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記憶の断片

少女、本を託される。

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「そうじゃ!」

シャタルアが「ポン」と手を叩く。

「シェラ、今の我と契約せぬか?お主となら、我も安心して契約出来るのじゃが…」

私はカリヤをチラッと見る。

「今の貴方なら、カリヤの方が相性がいいと思うわよ?この子は今はまだその辺の石ころだけど、磨けばなんにでもなれるわよ。そんな子が居るともなれば、千幻万化せんげんばんかの魔公爵と呼ばれた貴方ならすぐに飛びつきたくなるんじゃないかしら?」

カリヤは少しだけ不安げな表情をしていた。

「むう?じゃが、我と契約したとて、こやつの心は変わるまい?我ら魔族の契約はお互いの信頼関係によってより強固なものとなる。ならば、我とシェラで契約をしてこやつを守れば良いのじゃ!ひとまずはそれで手をうつのが得策だと思うのじゃが…」

シャタルアはカリヤが嫌がっていると思っているのか、かなり回りくどい提案をしていた。

「そんなの面白くないわよ。私はカリヤを守る事くらい寝てても出来るのよ?そんな相手を納得させる案がそのカリヤを守る為だけって言うのは、ナンセンスの極み。それに仮に複数人と契約するにしてもあなたの弱点が増えるだけになるし、あなたも知ってる通りで契約は信頼関係あってのものだから、無闇に契約を変える事は出来ないわ。まあ、あなたがその力を失いたいなら話は別だけど…」

シャタルアは頭を抱えながら、「どうすればいいのじゃ…」と真剣に悩んでいた。


魔族にとって、契約は命に関わる行為だ。

その為、様々な制約がかかっている。

共通している制約では以下の4つがある。

1:契約の変更には代償が必要。

2:契約は契約者が死亡するまで永続する。

3:魔族はヒトとの契約が存在する限り、完全不死である。

4:魔族は契約者となるヒトを守護しなくてはならない。

魔族にとってこの縛りは自身を不死の存在とする代わりに契約者となるヒトを守らなくてはならないうえに他の存在に契約者となるヒトが殺されでもしたら、4の項目に違反したとみなされて消滅する可能性すらあるのだ。

ちなみにシャタルアの場合は本来は魂に刻むところを「アレイアとシェテラエンデの名を持つ者の契約」とした事で名に契約を刻んでいたので、今は誰とも契約が無い状態となっている。


「あの…」

カリヤが恐る恐る顔を出す。

シャタルアがカリヤを見るとカリヤは少しだけ不安げな顔をしながら俯いて黙り込んでしまう。

「…」

私はカリヤの頭をそっと撫でる。

「急がなくても良いわよ。貴方の好きなタイミングで言えばいい。心配しなくても彼女ならいつでも応えてくれるわ。」

カリヤは私の顔を見た後で再びシャタルアに顔を向ける。

そして、緊張した表情で尻尾をぎこちなく揺らして言う。

「シャタルアさん…ボ、ボクと…」

カリヤの言葉が止まる。

シャタルアはじっとカリヤを見る。

「ボクと契約してください!ボク、頑張るから!だから…その…えっと…」

カリヤの語尾がだんだん自信なさげになる。

シャタルアは一瞬驚いた表情をしたが、すぐにニヤリと笑う。

「カリヤが言うなら…我はいつでも良いぞ!我らの力…世界に!存分に!示そうではないか!」

シャタルアが高らかに契約の呪文を唱えて、左腕を掲げる。

「ボ、ボクは!シャタルアさんを受け入れる!」

カリヤが承諾をして、右腕を掲げる

同時にカリヤとシャタルアの身体が輝く。

【カリヤとシャタルアの契約は正常に結ばれました。】

そして、二人の掲げた腕には契約の紋章が刻まれていた。

「我とカリヤはまだまだ信頼関係の途中だから、紋章が出ておるが、互いに十分な信頼関係が気づけた時、この紋章は消え、新たな力に目覚めると言われておる。」

本来なら、互いに信頼しあった魔族が人との契約を結ぶ事が多い為、紋章が残る事はほぼないと言われているが、二人の場合はシャタルアからはともかく、パッと見た限りではカリヤがシャタルアに対して完全には信頼しきれてない為、紋章が出ている様だ。

ただし、それ以外の場合でも稀に紋章が残り、さらなる力に目覚める可能性がある為、一概に信頼関係だけが原因とは言えないのが魔族との契約の在り方ではあるが…

「ふふっ…これが吉と出るか凶と出るか…とても楽しみなのだわ♪」

私はカリヤの将来が楽しみになっていた。

シェテラエンデの固有能力、完全鑑定眼シェテラエンデ・アイを使えば、本人たちですら分からないこの紋章が何を現しているのかは大まかにはわかるが、それはただのでしかないのだ。

だからこそ、無限の可能性がある未来で「吉と出るか凶と出るか」がとても楽しみなのだ。



ちなみに完全鑑定眼には「未来視」の能力がある。

だけど、それは不確定要素であるが故に様々な時間軸の枝分かれが発生する。

それはそよ風の動き一つでも未来は変わる。

そんな不確定要素の塊がなのだ。

だから、文字通りチート能力を持っている前世の私シェテラエンデであっても、完全な未来視は不可能なんだ。

この世界では君たちの世界でラプラスの悪魔と呼ばれる全知の存在ですら、未来は不確定要素として自分たちが通るかわからない一つの枝の先の未来しかわからないのだ。

根源の時間軸から無限に枝分かれした時間軸の全てを理解しようなど、この世界を創り出した神でさえ、不可能な事…故に完全な未来がわからないのは当然なのだ。

例えば、今、君が息を数秒止めたとしよう。

それだけでも君が息を数秒止めた選択をした未来と息を止めない選択をした未来が出来る。

そこに息を止めたとしたら、何秒止めたのかなど、こんな小さな事ですら未来を大きく変える力になるのだ。

君たちも「完全な未来視は不可能」だと理解してもらえただろう。

これがこの世界での「未来」のあり方なのだ。

だが、未来の予測は出来る。

そして、この世界での「未来視」は「未来予測」となるのだ。

限りなく起こり得る未来の可能性を予測する。

例えば、じゃんけんで君が最初にグーを出す確率が高いとしよう。

すると、この情報を知っている相手はパーを出せば勝つ確率が高いと予測出来る。

逆に君がそれを利用してチョキを出して、パーを出した相手に勝つ事も有り得る。

これがこうして思考するよりも高い精度でこれを行える能力こそが、この世界で未来視と呼ばれる「未来予測」の力なのだ。

つまり、誰にでも手に入れようと思えば手に入れられる能力でもある。

もっとも、シェテラエンデはある程度自分の望んだ未来に進むように自身の時間軸の修正力を向かわせる「未来選択」を行えたので、わざわざ「未来視」に頼る必要も無いが、時の神もそれが出来るので時の神には通用しない能力であるが…

シェテラエンデの場合は時の神すら味方につけてるので、問題は無いだろう。

まあ、この辺りはまた必要になったら扱う可能性もあるだろう。

今はこの世界では「未来視=未来予測」だとだけ理解してもらえればいい。



「それじゃ、そろそろ明日に備えて寝るわよ。」

私かそう言うと「はーい」とカリヤが返事をして、私が割り当てた自室に戻る。

「あ、そうじゃ、シェラに渡すものがあったんじゃ。」

シャタルアは白い一冊の本を渡す。

「これは…」

私が受け取ったそれを見ているとシャタルアが言う。

「シェテラエンデが死んだ後、ネイアが持ってきたのじゃ。とな。」

「ネイアが…?」

ネイアは私の弟子ではないが私に次いで魔法に関する研究をしていた。

そして、ネイアはシェテラエンデですら、変人だと言い切るほどの変わり者だった。

そんなネイアの事なので、どんな奇っ怪なものが出てくるかとワクワクしていた。

私は期待を込めて本を開く。

「お、おい!大丈夫なのか?!」

シャタルアがおっかなびっくりしていたが、私には関係ない。

「…なんだ、ただの魔法書じゃない。」

私がそう言うとシャタルアが妙なことを言う。

「シェラ、この魔導書、何かがおかしいとは思わぬか?」

「おかしい?」

「うむ。」

私は魔導書の細部までチェックする。

「う~ん…私の知らない言語が使われてる事しか…ん?」

私はある魔法を発見する。

「気づいたようじゃの。」

シャタルアが言うと同時に私の中にその魔法の使い方が記録される。

「これは面白いわね…完全隠蔽パーフェクションブライ究極魔法アルテマウェポンに分類されるものになるのね…死を経験した大賢者にのみ解読可能な魔法…か…面白い!こんな面白いものを遺すなんて、ネイアはやっぱり変態ね!」

私が大喜びで言うとシャタルアは呆れたように肩を竦めて言う。

「うむ。事情を知っておるから、我はなんとも思わないが、どう考えても貶しているようにしかみえんな。」

「あはは!私たちの様な変人にとってはある意味褒め言葉だけど、冷静に考えるとシャタルアの言う通りだね!」

私はそんな事を言いながら笑う。

この後、寝る前にこの本を読んだシェラは転生の魔法の魔法陣について知る事となる。

そして、この謎を解く鍵はシェテラエンデの家にあると確信を持つこととなった。

「にしても…あの変態はとんでもないものを作ったねぇ…まさか転生魔法なんて誰が思いつくだろうか…そのうえ、私以外にはわからないようにあんな魔法と仕掛けも用意するなんて、変態もここまで来ると神の領域よ。変態神として広めてやろうかしら?それにこの魔法は私以外にも…………………………………」

シェラは気がつけば眠っていた。


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