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記憶の断片
少女、思い出す。
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「おはようシスター・マリア!」
私は元気よく目の前の修道女に挨拶する。
「はい。おはようございますなのです。アイリス。今日もお元気そうで何よりなのです。」
マリアはニコリと優しく微笑み、返事をする。
「えへへ…元気だけが私の取り柄だからね!」
「いえいえ、アイリスは孤児院の皆にも優しく、私たちでも気がつかないような細かい事にも気をつけてくれているのです。そのおかげで私たちもいつも助かっているのです。」
「えへへ…マリアさんに褒められると照れちゃうな~」
そんな事を言いながら、私はいつものようにテキパキと担当の掃除場所を綺麗にしていく。
…ただ一つ、今朝はいつもとは違う事があった。
…
夜明け前、私はいつもと同じくらいの時間に目が覚める。
「ふわぁ…よく寝た…こんなに寝たの何年ぶりだろ…」
私は不意に出た自分の言葉が不思議に感じた。
「…あれ?私って、こんなに小さかったっけ?いや、私はいつもと変わらないはず…」
私は自分が自分の知ってる自分である事と私は自分が自分の知っている自分でない事の2つの記憶に気がつく。
「私は…いや、大人の私の名前は…」
私は自分が大人である事と自分が子供である事を覚えていた。
「大人の私はシェテラエンデ・アルフェルン…前にシスターに読んでもらった伝承の絵本の大賢者様と名前が同じ…元々は貴族の生まれだったが、魔法の研究に没頭していたら奇行とみなされて勘当された。その後は一人で気ままに暮らしていた。顔は若く凛として美しい、深海の様に青く長い髪、恐ろしく平たい胸部の断崖絶壁、背丈は高く、左眼は赤く、右眼は黄色い、この頃は既に20歳で世界一の大賢者と呼ばれ、神々からも敬われる対象だった。30歳にもなると現代に残るほぼ全ての魔法を開発し終えて、弟子も一人を除いて、皆旅立った後だ。容姿は胸部以外は伝承の絵本とほとんど違わない…いや、この場合は絵本の方が間違っていると言えるのかな?てか、なんで絵本の方は爆乳で書かれてんのよ…絶対、ディアランテかソプラティスの仕業だよ!畜生!」
そんな事を言いながら、私は記憶を整理する。
大人の私と今の私の記憶…
つまり、シェテラエンデの記憶とアイリスの記憶にわける。
シェテラエンデは元々アルフェルンと言う貴族の家の生まれであったが、幼い頃から「奇行」に走る事が多く、それを嫌った当主の父によって12歳の頃に勘当されてしまい、家も追い出されて無一文で森に捨てられたのだ。
シェテラエンデが捨てられた事に気づいたのは、森に捨てられたシェテラエンデがアルフェルン邸に帰ってきた時だったが、それを知った彼女は自由になった事でむしろ感謝していたが、実の娘を化け物呼ばわりした父は自らの手で殺した。
そこからは興味のある事は全てやってきた。
当時はまだ魔法なんて言葉は無く、奇行の1つだと考えられていた。
その為、それに没頭するシェテラエンデは誰がどう見ても浮いてる存在であり、頭がおかしい人だと皆が口を揃えて言うような時代だ。
しかし、シェテラエンデは世に魔法と言う言葉を定着させるほどに凄まじい研究を重ねに重ねた。
その傍らで魔物の生態調査や討伐依頼をこなして資金を稼ぎつつ、様々な分野で活動しており、考古学や地質学など様々な学問で文字通り桁違いの成果を出し、最終的には魔法学と言う全く新しい学問を立ち上げた。
そして、その魔法学を学んでいた生徒の中でも特に優秀だったものが後の時代で五大神官と呼ばれるようになった。
その後は各地の異変の噂を聞きつけては解決していた。
そして、気がつけばシェテラエンデは人も神も認める伝説の大賢者となっていたのだ。
「今の私はアイリス…捨て子だから、セカンドネームは無い…歳は10歳、物心つく前には既にこの孤児院の前に捨てられていた。ただの孤児だ。富と名声も何も無い。普通の子供。大人の私の容姿とは全く違う草木の様な薄い緑の長い髪、両眼とも青く、背丈は低く、まだ子供なのに、そこそこ大きな胸部の身体だ…前世でもこれくらいはあれば良かったのに…じゃなくて!」
アイリスは物心着いた時には今の修道院の前に捨てられて居たらしい。
それ以外は至って普通の孤児だった。
ただ…前世の記憶を思い出して気がついたのだけれど、アイリスの身体には前世のシェテラエンデもビックリするほどの魔力量を秘めていた。
魔力量は生まれついての量よりは多くならない。
これはシェテラエンデが発見した事であり、魔法を行使する際はこの魔力が使われるが、周囲の魔素や食事によって、それが補填される。
そうして、魔力を回復して再び魔法を扱える様になると言うわけだ。
「私はあの大賢者の生まれ変わりだったのね…」
シェテラエンデは3500年前にこの世界の剣技と魔法の全てを完成させた大賢者だったと誰もが知る偉大な人物だ。
その姿は誰もが魅了されるほどに美しい女性であり、五大神官と言う五人の弟子を持っていたとされている。
私は思考を整理しているうちに、本当に自分がそのシェテラエンデの生まれ変わりだと理解する。
でも、自分がそのシェテラエンデであったからと言って、アイリスには驚きはなかった。
世界を変えた大賢者のシェテラエンデなら、それくらい出来ても不思議では無いとアイリスは考えていたからだ。
私は自分の記憶にある傀儡魔法を思い出して、試してみる。
「大地の精よ。我が声に応え、土塊に宿れ。」
私が呪文を唱えると小さな女の子の姿をした土の人形が作成される。
「これが…大人の私の力…最強で無敵だった大人の私の力…」
もっと魔力を注いで人により近い姿になるように念じる。
人形は徐々に大人の私と同じ姿になっていく。
「凄い…私が念じた通りに完璧な人形が出来ちゃった…」
私が念じる度に人形はまるでそこに本物の人が居るかのような動きで私の念じた通りに動く。
「これが傀儡魔法…凄い…凄いよ。私の思うがままに動いてる!」
人形はどことなく嬉しそうに微笑んで言う。
「ご主人様の手足となる存在ですから…このくらい出来て当然ですよ。」
私は突然聞こえた美声に驚いて人形を見る。
「えぇ?!自我を持って話し出した?!」
「ご主人様、他の方が起きてしまいますよ。」
「あ、ごめん…」
私は少し落ち着いて話す事にした。
「君、名前は?」
人形は首を傾げる。
「名前は無いですよ。我々は人形ですので、ご主人様が名付けない限りは、名無しの人形です。それにご主人様ほどの精度でも無ければ、この様にほとんど人間と変わらない姿で自我を持って会話する事さえ不可能な存在ですから…」
「あ、そうだった…まだ完全には記憶の整理がついてないみたいだ…辛い事を聞いてごめんね。」
「お気になさらないでください。今世のご主人様はただの普通の少女として生まれ育ちました。そんな中で突然、前世の記憶を思い出したともなれば、混乱するのも無理はありませんよ。」
人形は優しい笑顔を浮べる。
「ありがと。とりあえず、今は元の土に戻っててもらってもいいかな?」
「承知しました。また私たちが必要な時は呼んでくださいね。」
人形はそれだけを言うとバラバラになって土に戻る。
「人形相手とは言え、なんだか悪い事をしちゃった気分だなぁ…」
だけど、私には目的が出来た。
「私の家…じゃなくて、大人の私の家に帰ろう…いや、この場合だと行こうってなるのかな?」
あそこにはいろいろと危険な物も収容してあるし、見られたら恥ずかしいものも置いてきてるし…
サキュバスもびっくりな布面積の下着とかめちゃくちゃ恥ずかしい設定の自作小説とかなんかめっちゃ呪われてるパンツとか根に触れると思考が犬になっちゃうダイコーンとかドラゴンの贈物の金ピカパンツとか…
パンツに関してはほとんどが贈物だけど、シェテラエンデは変な物を集めるのが好きだったからね。
…って、前世の私の事なんですけど。
「そうと決まれば、早速計画を立てなくちゃ!」
こうしていつもは勉強していた少女は前世の自分の家に帰る準備を開始するのであった。
…
こうして、現在私は当番の畑の水撒きをする前に孤児院の掃除をしているのだ。
「よし。これで完璧!あとは…」
私はこっそりと清掃魔法の自立式魔法陣を書く。
「これでこの孤児院の中はいつでも綺麗な状態に保てるね。」
そうして、私は他の修道女達が起きてくる前に本命の作戦を始める為に担当の畑に移動する。
「よーし…ここも魔法陣で自動で水撒きを出来るようにして、畑の温度調節や敷地内への魔物避けもやってもらっちゃおう!」
私は自立式魔法陣を目立たない様に書く。
「最後に傀儡魔法で里親の大人を作って…」
私は人間の2組の少し歳をとった夫婦の人型を作る。
ゴーレムと違い、外見が完全に人間の姿をしているが、全て私の魔力で出来ているので、どちらかと言えば魔族に近い存在だ。
まあ、今はそんな事はどうでもいいだろう。
「よし。これで完璧!後はこの人型達に私を引き取る手続きをやってもらうだけだね。夫のアルフレッド・アルフェルン、妻のアリアン・アルフェルン、頼みましたよ。」
私がそう言うと人型達は了解のポーズを取る。
そして、孤児院の玄関から受付へと進むのを見届ける。
「よし。後はあの子たちの判断で手続きを進めてくれると思うから…」
私はこれから一人で旅をするにあたっての魔法の練習をする。
「まず初めに強化魔法だね。魔力纏!」
魔力纏は魔力を全身に纏わせる事で体を強化する強化魔法だ。
これにより、体力の増加、攻撃力の上昇、防御力の上昇、状態異常耐性の4種の能力上昇と身体機能の強化が可能になる。
もちろん、私は元大賢者なので、その上がり幅も桁違いのものになるんだ。
他にも力や速度等の簡単な強化魔法もあるけど、今の私なら魔力纏があるから大丈夫だと思う。
「ひとまず、これだけ出来ればなんとかなると思うし、今はこれで満足しとくかな。」
私は魔力纏を解除する。
そして、その瞬間マリアが表で私の名前を呼びながら、こっちに来る気配を感じる。
「あ、首尾よく終わったみたいだね。」
孤児院の皆を騙したみたいで少しだけ胸が痛いが目的の為にはこうするしかなかったんだ…
そんな事を思っているとマリアが畑で作業している私を見つける。
「アイリス…ここに…いらしたの…ですね…」
マリアは肩で息をしながら言う。
「ど、どうしたの?凄い急いでたみたいだけど…」
私は何も知らない無垢な子供を演じる。
マリアが落ち着くのを待ってから、話を聞く。
「アイリス!実は先程、アイリスを養子にしたいと言う夫婦がいらっしゃられたのです。なので、アイリスを里親夫婦に引き渡す手続きをしようと思っていたのです。アイリス、一緒に来てくださいなのです。」
「わかったよ。」
私はマリアに連れられながら、形式的な挨拶と手続きをすませて孤児院を出る。
後日、私の魔法陣で孤児院内は大騒ぎになったらしい。
そうして、孤児院から離れた所で人型達には元の土に戻ってもらった。
私は傀儡魔法を応用して作成した変装魔法で今より少しだけ成長した14歳程度の姿に変身する。
「よーし。ここからは自由よ。まずは手続きで手に入れたこのお金で馬車でも乗れれば良いのだけれど…」
私は探知を使用しながら、しばらく馬車を探してウロウロとさ迷っていた。
「やあ、お嬢さん。こんなところでどうしたんだい?」
私は商人の男性に出会った。
念の為に鑑定で素性を調べて、安全な事を確認する。
「私、街にいるお父さんに会いたくて出てきたんですけど…」
「おや、それは大変だ!ちょうど私も街に用があってね。私の馬車の荷台で良ければ乗せていってあげるけど…いかがかな?」
商人の男性はにこやかな笑顔で言う。
「本当ですか!じゃあ、お言葉に甘えて乗せていってもらいたいです!」
「ハッハッハッ!元気でいいね!なら、乗ってってよ!ちょっと硬いかもしれないけど…」
私が馬車の荷台に乗ると商人の男性が元気よく言う。
「それじゃあ、出発するよ。ヨーソーロー♪」
商人のご機嫌な歌をBGMにして少しだけ仮眠を取る。
記憶が戻ったとは言え、身体はまだ幼い少女である事には変わりないのだ。
前世の私ならいつまでも起きれていたが、少女にそれは不可能だからね…
と言うか、この子に無理はさせたくないし…
いや、この子は私だったわ。
頭がこんがらがる~⤴︎︎︎
……………………………………………………………
…夢を見た。
…遥か昔に約束した夢だ。
…頭に黒色の角のある小さな少女との約束の夢だった。
『生まれ変わったら、教えなさいよね!私も会いに行くから!』
私は元気よく目の前の修道女に挨拶する。
「はい。おはようございますなのです。アイリス。今日もお元気そうで何よりなのです。」
マリアはニコリと優しく微笑み、返事をする。
「えへへ…元気だけが私の取り柄だからね!」
「いえいえ、アイリスは孤児院の皆にも優しく、私たちでも気がつかないような細かい事にも気をつけてくれているのです。そのおかげで私たちもいつも助かっているのです。」
「えへへ…マリアさんに褒められると照れちゃうな~」
そんな事を言いながら、私はいつものようにテキパキと担当の掃除場所を綺麗にしていく。
…ただ一つ、今朝はいつもとは違う事があった。
…
夜明け前、私はいつもと同じくらいの時間に目が覚める。
「ふわぁ…よく寝た…こんなに寝たの何年ぶりだろ…」
私は不意に出た自分の言葉が不思議に感じた。
「…あれ?私って、こんなに小さかったっけ?いや、私はいつもと変わらないはず…」
私は自分が自分の知ってる自分である事と私は自分が自分の知っている自分でない事の2つの記憶に気がつく。
「私は…いや、大人の私の名前は…」
私は自分が大人である事と自分が子供である事を覚えていた。
「大人の私はシェテラエンデ・アルフェルン…前にシスターに読んでもらった伝承の絵本の大賢者様と名前が同じ…元々は貴族の生まれだったが、魔法の研究に没頭していたら奇行とみなされて勘当された。その後は一人で気ままに暮らしていた。顔は若く凛として美しい、深海の様に青く長い髪、恐ろしく平たい胸部の断崖絶壁、背丈は高く、左眼は赤く、右眼は黄色い、この頃は既に20歳で世界一の大賢者と呼ばれ、神々からも敬われる対象だった。30歳にもなると現代に残るほぼ全ての魔法を開発し終えて、弟子も一人を除いて、皆旅立った後だ。容姿は胸部以外は伝承の絵本とほとんど違わない…いや、この場合は絵本の方が間違っていると言えるのかな?てか、なんで絵本の方は爆乳で書かれてんのよ…絶対、ディアランテかソプラティスの仕業だよ!畜生!」
そんな事を言いながら、私は記憶を整理する。
大人の私と今の私の記憶…
つまり、シェテラエンデの記憶とアイリスの記憶にわける。
シェテラエンデは元々アルフェルンと言う貴族の家の生まれであったが、幼い頃から「奇行」に走る事が多く、それを嫌った当主の父によって12歳の頃に勘当されてしまい、家も追い出されて無一文で森に捨てられたのだ。
シェテラエンデが捨てられた事に気づいたのは、森に捨てられたシェテラエンデがアルフェルン邸に帰ってきた時だったが、それを知った彼女は自由になった事でむしろ感謝していたが、実の娘を化け物呼ばわりした父は自らの手で殺した。
そこからは興味のある事は全てやってきた。
当時はまだ魔法なんて言葉は無く、奇行の1つだと考えられていた。
その為、それに没頭するシェテラエンデは誰がどう見ても浮いてる存在であり、頭がおかしい人だと皆が口を揃えて言うような時代だ。
しかし、シェテラエンデは世に魔法と言う言葉を定着させるほどに凄まじい研究を重ねに重ねた。
その傍らで魔物の生態調査や討伐依頼をこなして資金を稼ぎつつ、様々な分野で活動しており、考古学や地質学など様々な学問で文字通り桁違いの成果を出し、最終的には魔法学と言う全く新しい学問を立ち上げた。
そして、その魔法学を学んでいた生徒の中でも特に優秀だったものが後の時代で五大神官と呼ばれるようになった。
その後は各地の異変の噂を聞きつけては解決していた。
そして、気がつけばシェテラエンデは人も神も認める伝説の大賢者となっていたのだ。
「今の私はアイリス…捨て子だから、セカンドネームは無い…歳は10歳、物心つく前には既にこの孤児院の前に捨てられていた。ただの孤児だ。富と名声も何も無い。普通の子供。大人の私の容姿とは全く違う草木の様な薄い緑の長い髪、両眼とも青く、背丈は低く、まだ子供なのに、そこそこ大きな胸部の身体だ…前世でもこれくらいはあれば良かったのに…じゃなくて!」
アイリスは物心着いた時には今の修道院の前に捨てられて居たらしい。
それ以外は至って普通の孤児だった。
ただ…前世の記憶を思い出して気がついたのだけれど、アイリスの身体には前世のシェテラエンデもビックリするほどの魔力量を秘めていた。
魔力量は生まれついての量よりは多くならない。
これはシェテラエンデが発見した事であり、魔法を行使する際はこの魔力が使われるが、周囲の魔素や食事によって、それが補填される。
そうして、魔力を回復して再び魔法を扱える様になると言うわけだ。
「私はあの大賢者の生まれ変わりだったのね…」
シェテラエンデは3500年前にこの世界の剣技と魔法の全てを完成させた大賢者だったと誰もが知る偉大な人物だ。
その姿は誰もが魅了されるほどに美しい女性であり、五大神官と言う五人の弟子を持っていたとされている。
私は思考を整理しているうちに、本当に自分がそのシェテラエンデの生まれ変わりだと理解する。
でも、自分がそのシェテラエンデであったからと言って、アイリスには驚きはなかった。
世界を変えた大賢者のシェテラエンデなら、それくらい出来ても不思議では無いとアイリスは考えていたからだ。
私は自分の記憶にある傀儡魔法を思い出して、試してみる。
「大地の精よ。我が声に応え、土塊に宿れ。」
私が呪文を唱えると小さな女の子の姿をした土の人形が作成される。
「これが…大人の私の力…最強で無敵だった大人の私の力…」
もっと魔力を注いで人により近い姿になるように念じる。
人形は徐々に大人の私と同じ姿になっていく。
「凄い…私が念じた通りに完璧な人形が出来ちゃった…」
私が念じる度に人形はまるでそこに本物の人が居るかのような動きで私の念じた通りに動く。
「これが傀儡魔法…凄い…凄いよ。私の思うがままに動いてる!」
人形はどことなく嬉しそうに微笑んで言う。
「ご主人様の手足となる存在ですから…このくらい出来て当然ですよ。」
私は突然聞こえた美声に驚いて人形を見る。
「えぇ?!自我を持って話し出した?!」
「ご主人様、他の方が起きてしまいますよ。」
「あ、ごめん…」
私は少し落ち着いて話す事にした。
「君、名前は?」
人形は首を傾げる。
「名前は無いですよ。我々は人形ですので、ご主人様が名付けない限りは、名無しの人形です。それにご主人様ほどの精度でも無ければ、この様にほとんど人間と変わらない姿で自我を持って会話する事さえ不可能な存在ですから…」
「あ、そうだった…まだ完全には記憶の整理がついてないみたいだ…辛い事を聞いてごめんね。」
「お気になさらないでください。今世のご主人様はただの普通の少女として生まれ育ちました。そんな中で突然、前世の記憶を思い出したともなれば、混乱するのも無理はありませんよ。」
人形は優しい笑顔を浮べる。
「ありがと。とりあえず、今は元の土に戻っててもらってもいいかな?」
「承知しました。また私たちが必要な時は呼んでくださいね。」
人形はそれだけを言うとバラバラになって土に戻る。
「人形相手とは言え、なんだか悪い事をしちゃった気分だなぁ…」
だけど、私には目的が出来た。
「私の家…じゃなくて、大人の私の家に帰ろう…いや、この場合だと行こうってなるのかな?」
あそこにはいろいろと危険な物も収容してあるし、見られたら恥ずかしいものも置いてきてるし…
サキュバスもびっくりな布面積の下着とかめちゃくちゃ恥ずかしい設定の自作小説とかなんかめっちゃ呪われてるパンツとか根に触れると思考が犬になっちゃうダイコーンとかドラゴンの贈物の金ピカパンツとか…
パンツに関してはほとんどが贈物だけど、シェテラエンデは変な物を集めるのが好きだったからね。
…って、前世の私の事なんですけど。
「そうと決まれば、早速計画を立てなくちゃ!」
こうしていつもは勉強していた少女は前世の自分の家に帰る準備を開始するのであった。
…
こうして、現在私は当番の畑の水撒きをする前に孤児院の掃除をしているのだ。
「よし。これで完璧!あとは…」
私はこっそりと清掃魔法の自立式魔法陣を書く。
「これでこの孤児院の中はいつでも綺麗な状態に保てるね。」
そうして、私は他の修道女達が起きてくる前に本命の作戦を始める為に担当の畑に移動する。
「よーし…ここも魔法陣で自動で水撒きを出来るようにして、畑の温度調節や敷地内への魔物避けもやってもらっちゃおう!」
私は自立式魔法陣を目立たない様に書く。
「最後に傀儡魔法で里親の大人を作って…」
私は人間の2組の少し歳をとった夫婦の人型を作る。
ゴーレムと違い、外見が完全に人間の姿をしているが、全て私の魔力で出来ているので、どちらかと言えば魔族に近い存在だ。
まあ、今はそんな事はどうでもいいだろう。
「よし。これで完璧!後はこの人型達に私を引き取る手続きをやってもらうだけだね。夫のアルフレッド・アルフェルン、妻のアリアン・アルフェルン、頼みましたよ。」
私がそう言うと人型達は了解のポーズを取る。
そして、孤児院の玄関から受付へと進むのを見届ける。
「よし。後はあの子たちの判断で手続きを進めてくれると思うから…」
私はこれから一人で旅をするにあたっての魔法の練習をする。
「まず初めに強化魔法だね。魔力纏!」
魔力纏は魔力を全身に纏わせる事で体を強化する強化魔法だ。
これにより、体力の増加、攻撃力の上昇、防御力の上昇、状態異常耐性の4種の能力上昇と身体機能の強化が可能になる。
もちろん、私は元大賢者なので、その上がり幅も桁違いのものになるんだ。
他にも力や速度等の簡単な強化魔法もあるけど、今の私なら魔力纏があるから大丈夫だと思う。
「ひとまず、これだけ出来ればなんとかなると思うし、今はこれで満足しとくかな。」
私は魔力纏を解除する。
そして、その瞬間マリアが表で私の名前を呼びながら、こっちに来る気配を感じる。
「あ、首尾よく終わったみたいだね。」
孤児院の皆を騙したみたいで少しだけ胸が痛いが目的の為にはこうするしかなかったんだ…
そんな事を思っているとマリアが畑で作業している私を見つける。
「アイリス…ここに…いらしたの…ですね…」
マリアは肩で息をしながら言う。
「ど、どうしたの?凄い急いでたみたいだけど…」
私は何も知らない無垢な子供を演じる。
マリアが落ち着くのを待ってから、話を聞く。
「アイリス!実は先程、アイリスを養子にしたいと言う夫婦がいらっしゃられたのです。なので、アイリスを里親夫婦に引き渡す手続きをしようと思っていたのです。アイリス、一緒に来てくださいなのです。」
「わかったよ。」
私はマリアに連れられながら、形式的な挨拶と手続きをすませて孤児院を出る。
後日、私の魔法陣で孤児院内は大騒ぎになったらしい。
そうして、孤児院から離れた所で人型達には元の土に戻ってもらった。
私は傀儡魔法を応用して作成した変装魔法で今より少しだけ成長した14歳程度の姿に変身する。
「よーし。ここからは自由よ。まずは手続きで手に入れたこのお金で馬車でも乗れれば良いのだけれど…」
私は探知を使用しながら、しばらく馬車を探してウロウロとさ迷っていた。
「やあ、お嬢さん。こんなところでどうしたんだい?」
私は商人の男性に出会った。
念の為に鑑定で素性を調べて、安全な事を確認する。
「私、街にいるお父さんに会いたくて出てきたんですけど…」
「おや、それは大変だ!ちょうど私も街に用があってね。私の馬車の荷台で良ければ乗せていってあげるけど…いかがかな?」
商人の男性はにこやかな笑顔で言う。
「本当ですか!じゃあ、お言葉に甘えて乗せていってもらいたいです!」
「ハッハッハッ!元気でいいね!なら、乗ってってよ!ちょっと硬いかもしれないけど…」
私が馬車の荷台に乗ると商人の男性が元気よく言う。
「それじゃあ、出発するよ。ヨーソーロー♪」
商人のご機嫌な歌をBGMにして少しだけ仮眠を取る。
記憶が戻ったとは言え、身体はまだ幼い少女である事には変わりないのだ。
前世の私ならいつまでも起きれていたが、少女にそれは不可能だからね…
と言うか、この子に無理はさせたくないし…
いや、この子は私だったわ。
頭がこんがらがる~⤴︎︎︎
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