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記憶の断片

少女、試験を受ける。

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「お嬢さん、街につきやしたよ。」

私は商人の男性の声で起きる。

「あ、ありがとうございます!」

私が丁寧にお辞儀をしてお礼を言うと商人の男性は楽しそうに言う。

「商人は持ちつ持たれつだからね。困っている人が居れば手を差し伸べるのが僕のポリシーでもあるから気にしないでね~♪」

「お優しい方なのですね。あ、そうだ!」

私がバッグの中の財布をごそごそと探していると商人の男性が言う。

「あ、お代とかお礼は結構だよ~!お嬢さんがお父さんを見つける事が最高のプレゼントさ♪」

商人の男性はにこやかに「ヨーソロー!」と楽しげに去っていった。

私は少し自分の嘘に罪悪感を感じるが、気にせずに街を歩いて情報収集する事にした。

「…とは言っても、アテがある訳では無いんだよね。」

私はとりあえず適当に歩いていると冒険者らしき女性に声をかけられた。

「お嬢さん、迷子?」

「おわっひゃい!?」

私は驚いて思わず変な声を出しながら飛び上がってしまった。

女性は「あっはっはっ!」と、とても楽しそうに笑う。

「驚かせちゃってごめんね!アタシは冒険者のティア・レイヴェン!あの五大神官様のアレイシア様の血筋だから、安心していいよ!」


アレイシア"様"か…

ふふっ♪あいつも偉くなったものだ。

私の元に来た頃は小さな少女だったと言うのに…

それに、何より生涯男運に恵まれなかった私を差し置いて、結婚しやがって…羨ましいな畜生!


そんな事を思いながら、私がニヤついていると不思議そうにティアが首を傾げていた。

「私はだよ!ちょうど、について調べたくて来たところだったんだ~」

ちなみにシェラとはアレイシアが私につけたあだ名だ。

私がと呼び捨てにした事で周囲の目線が集まる。

ティアが慌てた様子で言う。

「シェラ、ちゃんとシェテラエンデ様と呼ばないといけないよ!かのお方はこの街で産まれた大魔法神様なのだから。」


そのシェテラエンデ本人なんだけどなぁ…

それにここがあの田舎町だったとはね。

立派になったなぁ…

…あれ?そう言えば、私って魔法神になってるんだよね?

それも大魔法神?ってやつ。

本来の魔法神カトレアーノは何をしてるんだろ…?

…っと、ティアが困ってそうな顔をする前に話を進めないとね。


「ご、ごめんなさい…」

私はいろいろ考えながらもティアに謝罪する。

ティアは「わかったなら、よし。」と笑っていた。

私はティアに言う。

「あのね…私、家ではシェテラエンデ様は遠い親戚なだけって教えてもらってたの。だから、あんまりよく知らなくて…」

口から出任せではあるが、情報が手に入ればもう関わる事は無いだろうと思っていた。

アレイシアの血族とは言え、今の私には関係のない相手だからね。

それにあいつなら、自分の血族だろうと私以外の人間に情報を教える事は無いしね。

あいつはそう言うやつだもん。

ティアは「なるほど」と頷きながら言う。

「なら、冒険者になるのが一番早いな。そうすれば、シェテラエンデ様の御家だったとされるダンジョンに行けるようになるし、シェテラエンデ様の事も知れるから一石二鳥だろ?まあ、最低でもDランク以上のランクは必要だがな。」

私は迷わず言う。

「なら、冒険者になる!何処に行けば冒険者になれるの?」

ティアは街の中心のでっかい像を指さす。

像はシェテラエンデの形をしていると遠目でもわかった。

実物より若干胸が盛られていた事にはちょっと不満が残るが、思っていたよりは再現度が高くて少し驚いた。

「あのシェテラエンデ様の像の下にあるギルドだよ!そこで試験をクリアすれば、Fランク冒険者になれる。」

「ありがとう!さっそくギルドに向かう事にするよ!」

ティアが驚いた表情をしていたが私は気にせずに言う。

私は魔法が解けて元の少女の姿になっている事に気が付かないまま勢いよくギルドまで走る。






私はギルドの扉を勢いよく開けて、受付に飛び込むようにしながら言う。

「あの!冒険者になりに来たんですけど!」

周りの冒険者らしき人達の目線が集まる。

受付をしていた女性が諭すように言う。

「あのね…お嬢ちゃん、冒険者って言うのは遊びじゃないのよ?凶暴な魔物と戦うのは命懸けなの。だから…「おねーさん、冒険者の試験に年齢制限は無いよね!」

私は無理矢理話を遮りながら結論だけ言う。

「え、えぇ…ないけど…」

女性が困惑しているところに追い討ちをかける。

「じゃあ、私が冒険者になっても良いよね!私は一刻も早く冒険者にならないといけないの!だから、お願い!私を冒険者にならせて!」

私の必死の声かけに女性はかなり辛そうな表情をしていた。

それもそのはずだ。

通常は志望者が15歳から冒険者を目指して冒険者学校に通い始め、早くても18歳から冒険者になる者が多い中で、たった10歳の少女が就学経験も無しに突然冒険者にならせてくれと言うのだ。

普通の子供ならまず生きては帰れないが、私は普通の子供とは違い大賢者の生まれ変わりだ。

多少、無茶をしても余力を残して生還出来る自信があるし、何よりも私はの家…

シェテラエンデの家に帰って調べないといけない事があるんだ。

後、見つかるとヤバいものを回収する目的もあるけどね。

特に黒歴史小説だけは真っ先に処分しないといけないし。

「わかりました…そこまで言うなら、こちらの冒険者試験の用紙と冒険者ポーチを渡します…」

私は用紙とポーチを受け取る。

ポーチは小さくてバッチのようにどこにでもつけられるものなので、腰の辺りにつけておく。

「ありがと!それと無理言ってごめんね。」

私は受付の女性に謝罪して、ギルドを出て用紙を見る。

『試験内容:明日、午前5時から二名の冒険者と共に近隣の低難易度ダンジョンのゴブリンを二体倒し、ゴブリンの魔石を摘出し、ギルドに収める事。』

「ゴブリン程度なら楽勝ね。魔石が必要だから、加減は必要だけど…」

私はそんな事を思いながら、ギルド指定の宿屋に泊まって眠りにつく。







夜明け前に私は目が覚める。

「まだ暗いけど、そろそろかな?」

壁にかかってる時計を見ると午前4時を過ぎた辺りをさしていた。

「…思ってたより時間があったね。」

私はのんびりと準備をしながら、照明魔法で少し部屋を明るくする。

「確か、裏門からなら比較的に速やかにあの部屋まで入れたはず…」

私は昨日の事を思い出す。

「私の偽装を見破る程の魔術師か、あるいは…でなければ…う~ん…」

私がそんな事を考えていると扉が小さくノックされる。

「はい」

私はそっと扉を開ける。

2人組の冒険者らしき男性と女性が立っていた。

「君は…!」

そのうち一人の女性と目が合う。

スキンヘッドの男性が女性を見る。

「あん?ティア、こいつのこと知ってんのか?」

「あぁ…昨日のシェテラエンデ様について調べていると言っていた変身魔法チェンジを扱う不思議な少女だ。」

スキンヘッドの男性が私を見る。

「こいつがあの噂のお嬢ちゃんか…」

スキンヘッドの男性はそのまま屈んで私に目線を合わせる。

「俺はエールだ。この街のギルド長とティアのクランのクランリーダーを兼業で務めている。ま、よろしくな。」

エールが手を伸ばして握手を求める。

私はその手を両手で持って言う。

「私はシェラです。よろしくお願いします!」

「おう!シェラか、シェテラエンデ様みたいないい名前だな!」

そのシェテラエンデ本人のあだ名なんですけどね…

まあ、私の弟子以外は知らないから仕方ないか。

そんな事を思いながら、私たち3人は宿屋を後にする。






とある洞窟の前で先頭を歩いていたティアが止まる。

「ここが目的の低難易度ダンジョン、始まりの祠だ。シェテラエンデ様もここから冒険者への道を歩み始めたと言われている。」

私は目の前の洞窟を見る。

「ここがあの祠…?あの頃と比べて、随分とマヌケな雰囲気の様な気がするんだけど…」

なんてついうっかりとこぼしてしまう。

「この辺は新人含めた私たち冒険者の目が届く場所だからな。だが、油断は禁物だ。お前にとっては初の魔物討伐になるのだからな。」

私を先頭に二人がついてくる。

ダンジョンに入るとさっそく広間で2匹のゴブリンが舌なめずりしながら、目の前の私を狙っていた。

「キシャァァァァァアァアアアアアアア!」

ゴブリンが奇声を発しながら飛びかかってくる。

「じゃあ、さっそく…」

私は軽めに闇属性の魔力を練る。

「遅くなれ!遅延スロー!」

ゴブリンは遅延どころか、完全に時が停止していた。

「やっべ…」

私は力加減を間違えたのを悟る。

ただでさえ、この幼女の身体は魔力がかなり強いのに詠唱まで入れてしまったら、魔法の威力の基準である効力も上がるに決まってる。

後ろでティアとエールが揃いも揃って驚いた顔をしていた。

私は今度は最小限の光属性の魔力を練る。

光球ライト!」

ピカッと一瞬目の前が真っ白になったかと思えば、一瞬でゴブリンを消し飛ばし、後には半分溶けたゴブリンの魔石が1個だけ落ちていた。

たったこれだけで、ゴブリンを跡形もなく消した事により、いくら相手がゴブリンとは言え、やり過ぎた感がある。

もう片方のゴブリンは魔石すら残らなかったし…

いくらゴブリンの魔石とはいえ、どんなに強くても普通は破壊不可能だとされる部位なのだ。

まあ、中身が大賢者のシェラにとってはゴブリン程度の魔石は脆すぎて話にならないんだけど…

それほど、魔石と言うものはとてつもなく強い力を持っているんだ。

それを傷つけるどころか一般人でも普通に扱えるレベルの初歩魔法で完全に存在を消してしまうほどの威力なのだ。

の規格外さがわかるだろう。

エールは口をポカーンと開けており、ティアも驚いた様子で目を見開いていた。

ティアが「ハッ!」と我に帰って言う。

「シェラ…あんた、あの魔石も破壊しちゃったのかい?」

私は「てへっ」と舌を出して言う。

「やり過ぎちゃいました☆」

…いや、何がやり過ぎちゃいました☆だよ!
ほんとにやり過ぎだよ!
なんでちゃんと力加減も出来ないかなぁ…
バレたら大騒ぎになる事間違いなしでしょ!
私のアホンダラ!

「お嬢ちゃん、あんた…なにもんだい?いくら、最弱のFランクモンスターのゴブリンが相手でも魔石まで破壊するのは五大神官様でも不可能とまで言われているうえに、魔法としては攻撃の効力を持たないとされる生活魔法ライフかつ無詠唱ノーモーションでこの効力だ…」

エールが武器に手をかけながら言う。

魔法は詠唱しなければ発動出来ないとされている。

もちろん、私のように無詠唱でも強い魔法を使えるものは居るのだが、それはシェテラエンデの時代の冒険者のランクで1番高いXランクでも極わずかなものだけだ。

しかし、生活魔法は攻撃用では無いので、誰でも扱えるように回路を簡略化して攻撃の効力を無くし、消費魔力を極限まで低くする事で扱いやすくしているのだ。

私は「はぁ…」と小さなため息をつく。

名も無き孤児シェテラエンデの時にも何度も見た光景だ。

人は得体の知れない力を恐れる。

特に私のような得体の知れない強者ほど、恐ろしいものはないだろう…

ましてや、私は前世が大賢者である事以外はただの10歳の少女なのだ。

私はエールとティアを交互に見る。

2人がゴクリと喉を鳴らすのを感じる。

「私は…」

2人が私の言葉を待つ。
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