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十七話 娘の傷

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 調理場から離れ、少し城の中を探索していると、ラティアの娘に遭遇した。

 見た目は、歳若いラティアそのものでかなり容姿は整っている。、髪色も青と同様で、違う部分を上げるとすれば、ラティアがロングヘアーなのに対し、娘はショートヘアーなところだろう。

 たしか名前は……

「リターナ……だったか」

「ん? あっ、お、おはようございます、大魔王様」

 独り言を呟くように名を口にすると、それが聞こえたのか、リターナはこちらを向き朝の挨拶をしてきた。 

 リターナは怪我をしていて意識が朦朧していたとはいえ、目の前で自分の父親を俺に殺されている。

 であるのに、昨日再開した時を含めて俺に怯える素振りすら見せない。

 いくら母親に言いくるめられているとはいえ、普通なら表には出さない迄も心の中では怯えていてもいいものだが、『神の眼』で探ってみてもやはり一ミリたりとも怯えていない。

「朝から変なことを聞くが、俺が怖くないのか?」

「え?」

「まあ、一応正当性はあるとはいえ、君の目の前で父親を殺しているわけだろ? しかもかなり残虐的に……な。
 そんな俺に怯えている様子が感じられなくてつい気になってしまったんだ。
 それで、何故怯えないんだ?」

 『神の眼』で全てを調べることも出来たのだが、俺に怯えている様子のない彼女がどう答えるのか気になってしまい、直接聞いてみることにした。勿論、嘘をつかれる可能性もあるので、心は読んだままだ。

「大魔王様があの父親から私達を解放してくれたからです。
 私は暴行を受ける程度ですんでいましたが、母はそれ以上の地獄の日々を過ごしていました。
 そんな私達を助けてくれた救世主のような大魔王様に怯えるはずがありません」

 ……驚いた。彼女の言っていることは全て嘘偽りのない事実だった。ということは、あの屑野郎、あの時だけではなく、いつも娘を虐待していたというのか? どれだけ罪を重ねれば気が済むんだ。クソ、こんなことならすぐに殺さずに、今までの行ないを悔い改めさせてから殺すべきだったな。

 いや、そんなことは今はもういいんだ。もう死んだやつのことを振り返ったところで意味はない。

 それよりも今重要なことは彼女が前々から虐待を受けていたということだ。

 『上位治癒ハイキュア』は、その名の通り、普通の治癒よりも効果が高く、大抵の傷は傷跡を残すことなく治すことができる。昨日リターナーが負っていた重傷ももと通り治すことができているだろう。

 だが、元々残っていた傷、いわゆる古傷は別だ。

 古傷を完全に治すことができる魔術は、第三位階の『上位治癒ハイキュア』よりも遥かに上の位階である、第八位階魔術の『完全治癒パーフェクトキュア』になる。

 つまり彼女には、これまで受けてきた虐待分の傷がまだ残っているということになる。
 実の娘を犯すことが出来ない変わりに傷物にするとは……本当に屑野郎だ。

 彼女は、解放してくれたからと言ったが、これでは本当の意味で奴から開放された状態とは言えない。

 古傷を見てしまえば、彼女は絶対にまた奴から受けていた屈辱の日々を……虐待の日々を思い出してしまうだろう。

 ならば、どうするか。そんなの考えるまでもなく答えは出ている。

 それに彼女は、あの屑に献上された俺の所有物。俺はどんな物でも大事にする男だし、ましてやラティアと同じく心の強い女を大事にしないなんてありえない。

「『完全治癒パーフェクトキュア』」

 そう考え至ると、俺は何も告げずに彼女に対して第八位階魔術を行使した。

 魔術が発動すると、対象となったリターナの身体を眩しすぎるほどの光が包み込み数秒間明滅を繰り返す。

 やがて、光が消え去ると、目の前には傍から見れば何も変わっていないリターナの姿がそこにあった。

 当然、古傷が治っているかなど、服を着ている今の彼女を見ただけではわからない。が、俺は魔術に対して絶対の信頼をおいているからこそ、わかっている。

 彼女の身体が傷一つない綺麗な頃に戻っているということを……

「今の光は一体……」

 魔術を受けた当の本人は、まだその事実を知らない。
 突然光に包まれたのに、その後なんの変化も起きていないことに困惑している様子だ。

「今の魔術は、第八位階の怪我を治すものだ。
 昨日君に使ったのは、第三位階。つまりは、単純に考えても五段階も上位の魔術……ということだ。
 これの意味するところは……まあ、口で言うよりは自分で確かめて見た方が、効果を実感できるだろうから言わないでおこう。
 今すぐ、自分の部屋に帰って、鏡に映る自分の身体を見てこればわかるさ」

「……え?」

 俺は、そう告げると、リターナのいる方向とは真逆に歩き出す。

 俺の言葉を聞いた十数秒後に、その言葉の意味をようやく理解したリターナが、自分の部屋に走って帰っていく姿が目に見えずとも浮かんできた。
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