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記憶の断片

少女、魔王に会う。

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私は女の子に希望を聞く。

「ん~…あんまり覚えてないけど、ヴァステトって言う猫の神様が居るって聞いた事はあるかも?音楽と踊りの女神様で、その舞に魅了されない者は存在しないと言われてたみたいだよ。」

私は前世でヴァステトにあった事がある。

…と言うか、私の弟子だった人物だ。


本当の名前はカリアンと言うのだが、神の血を引く者の掟として、地上の民に名前を教えてはならない決まりがあった為、ヴァステトを名乗っていたんだそう。

まあ、前世の私は神の力も越えちゃうほどの天才だったし、神の世界の危機も何度も救ってるから、特別に本当の名前を教えてもらったんだけどね。


私は天で見ているであろうカリアンに祈りと言う名の念を送る。

(ふふっ…貴方も有名になったわね。)

私はニヤリと笑って言う。

「じゃあ、貴方にもヴァステトみたいに素敵な人になってもらえるようにカリヤと名づけましょうか♪」

「カリヤ…?」

女の子は不思議そうに首を傾げる。

「そうよ。私の想いを詰めた名前よ。元々、私の住んでいたところで幸せを意味する言葉をちょっと変えたものなの♪素敵でしょ?」

間違った事は言っていない。


私は天界に住んでた時期もあるし、カリアンの名前は幸せになってくれる様にとつけられた名前なのだ。

そんな彼女にあやかって、名前を拝借したという訳だ。

でも、これカリアンに見つかったら、怒られそうだな…

ま、その時はその時か♪


「カリヤ…ボクの名前はカリヤ…覚えた!」

女の子改め、カリヤはとても嬉しそうに言う。


小さな頃のカリアンを思い出しそうなとびきりの笑顔だった。

あまりに似ていたので、思わずカリアンと呼んでしまいそうになった。

この娘をまるでカリアンの生まれ変わりを見ているかのような気分になっているのは、おそらくカリヤの振る舞いや物腰がそうさせているのだろう。

もしカリヤが神の力に目覚めたら、その時はカリアンを超えるくらい凄い子になるに違いないわ。

まあ、私の知る大人のカリアンよりもかなり胸が大きいのだけれど…

カリアンは私と同じでずっと断崖絶壁だったからね。


「ふふっ♪喜んでもらえたみたいで何よりだわ。」

私も思わずつられて微笑む。

「シェラさん…とても素敵な名前をありがとう!ボク…一生この名前大事にする!」

カリヤはとても嬉しそうにガッツポーズしながらウキウキしていた。

そんな私たちの家に「コンコン」とノックがされる。

「誰だろ?」

私が玄関の扉を開けると…

「夜分遅くに失礼する。この辺りで最近、冒険者になったばかりのシェラと言う娘を探しておるのじゃが、お主はシェラを知っておるか?」

黒い角を持った魔族の女性だ。

胸は無く、身体も小さいが紫のドレスに身を包んだ魅力的なオーラを放つ姿に煌びやかに輝く白く長い髪が目を引く印象を感じる。

その目は真紅に輝いており、その立ち振る舞いは明らかに高位魔族である事が伺える容姿だった。

「はい。私がシェラですけど…魔族の方が私に何の御用でしょう?」

私がそう言うと女性が驚いた表情になって言う。

「お主がシェラなのか?!にしては、随分とちっこい気がするのじゃが…」

女性はハッと我に返った様子で言う。

「すまぬ。我とした事が、名を名乗るのを忘れておった。」

女性は胸を張って堂々と言う。

「我が名はシャタルア!現・七大魔王セブンスアーツの一人じゃ。とあるものから、シェテラエンデの生まれ変わりが覚醒したとの情報を得てな!そして、お主の情報を得たわけじゃが…我の事、忘れておらぬよな?」

「シャタルア…?」


そんな名前の魔族の知り合いなんて居たっけ?

私が知ってる心当たりのある魔族はもっと可愛い名前の断崖絶壁の少女だった気がするんだけど…


「あー…昔の名を名乗った方が良いかの?アレイアじゃ。」

「あー!アレイアちゃんか!あの頃とちっとも変わんないねぇ~!」

「むぅ…胸はともかく、背丈はあの頃より成長してると思うのじゃが…」

シャタルアはプクーと頬を膨らませて拗ねるがシェテラエンデからするとあまり変わっていないように見える。

私はアレイアに言う。

「アハハ…ごめんごめん。そうだ!アレイアちゃん!立ち話もなんだし、せっかくだから中に入ってゆっくり話そうよ!」

「それは良いのじゃが、今の我はシャタルアじゃよ。」

半分諦めの表情をしながら、シャタルアはキチンと玄関で靴を脱いで靴を揃える。


シャタルアは悪神によって親を亡くした孤児だったのだ。

シェテラエンデが居た時代、ヒトと魔族の間でそれはそれは凄まじい大戦争が起きようとしていた。

ことの発端はそれぞれの主要な支配者となる存在が悪神の作り出した分身によって殺害されたのが原因だ。

これらは人間界をめちゃくちゃに破壊しようと企んだ悪を司る神である悪神によって引き起こされたものだが、元はと言えば人間界に溢れる悪意や悪の心や自分勝手な欲望が悪神だけでは処理しきれないほど溢れて悪神を乗っ取ってしまったのが原因だった。

シェテラエンデが神界でそれらの問題を解決し、人間界でもそう言った「悪」が溢れないように人々に説いたりして、人間界で戦争が起きるのを防いだんだ。

その後、仮の支配者となったシェテラエンデと5大神官で後世の支配者となる存在たちを育てたのだ。

ちなみにこの世界におけるはそれぞれのリーダーとして機能する存在のことを指す。


「シェラさん…その人は誰なの?」

カリヤが奥の部屋から顔を出してシャタルアを見る。

「シェラの知り合いかの?我はシャタルアじゃよ。」

シャタルアがニコニコとカリヤに挨拶をする。

「シャタルアさん…こんにちわ…」

カリヤはそう言うと顔を背けて奥の部屋に逃げる様に入って行く。

「我、なんか気に障るようなことしたかの?」

シャタルアがあからさまに落ち込んでみせる。

「さあ?あの子、事情がちょっと複雑だから、そのせいかもしれないけど…」

私は奥の部屋の手前にあるこじんまりとした空間に置いてあるテーブルにシャタルアを案内する。

「なんだか、魔王城の我の部屋と比べると狭く感じるが、落ち着く雰囲気じゃな。シェラのセンスが光る良い部屋じゃ。」

満足気にシャタルアは語る。

「まずはどこから話そうかな…」

私は今までのことを、シャタルアはシェテラエンデが居なくなったあとの世界の事を…


シャタルアは今ではシェテラエンデに匹敵すると言われる実力の持ち主で、現在の魔王の中でも一番魔力があるそうだ。

ちなみに魔族は魔力が高ければ高いほど、格が高くて強いとされている為、最強だと言っても過言ではないのだ。

さらにシャタルアはただの魔族ではなく、魔王でもある事から、魔法も肉弾戦も通常の魔族よりもかなりレベルの高い能力を持っているので、それはそれは大人気な魔王なんだそう。

本来なら魔王はそれぞれに独立した支配圏があり、その地の支配者として存在するのだが、シャタルアともう1人の魔王は支配圏を持たず、世界各地を気ままに冒険しているんだそう。

その中でシャタルアはシェテラエンデが亡くなった後の5大神官に会い、様々な知識や技術を受け継いだらしい。

最後に5大神官の1人のネイアに会い、ネイアがに関する重要な事を発見したと言って白い本を渡すまでともに暮らしたんだそう。

白い本を渡された翌日からのネイアの行動については全く知らないとのことだ。


それぞれが話終えるとカリヤがシャタルアの視線になるべく入らないようにしながら、静かに紅茶を置く。

「カリヤちゃん!今まで辛かったんだねー!」

シャタルアが勢いよくカリヤに抱きつく。

「ギニャアアアアアアア?!!!!」

驚いたカリヤがシャタルアの顔を鋭い爪で引っ掻いて、シャタルアから離れると猛ダッシュで奥の部屋に逃げ帰る。

「…バカなの?」

私がシャタルアに冷静に言う。

「心と顔が痛いのじゃ…」

シャタルアはあからさまに落ち込んだ様子でガックリと肩を落としていた。

「ご、ごめんなさい!」

カリヤがタオルを持って戻ってくる。

尻尾が右足に巻きついており、かなり足が震えていた。

「いいんじゃよ…我も感極まって、いきなり抱きつかなければ良かったのじゃから…」

シャタルアはカリヤからタオルを受け取ると顔を軽く拭いて、床を拭き始める。

魔力のおかげか、顔の傷はほとんど治っていた。

「あの…」

カリヤが自分がやろうとシャタルアを止めようとする。

「カリヤ、良いのよ。アレイア…じゃなかった。シャタルアは自分がやった事は自分が片付けるように教育されているの。」

「そうなんだ…」

カリヤはそう言うと私の後ろに隠れながら、シャタルアが床を拭き終わるのを見守る。

「綺麗になったとは思うが、うっすらとシミが出来てしまったのう…」

シャタルアは少し考える様子で床を見る。

「良いんじゃない?アレイアちゃんの凡ミスって感じで面白いわよ?」

私がからかいの意味を込めて言うとシャタルアはとても驚いた様子で言う。

「それは我にとっては一大事なのじゃが?!」

カリヤは困り顔で私の後ろからちょこっと顔を出してシャタルアの様子をうかがっていた。

「かくなる上は…我がここに住んで、この失態を隠し通すしか…!」

シャタルアはそんな事を言いながら、床のシミを見ていた。

「あら?ここに住むのは良いのだけれど、アレイアちゃんは大丈夫なのかしら?この辺は魔素の濃度も低いわよ?」

シャタルアの様な魔族が生きるには魔素と言う物質が必要不可欠なのだ。

魔素から発生する魔族以外の種族では魔法の耐性によっては、魔素中毒により苦しみながら肉体が魔族のものに変わるか、苦しみに苦しんだ挙句に死ぬかのどちらかしかない為、魔族以外は高濃度魔素地に住めないが、唯一魔族は高濃度でも魔素を魔力に変換する能力がある為に魔族の城、通称魔城は高濃度の魔素が充満している地域によく建っているのだ。

魔族はその性質上、魔素が無い場所で生存するには魔力が必要であり、シェテラエンデが鍛えたアレイア(シャタルア)以外は例外なく、長時間の間、魔素か魔力がないところに居れば、魔力切れで消滅する可能性が高かった。

そして、魔族の力が強ければ強いほど、必要な魔素の量が増える為、シェテラエンデの時代では魔族とそれ以外の生物は共に暮らすことは不可能だとされていたんだ。

ちなみにシェテラエンデは高濃度の魔素を魔力に変換する魔法を開発していて、なおかつ強かったので、当時の魔王たちとも仲が良かった。

「あの頃であればそれも難しい話じゃったのう…でも、今は魔族でも魔素が少ない地域で暮らす事が出来るようになってるのじゃ!なんでもアレイシアの弟子の一人、獅子族ライオネルのレグリアじゃったかな…そいつの娘が開発した特殊な魔法物質レリーフアイテムが自動で魔素を魔力に変換しているそうじゃよ。そのおかげで今は魔族とそれ以外の生物が共に暮らせる世界になっているのじゃ。我ら魔族に必要なのは魔力じゃからな。それでも魔素の溜まり場や魔素噴出口があるところではまだまだ魔素が濃い過ぎるようなのじゃがな。」

シャタルアは楽しげに笑いながら言う。

「そう言えば、私がさっきアレイアちゃんと会った時もすぐには気がつけなかったわね。魔素を一切感じなかったし、そう考えると私がいない間にとんでもないものを開発したのね…」

私はその魔法物質を見てみたいと思っていた。

だって、私が知らない魔法がそこにあるかもしれないからね!
大賢者として、血が騒ぎまくってるよ!

カリヤが恐る恐る聞く。

「あの…シャタルアさんとシェラさんはどんな関係なんでしょうか…なんだかとても特別な繋がりを感じるのですが…」

シャタルアは不思議そうに首を傾げながら私を指さす。

「なんじゃ?カリヤはこいつ…シェラがシェテラエンデの生まれ変わりだって知らないのか?そのシェテラエンデは我が産まれた時から共に居たから言うなれば、お母さんと娘みたいな存在じゃな。」

私はシャタルアに言う。

「アレイアちゃん、余計な事は言わなくてもいいのよ?まあ、あの頃には結構な歳だったけどさ…」

シャタルアは「てへっ」と舌を出す。

カリヤはそれを聞いても少し納得がいかなさそうな表情をしていた。

「あらあら…カリヤの知りたかった事とは少し違ったみたいね。の話でもしてみたら?」

シャタルアはとんでもないと言いたげに私の顔を見る。

「それはダメだって知ってるじゃろ?!我ら魔族にとって自殺しろと言ってるようなもんじゃよ!」

「あー…そうだったわね。すっかり忘れてたわ…ごめんね。」

「忘れてたって…勘弁してくれなのじゃ…まあ、思い出してくれたなら良いんじゃが…まあ、シェラの口からなら言っても大丈夫だとは思うのじゃが…じゃから…」

シャタルアは上手く言葉を濁しながら言う。

「なら、大丈夫かしら…」

私はカリヤを見る。

カリヤと私の目が合う。

「わた…じゃなくて、シェテラエンデとアレイアの二人の間にはの繋がりがあるの。魔族との契約は名で結ばれる事が多いのだけれど、種族や契約内容、契約相手との関係の深さ…それぞれの条件があるのだけれど、条件次第では魂で契約もあるのよ。」

「契約…?」

カリヤは「う~ん」と頭を捻っている。

「そうねぇ…魔族にとっての契約は私たちヒトの契約とは違い、契約内容は絶対よ。例えば、私が不死耐性をもつ魔族として…シェラとカリヤが契約でお互いの顔を一日に1回は見ないと死ぬと契約すると私が不死耐性をもつ魔族であってもカリヤの顔を見ないと死ぬし、見ないと死ぬを見なければならないに変えれば、自分の意思には関係なく絶対一日に1回はカリヤの顔を見る事になるわ。」

シャタルアは静かに頷いていた。

カリヤは納得はした様子だが、新たな疑問も湧いた様子だった。

「アレイアちゃん、契約についてもうちょっと詳しく説明しても大丈夫かな?」

「説明だけなら、大丈夫だと思うぞ?我もシェラ…じゃなくて、シェテラエンデと契約する時に説明したと思うから…」

「じゃあ、大丈夫かな…」

カリヤは私たちのやり取りを見て不思議そうに首を傾げる。

「カリヤ、今私は魔族にとって、契約は絶対のものだと言ったよね?」

「うん…」

「それと同時に契約内容を第三者に知られる事は死を意味するわ。弱点を知られる事にも繋がるし、それこそ契約によっては死ぬわ。だから、魔族にとって契約内容は命に関わる重要な役割を持っているの。でも、魔族と契約する事には双方にメリットもあるわね。例えば、魔族は契約者の魔力で生きられて、契約者は魔族に身の危険を守ってもらえてるみたいな感じね。」

「そうなんだね。だから、変な言い方をしてたんだね。」

カリヤは納得した様子で楽しげに笑う。

「そ、そんなに変な言い方をしてたかのぅ…?」

シャタルアは少しは不満そうに言う。

「まあ、いきなり私の前世の話をして、お母さんみたいなものなんて言ったらねぇ…」

私がからかう様にニヤリとシャタルアを見る。

「むぅ…でも、間違った事は言っていないんだけどなぁ…」

シャタルアは少しだけ拗ねた様な表情で人差し指で髪をイジっていた。
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