132 / 276
第6章「最高神生誕祭」
130話 祭りの傍らで
しおりを挟む
中央都市から、賑やかな音楽と神たちの歓喜の声が聞こえてきた。
繁華街の入り口にやってくると、楽器を吹いたり叩いたりして鳴らす神たちの姿があった。神々による楽隊のパレードだ。こういう催事のときくらいしか見かけない集団なのだが、その珍しさから現れたときの歓声は凄まじい。私も生誕祭のときくらいしか見ないもので、見かけると思わず目を惹かれてしまう。
「ユキア、アスタ。おはよう」
繁華街の入り口のそばにある柱に、メアの姿があった。私たちに気づくと、すぐにこちらへ近寄って来た。
やっぱり、私の姿がいつもと違うことに気づくのが早いもので、きょとんとした顔になったのも近寄ってすぐのことだった。
「ユキア、そんな服持っていたか?」
「ティアルから贈ってもらったの。ほら、この間鍛錬してるって話したでしょ? 戦闘に特化した新しい服を作ってくれたんだー」
「そうなのか。うん、よく似合ってる」
にっこりと笑うメア。私までなんとなく嬉しくなっちゃう。
「あれ、メアはおしゃれとかしないの?」
「そういうアスタこそ、いつもの服じゃないか」
「ボクは手持ちがこれしかないからいいのー。それに、この服結構気に入ってるし」
まず、メアにカルデルトのいる診療所へ行きたいことも伝えたが、呆気ないくらい早く了承してくれた。
とりあえず、一旦宮殿方面まで向かう必要がある。楽隊のパレードを見物している神々の後ろを通りつつ、繁華街を歩いていた。そんな中、楽隊を眺めていた神の中にいた一人に声をかけられた。
「おお、アスタ。それとユキアに、メアだったかえ?」
「げっ」
「あ、カトラスさん! こんにちは」
「こ、こんにちは」
アスタがわかりやすく嫌そうな顔をしたが、私はちょうど会えて嬉しかったので頭を軽く下げた。
メアは私の後ろに隠れたが、全然隠れられていない。
「新しい服のネックレス、ありがとうございます! これ、とっても綺麗ですね」
「気に入ってくれたか。それは、つけているだけで魔力の質が上がる優れものでな。わしの魔力を石に込めておるのじゃ」
「カトラスって、アクセサリーまで作れたんだね」
「わしを誰だと思っておるのじゃ? 武器から道具、アクセサリーまで、金属関連ならお手の物じゃよ」
がっはっは、と豪快に笑うカトラスさん。厳しい印象が強いひとだと思っていたけど、案外気のいいお爺さんみたいだ。
「ユキア、お主には申し訳ない思いでいっぱいじゃ。アスタが迷惑をかけておるのではないかえ?」
「いいんですよ、本当に頼りになりますから。迷惑って言ったって、たまに勝手に後をついてくるくらいですし」
「……アスタ?」
「へ、変な目で見ないでよ! ボクはユキが心配なだけだってば!」
変なところでムキになるのもやめてほしい。誤解されそう。
アスタってもしかして、カトラスさんのことあまり好きじゃないのかな?
「まあ、そこはあまり気にせんでくれ。アスタの昔からの癖みたいなものじゃ」
「……癖?」
「決して悪意があってやっているわけではない。昔だって、初代最高神の後をついて回ってばかりで────」
「あーあーあー!! カトラス黙ってぇ!!」
アスタが大声でカトラスさんの言葉を遮ったので、最後まで聞けなかった。さっきから、何をそんなムキになっているんだろう。
「色々大変じゃろうが、これからも仲良くしてやっとくれ。わしはこれから向かうところがあるのでな、ここで失礼させてもらうわい」
「どこ行くのさ?」
「デウスプリズンじゃ。アスタ、あまり迷惑をかけるんじゃないぞ」
「わかってるってば! いちいちうるさいなぁ!」
苦笑いしながら立ち去っていくカトラスさんを見送ってから、私たちは元々進んでいた方向へ歩みを再開する。
その間、私の後ろでメアとアスタが話しているのが聞こえてきた。
「アスタ、カトラスさんと知り合いだったんだな」
「知り合いっていうか、ただの腐れ縁だよ」
「それより、本当にユキアに余計なことしていないだろうな? 不埒な真似をしたら、今度こそ銃で頭をぶち抜くからな」
「な、何言ってるの!? というかメア、ボクのこと許したんじゃなかったの!?」
「それとこれとは話が別だ」
……本当に仲良くなったのかなぁ、この二人。
繁華街を抜けると、少しだけ神の数が減ってきた。最高神生誕祭ということで、宮殿の方も多少は賑わっているが、催し物や店が設置されている繁華街よりは静かな方だ。
診療所にやってきた私たちは、カルデルトを呼ぼうとドアを叩こうとした────が、先にカルデルトがドアを開けた。
「よぉ。入れ」
「えっ? ……酒臭っ! カルデルト、あんた酒飲んだでしょ!?」
「昨日ちょっと飲み過ぎてな……とりあえず、早く入ってくれ」
酔っ払っている……というほどでもなさそうだ。顔色自体はあまり変わっていないし、性格もまったく豹変していない。
言われた通り、私たちは診療所へ足を踏み入れた。普段は消毒液の匂いが強いのに、今日は酒の匂いがひどい。どちらも本質的には似た匂いではあるけれど。
カルデルトは診察室の奥へ行ったので、私たちもついていった。そこには、書類や本、筆記用具が乱雑に置かれた机や、分厚い本が敷き詰められた本棚などがあった。
ここはカルデルトの部屋みたいなところだ。やはり普段から忙しくしているのか、簡易ベッドも設置してある。
カルデルトは机のそばに置かれた大きな椅子にもたれかかり、ふぅと息をついた。
「それで、えーと……ああ、アスタが魔物の対処法を考えてほしいとか言ってたんだっけか」
「そうだよっ。飲みに行ったり諸々の用事で、全然都合つかなくて困ってたよ」
「悪かったな……酒を飲みながらちょいと考えていたことがあるんだが。アスタ、お前さんの武器を貸せ」
「え? いいけど……」
アスタが懐から金色の短剣を引き抜き、カルデルトに手渡した。特に表情を変えることなく、短剣をあらゆる角度から見回す。
「ふむ……なるほど。この金属、若干アストラルが含まれているんだな」
「そうみたい。星幽術はともかく、短剣も効かないのってそのせいだと思うんだけど」
「おいおい、自分の武器の詳細も把握してねぇのかよ」
「わかってないことも多いんだよ。ボクが作ったものじゃないし」
「だとすると……ちょっと待ってろ」
カルデルトが重い腰を上げるように、のっそり立ち上がる。本棚の横にある白い薬品棚を開け、中から白い薬瓶を取り出したと思ったら。
「これ使ってみろ。ほれ」
なんと、アスタに向かって放り投げた。アスタはアスタで、短剣を片手に持っている状態でもしっかりキャッチしていた。
「危ないなー! これなに?」
「エーテル剤だ。ジェルタイプ」
……えーてるざい? なにそれ、私知らない。
ちょっとメアの方に顔を向けてみるが、首を横に振られた。
「メアの事件のときにいろいろと発想を得たから、個人的に試作した。これは文字通り、エーテルを凝縮させて固体に近づけたものだ。魔物にアストラルは効かないが、エーテルは効くからそれを使ってみたらどうだ」
つまり、アストラルを含んだ金属の表面にエーテルでできた薬を塗った状態ならば、魔物にアスタの攻撃が通る可能性がある……ということか。
言ってしまえば刃に毒を塗るようなものだろう。魔物にとって、神の攻撃には弱いみたいだから。
「……ということは、これをいちいち短剣に塗って使えと?」
「そーゆーこった」
「めんどくさっ!」
「あらかじめ塗っておくか、隙を見て塗って使うしかないかもな。今の俺の技術じゃ、そのくらいしかしてやれん」
「そ、そっか。ありがとう、カルデルト」
薬を受け取って懐にしまい、短剣も一緒に納めた。
というか、アスタもいろいろ気にしてたんだな。自分の攻撃が魔物に効かないということ、それなりに思い詰めていたらしい。
なぜそう思ったのかというと、薬をポケットに入れたアスタの顔が、どことなくほっとしたように見えたから。
「もう少し早く手に入ってたら、もっとよかったけどね……」
「アスタ?」
「あっ、ううん! それよりユキ、メア。お祭りに行こうよ」
「そうだな。用事が終わったなら、ある程度回ってからシオンたちと合流しよう」
それもそうだけど、私はまだトルテさんにお礼を言えていない。三人で回るときか、シオンたちと合流した後で、トルテさんのカフェに行きたい。
などと、私たちは祭りの予定を軽く組み立てているのだが、カルデルトは部屋の椅子にまた座り直して動こうとしなかった。
「カルデルトはお祭り行かないの?」
「俺はパス。開祭式も半分死にかけた状態で出たんだよ。明日の閉祭式まで休ませろ」
「えっ、開祭式ってそんなにハードなの?」
「朝一の催事だから早朝にやってたんだよ。特に面白くもないし、好き好んで見に来る奴も少ねぇんだ」
それ、曲がりなりにもアーケンシェンである男がいうセリフじゃないでしょ。
ティアルにも言ったけれど、私もアイリスの長ったらしい挨拶とか、特に興味もない演説なんて聞きたくないから、開祭式をきちんと見た記憶はない。
「開祭式は盛り上がらないのに、祭り自体はそこそこ盛り上がるんだね」
「そりゃそうさ、みんなどんちゃん騒ぎが好きだからなぁ。……ああそうだ。メア、祭りが終わってからでいいんだが、またちょっと診療所に来てくれないか」
「え? なぜだ」
「黒幽病が再発していないかどうか、少し気になったんだ。夢牢獄事件のときに気絶してたし、心配なんだよ」
メアは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
十年前から、私も含め何かとカルデルトにはお世話になりっぱなしだ。大人になった今も、こうして頼ることになろうとは思いもしなかったけれど。
「とりあえず、生誕祭はお前らだけで楽しんでこい。俺は陰から見ているだけで十分だ」
「そっか。じゃあ行こう、ユキ、メア」
アスタが頷き、私とメアの手を引いて部屋から出ていく。これ以上長居しても仕方ないし、診療所を出て再び繁華街へ向かうことにした。
繁華街の入り口にやってくると、楽器を吹いたり叩いたりして鳴らす神たちの姿があった。神々による楽隊のパレードだ。こういう催事のときくらいしか見かけない集団なのだが、その珍しさから現れたときの歓声は凄まじい。私も生誕祭のときくらいしか見ないもので、見かけると思わず目を惹かれてしまう。
「ユキア、アスタ。おはよう」
繁華街の入り口のそばにある柱に、メアの姿があった。私たちに気づくと、すぐにこちらへ近寄って来た。
やっぱり、私の姿がいつもと違うことに気づくのが早いもので、きょとんとした顔になったのも近寄ってすぐのことだった。
「ユキア、そんな服持っていたか?」
「ティアルから贈ってもらったの。ほら、この間鍛錬してるって話したでしょ? 戦闘に特化した新しい服を作ってくれたんだー」
「そうなのか。うん、よく似合ってる」
にっこりと笑うメア。私までなんとなく嬉しくなっちゃう。
「あれ、メアはおしゃれとかしないの?」
「そういうアスタこそ、いつもの服じゃないか」
「ボクは手持ちがこれしかないからいいのー。それに、この服結構気に入ってるし」
まず、メアにカルデルトのいる診療所へ行きたいことも伝えたが、呆気ないくらい早く了承してくれた。
とりあえず、一旦宮殿方面まで向かう必要がある。楽隊のパレードを見物している神々の後ろを通りつつ、繁華街を歩いていた。そんな中、楽隊を眺めていた神の中にいた一人に声をかけられた。
「おお、アスタ。それとユキアに、メアだったかえ?」
「げっ」
「あ、カトラスさん! こんにちは」
「こ、こんにちは」
アスタがわかりやすく嫌そうな顔をしたが、私はちょうど会えて嬉しかったので頭を軽く下げた。
メアは私の後ろに隠れたが、全然隠れられていない。
「新しい服のネックレス、ありがとうございます! これ、とっても綺麗ですね」
「気に入ってくれたか。それは、つけているだけで魔力の質が上がる優れものでな。わしの魔力を石に込めておるのじゃ」
「カトラスって、アクセサリーまで作れたんだね」
「わしを誰だと思っておるのじゃ? 武器から道具、アクセサリーまで、金属関連ならお手の物じゃよ」
がっはっは、と豪快に笑うカトラスさん。厳しい印象が強いひとだと思っていたけど、案外気のいいお爺さんみたいだ。
「ユキア、お主には申し訳ない思いでいっぱいじゃ。アスタが迷惑をかけておるのではないかえ?」
「いいんですよ、本当に頼りになりますから。迷惑って言ったって、たまに勝手に後をついてくるくらいですし」
「……アスタ?」
「へ、変な目で見ないでよ! ボクはユキが心配なだけだってば!」
変なところでムキになるのもやめてほしい。誤解されそう。
アスタってもしかして、カトラスさんのことあまり好きじゃないのかな?
「まあ、そこはあまり気にせんでくれ。アスタの昔からの癖みたいなものじゃ」
「……癖?」
「決して悪意があってやっているわけではない。昔だって、初代最高神の後をついて回ってばかりで────」
「あーあーあー!! カトラス黙ってぇ!!」
アスタが大声でカトラスさんの言葉を遮ったので、最後まで聞けなかった。さっきから、何をそんなムキになっているんだろう。
「色々大変じゃろうが、これからも仲良くしてやっとくれ。わしはこれから向かうところがあるのでな、ここで失礼させてもらうわい」
「どこ行くのさ?」
「デウスプリズンじゃ。アスタ、あまり迷惑をかけるんじゃないぞ」
「わかってるってば! いちいちうるさいなぁ!」
苦笑いしながら立ち去っていくカトラスさんを見送ってから、私たちは元々進んでいた方向へ歩みを再開する。
その間、私の後ろでメアとアスタが話しているのが聞こえてきた。
「アスタ、カトラスさんと知り合いだったんだな」
「知り合いっていうか、ただの腐れ縁だよ」
「それより、本当にユキアに余計なことしていないだろうな? 不埒な真似をしたら、今度こそ銃で頭をぶち抜くからな」
「な、何言ってるの!? というかメア、ボクのこと許したんじゃなかったの!?」
「それとこれとは話が別だ」
……本当に仲良くなったのかなぁ、この二人。
繁華街を抜けると、少しだけ神の数が減ってきた。最高神生誕祭ということで、宮殿の方も多少は賑わっているが、催し物や店が設置されている繁華街よりは静かな方だ。
診療所にやってきた私たちは、カルデルトを呼ぼうとドアを叩こうとした────が、先にカルデルトがドアを開けた。
「よぉ。入れ」
「えっ? ……酒臭っ! カルデルト、あんた酒飲んだでしょ!?」
「昨日ちょっと飲み過ぎてな……とりあえず、早く入ってくれ」
酔っ払っている……というほどでもなさそうだ。顔色自体はあまり変わっていないし、性格もまったく豹変していない。
言われた通り、私たちは診療所へ足を踏み入れた。普段は消毒液の匂いが強いのに、今日は酒の匂いがひどい。どちらも本質的には似た匂いではあるけれど。
カルデルトは診察室の奥へ行ったので、私たちもついていった。そこには、書類や本、筆記用具が乱雑に置かれた机や、分厚い本が敷き詰められた本棚などがあった。
ここはカルデルトの部屋みたいなところだ。やはり普段から忙しくしているのか、簡易ベッドも設置してある。
カルデルトは机のそばに置かれた大きな椅子にもたれかかり、ふぅと息をついた。
「それで、えーと……ああ、アスタが魔物の対処法を考えてほしいとか言ってたんだっけか」
「そうだよっ。飲みに行ったり諸々の用事で、全然都合つかなくて困ってたよ」
「悪かったな……酒を飲みながらちょいと考えていたことがあるんだが。アスタ、お前さんの武器を貸せ」
「え? いいけど……」
アスタが懐から金色の短剣を引き抜き、カルデルトに手渡した。特に表情を変えることなく、短剣をあらゆる角度から見回す。
「ふむ……なるほど。この金属、若干アストラルが含まれているんだな」
「そうみたい。星幽術はともかく、短剣も効かないのってそのせいだと思うんだけど」
「おいおい、自分の武器の詳細も把握してねぇのかよ」
「わかってないことも多いんだよ。ボクが作ったものじゃないし」
「だとすると……ちょっと待ってろ」
カルデルトが重い腰を上げるように、のっそり立ち上がる。本棚の横にある白い薬品棚を開け、中から白い薬瓶を取り出したと思ったら。
「これ使ってみろ。ほれ」
なんと、アスタに向かって放り投げた。アスタはアスタで、短剣を片手に持っている状態でもしっかりキャッチしていた。
「危ないなー! これなに?」
「エーテル剤だ。ジェルタイプ」
……えーてるざい? なにそれ、私知らない。
ちょっとメアの方に顔を向けてみるが、首を横に振られた。
「メアの事件のときにいろいろと発想を得たから、個人的に試作した。これは文字通り、エーテルを凝縮させて固体に近づけたものだ。魔物にアストラルは効かないが、エーテルは効くからそれを使ってみたらどうだ」
つまり、アストラルを含んだ金属の表面にエーテルでできた薬を塗った状態ならば、魔物にアスタの攻撃が通る可能性がある……ということか。
言ってしまえば刃に毒を塗るようなものだろう。魔物にとって、神の攻撃には弱いみたいだから。
「……ということは、これをいちいち短剣に塗って使えと?」
「そーゆーこった」
「めんどくさっ!」
「あらかじめ塗っておくか、隙を見て塗って使うしかないかもな。今の俺の技術じゃ、そのくらいしかしてやれん」
「そ、そっか。ありがとう、カルデルト」
薬を受け取って懐にしまい、短剣も一緒に納めた。
というか、アスタもいろいろ気にしてたんだな。自分の攻撃が魔物に効かないということ、それなりに思い詰めていたらしい。
なぜそう思ったのかというと、薬をポケットに入れたアスタの顔が、どことなくほっとしたように見えたから。
「もう少し早く手に入ってたら、もっとよかったけどね……」
「アスタ?」
「あっ、ううん! それよりユキ、メア。お祭りに行こうよ」
「そうだな。用事が終わったなら、ある程度回ってからシオンたちと合流しよう」
それもそうだけど、私はまだトルテさんにお礼を言えていない。三人で回るときか、シオンたちと合流した後で、トルテさんのカフェに行きたい。
などと、私たちは祭りの予定を軽く組み立てているのだが、カルデルトは部屋の椅子にまた座り直して動こうとしなかった。
「カルデルトはお祭り行かないの?」
「俺はパス。開祭式も半分死にかけた状態で出たんだよ。明日の閉祭式まで休ませろ」
「えっ、開祭式ってそんなにハードなの?」
「朝一の催事だから早朝にやってたんだよ。特に面白くもないし、好き好んで見に来る奴も少ねぇんだ」
それ、曲がりなりにもアーケンシェンである男がいうセリフじゃないでしょ。
ティアルにも言ったけれど、私もアイリスの長ったらしい挨拶とか、特に興味もない演説なんて聞きたくないから、開祭式をきちんと見た記憶はない。
「開祭式は盛り上がらないのに、祭り自体はそこそこ盛り上がるんだね」
「そりゃそうさ、みんなどんちゃん騒ぎが好きだからなぁ。……ああそうだ。メア、祭りが終わってからでいいんだが、またちょっと診療所に来てくれないか」
「え? なぜだ」
「黒幽病が再発していないかどうか、少し気になったんだ。夢牢獄事件のときに気絶してたし、心配なんだよ」
メアは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
十年前から、私も含め何かとカルデルトにはお世話になりっぱなしだ。大人になった今も、こうして頼ることになろうとは思いもしなかったけれど。
「とりあえず、生誕祭はお前らだけで楽しんでこい。俺は陰から見ているだけで十分だ」
「そっか。じゃあ行こう、ユキ、メア」
アスタが頷き、私とメアの手を引いて部屋から出ていく。これ以上長居しても仕方ないし、診療所を出て再び繁華街へ向かうことにした。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる