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第5章「神々集いし夢牢獄」
94話 魔特隊再編成
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昼下がりの繁華街は、いつも通りの賑わいを見せている。様々な娯楽で溢れかえり、神々も大いに賑わっている。
「おお、クリムか。待っておったぞ」
鍛冶屋に到着し、短い銀髪と緑目が特徴的な初老の男──カトラスさんが出迎えてくれる。約束通り、手を空けておいてくれてありがたい。
「武器の整備、お願いします」
「じゃあ、こちらに入ってまいれ」
鍛冶屋の中に入ると、一気に暑苦しく感じた。ガラスペンを取り出し、魔力を注入させて剣に変えてからカトラスさんに渡した。
「ふむ、ちょっと欠けている部分があるのう。もう少し来る頻度を増やしてもいいのじゃぞ? お主は大事に武器を使う方じゃし、管理が楽じゃからな」
「すみません。ここ最近、何かと忙しかったもので」
「別に構わないがのう。まあ、わしに任せておけ」
世の中には平気で武器を真っ二つに折る神もいるし、それに比べれば僕はマシな方だろう。ちょっとした傷や損傷は、カトラスさんに直してもらうのが一番いい。
ガラスの剣を預け、僕は鍛冶屋の中にある休憩スペースの椅子に座らせてもらった。カトラスさんは設置された金床の一つに僕のガラスの剣を置き、作業に取りかかる。
「じゃあ、夕方頃に受け取りに来ますので────」
「待て待て。武器もなしに出歩くのはやめておけ。近頃は何かと物騒じゃし、たまにはお主とも話しておきたいわい」
鍛冶屋から離れようとした僕を、慌てて引き留めてきた。
武器が大きく破損しているわけではないので、一時間もあれば整備は終わるだろう。鍛冶屋の中は蒸し暑く、羽織っているマントを取らないと、さすがに汗で身体が濡れる。
「ここ最近、調子はどうじゃ? みんなと仲良くできておるか?」
作業中も、カトラスさんはよく話しかけてくる。金槌で金属を叩いたりしていても、本人の声が結構大きいので聞き取れないことはない。
「良くも悪くもないですね。未だに解決しきれていないこととかありますし」
「アリアはどうじゃ? わしの目には元気に映っておるが」
「何も変わっていません。いつも通りですよ」
────百年前、彼女は致命傷を負っている。一時は死を覚悟したが、アイリス様やカルデルトの尽力もあり無事に持ち直すことができた。
しかし怪我の影響か、事件が起こる以前の記憶がなくなっていた。今でもほとんど取り戻せていないままで、そのせいで性格も微妙に変化してしまっている。
カトラスさんと話すとき、たまにこうしてアリアの近況を聞かれる。彼女や僕だけじゃない、アーケンシェンやアイリス様のことはよく気にかけてくれている。
「それならよかったわい。今日のお主、どこか調子が悪そうだったものでな」
「調子は悪くないんです。ただ……昔の夢を見てしまったものですから」
「……そうか」
ありがたいことに、僕の口ぶりから色々と察してくれたようだった。当然ながらこのひとも、例の出来事の経験者である。当時の悲惨さをよく覚えているはずだ。
そこからは、金属を叩く音しか聞こえなくなった。アリアは今頃、アイリス様の側近として仕事をしている時間帯だろう。また会えば話すだろうが、男の子を見た途端飛びつく癖はどうにかならないものか────
「よう、カトラスさん! 何してんだ?」
「ティアルか。クリムの武器のメンテナンスじゃよ」
「あ、じゃあいるんだよな? クリムー!」
鍛冶屋の外から、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。緋色の長髪を揺らしながら近づいてくる彼女はいつも通り笑っていたけれど、どことなく疲れているように見えた。
「クリム、トゥーリ見なかったか?」
「トゥリヤ? 見てないけど……」
「マジかよー……あ、じゃあクリム、これトゥーリに渡しといてくれよ。記録とかよく一緒にやってたろ?」
そう言いながら、薄めの本を手渡された。まあ、トゥリヤとはそれなりの頻度で会っているし、近いうちに渡せるだろう。
「うん、わかった。メンテナンスが終わったら渡しておくね」
「よろしく! じゃ、私はこれで!」
日頃から忙しい彼女は、足早に鍛冶屋から走り出ていった。
僕は渡された資料を確認する。一応キャッセリアの記録の一部だし、アーケンシェンであれば確認しても問題はないはず。
「『対魔物特別編成隊 新小隊編成詳細』……」
「ああ、魔特隊の再編成じゃな。神隠し事件で大きい損失を受けたからのう、新たに編成を組み直したのじゃろう」
暇つぶしがてら、資料を読んでいくことにした。事件で失踪した、その他何らかの理由で死亡・戦えなくなった神々のリストがあり、その次に編成された小隊ごとに構成員の名前がまとめられている。魔特隊全体を束ねている総指揮官は、今まで通りティアルだ。
さて、第一小隊から確認していこう。第一小隊隊長も、セルジュから変わっていない。ただ、構成員はだいぶ減っており、以前とは別の神がほとんどを締めている。シュノーはそのまま第一小隊に所属するようだ。
「第二小隊隊長、オルフ・シューペリエ(代理)……元の隊長は?」
「ラケルじゃよ。あやつは最近ずっとサボっておる。しかしまた代理とは……ティアルは甘やかしておるんじゃないのか」
ラケル……僕はあまり話したことがないから、どういう神だったかはよく覚えていない。最近あまり見かけることもないから、余計に記憶から薄れている。
ティアルは情に厚く、他人に寄り添うことが好きな奴だ。何かしら事情があったのだろう。
続いて第三小隊の方も確認してみる────が。
「第三小隊隊長……シオン・エタンセル!?」
「なぬっ!? シオンじゃと!? どういうことじゃ!?」
「えっと……前隊長のフェリス・テネルが先の事件で失踪したため、総指揮官に推薦を仰いだ結果、他の一般神よりも早熟かつ事件から生還したシオンを適任と判断し……」
「ティアル、ふざけておるな!?」
カトラスさんは鼻息を荒くしながらも、作業を再開する。僕も一瞬、これは何かの間違いではないかと思ったが、小隊編成という重要な場面でふざけるとは思えない。
今度ティアルかシオンに会ったら、ちょっと話を聞いてみようかな。
昼下がりの繁華街は、いつも通りの賑わいを見せている。様々な娯楽で溢れかえり、神々も大いに賑わっている。
「おお、クリムか。待っておったぞ」
鍛冶屋に到着し、短い銀髪と緑目が特徴的な初老の男──カトラスさんが出迎えてくれる。約束通り、手を空けておいてくれてありがたい。
「武器の整備、お願いします」
「じゃあ、こちらに入ってまいれ」
鍛冶屋の中に入ると、一気に暑苦しく感じた。ガラスペンを取り出し、魔力を注入させて剣に変えてからカトラスさんに渡した。
「ふむ、ちょっと欠けている部分があるのう。もう少し来る頻度を増やしてもいいのじゃぞ? お主は大事に武器を使う方じゃし、管理が楽じゃからな」
「すみません。ここ最近、何かと忙しかったもので」
「別に構わないがのう。まあ、わしに任せておけ」
世の中には平気で武器を真っ二つに折る神もいるし、それに比べれば僕はマシな方だろう。ちょっとした傷や損傷は、カトラスさんに直してもらうのが一番いい。
ガラスの剣を預け、僕は鍛冶屋の中にある休憩スペースの椅子に座らせてもらった。カトラスさんは設置された金床の一つに僕のガラスの剣を置き、作業に取りかかる。
「じゃあ、夕方頃に受け取りに来ますので────」
「待て待て。武器もなしに出歩くのはやめておけ。近頃は何かと物騒じゃし、たまにはお主とも話しておきたいわい」
鍛冶屋から離れようとした僕を、慌てて引き留めてきた。
武器が大きく破損しているわけではないので、一時間もあれば整備は終わるだろう。鍛冶屋の中は蒸し暑く、羽織っているマントを取らないと、さすがに汗で身体が濡れる。
「ここ最近、調子はどうじゃ? みんなと仲良くできておるか?」
作業中も、カトラスさんはよく話しかけてくる。金槌で金属を叩いたりしていても、本人の声が結構大きいので聞き取れないことはない。
「良くも悪くもないですね。未だに解決しきれていないこととかありますし」
「アリアはどうじゃ? わしの目には元気に映っておるが」
「何も変わっていません。いつも通りですよ」
────百年前、彼女は致命傷を負っている。一時は死を覚悟したが、アイリス様やカルデルトの尽力もあり無事に持ち直すことができた。
しかし怪我の影響か、事件が起こる以前の記憶がなくなっていた。今でもほとんど取り戻せていないままで、そのせいで性格も微妙に変化してしまっている。
カトラスさんと話すとき、たまにこうしてアリアの近況を聞かれる。彼女や僕だけじゃない、アーケンシェンやアイリス様のことはよく気にかけてくれている。
「それならよかったわい。今日のお主、どこか調子が悪そうだったものでな」
「調子は悪くないんです。ただ……昔の夢を見てしまったものですから」
「……そうか」
ありがたいことに、僕の口ぶりから色々と察してくれたようだった。当然ながらこのひとも、例の出来事の経験者である。当時の悲惨さをよく覚えているはずだ。
そこからは、金属を叩く音しか聞こえなくなった。アリアは今頃、アイリス様の側近として仕事をしている時間帯だろう。また会えば話すだろうが、男の子を見た途端飛びつく癖はどうにかならないものか────
「よう、カトラスさん! 何してんだ?」
「ティアルか。クリムの武器のメンテナンスじゃよ」
「あ、じゃあいるんだよな? クリムー!」
鍛冶屋の外から、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。緋色の長髪を揺らしながら近づいてくる彼女はいつも通り笑っていたけれど、どことなく疲れているように見えた。
「クリム、トゥーリ見なかったか?」
「トゥリヤ? 見てないけど……」
「マジかよー……あ、じゃあクリム、これトゥーリに渡しといてくれよ。記録とかよく一緒にやってたろ?」
そう言いながら、薄めの本を手渡された。まあ、トゥリヤとはそれなりの頻度で会っているし、近いうちに渡せるだろう。
「うん、わかった。メンテナンスが終わったら渡しておくね」
「よろしく! じゃ、私はこれで!」
日頃から忙しい彼女は、足早に鍛冶屋から走り出ていった。
僕は渡された資料を確認する。一応キャッセリアの記録の一部だし、アーケンシェンであれば確認しても問題はないはず。
「『対魔物特別編成隊 新小隊編成詳細』……」
「ああ、魔特隊の再編成じゃな。神隠し事件で大きい損失を受けたからのう、新たに編成を組み直したのじゃろう」
暇つぶしがてら、資料を読んでいくことにした。事件で失踪した、その他何らかの理由で死亡・戦えなくなった神々のリストがあり、その次に編成された小隊ごとに構成員の名前がまとめられている。魔特隊全体を束ねている総指揮官は、今まで通りティアルだ。
さて、第一小隊から確認していこう。第一小隊隊長も、セルジュから変わっていない。ただ、構成員はだいぶ減っており、以前とは別の神がほとんどを締めている。シュノーはそのまま第一小隊に所属するようだ。
「第二小隊隊長、オルフ・シューペリエ(代理)……元の隊長は?」
「ラケルじゃよ。あやつは最近ずっとサボっておる。しかしまた代理とは……ティアルは甘やかしておるんじゃないのか」
ラケル……僕はあまり話したことがないから、どういう神だったかはよく覚えていない。最近あまり見かけることもないから、余計に記憶から薄れている。
ティアルは情に厚く、他人に寄り添うことが好きな奴だ。何かしら事情があったのだろう。
続いて第三小隊の方も確認してみる────が。
「第三小隊隊長……シオン・エタンセル!?」
「なぬっ!? シオンじゃと!? どういうことじゃ!?」
「えっと……前隊長のフェリス・テネルが先の事件で失踪したため、総指揮官に推薦を仰いだ結果、他の一般神よりも早熟かつ事件から生還したシオンを適任と判断し……」
「ティアル、ふざけておるな!?」
カトラスさんは鼻息を荒くしながらも、作業を再開する。僕も一瞬、これは何かの間違いではないかと思ったが、小隊編成という重要な場面でふざけるとは思えない。
今度ティアルかシオンに会ったら、ちょっと話を聞いてみようかな。
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