9 / 37
記憶の断片
少女、勧誘される。
しおりを挟む
エールは倒れているブァレスにギョッとしながら、大興奮しているメイリーンと抱きしめられている私の元に来る。
その後からカリヤとシャタルアが私の傍に来る。
「お、シェラじゃねぇか!ちょうど良かった!お前さんのランクの件についてだがな…とその前にあれはなんだ?」
エールが倒れているブァレスを見て言う。
「いつものやつをシェラさんが止めてくれたんです!シェラさん、強化魔法以外何も使わないで倒しちゃったんですよ!もうほんっとに強くて!ギルド長、私、冒険者復帰します!そして、この子のパーティになります!」
大興奮のメイリーンにエールが言う。
「待て待て。急展開過ぎるぞ。んで、まずはあれはシェラがやって、メイリーンは冒険者の復帰とシェラをパーティに入れたいと?」
「だいたいそんな感じですね。私はカリヤ…この獣人の子ですね。この子の適性検査を受けに来たんですよ。」
私がメイリーンに抱きしめられたまま言うとエールが「なるほどな」とカリヤを見る。
カリヤは一瞬ビクッと体を震わせていた。
「まずははじめましてだな。俺はこのギルドのギルド長のエールだ。よろしくな。」
エールが人懐っこい笑みを浮かべながら右手を出すと緊張している様子のカリヤは一瞬私を見て安心した表情をして言う。
「ボクはカリヤ…よ、よろしく!」
エールは続けてシャタルアの方を見る。
「あんたは…?」
エールの雰囲気がほんの僅かに変わった事でエールがシャタルアを人間では無いと認識したと感じる。
「我…じゃなくて、私はまお…シェラのお供のシャタルア…じゃなくて、シャルじゃよ。」
シャタルアは偽名を名乗っているが、バレバレだった。
エールはニヤリと笑って言う。
「そうか。シャタルアって言うのか。」
「んな?!」
シャタルアが驚いた表情をしていた。
「どうしよう…我の本名バレてしまったのじゃ。このままじゃ、我が魔王だって知られちゃう…い、いや、まだ…同性同名って事に…」
「同性同名作戦を練るのは良いが、全部言っちゃダメだろうよ。」
エールが呆れた様子で言うとシャタルアは一瞬変身魔法が解けかけながら驚いた表情で言う。
「え?なんでバレておるのじゃ?!」
「全部言ってるぞ。」
エールが言うとシャタルアが私を見る。
「何もやってないよ。」
シャタルアは驚いた表情で震えていた。
「ま、そう身構えんな。俺はシェラのお供なら、歓迎するぜ。ついでにタッパのデカい女は好きだからな。」
シャタルアはエールの言葉と視線に顔を赤くしながらも自慢げに胸を張る。
私へのアピールだなアレは…
あ、こら!チラッと私の胸を見るな!
前世よりはあるだろ!
エールはその様子を見て笑いながらカリヤに言う。
「さて、無駄話はこれくらいにしてついてきな。」
カリヤが私の顔を見るので頷くとカリヤは尻尾をピンと立てて一瞬嬉しそうに笑ってエールについて行く。
少ししてガックリと肩を落としたカリヤと共にエールが戻ってくる。
「カリヤ?」
私が言うとカリヤはしょんぼりしたまま言う。
「魔力…無かった…魔法…使えない…うぅ…」
そんなカリヤの様子を見ながら、少しだけ言いづらそうにエールが言う。
「カリヤの適性は武術家だな。こっちは魔闘士と違い、マジで己の肉体だけが頼りになる職業だ。シェラも本来は魔法とは縁のない盾騎士が適性だし、そう気を落とす事は無いと思うぜ。」
エールが最後に励ましの言葉を言うとカリヤはほんの少しだけ元気を取り戻した様子だった。
「ま、私が居るから、カリヤも中級魔法くらいなら、軽く使えるようになるよ!無理なら、新しい魔法を開発すればいいしね。」
私が笑ってカリヤにそう言うとエールは頭を抑えながら言う。
「サラッと新しい魔法を開発しようとしないでくれよ…まあ、出来たら報告はしてくれよな。」
「当然ですわっ!私、こう言った魔法開発とか研究が大好きなんで、バンバン開発しちゃいますからね!」
私が胸を張って言うとシャタルアが勢いよく反応する。
「いや、ほどほどにせんかいっ!」
ビシッと音が聞こえそうな見事なツッコミにエールが思わず吹き出していた。
カリヤは何故かすっごい引いた目でエールを見ていた。
「あ、そうそう。シェラのクラスの件だが、満場一致でAランクだったぞ。」
エールはあっさりとそんな事を言う。
「…ん?聞き間違えたかな…今、Aランクって聞こえたような…」
「聞き間違えでも無ければ、言い間違えでもないぞ。満場一致でAランクだ。Sランクにはさすがにならなかったが、実績が出来ればSランクも目の前だな。」
「よ~し!シェラちゃん、これから私たち4人で頑張りましょうね!」
いつの間にか防具を取りに行ってたメイリーンが戻ってくる。
「待て待て!お前には受付嬢の仕事があるだろ!」
エールが食い気味に反応するとメイリーンの目つきと声音が変わる。
「よし!エール、私と決闘しろ!豪傑の女鬼の力見せてやるぜ!」
「エールさんとメイリーンさんの決闘だなんて面白そうな事になりましたね!よっ!ギルド長、その実力見せてくださいませ!」
私がわざと大声で言うと周りの野次馬たちも「ここで逃げたら、冒険者の名が廃るぜ!」とか言って煽っていた。
「わかった!わかったから!決闘場で戦うから!」
少しして武装したエールとメイリーンが決闘場の舞台に上がる。
「私が勝てばシェラちゃんとパーティ組みますからね!」
メイリーンが声高らかに宣言する。
「じゃあ、負けたら受付嬢で良いな?」
「もちろん、私は負けないので、それで大丈夫です!」
メイリーンは食い気味にエールに言う。
審判が審判台に上がって言う。
「それでは、ただいまより豪傑の女鬼:メイリーン・アリアンティールと開進の狂戦士:エール・グライド=グランディーテの試合を始めます!両者とも所定の位置に着いてください。」
二人は所定の位置に立つ。
「それでは…試合開始ぃぃぃぃぃぃぃ!」
戦いの火蓋が切って落とされた瞬間、一瞬でエールの前まで移動したメイリーンの左の拳をエールが大斧の柄で受け流して、反撃の横薙ぎをメイリーンがバックステップで避ける。
『うおおおおお!!!』
開始早々から繰り広げられる戦いに観客たちは大盛り上がりだ。
「はぁぁぁああああ!ウォークライ!」
メイリーンの身体強化技能でメイリーンの力強さが増す。
「うおおおおお!!!ウォークライ!」
エールも同様に身体強化技能で力強さに拍車がかかる。
「行くぞ!絶空斬!」
エールが振り上げた大斧から風の刃が無数に発生し、メイリーンに向かって侵攻する。
「アースクエイク!」
メイリーンが勢いよく地面に拳を叩きつけるとメイリーンの目の前の大地が盛り上がって風の刃を弾き飛ばす。
「ショット!」
メイリーンの拳が盛り上がった大地に叩きつけられると同時に粉砕した大地の瓦礫が凄まじい勢いでエールに向かって無数に飛んで行く。
「うがっ!グッ!このっ!」
エールはギリギリのところで全ての瓦礫を叩き斬るが細かな破片がエールの肉を割いていた。
「だいぶボロボロになっちまったな…」
エールが特に傷の多い右腕を見る。
「あはは!でも、良いウォーミングアップにはなったんじゃありません?」
鬼神のような笑みを浮かべながらメイリーンが言う。
「そうだな…ここからが本番だ!」
そう言うと二人はとてつもない速さで飛び上がると凄まじい空中戦を繰り広げ始め、メイリーンがエールに叩き落とされると同時にエールの追撃がメイリーンに襲いかかるがメイリーンはそれを紙一重で避けて反撃の拳をエールの腹にぶちこむ。
「ガッ!負けるかよぉ!」
エールは腹に拳をぶちこまれて全身の傷跡から血を流しながらも大斧の刃を縦にして、そのまま勢いよく鈍器のように横に振ってメイリーンを叩き飛ばす。
「グッ…さすがギルド長…やるわね…」
叩き飛ばされた先で左腕が力なく垂れたメイリーンが言う。
おそらく、肩の骨が折れて腕に力が入らないのだろう。
顔以外全身が血まみれで肩で息をしているエールが言う。
「メイリーンも良くやるじゃねぇか。とても前線から身を引いてた身とは思えないくらいだ。」
「あはは…これでも豪傑の女鬼と呼ばれた身ですからね。」
メイリーンが構えると同時にエールも構える。
「じゃ、これで決めましょうか!」
「叩き落としてやるぜ!」
二人が同時に地を蹴って、先にメイリーンの拳がエールの鳩尾を突き、エールを直撃寸前だった大斧ごと吹き飛ばす。
エールが片膝をついて手を上げると同時に審判の「勝負あり!」の声が響く。
「勝者!豪傑の女鬼:メイリーン・アリアンティール!」
それまで静かだった会場が大盛り上がりになる。
「シェラちゃーん!やりましたよ~!愛の力の勝利で~す!」
メイリーンが観客席の私に投げキッスをしながら言う。
その熱烈な視線には周囲の男たちも勘違い出来なかった。
「…あれ、ヤバい目をしてないか?」
シャタルアがボソッと引いた目で言う。
「かっこいい…」
カリヤはカリヤでなんかめっちゃ感動していた。
こうして、無事(?)にメイリーンはパーティに参加する事となったのである。
舞台の上で二人が握手をする。
「メイリーン、冒険者の復帰おめでとう!これから頑張れよ!」
エールはニカッと笑う。
「エールさん、ありがとうございます!今まで受付嬢として共に仕事出来て楽しかったです!」
「だっはは!ギルド長としては優秀な受付嬢のお前さんが居なくなるのはつれぇけど、今度は冒険者としてやっていけるからな!今後は冒険者としてよろしくな!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
メイリーンとエールが舞台から降りると閉幕の義をして、皆が決闘場から出て行く。
私たちも出て、ギルドの中で待っていると着ているものの消耗具合を見なければ、先程まで戦っていたとは思えないくらい綺麗に傷跡の治った二人がやってくる。
「シェラちゃん、これから一緒にたっくさん、冒険しようね!」
メイリーンが嬉しそうに尻尾を振って言う。
「そうですね。これからは仲間としてよろしくお願いします!」
「はーい!こちらこそよろしくね!」
カリヤとシャタルアも同じようによろしくと挨拶をし終えるとエールが言う。
「そいじゃ、お前らのパーティ加入を…とその前にカリヤは先に試練を受けてからパーティ加入の書類を書けるようになるから、まずはシェラとメイリーンの申請書を提出してくれ。詳しくはメイリーンが知っているはずだから、メイリーンの指示でやってくれ。」
シャタルアの目の前で内緒話をするようにエールが小声で言う。
「一応、お前さんは魔族だから、書類上はテイムされたものとして登録するぜ。」
「まあ、それが妥当じゃろうな。契約者については言った方が良いかの?」
「そうだな…出来ればで良いぜ。」
「それなら、我は後でカリヤと共に来るでな。」
シャタルアは少しボカシたように言う。
「カリヤと共に…だな。わかったぜ。」
エールはそう言うとメイリーンとカリヤに書類を渡す。
「えっと…ボクは冒険者にはなるつもりないんだけど…」
「そうなのか?それだとこの国から出る時にめちゃくちゃ面倒な手続きしないといけなくなるぞ?最悪、シェラと離れ離れになる可能性もあるから、冒険者になった方がいいと思うが…」
「…やっぱり、ボクも冒険者になる。」
メイリーンは書類を見ながら言う。
「エール、この書類間違ってますよ。私たちはエールのパーティの風来坊に加入するわけでは無いのだけれど…」
「ん?間違ってないぞ?冒険者としてよろしくって言っただろ?」
エールは当然の事のように言う。
「え、普通に嫌ですけど。ね?シェラちゃんもそう思うでしょ?」
メイリーンはとても嫌そうにしていた。
「私はシェテラエンデ様の家に行けるなら、なんでもいいです。」
私がそう言うとエールはニヤリと笑う。
「うっし、決まりだな。それにこうした方が俺の指示で行ける様になるからな。手続きも楽勝で一石二鳥、俺たちは新たな仲間に戦力アップでウィン・ウィンの関係ってわけだ。」
メイリーンは「はぁ…」とため息をついていた。
「えっと…ウルフ4体の討伐が目的…なんだよね?」
「そのようじゃな。我がおるから心配無用じゃよ。」
「よーし…ボクも頑張るぞー!」
カリヤはシャタルアと一緒に試験内容を見て気合を入れていた。
※修正点があったので、修正しました。※
その後からカリヤとシャタルアが私の傍に来る。
「お、シェラじゃねぇか!ちょうど良かった!お前さんのランクの件についてだがな…とその前にあれはなんだ?」
エールが倒れているブァレスを見て言う。
「いつものやつをシェラさんが止めてくれたんです!シェラさん、強化魔法以外何も使わないで倒しちゃったんですよ!もうほんっとに強くて!ギルド長、私、冒険者復帰します!そして、この子のパーティになります!」
大興奮のメイリーンにエールが言う。
「待て待て。急展開過ぎるぞ。んで、まずはあれはシェラがやって、メイリーンは冒険者の復帰とシェラをパーティに入れたいと?」
「だいたいそんな感じですね。私はカリヤ…この獣人の子ですね。この子の適性検査を受けに来たんですよ。」
私がメイリーンに抱きしめられたまま言うとエールが「なるほどな」とカリヤを見る。
カリヤは一瞬ビクッと体を震わせていた。
「まずははじめましてだな。俺はこのギルドのギルド長のエールだ。よろしくな。」
エールが人懐っこい笑みを浮かべながら右手を出すと緊張している様子のカリヤは一瞬私を見て安心した表情をして言う。
「ボクはカリヤ…よ、よろしく!」
エールは続けてシャタルアの方を見る。
「あんたは…?」
エールの雰囲気がほんの僅かに変わった事でエールがシャタルアを人間では無いと認識したと感じる。
「我…じゃなくて、私はまお…シェラのお供のシャタルア…じゃなくて、シャルじゃよ。」
シャタルアは偽名を名乗っているが、バレバレだった。
エールはニヤリと笑って言う。
「そうか。シャタルアって言うのか。」
「んな?!」
シャタルアが驚いた表情をしていた。
「どうしよう…我の本名バレてしまったのじゃ。このままじゃ、我が魔王だって知られちゃう…い、いや、まだ…同性同名って事に…」
「同性同名作戦を練るのは良いが、全部言っちゃダメだろうよ。」
エールが呆れた様子で言うとシャタルアは一瞬変身魔法が解けかけながら驚いた表情で言う。
「え?なんでバレておるのじゃ?!」
「全部言ってるぞ。」
エールが言うとシャタルアが私を見る。
「何もやってないよ。」
シャタルアは驚いた表情で震えていた。
「ま、そう身構えんな。俺はシェラのお供なら、歓迎するぜ。ついでにタッパのデカい女は好きだからな。」
シャタルアはエールの言葉と視線に顔を赤くしながらも自慢げに胸を張る。
私へのアピールだなアレは…
あ、こら!チラッと私の胸を見るな!
前世よりはあるだろ!
エールはその様子を見て笑いながらカリヤに言う。
「さて、無駄話はこれくらいにしてついてきな。」
カリヤが私の顔を見るので頷くとカリヤは尻尾をピンと立てて一瞬嬉しそうに笑ってエールについて行く。
少ししてガックリと肩を落としたカリヤと共にエールが戻ってくる。
「カリヤ?」
私が言うとカリヤはしょんぼりしたまま言う。
「魔力…無かった…魔法…使えない…うぅ…」
そんなカリヤの様子を見ながら、少しだけ言いづらそうにエールが言う。
「カリヤの適性は武術家だな。こっちは魔闘士と違い、マジで己の肉体だけが頼りになる職業だ。シェラも本来は魔法とは縁のない盾騎士が適性だし、そう気を落とす事は無いと思うぜ。」
エールが最後に励ましの言葉を言うとカリヤはほんの少しだけ元気を取り戻した様子だった。
「ま、私が居るから、カリヤも中級魔法くらいなら、軽く使えるようになるよ!無理なら、新しい魔法を開発すればいいしね。」
私が笑ってカリヤにそう言うとエールは頭を抑えながら言う。
「サラッと新しい魔法を開発しようとしないでくれよ…まあ、出来たら報告はしてくれよな。」
「当然ですわっ!私、こう言った魔法開発とか研究が大好きなんで、バンバン開発しちゃいますからね!」
私が胸を張って言うとシャタルアが勢いよく反応する。
「いや、ほどほどにせんかいっ!」
ビシッと音が聞こえそうな見事なツッコミにエールが思わず吹き出していた。
カリヤは何故かすっごい引いた目でエールを見ていた。
「あ、そうそう。シェラのクラスの件だが、満場一致でAランクだったぞ。」
エールはあっさりとそんな事を言う。
「…ん?聞き間違えたかな…今、Aランクって聞こえたような…」
「聞き間違えでも無ければ、言い間違えでもないぞ。満場一致でAランクだ。Sランクにはさすがにならなかったが、実績が出来ればSランクも目の前だな。」
「よ~し!シェラちゃん、これから私たち4人で頑張りましょうね!」
いつの間にか防具を取りに行ってたメイリーンが戻ってくる。
「待て待て!お前には受付嬢の仕事があるだろ!」
エールが食い気味に反応するとメイリーンの目つきと声音が変わる。
「よし!エール、私と決闘しろ!豪傑の女鬼の力見せてやるぜ!」
「エールさんとメイリーンさんの決闘だなんて面白そうな事になりましたね!よっ!ギルド長、その実力見せてくださいませ!」
私がわざと大声で言うと周りの野次馬たちも「ここで逃げたら、冒険者の名が廃るぜ!」とか言って煽っていた。
「わかった!わかったから!決闘場で戦うから!」
少しして武装したエールとメイリーンが決闘場の舞台に上がる。
「私が勝てばシェラちゃんとパーティ組みますからね!」
メイリーンが声高らかに宣言する。
「じゃあ、負けたら受付嬢で良いな?」
「もちろん、私は負けないので、それで大丈夫です!」
メイリーンは食い気味にエールに言う。
審判が審判台に上がって言う。
「それでは、ただいまより豪傑の女鬼:メイリーン・アリアンティールと開進の狂戦士:エール・グライド=グランディーテの試合を始めます!両者とも所定の位置に着いてください。」
二人は所定の位置に立つ。
「それでは…試合開始ぃぃぃぃぃぃぃ!」
戦いの火蓋が切って落とされた瞬間、一瞬でエールの前まで移動したメイリーンの左の拳をエールが大斧の柄で受け流して、反撃の横薙ぎをメイリーンがバックステップで避ける。
『うおおおおお!!!』
開始早々から繰り広げられる戦いに観客たちは大盛り上がりだ。
「はぁぁぁああああ!ウォークライ!」
メイリーンの身体強化技能でメイリーンの力強さが増す。
「うおおおおお!!!ウォークライ!」
エールも同様に身体強化技能で力強さに拍車がかかる。
「行くぞ!絶空斬!」
エールが振り上げた大斧から風の刃が無数に発生し、メイリーンに向かって侵攻する。
「アースクエイク!」
メイリーンが勢いよく地面に拳を叩きつけるとメイリーンの目の前の大地が盛り上がって風の刃を弾き飛ばす。
「ショット!」
メイリーンの拳が盛り上がった大地に叩きつけられると同時に粉砕した大地の瓦礫が凄まじい勢いでエールに向かって無数に飛んで行く。
「うがっ!グッ!このっ!」
エールはギリギリのところで全ての瓦礫を叩き斬るが細かな破片がエールの肉を割いていた。
「だいぶボロボロになっちまったな…」
エールが特に傷の多い右腕を見る。
「あはは!でも、良いウォーミングアップにはなったんじゃありません?」
鬼神のような笑みを浮かべながらメイリーンが言う。
「そうだな…ここからが本番だ!」
そう言うと二人はとてつもない速さで飛び上がると凄まじい空中戦を繰り広げ始め、メイリーンがエールに叩き落とされると同時にエールの追撃がメイリーンに襲いかかるがメイリーンはそれを紙一重で避けて反撃の拳をエールの腹にぶちこむ。
「ガッ!負けるかよぉ!」
エールは腹に拳をぶちこまれて全身の傷跡から血を流しながらも大斧の刃を縦にして、そのまま勢いよく鈍器のように横に振ってメイリーンを叩き飛ばす。
「グッ…さすがギルド長…やるわね…」
叩き飛ばされた先で左腕が力なく垂れたメイリーンが言う。
おそらく、肩の骨が折れて腕に力が入らないのだろう。
顔以外全身が血まみれで肩で息をしているエールが言う。
「メイリーンも良くやるじゃねぇか。とても前線から身を引いてた身とは思えないくらいだ。」
「あはは…これでも豪傑の女鬼と呼ばれた身ですからね。」
メイリーンが構えると同時にエールも構える。
「じゃ、これで決めましょうか!」
「叩き落としてやるぜ!」
二人が同時に地を蹴って、先にメイリーンの拳がエールの鳩尾を突き、エールを直撃寸前だった大斧ごと吹き飛ばす。
エールが片膝をついて手を上げると同時に審判の「勝負あり!」の声が響く。
「勝者!豪傑の女鬼:メイリーン・アリアンティール!」
それまで静かだった会場が大盛り上がりになる。
「シェラちゃーん!やりましたよ~!愛の力の勝利で~す!」
メイリーンが観客席の私に投げキッスをしながら言う。
その熱烈な視線には周囲の男たちも勘違い出来なかった。
「…あれ、ヤバい目をしてないか?」
シャタルアがボソッと引いた目で言う。
「かっこいい…」
カリヤはカリヤでなんかめっちゃ感動していた。
こうして、無事(?)にメイリーンはパーティに参加する事となったのである。
舞台の上で二人が握手をする。
「メイリーン、冒険者の復帰おめでとう!これから頑張れよ!」
エールはニカッと笑う。
「エールさん、ありがとうございます!今まで受付嬢として共に仕事出来て楽しかったです!」
「だっはは!ギルド長としては優秀な受付嬢のお前さんが居なくなるのはつれぇけど、今度は冒険者としてやっていけるからな!今後は冒険者としてよろしくな!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
メイリーンとエールが舞台から降りると閉幕の義をして、皆が決闘場から出て行く。
私たちも出て、ギルドの中で待っていると着ているものの消耗具合を見なければ、先程まで戦っていたとは思えないくらい綺麗に傷跡の治った二人がやってくる。
「シェラちゃん、これから一緒にたっくさん、冒険しようね!」
メイリーンが嬉しそうに尻尾を振って言う。
「そうですね。これからは仲間としてよろしくお願いします!」
「はーい!こちらこそよろしくね!」
カリヤとシャタルアも同じようによろしくと挨拶をし終えるとエールが言う。
「そいじゃ、お前らのパーティ加入を…とその前にカリヤは先に試練を受けてからパーティ加入の書類を書けるようになるから、まずはシェラとメイリーンの申請書を提出してくれ。詳しくはメイリーンが知っているはずだから、メイリーンの指示でやってくれ。」
シャタルアの目の前で内緒話をするようにエールが小声で言う。
「一応、お前さんは魔族だから、書類上はテイムされたものとして登録するぜ。」
「まあ、それが妥当じゃろうな。契約者については言った方が良いかの?」
「そうだな…出来ればで良いぜ。」
「それなら、我は後でカリヤと共に来るでな。」
シャタルアは少しボカシたように言う。
「カリヤと共に…だな。わかったぜ。」
エールはそう言うとメイリーンとカリヤに書類を渡す。
「えっと…ボクは冒険者にはなるつもりないんだけど…」
「そうなのか?それだとこの国から出る時にめちゃくちゃ面倒な手続きしないといけなくなるぞ?最悪、シェラと離れ離れになる可能性もあるから、冒険者になった方がいいと思うが…」
「…やっぱり、ボクも冒険者になる。」
メイリーンは書類を見ながら言う。
「エール、この書類間違ってますよ。私たちはエールのパーティの風来坊に加入するわけでは無いのだけれど…」
「ん?間違ってないぞ?冒険者としてよろしくって言っただろ?」
エールは当然の事のように言う。
「え、普通に嫌ですけど。ね?シェラちゃんもそう思うでしょ?」
メイリーンはとても嫌そうにしていた。
「私はシェテラエンデ様の家に行けるなら、なんでもいいです。」
私がそう言うとエールはニヤリと笑う。
「うっし、決まりだな。それにこうした方が俺の指示で行ける様になるからな。手続きも楽勝で一石二鳥、俺たちは新たな仲間に戦力アップでウィン・ウィンの関係ってわけだ。」
メイリーンは「はぁ…」とため息をついていた。
「えっと…ウルフ4体の討伐が目的…なんだよね?」
「そのようじゃな。我がおるから心配無用じゃよ。」
「よーし…ボクも頑張るぞー!」
カリヤはシャタルアと一緒に試験内容を見て気合を入れていた。
※修正点があったので、修正しました。※
0
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる