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第2章「月下に煌めく箱庭」
20話 断罪神
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神々のみが暮らす箱庭、キャッセリア────
この箱庭に生まれた者は、みんな何らかの役目を与えられる。同じ役割に就く者はあれど、多種多様な役目が存在する。
僕が与えられた役目は、罪を犯した神を裁き、この世界の調停を行うこと。平和を乱す事件が起きれば、それを解決するのは僕の使命だ。
「クリム。お主に来てもらったのは他でもない」
僕──クリム・クラウツは、幼く古めかしい少女の声を聞いていた。
今、テーブルを挟んで反対側のソファに座っているのは、神の中でも特別な神だ。キャッセリア……いや、この世界すべての箱庭を管理している最高神──アイリス・エンプランツェ様。
神の中ではかなり背が低い方だが、基本的な能力値は比べ物にならない。何もかもが秀でている彼女に、僕は仕えている。
そんな最高神の住む「白の宮殿」に呼ばれ、直々にアイリス様のお部屋に招かれたということは、それだけ重要な話を振るということを意味しているのだが……。
「今までと変わりない事例と思っておったが、状況が変わった。お主にはこれから、ある事件を調査してもらう」
アイリス様によって差し出されたのは、資料の束だった。
何枚もの紙には、文字の羅列と数種類の写真が載せられている。ある場所が映し出されたもの、ある神の顔写真……そういったものだ。
「お主も知っての通り、最近キャッセリアでは神が突然姿を消している事例が数多く発生しておる。一般的には『神隠し』と呼ばれる事例じゃ」
人間の知る「神隠し」と、僕らにとっての「神隠し」は意味合いが違う。
この場合、神が消えることを神隠し、と呼んでいるのだ。
「……神隠し程度ならば、昔から起きていることのはずです。調査に深入りしてはいけないのでは?」
「さっきも言った通り、状況が変わったのじゃ。二週間くらい前から、立て続けに一般神が失踪している。被害に遭った神は既に十人を超えていて、一度姿を消した者たちは誰一人として見つかっていないそうじゃ」
────神が姿を消す理由には、考えられるものが二つある。
一つ目は、神が魔物に襲われ食われた事例だ。過去に何回か起きた記録はあるものの、数は少ない。戦闘力にかなりの個人差はあれど、どんな神であれ何かしらの戦闘手段や武器を有している。そもそも、魔物に殺されたとわかった時点でそういう記録を残されるから、行方不明になるのとはまた違う。
二つ目は、神が掟を破って人間の箱庭に行った事例だ。これが神の間で言われる「神隠し」に最も近い意味合いを持つ。アイリス様が定めた掟の中に、「神は人間の箱庭に行ってはいけない」というものがある。ここには、一度人間の箱庭に行ってしまえば二度と戻ってこられない、そういう事情が込められている。だから、必然的に行方不明扱いにされ、それ以上の調査は打ち止める決まりになっている。
しかし今回は、どうやらその二つとはちょっと異なるらしい。
「先日も、新たに四人の神が行方不明になったと報告が来た。消える時間帯も人数も変則的な上、これ以上神が消えてしまうと、あらゆるサイクルに支障が出てしまう」
アイリス様は、多くの神を失うことでキャッセリアの機関が滞ってしまうことを恐れているようだった。実際、箱庭に襲いかかってくる魔物の対処なども考えると、損失が大きくなればなるほど立て直すのに時間がかかってしまう。
そこまでの事態になる危険性があれば、この人が焦らないはずもない。
「そういうわけじゃから、今回の事例を『キャッセリア連続一般神失踪事件』……通称『神隠し事件』として調査してもらう。犯人が判明した場合、見つけ次第捕らえよ」
「……犯人の処遇はどういたします?」
「それは罪状によりけりじゃ。もし、犯人がこの箱庭の神を殺していれば……処刑してもらうことになるかもしれん。被害者が生存していた場合の処遇も考えねばのう」
思わず、小さくため息をこぼしてしまった。
とにかく、事件を解決しないことには始まらない。僕一人でどこまでできるかは定かではないが、やれるだけやろう。
どんなわけがあろうと、これが僕の生きる意味なのだから。
「最近、魔物の活動も活発化しておるしのう……どうにも嫌な予感がするのじゃ。何が起きるかわからぬ、慎重にな」
「了解しました」
また一つ仕事が増えてしまったが、致し方ない。
ソファから立ち上がり、「失礼します」と礼をして部屋を出る。
神々のみが暮らす箱庭、キャッセリア────
この箱庭に生まれた者は、みんな何らかの役目を与えられる。同じ役割に就く者はあれど、多種多様な役目が存在する。
僕が与えられた役目は、罪を犯した神を裁き、この世界の調停を行うこと。平和を乱す事件が起きれば、それを解決するのは僕の使命だ。
「クリム。お主に来てもらったのは他でもない」
僕──クリム・クラウツは、幼く古めかしい少女の声を聞いていた。
今、テーブルを挟んで反対側のソファに座っているのは、神の中でも特別な神だ。キャッセリア……いや、この世界すべての箱庭を管理している最高神──アイリス・エンプランツェ様。
神の中ではかなり背が低い方だが、基本的な能力値は比べ物にならない。何もかもが秀でている彼女に、僕は仕えている。
そんな最高神の住む「白の宮殿」に呼ばれ、直々にアイリス様のお部屋に招かれたということは、それだけ重要な話を振るということを意味しているのだが……。
「今までと変わりない事例と思っておったが、状況が変わった。お主にはこれから、ある事件を調査してもらう」
アイリス様によって差し出されたのは、資料の束だった。
何枚もの紙には、文字の羅列と数種類の写真が載せられている。ある場所が映し出されたもの、ある神の顔写真……そういったものだ。
「お主も知っての通り、最近キャッセリアでは神が突然姿を消している事例が数多く発生しておる。一般的には『神隠し』と呼ばれる事例じゃ」
人間の知る「神隠し」と、僕らにとっての「神隠し」は意味合いが違う。
この場合、神が消えることを神隠し、と呼んでいるのだ。
「……神隠し程度ならば、昔から起きていることのはずです。調査に深入りしてはいけないのでは?」
「さっきも言った通り、状況が変わったのじゃ。二週間くらい前から、立て続けに一般神が失踪している。被害に遭った神は既に十人を超えていて、一度姿を消した者たちは誰一人として見つかっていないそうじゃ」
────神が姿を消す理由には、考えられるものが二つある。
一つ目は、神が魔物に襲われ食われた事例だ。過去に何回か起きた記録はあるものの、数は少ない。戦闘力にかなりの個人差はあれど、どんな神であれ何かしらの戦闘手段や武器を有している。そもそも、魔物に殺されたとわかった時点でそういう記録を残されるから、行方不明になるのとはまた違う。
二つ目は、神が掟を破って人間の箱庭に行った事例だ。これが神の間で言われる「神隠し」に最も近い意味合いを持つ。アイリス様が定めた掟の中に、「神は人間の箱庭に行ってはいけない」というものがある。ここには、一度人間の箱庭に行ってしまえば二度と戻ってこられない、そういう事情が込められている。だから、必然的に行方不明扱いにされ、それ以上の調査は打ち止める決まりになっている。
しかし今回は、どうやらその二つとはちょっと異なるらしい。
「先日も、新たに四人の神が行方不明になったと報告が来た。消える時間帯も人数も変則的な上、これ以上神が消えてしまうと、あらゆるサイクルに支障が出てしまう」
アイリス様は、多くの神を失うことでキャッセリアの機関が滞ってしまうことを恐れているようだった。実際、箱庭に襲いかかってくる魔物の対処なども考えると、損失が大きくなればなるほど立て直すのに時間がかかってしまう。
そこまでの事態になる危険性があれば、この人が焦らないはずもない。
「そういうわけじゃから、今回の事例を『キャッセリア連続一般神失踪事件』……通称『神隠し事件』として調査してもらう。犯人が判明した場合、見つけ次第捕らえよ」
「……犯人の処遇はどういたします?」
「それは罪状によりけりじゃ。もし、犯人がこの箱庭の神を殺していれば……処刑してもらうことになるかもしれん。被害者が生存していた場合の処遇も考えねばのう」
思わず、小さくため息をこぼしてしまった。
とにかく、事件を解決しないことには始まらない。僕一人でどこまでできるかは定かではないが、やれるだけやろう。
どんなわけがあろうと、これが僕の生きる意味なのだから。
「最近、魔物の活動も活発化しておるしのう……どうにも嫌な予感がするのじゃ。何が起きるかわからぬ、慎重にな」
「了解しました」
また一つ仕事が増えてしまったが、致し方ない。
ソファから立ち上がり、「失礼します」と礼をして部屋を出る。
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