元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ

文字の大きさ
上 下
32 / 40
現代の常識学

最古のエルフと神代の魔王

しおりを挟む
時は数十分ほど前の話である。

「久々に動くと少々疲れるのだわな。」

儂が少女を送り出して少したった頃だ。

誰が見ても明らかに異常な量の大発生をしていたD~Bランクのモンスターを殲滅して、一息ついた時だ。

『ふん。この程度で音を上げるなど、貴様らしくない。』

そう言って、儂の中に居るがため息をつく。

「たわけ!儂が音を上げるわけがないのだわなっ!そもそも、主人と共に戦うのが、お主との契約なのだわな!」

『ほう?この程度で音を上げるだけでなく、我に手を貸せとな?こんなもの、貴様にとっては準備運動にもならんはずなのだがなぁ?』

「全く…お主はいつもああ言えばこう言うのだわな。」

『どこぞのエルフにでも似たんだろ。』

「はぁ…まあよい。お主が出ないのは、儂の実力もまだまだ衰えてはおらぬと言うことなのだわな。」

『ふん。言ってろ。』

儂が魔王と言い合っていると突然周囲の様子が変わる。

とてつもない重圧感を感じる魔力がこちらに向かってきているのを感じる。



『わかっておる。今の貴様では勝てぬ相手だ。我に任せよ。』

「すまんが、頼んだわな。」

とてつもない魔力の持ち主が儂の前に姿を現すと同時に目の前に宝石のように輝く藍白あいじろの長い髪の少女が現れる。

少女がゆっくりとまぶたを上げ、猩々緋しょうじょうひの左眼と葡萄染えびぞめの右眼で相対者を見る。

少女の外見は人間の8歳頃の少女のものと同じであり、見た目では魔族とは到底思えないような可憐な容姿をしている。

服装は透けてしまいそうなほど薄い白い布の袖のないワンピースを着ているだけだった。

少女の姿を見た相対者の男は言う。

「へぇ…この俺様に匹敵する力を持ったやつがいるなんておもしれぇじゃん!」

儂を見た男が閉じられた左眼に傷のある顔でにやりと笑う。

「ふん。舐められたものだな。」

アスタロテは呆れたように言うと空間から鋼の剣を二本取り出して両手に持つ。

左手は刃が後ろ向きになるように、右手は刃が相手を向くようにして持っている。

それを見た男が100点満点のゲス顔で言う。

「おいおい、のくせに俺様に歯向かうつもりかい?」

まずい!その言葉は…!

「…よく聞こえなかったな。もう一度言ってみろ。」

アスタロテの周りの空気が変わる。

のくせに俺様に歯向かうつもりかと言ったぜ。」

「ほう…この我に対しとな…」

アスタロテの表情は笑っているが、眼が完全に獲物を狩る獣の目をしていた。

アスタロテは自身の背丈の倍はある魔力の翼を出現させる。

「ベル、貴様は離れてろ。」

「あまりやりすぎないようにするのだわな」

「手は抜くさ。」

アスタロテがそう言った瞬間にアスタロテの姿が男の目の前に現れると同時に勢いよく左手の剣で男を斬らないようにして、男の腹に拳を叩きこんで男を吹っ飛ばす。

男は少し離れたところの木に叩きつけられる寸前で体勢を立て直す。

「見た目はおチビちゃんだが、拳はカイザーコングだな。ガハッ!」

男が呟くように言うと吐血し、その血を見て男は驚いたように目を見開いた。

「あの一撃で俺様が吐血するだと…あ、ありえねぇ…あんなの身体でそんな筋力が出るわけが…いや、俺様はチビでも怪力になれる方法を知っている。ならば、相手もそれを知っていて当然か…」

男の雰囲気が変わる。

「おチビちゃん…いや、女。お前、名はなんと言う?」

「ふん。礼儀のなっとらん小童こわっぱだ。人に名を聞くなら、まずは自分から名乗るのが礼儀だぞ。」

「…そうだな。俺様は西の国の勇者、ガイアだ!」

アスタロテは少しだけ考えるように斜め上を見る。

「勇者?…ああ、人間の強化個体か…」

思い出したような素振りを見せて、アスタロテが名乗る。

「我はアスタロテ。今はただの魔族だ。」

ガイアが剣を構えて言う。

「アスタロテ…良い名じゃねぇか…俺様に血を吐かせた女。その名は俺様が後世まで語り継いでやるよ。」

「お前に後世が訪れたらの話だろう?」

アスタロテが呆れたように言う。

「んじゃ、仕切り直して…」

ガイアの目の色が変わる。

文字通りに目の色が変わって青い目が赤くなった。

「行くぞ!アスタロテ!俺様の剣の礎となれ!」

音すらも置いて行くほどの速さで斬り掛かるガイアの剣をアスタロテは軽々と左手の剣で防ぐ。

「少し遊んでやろうぞ。」

アスタロテがそのまま左手で押し返すと同時に左手の剣を振るって凄まじい斬撃を発生させる。

押し返されて空中に投げ出されたガイアは空中で体勢を整えると空気を蹴って斬撃を避ける。

背後にある斬撃が通った木が文字通りに一瞬にして粉になる。

「デタラメな力だな。だが、これならどうだ!」

ガイアの魔力が高まる。

「炎よ!爆ぜろ!フレアボム!」

ガイアが剣を振るうと爆発する炎の弾が放たれる。

「脆い…アクア」

炎の弾がアスタロテの周囲に浮かび上がって放たれた小さな水の弾によって相殺される。

「おかわりもくれてやろう。」

アスタロテが左手の剣を全くの同時に2、クロスさせて振るうとX字の斬撃が放たれる。

「健脚を!スピードアップ!」

ガイアが強化魔法を使って速度を上げ、斬撃を避けながら、突撃する。

アスタロテは気がついているのかいないのかわかりにくい動きで左手の剣でガイアの怒涛の連撃を軽く受け流す。

「どうした?勇者とやらは、この程度なのか?」

「なら…」

ガイアの目が一瞬だけ、儂を見た気がした。

「これならどうだ!ホーリーランス!」

それが一瞬でべリュティエールの身体を貫いた瞬間、べリュティエールの姿が消える。

アスタロテが一瞬だけ焦ったような表情をしたが、すぐに心配はないと判断したように元の表情に戻る。

「チッ…外しちまったか…」

ガイアは言葉とは裏腹に当然だなと言いたげな表情をしていた。

「格上の契約魔族を倒すには、その主を殺せば良い。だが…」

アスタロテの中からエルフの少女が現れる。

「儂とて、伊達に長く生きてはおらぬよ。もっとも、今の儂ではお前をやり合うことの出来るほどの力は無いのだがね。」


逆接召喚と呼ばれる特殊な召喚魔法によって、アスタロテの身体の中に自身を召喚し、通常の召喚魔法と同様の方法で自身をアスタロテの隣に召喚する。

逆接召喚を行うだけでもとてつもない技術が必要なのだが、それを容易く使いこなす召喚魔法のエキスパートとも呼べる存在が、このべリュティエールと言うエルフなのだ。

彼女の手にかかれば、どんなに難しい召喚魔法でも寝ていても使えるような簡単な技術となる。

長い間、戦いの場から離れていたため、本人の戦う力はかなり衰えたが、それでもA級の実力を維持出来る能力がある。

召喚魔法は自身の身体能力がC級と同等まで弱くなろうと召喚魔法を使いこなせば、A級の中でもトップクラスの実力になるのだと、べリュティエールは豪語している。

ちなみにこの逆接召喚の技術は大賢者が知らないどころか、この世界の以外の全ての種族が知らないほどの秘術であり、その種族の存在はいつの時代もおとぎ話でしか語られないほどに何もわからない種族だ。

人も神も魔の者も誰もが存在すら知らないが、どの種族も例外なく力を借りている種族…

その種族は妖精フェアル

その姿はほとんどがヒトと変わらない姿であり、たまに精霊族と同じ翼を持つものがいる程度だ。

彼らのみが逆接召喚を知っており、逆接召喚を扱える唯一の種族だ。

しかし、それは妖精としての覚醒をした者に限られるため、今では失われた存在として扱われている。

そして、彼らはこの世界のに強く関係している存在だ。

べリュティエールは妖精では無いが、妖精から技術を受け継いでいる為、逆接召喚を扱うことが出来ている。


アスタロテが魔力を込めながら、呪文をする。

「全ての者はこれを恐れ、これを悪とする。我はこれを受け入れ、これを操りし者…」

黒い魔力によって魔法陣が描かれ始める。

「させるかぁ!」

ガイアが怒涛の連撃をアスタロテに放つがアスタロテは全て左手の剣飲みで軽く受け流していた。

「光ある所に我はあり、我は反逆の化身…悪逆非道も等しく我に還る運命…今宵、汝はこれを知り、これに塗り潰されよう…」

アスタロテがガイアを弾き飛ばすと同時に魔法陣が完成する。

黒く禍々しい魔法陣が不気味な光を放って漆黒の炎で燃えるが取り出される。

「しまっ…!」

「愚かなる人類よ…を思い出すがよい!ダークブレイズ!」

が激しく燃えながら、ガイアの身体に黒い火をつけ、を焼く。

「ガアアアア!暑い暑い暑い暑いアツイアツイアツイアツイアツアアアアアアアアアアアアアアアア………………………」

ガイアが白目を剥いて叫び、やがてその声が消える。

ガイアの身体から黒い炎が消えると同時に糸が切れた操り人形のように膝を着く。

「今のは…」

儂がそう呟くとアスタロテは言う。

「やつのは死んでおらぬぞ。」

儂はその言葉で全てを悟った。

「恐ろしい事をしてくれたのだわな。」

アスタロテがガイアの頭に手を置く。

読取サーチ

そして、その記憶を読み取る。

それはとてもとても不快でとてもとても苦しみを伴いながら、ありとあらゆる記憶を吐き出す呪いとなる。

ガイアの身体が苦痛に顔を歪める。


意識も魂も無い者に感情も苦痛もないはずなのだが、それすら間違いだと思ってしまいそうなほどに、これは苦痛が酷いのだろう。

いつもの事ながらがやることにはゾッとする。


そんなことを考えているとアスタロテがガイアの頭から手を離す。

「還るがよい。」

アスタロテがそう言ってガイアの体を跡形もなく消し去る。

「ベル、あやつは西の国の者では無く、勇者でもなかったぞ。厳密に言えば、勇者の素質はあったが魔と契約し、魔の者になってしまった哀れな抜け殻であった。故にあの体の本来の持ち主に体を還してやった。」

だが、儂の耳では

それを察してか、アスタロテはため息をついて言う。

「貴様にも聞こえたと思うが、あやつの記憶の中では、あやつは西の国の勇者であった。故に事実と異なるが、嘘はついていなかった。これは憶測にはなるが、我らを消そうと目論む者が今回の騒動を引き起こした可能性が高い。」

アスタロテは息を大きく吸って深呼吸すると一瞬だけ動きが止まる。

「ふむ…西の国の侵攻もあるようだな。西の国の王を唆した者がいるのだろう…」

アスタロテは何かを受信したかのように右手の人差し指で頭を指す。

「貴様が送り出したあの小娘…確かシェラと言ったな?」

儂は小さく頷いて肯定する。

「西の国の目的自体はこの国を陥落させ、支配することであるのは間違いないが、その裏にいる者はシェラの魂を狙っておるようだ。これ以上はではわからなかったがな。」

「…これはシェラにもを話してもらう必要があるのだわな。」

儂がそう言うとアスタロテが首を振る。

「その必要は無い。我のの力で見たからな。」

「見た…のだわな?」

儂が首を傾げると不敵な笑みを浮かべたアスタロテが言う。

「あやつは遠い昔、貴様が産まれるよりも昔に存在した大賢者だ。それも転生者として復活した者だ。」

「なんじゃと?!転生魔術なんか2000年以上生きておる儂でも知らないのだわな!?」

儂が驚きの声をあげるとアスタロテは楽しげに笑って、とんでもないことを言う。

「あやつの契約魔族、それもだ。根源の白でありながら根源の白では無い者だが、その力は限りなく根源の白に近いと言える。」

アスタロテはそう言うと見た目相応の可愛らしい笑顔でほんの少し声を上ずらせながら言う。

「フフッ…ブランの力を持つ者がどれだけ強くなるのか…今から楽しみじゃ…」

儂はアスタロテの考えていることが恐ろしいと思ったが、転生魔術を扱う者がこの世界にいた事にも驚いた。

もしそれが儂でも扱えるものなら…

「その時は貴様の願いも叶うだろうな。」

「勝手に主人の考えを読み取るなんて生意気なのだわな。」

「ふん。油断しておる貴様が悪いのだ。それに我にも関係のある事ではあるからな。」

「…それもそうなのだわな。」

アスタロテは「ふわぁ…」と大きな欠伸をすると霧状になって消える。

べリュティエールは自身の中にアスタロテが戻って来たのを感じながらエリアを見回って帰るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

お願いだから、私を師匠と呼ばないで!

水定ユウ
ファンタジー
 中学生、白澤黒江《シロサワ・クロエ》は進級して三年生になったばっかりだと言うのに呆気なく死んでしまう。本人も気が付かぬ間に死んでおり、目覚めるとそこは天界と呼ばれる殺風景な場所であった。そこにいたのは優雅な佇まいの一人の女神ソフィアの姿で、彼女曰く「貴女の死は手違いです」と言い放たれてしまう。 理不尽な死をあっさりと受け入れた黒江に対しソフィアは「せっかくなので異世界に行きませんか!」と軽い冗談を本気で言ってきて……  なんやかんやあって異世界に転生したクロエはめちゃくちゃな加護(複数)と持ち前の呑気さでまったりと過ごしたいのだが、そう上手くもいかないのが定番なのだったーー

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的
ファンタジー
魔法仕掛けの古い豪邸に残された6歳の少女「ノア」 そこに次々と召喚される男の人、女の人。ところが、誰もかれもがノアをそっちのけで言い争うばかり。 もしかしたら怒られるかもと、絶望するノア。 でも、最後に喚ばれた人は、他の人たちとはちょっぴり違う人でした。 魔法も知らず、力もちでもない、シャチクとかいう人。 その人は、言い争いをたったの一言で鎮めたり、いじわるな領主から沢山のお土産をもらってきたりと大活躍。 どうしてそうなるのかノアには不思議でたまりません。 でも、それは、次々起こる不思議で幸せな出来事の始まりに過ぎなかったのでした。 ※ プロローグの女の子が幸せになる話です ※ 『小説家になろう』様にも「召還社畜と魔法の豪邸 ~召喚されたおかげでデスマーチから逃れたので家主の少女とのんびり暮らす予定です~」というタイトルで投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...