36 / 185
第2章「月下に煌めく箱庭」
36話 凍てついた白刃
しおりを挟む
「……ちょっと。こんなの、聞いてないんだけど」
その場で言葉を放ったのはソルだけであったくらい、あまりにもショッキングな出来事だった。
刺されたはずなのに、なぜか傷はない。血も出ていない。しかし顔から血の気が失せており、見ただけでは生きているかどうかすらわからなかった。
元凶であるルルカさんは何も言わなかった。それどころか、こちらを振り返ることさえしない。
「……ルルカ。これが封印の解除に関係あるというのか」
「心配いりません。お嬢様は一時的に仮死状態になられました。これで封印とのリンクは断ち切られ、侵食の進行も抑えられるはずです」
「仮死状態って……刺したよね!?」
「魔力でできた刃です。大事には至っていません」
メアと私の声は震えているのに、ルルカさんがやけに落ち着いているのが恐ろしかった。覚悟の強さが比じゃない。
元からこうするつもりだったのだろう。そしてシュノーもそれを知っていた。
シュノーの言葉の意味がわかってしまった。確かに、いきなりこんな光景を見せられたら混乱する。いくら必要なこととはいえ、混乱で済んでいるのが幸いだった。
「皆様、下がっていてくださいませ」
地面にナイフを捨てて、封印の魔法陣に近づいていく。
厳しい面持ちで魔法陣の前に立ち、ルルカさんは目を閉じて何かを唱え始める。
「『彼方より至りし禍の封、我らが先代の名において、今こそ解き放たん』」
その瞬間、庭園全体が大きく揺さぶられる。轟音が響き渡り、砕かれた魔法陣からは白い結晶の欠片のようなものが溢れ出す。
「ルルカ、離れろ!」
いち早く気配に気づいたシオンが、ルルカさんの前に飛び込み、斧を召喚する。
斧を縦に振りかぶる頃には、ルルカさんは後退していた。
「さっさと出てこいや、化け物ッ!!」
魔法陣から溢れ出す密集した欠片へ、斧を大きく振りかざす。敵意を察したのか、欠片はさらに数を増やして噴き出し、やがて巨大な怪物の形をとる。
怪物が姿を現していくのと同時に、周辺の花や草木から生気が失われていく。色あせた花が朽ち、緑が死の色へと移り変わっていく。
「は、花が……!」
「これがこの庭園の本当の姿だったんだよ。……構えて」
シュノーは息を殺しながら、刀を構え鞘から引き抜こうとしていた。
私たちも各々の武器を召喚し、構える。
「寒くなるよ。『グレイシア・リージョン』」
シュノーが腰の鞘から抜刀し、同時に魔法を唱える。
薄い水色がかった刀身と鞘から、魔力でできた冷気が溢れ出す。標高が高く涼しい空気が、身震いを催すほど冷たくなっていく。
周囲の気温が下がったのは魔法のおかげだろうが、刀そのものも不思議だった。
「────後ろっ!」
シュノーの鋭い声と同時に、背後に立った「怪物」の影が私たちに重なった。
異形というよりは、館よりも大きい背丈の巨人という印象だった。乳白色の結晶をまとっており、見るからに硬そうな見た目をしている。
剛腕、そして剛脚の巨人だ。館に突っ込まれでもしたら、庭園がめちゃくちゃにされてしまう。
「シュノー、オマエは許さないっ!」
「おい待てよチビ女!!」
シオンの制止も聞かず、シュノーは刀を構えながら単身巨人へ突っ込んでいった。
何だかんだいって、シュノーの戦う場面は初めて見る。目の前の敵を何がなんでも始末する、そんな強い殺意を感じていた。
「私はお嬢様をお守りします。皆様には『怪物』の討伐をお願いします」
「っ、あなたは本当に冷静すぎるぞ……!?」
「すべて想定内ですので。それに……私にはもう、お嬢様以外に失うものはありませんから」
覚悟のレベルが段違いだということは、もう嫌というほどわかった。
ルルカさんは「バリエール」という魔法を唱え、フローリアさんと自分、そして館を白いドーム型の防壁で囲んだ。彼女にはフローリアさんの守護に徹してもらうとして、私たちはできるだけ広い場所に散り、巨人と相対する。
いつの間にか、シュノーは巨人の身体を足で駆け上がり、顔の部分へ辿り着き飛び上がっていた。元々あんなに荒れた動き方をするのだろうか?
「凍れ、〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を振り上げ、冷気をまとった刀身を巨人へ叩きつけた。巨人側が勢いよく横へと動いてしまったが、頭の一部を大きく砕いた。欠けた頭からは、黒々とした体液が滝のように溢れ出す。
一番近くにいたシュノーだけでなく、私たちも若干体液を浴びてしまった。これ、浴びて大丈夫なの……?
結晶まみれの怪物の一部が落下し、体液で黒く染まっていき、どんどん庭園が荒れていく。何も知らない者が見たら卒倒するくらいに。
「〈ヴェントゥス・チェインバインド〉!」
魔導書を開いたソルが唱え、風の魔力でできた鎖を放つ。巨人の身体が館へ倒れないようにと伸びていく鎖だったが、絡みついてもなお巨人の身体の動きは止められない。
私も〈ルクス・チェインバインド〉を放ち、光の魔力の鎖を放つ。メアも〈ノクス・チェインバインド〉で闇の鎖を放ってくれたので、三人で巨人の身体が倒れないようにする。
シオンは魔法を唱えることなく、地面に降り立ったシュノーの元へ駆けていく。
「先行しすぎだ、チビ女! 館がぶっ潰れたらどうすんだよ!?」
「わかってる! 〈スティーリア・チェインバインド〉!」
「さっぶ!?」
シュノーはシオンの言葉を振り払い、薄水色の鎖を十本以上放つ。すべて巨人に絡みつき、館が潰されること自体は免れた。
何本もの鎖を一気に放って、しかも正確にコントロールできるなんて。戦闘慣れしていることは明白だった。
「ったく、オレらも頼れよな! 〈トニトルス・ブラストブレイク〉!」
距離を置いて魔力を収束させ、巨人に向かって電撃を炸裂させる。電気が通るのか、若干相手の動きが麻痺した。
しかし、すぐに元通りの動きになってしまう。一瞬だけ動きを止められるということはわかった。
「電撃得意なんだ……じゃあこうする。〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉」
シュノーは何を思ったのか、巨人に向かって大量の水を放った。そして、体液が溢れ出していた部分を凍らせて防ぐ。
巨人の身体全体というかなり広範囲に放出したため、術者であるシュノー自身、そして私たちも思いっきり水を浴びた。
ずぶ濡れで寒い……でも、おかげでさっきの変な体液は洗い流された。
「うぎゃああぁぁ!? 寒い!! 水被せんなぁぁ!!」
「文句言うな寝ぐせ男。ほら行け」
「くっそ、覚えとけよ! 〈トニトルス・ランスクラッド〉!!」
ずぶ濡れにされてヤケになったシオンが駆け出していく。電撃の魔力をまとった斧を振りかぶり、高く飛び上がって巨人の胴体めがけて刃をぶつけた。しかし、少し深めの傷を残すだけに留まった。
「嘘だろ!? こいつ硬すぎね!?」
「そもそもの耐久度が普通の魔物より高いんだ。それに相手が大きすぎる。正攻法じゃ勝ち目がない」
ソルによる冷静な分析、助かる。
今度は、巨人からの攻撃。結晶まみれの剛腕を振りかざし、私たちを薙ぎ払おうとした。
「全員防御して! 〈ヴェントゥス・ガードサークル〉!」
ソル、私、メア、シオン、シュノーの五人それぞれの得意属性で、自らを防御壁で守った。身体が潰されそうな衝撃が襲いかかるも、なんとかバリアは破壊されずに済んだ。
ここに、私とメアで追撃を仕掛けることにした。私は〈ルクス・ランスクラッド〉を唱え、剣に光の魔力をまとわせた。
「行くよ、メア!」
「ああ! 〈ノクス・ブラストレイズ〉!!」
巨人を挟み、二方向から攻撃をぶつける。光の斬撃と闇の射撃により、巨人は咆哮を上げ空気を揺らす。
私たちの攻撃によって、ダメージは確実に蓄積している。そもそもの耐久度がありすぎるから、回数をぶつけるか威力の大きい技を浴びせる必要があるのだろう。
このまま攻撃をぶつけ続ければ倒せるかもしれないが、連撃をぶつけるには五人全員で攻撃し続けた方がいい。それに、「怪物」を破壊するには火力がいまいち足りないようだ。
もしかすると、普段使っている魔法──「系統魔法」ではだめなのかもしれない。
「系統魔法じゃ火力不足っぽいよ。どうする?」
「となると、『あれ』を使うしかないが……」
「……『神幻術』かー……」
私たち神には、基本となる「系統魔法」や持つ者の限られる「固有魔法」の他に、もう一つ奥義に等しい大魔法がある。神々の間では「神幻術」と呼ばれるものであった。
一つとして同じものはなく、奥義なだけあって威力は段違いだ。しかし詠唱に時間がかかる挙句、一度使うとほとんどの魔力を使い果たしてしまう。
個人的には終盤の方でとっておきたい。メアたちも同じ考え方のようだ。
「やっぱり、シュノーがやらないと……! 〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を構え直し、再び巨人へと斬りかかる。最初にぶつけた攻撃と同じだったが、今度はどこも欠けたりしなかった。
こうしているうちにも庭園はボロボロになっていく。館に攻撃が通っていないのがせめてもの救いだった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉!」
魔力で大量の水を放ち、巨人を全体的に濡らした後、氷の刃を大量に放つ。当たった部分から波紋を広げるように凍り付いていき、やがて巨人全体が氷に覆われていく。
シュノーの度重なる攻撃により、巨人の動きはかなり鈍くなっている。しかし、魔法を使う回数が随分と多く感じられた。
「君、ちょっと魔法使いすぎ。魔力切れ起こすよ」
「うるさいっ! シュノーに構うなっ!」
何度も刀を構え直しては、魔法を使いつつ斬りつける。次第に威力が落ちていっているのは、私にもわかった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア────っ!!」
立て続けに水、氷の魔法を放っていたシュノーだが、呪文を唱えきれずその場に膝をつく。
「シュノー、大丈夫!?」
「無茶すんなチビ女!」
私とシオンが駆け寄り、メアとソルが巨人への攻撃に徹する。
シュノーの息が激しく荒れており、大量の汗が伝い落ちている。魔力切れの症状だった。最初に発動していた固有魔法「グレイシア・リージョン」の効果が切れているのか、近づいてもまったく寒くない。
動けなくなっているのに、刀を地面に突き刺して立とうとしている。これ以上は戦わせるわけにはいかなかった。
「まだだ……まだやれる。ユキアたちだけに任せておけない」
「大丈夫だよ! 私たちだって魔物は何回も倒してきてるし、シュノーは休んでて!」
「魔物は全部、シュノーが倒す……倒さなきゃ、だめ……!!」
私もシオンも絶句してしまうくらい、闘志が燃えている。
魔物を好む者はいないに等しいが、これほどにまで魔物に対し憎悪を向ける者もそこまで多くない。
一体、何が彼女をここまで突き動かしているのか────
その場で言葉を放ったのはソルだけであったくらい、あまりにもショッキングな出来事だった。
刺されたはずなのに、なぜか傷はない。血も出ていない。しかし顔から血の気が失せており、見ただけでは生きているかどうかすらわからなかった。
元凶であるルルカさんは何も言わなかった。それどころか、こちらを振り返ることさえしない。
「……ルルカ。これが封印の解除に関係あるというのか」
「心配いりません。お嬢様は一時的に仮死状態になられました。これで封印とのリンクは断ち切られ、侵食の進行も抑えられるはずです」
「仮死状態って……刺したよね!?」
「魔力でできた刃です。大事には至っていません」
メアと私の声は震えているのに、ルルカさんがやけに落ち着いているのが恐ろしかった。覚悟の強さが比じゃない。
元からこうするつもりだったのだろう。そしてシュノーもそれを知っていた。
シュノーの言葉の意味がわかってしまった。確かに、いきなりこんな光景を見せられたら混乱する。いくら必要なこととはいえ、混乱で済んでいるのが幸いだった。
「皆様、下がっていてくださいませ」
地面にナイフを捨てて、封印の魔法陣に近づいていく。
厳しい面持ちで魔法陣の前に立ち、ルルカさんは目を閉じて何かを唱え始める。
「『彼方より至りし禍の封、我らが先代の名において、今こそ解き放たん』」
その瞬間、庭園全体が大きく揺さぶられる。轟音が響き渡り、砕かれた魔法陣からは白い結晶の欠片のようなものが溢れ出す。
「ルルカ、離れろ!」
いち早く気配に気づいたシオンが、ルルカさんの前に飛び込み、斧を召喚する。
斧を縦に振りかぶる頃には、ルルカさんは後退していた。
「さっさと出てこいや、化け物ッ!!」
魔法陣から溢れ出す密集した欠片へ、斧を大きく振りかざす。敵意を察したのか、欠片はさらに数を増やして噴き出し、やがて巨大な怪物の形をとる。
怪物が姿を現していくのと同時に、周辺の花や草木から生気が失われていく。色あせた花が朽ち、緑が死の色へと移り変わっていく。
「は、花が……!」
「これがこの庭園の本当の姿だったんだよ。……構えて」
シュノーは息を殺しながら、刀を構え鞘から引き抜こうとしていた。
私たちも各々の武器を召喚し、構える。
「寒くなるよ。『グレイシア・リージョン』」
シュノーが腰の鞘から抜刀し、同時に魔法を唱える。
薄い水色がかった刀身と鞘から、魔力でできた冷気が溢れ出す。標高が高く涼しい空気が、身震いを催すほど冷たくなっていく。
周囲の気温が下がったのは魔法のおかげだろうが、刀そのものも不思議だった。
「────後ろっ!」
シュノーの鋭い声と同時に、背後に立った「怪物」の影が私たちに重なった。
異形というよりは、館よりも大きい背丈の巨人という印象だった。乳白色の結晶をまとっており、見るからに硬そうな見た目をしている。
剛腕、そして剛脚の巨人だ。館に突っ込まれでもしたら、庭園がめちゃくちゃにされてしまう。
「シュノー、オマエは許さないっ!」
「おい待てよチビ女!!」
シオンの制止も聞かず、シュノーは刀を構えながら単身巨人へ突っ込んでいった。
何だかんだいって、シュノーの戦う場面は初めて見る。目の前の敵を何がなんでも始末する、そんな強い殺意を感じていた。
「私はお嬢様をお守りします。皆様には『怪物』の討伐をお願いします」
「っ、あなたは本当に冷静すぎるぞ……!?」
「すべて想定内ですので。それに……私にはもう、お嬢様以外に失うものはありませんから」
覚悟のレベルが段違いだということは、もう嫌というほどわかった。
ルルカさんは「バリエール」という魔法を唱え、フローリアさんと自分、そして館を白いドーム型の防壁で囲んだ。彼女にはフローリアさんの守護に徹してもらうとして、私たちはできるだけ広い場所に散り、巨人と相対する。
いつの間にか、シュノーは巨人の身体を足で駆け上がり、顔の部分へ辿り着き飛び上がっていた。元々あんなに荒れた動き方をするのだろうか?
「凍れ、〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を振り上げ、冷気をまとった刀身を巨人へ叩きつけた。巨人側が勢いよく横へと動いてしまったが、頭の一部を大きく砕いた。欠けた頭からは、黒々とした体液が滝のように溢れ出す。
一番近くにいたシュノーだけでなく、私たちも若干体液を浴びてしまった。これ、浴びて大丈夫なの……?
結晶まみれの怪物の一部が落下し、体液で黒く染まっていき、どんどん庭園が荒れていく。何も知らない者が見たら卒倒するくらいに。
「〈ヴェントゥス・チェインバインド〉!」
魔導書を開いたソルが唱え、風の魔力でできた鎖を放つ。巨人の身体が館へ倒れないようにと伸びていく鎖だったが、絡みついてもなお巨人の身体の動きは止められない。
私も〈ルクス・チェインバインド〉を放ち、光の魔力の鎖を放つ。メアも〈ノクス・チェインバインド〉で闇の鎖を放ってくれたので、三人で巨人の身体が倒れないようにする。
シオンは魔法を唱えることなく、地面に降り立ったシュノーの元へ駆けていく。
「先行しすぎだ、チビ女! 館がぶっ潰れたらどうすんだよ!?」
「わかってる! 〈スティーリア・チェインバインド〉!」
「さっぶ!?」
シュノーはシオンの言葉を振り払い、薄水色の鎖を十本以上放つ。すべて巨人に絡みつき、館が潰されること自体は免れた。
何本もの鎖を一気に放って、しかも正確にコントロールできるなんて。戦闘慣れしていることは明白だった。
「ったく、オレらも頼れよな! 〈トニトルス・ブラストブレイク〉!」
距離を置いて魔力を収束させ、巨人に向かって電撃を炸裂させる。電気が通るのか、若干相手の動きが麻痺した。
しかし、すぐに元通りの動きになってしまう。一瞬だけ動きを止められるということはわかった。
「電撃得意なんだ……じゃあこうする。〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉」
シュノーは何を思ったのか、巨人に向かって大量の水を放った。そして、体液が溢れ出していた部分を凍らせて防ぐ。
巨人の身体全体というかなり広範囲に放出したため、術者であるシュノー自身、そして私たちも思いっきり水を浴びた。
ずぶ濡れで寒い……でも、おかげでさっきの変な体液は洗い流された。
「うぎゃああぁぁ!? 寒い!! 水被せんなぁぁ!!」
「文句言うな寝ぐせ男。ほら行け」
「くっそ、覚えとけよ! 〈トニトルス・ランスクラッド〉!!」
ずぶ濡れにされてヤケになったシオンが駆け出していく。電撃の魔力をまとった斧を振りかぶり、高く飛び上がって巨人の胴体めがけて刃をぶつけた。しかし、少し深めの傷を残すだけに留まった。
「嘘だろ!? こいつ硬すぎね!?」
「そもそもの耐久度が普通の魔物より高いんだ。それに相手が大きすぎる。正攻法じゃ勝ち目がない」
ソルによる冷静な分析、助かる。
今度は、巨人からの攻撃。結晶まみれの剛腕を振りかざし、私たちを薙ぎ払おうとした。
「全員防御して! 〈ヴェントゥス・ガードサークル〉!」
ソル、私、メア、シオン、シュノーの五人それぞれの得意属性で、自らを防御壁で守った。身体が潰されそうな衝撃が襲いかかるも、なんとかバリアは破壊されずに済んだ。
ここに、私とメアで追撃を仕掛けることにした。私は〈ルクス・ランスクラッド〉を唱え、剣に光の魔力をまとわせた。
「行くよ、メア!」
「ああ! 〈ノクス・ブラストレイズ〉!!」
巨人を挟み、二方向から攻撃をぶつける。光の斬撃と闇の射撃により、巨人は咆哮を上げ空気を揺らす。
私たちの攻撃によって、ダメージは確実に蓄積している。そもそもの耐久度がありすぎるから、回数をぶつけるか威力の大きい技を浴びせる必要があるのだろう。
このまま攻撃をぶつけ続ければ倒せるかもしれないが、連撃をぶつけるには五人全員で攻撃し続けた方がいい。それに、「怪物」を破壊するには火力がいまいち足りないようだ。
もしかすると、普段使っている魔法──「系統魔法」ではだめなのかもしれない。
「系統魔法じゃ火力不足っぽいよ。どうする?」
「となると、『あれ』を使うしかないが……」
「……『神幻術』かー……」
私たち神には、基本となる「系統魔法」や持つ者の限られる「固有魔法」の他に、もう一つ奥義に等しい大魔法がある。神々の間では「神幻術」と呼ばれるものであった。
一つとして同じものはなく、奥義なだけあって威力は段違いだ。しかし詠唱に時間がかかる挙句、一度使うとほとんどの魔力を使い果たしてしまう。
個人的には終盤の方でとっておきたい。メアたちも同じ考え方のようだ。
「やっぱり、シュノーがやらないと……! 〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を構え直し、再び巨人へと斬りかかる。最初にぶつけた攻撃と同じだったが、今度はどこも欠けたりしなかった。
こうしているうちにも庭園はボロボロになっていく。館に攻撃が通っていないのがせめてもの救いだった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉!」
魔力で大量の水を放ち、巨人を全体的に濡らした後、氷の刃を大量に放つ。当たった部分から波紋を広げるように凍り付いていき、やがて巨人全体が氷に覆われていく。
シュノーの度重なる攻撃により、巨人の動きはかなり鈍くなっている。しかし、魔法を使う回数が随分と多く感じられた。
「君、ちょっと魔法使いすぎ。魔力切れ起こすよ」
「うるさいっ! シュノーに構うなっ!」
何度も刀を構え直しては、魔法を使いつつ斬りつける。次第に威力が落ちていっているのは、私にもわかった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア────っ!!」
立て続けに水、氷の魔法を放っていたシュノーだが、呪文を唱えきれずその場に膝をつく。
「シュノー、大丈夫!?」
「無茶すんなチビ女!」
私とシオンが駆け寄り、メアとソルが巨人への攻撃に徹する。
シュノーの息が激しく荒れており、大量の汗が伝い落ちている。魔力切れの症状だった。最初に発動していた固有魔法「グレイシア・リージョン」の効果が切れているのか、近づいてもまったく寒くない。
動けなくなっているのに、刀を地面に突き刺して立とうとしている。これ以上は戦わせるわけにはいかなかった。
「まだだ……まだやれる。ユキアたちだけに任せておけない」
「大丈夫だよ! 私たちだって魔物は何回も倒してきてるし、シュノーは休んでて!」
「魔物は全部、シュノーが倒す……倒さなきゃ、だめ……!!」
私もシオンも絶句してしまうくらい、闘志が燃えている。
魔物を好む者はいないに等しいが、これほどにまで魔物に対し憎悪を向ける者もそこまで多くない。
一体、何が彼女をここまで突き動かしているのか────
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
[完結]勇者の旅の裏側で
八月森
ファンタジー
神官の少女リュイスは、神殿から預かったある依頼と共に冒険者の宿〈剣の継承亭〉を訪れ、そこで、店内の喧騒の中で一人眠っていた女剣士アレニエと出会う。
起き抜けに暴漢を叩きのめしたアレニエに衝撃を受けたリュイスは、衝動のままに懇願する。
「私と一緒に……勇者さまを助けてください!」
「………………はい?」
『旅半ばで魔王の側近に襲われ、命を落とす』と予見された勇者を、陰から救い出す。それが、リュイスの持ち込んだ依頼だった。
依頼を受諾したアレニエはリュイスと共に、勇者死亡予定現場に向かって旅立つ。
旅を通じて、彼女たちは少しずつその距離を縮めていく。
しかし二人は、お互いに、人には言えない秘密を抱えていた。
人々の希望の象徴として、表舞台を歩む勇者の旅路。その陰に、一組の剣士と神官の姿が見え隠れしていたことは、あまり知られていない。
これは二人の少女が、勇者の旅を裏側で支えながら、自身の居場所を見つける物語。
・1章には勇者は出てきません。
・本編の視点は基本的にアレニエかリュイス。その他のキャラ視点の場合は幕間になります。
・短い場面転換は―――― 長い場面転換は*** 視点切替は◆◇◆◇◆ で区切っています。
・小説家になろう、カクヨム、ハーメルンにも掲載しています。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。
window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。
式の大事な場面で何が起こったのか?
二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。
王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。
「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」
幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。
新訳・親友を裏切った男が絶望するまで
はにわ
ファンタジー
レイツォは幼い頃から神童と呼ばれ、今では若くしてルーチェ国一とも噂される高名な魔術師だ。
彼は才能に己惚れることなく、常に努力を重ね、高みを目指し続けたことで今の実力を手に入れていた。
しかし、そんな彼にも常に上をいく、敵わない男がいた。それは天才剣士と評され、レイツォとは幼い頃からの親友である、ディオのことである。
そしてやってきたここ一番の大勝負にもレイツォは死力を尽くすが、またもディオの前に膝をつくことになる。
これによりディオは名声と地位・・・全てを手に入れた。
対してディオに敗北したことにより、レイツォの負の感情は、本人も知らぬ間に高まりに高まり、やがて自分で制することが出来なくなりそうなほど大きく心の中を渦巻こうとする。
やがて彼は憎しみのあまり、ふとした機会を利用し、親友であるはずのディオを出し抜こうと画策する。
それは人道を踏み外す、裏切りの道であった。だが、レイツォは承知でその道へ足を踏み出した。
だが、その歩みの先にあったのは、レイツォがまるで予想だにしない未来であった。
------------
某名作RPGがリメイクされるというので、つい勢いでオマージュ?パロディ?を書いてみました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる