた様子で言う。

「エリスさんの大きくなってしまった体内に取り込まれてしまったようですね。」

「えっと…つまり…」

「はい。体を引き裂いて取りに行くか、魔力切れまで待たないといけません。」

「そんなぁ…」

私がガックリと肩を落とすとオリオンは何かを思いついた様子で言う。

「エリスさん、私が魔力を吸収すれば、首飾りの魔力がなくなって効果が消えるかもしれません!」

私はオリオンの提案にかけてみることにした。

「全部吸っちゃう勢いでお願いします!」

オリオンは笑顔で言う。

「かしこまりました!では、マジックドレイン!」

オリオンの魔法が私の体を包み込み、内側から魔力を吸収する。

あっという間に魔力が全て無くなったような感覚がしたと同時に私の体が「ポン!」と音を立てて元の体に戻る。

「なんだか、さっきより小さくなったような感覚がします。」

そんなことを言っているとオリオンが言う。

「私が能力で大きさを変える前まで戻りましたね。首飾りの方は…あ、ありました!」

オリオンが少し離れた場所に落ちている千切れてしまった首飾りを拾う。

「すみません…せっかくご用意していただいたのに壊しちゃって…」

「いいんですよ。元々過剰な魔力を送ったら壊れるように設計してますので…それにより良いものをまた作れば良いだけですから♪」

オリオンはそう言って楽しそうに笑う。

「あの…やっぱり、私、いつもの私でいいです。先程の出来事で自分の良さを活かした方が良いと思いましたので…」

それを聞いたオリオンはとても嬉しそうに微笑む。

「かしこまりました♪」

オリオンはそう言いながら服を出す。

黒いタキシードのような服でとてもかっこいい服だ。

その服に見とれていると下着も出してくる。

真っ白でフリルの着いたシャツとパンツだ。

「こちらはお詫びとして受け取ってくださいませ。」

私はありがたく受け取ると同時に自分が裸になっていることに気がつく。

「…ッ?!いつの間に…」

私が驚いているとオリオンが言う。

「実は先程大きくなってしまった時に服にだけ効果が効いてなかったみたいですね。そのせいでせっかくのお洋服が破けてしまっていたので、代わりになればと…」

「それは…すみません…」

私は恥ずかしさを押し込みながら服を着る。

私の姿を見たオリオンが嬉しそうに言う。

「思った通り、とてもかっこいいです♪エリスさんの魅力に誰もが見惚れること間違いありませんよ!」

「アハハ…そこまで言われると照れちゃいます…」


本音を言えば、かっこいい人より可愛い人になりたいけど、こう言う服でかっこよくなるのも悪くないなと思う。

オリオンさんの用意してくれたこの服のサイズ感もピッタリで私のために特注で作ったのかと思えるほどだ。

着心地のよい肌触りで動きやすく、魔力の流れが良くなったような気がする。


「その服…タキシードって言うんですけど、タキシードの素材にオリハルコンの粉末も織り込んでいるんですよ。なので、魔力効率も格段に上がっているはずですよ♪」

「えぇ!?オリハルコンを使ってるんですか!」

私は使われている素材にとても驚いた。


それもそのはずだ。

オリハルコンは伝説の鉱石と言われるほど、希少価値が高く、滅多なことでは手に入らないものなのだ。

それは王族であっても同じで一生に1度でも見れるだけで運がいいと言われるほどなのだ。

それほどまでにオリハルコンが希少価値の高い素材であるのには訳がある。

実はオリハルコン自体は普通の鋼鉄と同じ素材なのだが、ここに高濃度の液体化した魔力…魔力液プレスィが蓄積されたものが長い年月をかけて混ざり合うことでオリハルコンの原石となる。

そして、その原石を掘り出すには特殊な技術が必要なのだが、現在ではとある家系の者のみが扱える技術で無ければ掘り出すことが出来ないのだ。

もしその技術なしで掘り出そうとすれば、一瞬でただの鋼鉄になってしまうため、オリハルコンの状態で存在する物はかなり珍しい。

もちろん、アーミアの家系も掘り出す技術のない家系だ。

他の王家の家系も同じく掘り出す技術のない家系であり、どこの国でも共通して高値で取引される。


オリオンは驚く私にさらに言う。

「はい。シェラ様から分けていただいたものにはなりますが、魔力に非常に馴染みやすいので、重宝してるんですよ。」

私は「ゴクリ…」と無意識に生唾を飲み込んだのを理解する。


シェラさんが変わった人だと言うのは理解をしていたつもりだが、ただ変わっているだけではなく、技術力も高い人なのだと再認識する。

考えてみるとティアラさんと戦っていた時も高い実力が垣間見えており、馬車の中で使った傀儡魔法の人形ゴーレムも完璧な精度のものだった。

権能を使えば、とんでもないことがわかりそうだと期待と不安の入り交じったような感情が湧く。


「そうですね…シェラ様に口止めされていますので、私からは言いませんが、シェラ様は神である私から見てもとんでもない人であることは間違いないですよ。」

私は脳裏にある人物の名が浮かび上がった。

その人物は神話に語られる五大英雄であり、数々の伝説を残してきた人物だ。

才色兼備を体現したかのような数々の功績は私たちの今ある世界の根幹を作り上げたとされている。

その人物の名は…

「うわっ!?」

地面が突然傾いて転げ落ちそうになる。

不思議なことに、私だけが転げ落ちそうになっているようだった。

オリオンが察したように言う。

「シェラ様からお呼びがかかっているみたいですね。少し胸騒ぎがします。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

文字通り天地がひっくり返ると同時に私は空に吸い込まれる。

そして、ぽっかりと空いた黒い大穴に落ちた。

「斬れぇ!」

同時に左手で持った剣を振り抜く!
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