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【箱庭探訪編】第1章「星の輝く箱庭」
16話 非道な科学者(1)
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「……本当に驚いたよ。まさか、私の実験体が自ら帰ってきていたとはね」
声と顔つきだけは優しそうな男だった。濃い藍色のスーツを着ているけれど、科学者ってあんな感じなの?
しかし、あの男が喋るたび、アンナちゃんはティルの背中にしがみついて怯えている。何かブツブツと呟いているけれど、内容はわからない。
「おや。知らない人間がいますね。君たちは?」
「……自分の子供を実験体だなんて言う奴に名乗る名前なんかないよ」
「つれませんねぇ。まあ、その程度構いませんけど。私の邪魔さえしなければね」
微笑みを浮かべているが、油断ならない。
そういえば、シオンとソルはどこにいるんだろう。まだ一階にいるはずなんだけど……。
「ほら、いい加減戻るぞ! あまりみんなと離れるなって!」
「わ、わかってるから、引っ張らないでよシオン……!」
一階の探索をしていたはずの二人が、なぜか地下に続く階段を登って現れた。
またソルがシオンに引きずられている。地下は地上よりも興味溢れるもので満ちていたのかもしれない……。
「────野ネズミだったんですか。これは油断しましたね」
「はぇ?」
「やりなさい」
間抜けな顔で階段を登り切ったシオン。引きずられていたソルのたじろいだ顔が、その一瞬のうちに引き締まった。
「〈ティエーラ・ガードシールド〉!」
「うおぉっ!?」
緑をまとった魔力が二人を包み込み、突如襲いかかった何かを防ぎ切った。
────黒と灰、そして赤く小さな瞳を持った異形が、二人の背後にいた。どこから現れたの!?
「っ、シオン、ソル!?」
「シュレイド……まさか、人の身で魔物を飼い慣らしているのかっ!?」
二人は魔物から飛び退いて距離をとった。魔銃を召喚してすぐに構え、シュレイドに狙いを定めるメア。
凶器を向けられているにもかかわらず、平静を保っていた。
「魔物? ……ああ、君たちはそう呼んでいるのですか。私にとっては、ただの実験動物ですよ。この辺りでは随分と珍しい生き物ですが、その分貴重なデータがとれて面白いです」
魔物はシュレイドの背後に浮遊し、研究所の天井につきそうな巨体を地面に着地させる。
メアの言う通り、本当に飼い慣らしているみたいだった。神でさえ、魔物を意のままにできる者は数少ないというのに────
「シュレイド……テメェ、まだ異能力の研究なんかやってんのか」
「もちろん。それが私の生き甲斐ですからね。ティル、アンナリア。私は君たちをずっと待っていましたよ。四年前にこの研究所から逃げ出したあの日から、ずっとね……」
「わたしたちを……?」
「アンナ、あんな野郎の声なんか耳に入れるな!」
魔物を背後に控えさせたまま、シュレイドはティルの元に歩み寄ってくる。
銃を向けたままのメアはティルたちの前に出て、引き金に指をかけるが────
「遊んでやりなさい」
「────!!!」
「くっ……!」
魔物の触手がメアに伸びたが、とっさに放たれた光線がすぐに断ち切った。控えていた魔物はメアを狙い攻撃を繰り出し、彼女も対抗せざるを得なくなった。
「っ、オレも行ってくる!」
「シオン!」
「お前らは来るな! 目的を優先しろ!!」
召喚した戦斧を両手で構え、魔物に対抗するメアに加勢していく。
残された私とソルは、シュレイドへ向き直った。
「ふむ……行動力はありますね。無謀ともとれますが」
これで、シュレイドに対峙しているのは私、ソル、ティルとアンナちゃんになった。
「さて、一緒に実験室に来てくれたまえ。経過観察もできてなかったし────」
「お前は昔からそうだな。俺たちを家族だって思ったことないだろ」
冷たく響き渡る声に、シュレイドは僅かに表情を凍らせた。
ドゴォォォォン、と轟音が鳴り響き、研究所全体が大きく揺れた。
音の方向を見ると、研究所の壁に穴が開いていた。魔物とメアたちの姿がない。
「ええ、そうとも。戯言はいりません、早く来なさい」
一階のフロアの一番奥の扉へ歩いていくシュレイド。
この時点で、まともに話ができる状態ではなくなっている。それでも、私たちは行かなければ。
メアとシオンなら、きっと大丈夫だ。
一番奥の部屋は、シュレイドの研究室であった。相変わらず灰色の内装だ。
何の目的に使われるのかまったくわからない機械がいくつも並べられている。棚には、瓶詰めの植物や動物の内臓もあった。
正直、見ているだけで気味が悪いというのに、ソルは目の輝きを隠しきれていない。何かぶつぶつ言ってるけど、独り言だろう。
「……! ユキア、あれ見て」
「な、何よ……っ!?」
ソルに腕を掴まれ、指し示された方を見てはっとなる。
壁際には、私たちの身体の何倍もの大きさもの筒がいくつか鎮座していた。中は透明な液体に満たされ、異形が一体ずつ詰め込まれている。
「これって、魔物……?」
「そうとしか思えない。それも、僕らが普段倒しているものとほとんど同じだ」
「異能力の源体に興味があるのですか?」
私とソルの元に、シュレイドが歩み寄ってくる。
アンナちゃんはティルにしがみつき、そのティルは研究室の端の机の前で立ち尽くしていた。
「人間の中には、ごく少数ですが不思議な力を持つ者がいました。大半の人間が持ち得ぬ並外れた能力を、人々は『神の力』などと持てはやしていました」
「神の力……それが、君が『異能力』と呼ぶものなの?」
「似て非なるものです。神の力は先天的なものだったとされていますが、私が研究する異能力は、この源体がなければ使えません」
「ふーん」
やはり目の輝きは隠せていないが、できる限り落ち着くようにしているみたいだ。
私自身、こういう複雑な話は、ソルかメアが聞き手になって進めた方が何かとやりやすいと思っている。私やシオンじゃ難しい。
「つまり、魔物……源体を人間の体内に入れて、その力を使わせる……ということ?」
「その通りです。君は賢いですね、私の助手になりませんか?」
「……シオンも一緒なら考えなくもないよ」
「ち、ちょっとソル!? 何言って……」
「それは困りますね。そのシオンとやらを実験体にしてもいいなら、構いませんけどね」
男の満面の笑みに対して、一瞬のうちに凍り付く。顔には陰が落ち、凍てついた目でシュレイドを凝視する。
私でさえ、湧き上がる怒りを抑えるのが精いっぱいだ。この調子じゃ、私やメアまで同じ目に遭わせようとするだろう。
「友人や家族など不要です。私があの女と婚約を交わしたのだって、より効率よく研究を進められると思ったまでですから」
「シュレイド……お前、母さんに何をした!?」
怒鳴り声とともに笑うのをやめる。シュレイドの顔には、もう感情といえるようなものはなかった。
「別に。ただ道具として、私の役に立ってもらっただけです。ハルモニア、でしたっけ? 夢見がちで、現実も世間も何も知らない、哀れで扱いやすい女でしたよ」
「ふざけんなッ!! 母さんを死に追いやったのは、他でもないお前だろうがッ!!」
怒り狂うティルの口から出たのは、耳を疑いたくなるような言葉だった。アンナちゃんは、目を見開いたままみるみる青ざめていく。
「……あれはただ、崖から落ちただけでしょう? 事故の可能性は考えませんでした?」
「いいや、違う。俺は確かにこの目で見た。四年前、アンナを連れて研究所から飛び出したあの日……母さんは、この近くの崖から飛び降りて、死んだ」
崖から飛び降りた、という一節で思い出す。この近くに確かにあった。
そんな悲痛な出来事が、過去に起きていたと言うの……?
「お母さんが……どうして……?」
「アンナは覚えてないと思う。あの時はまだ小さかったんだから。それからもずっと、伝えるのが怖くて……母さんはもういないってことしか、伝えられなかった……!」
「……お兄ちゃん……」
小さな手で彼のシャツを握りしめるアンナちゃんは、涙を必死にこらえていた。
冷えた目つきを変えぬまま、ソルはシュレイドに向き直った。
「君……研究のためなら、同族さえも使い潰すつもり?」
「どれだけ利用しても、倫理的に許されるのはモルモットくらいです。しかし、それでは正確な研究成果に辿り着くのに時間がかかります」
付近で轟音が聞こえる中、コツン、コツンと規則正しく響く靴音がはっきりと聞こえてきた。
「異能力の研究は、我々の限界を超える可能性を秘めているのですよ。どこまでやっても終わりが見えない。しかし、人間の寿命は限られています。生きて百年、ほとんどはそれ以下で死にます。私は、課せられた呪縛からの解放を望んでいるのです」
「……人間にそんなことができると思ってるの? できないから、君たちは人間なんだよ」
「科学が発展さえすれば、いずれ不可能などなくなりますよ。だから、私は必ず研究を完成させる。邪魔は許しません」
「はぁ……これじゃあ、石と彼らを切り離してほしいって言っても、全然聞いてくれなさそうだね」
「せっかく作り上げた実験体を自ら解体するわけないでしょう? 偶然見つけた産物に、貴重な人間。手放すなんて考えられない」
望み薄だという現実を、嫌というほど突きつけられてしまった。
このままじゃ、ティルとアンナちゃんはヴァーサーたちと離れられない。私たちも目的を達成できない。
けれど────私は思ってしまった。私たちが倒すべきものは……本当に、彼らなの?
「話が終わったのなら研究に戻らせていただきます。こうなることなら、あの女にもっと働いてもらえばよかった。まだ若かったのに……」
「────うるさいっ!!」
アンナちゃんの大声で、とっさにその場から飛び退いた。
退いたのとほとんど同時に、私たちのいた場所に闇が生まれ、爆音とともに空間全体を揺らした。
シュレイドも、素早く砕けた地面から後ずさる。
「……ほう……まだ昼間だというのに、使えるんですね」
「アンナ!? お、お前、それ……」
驚くティルの前に立ち塞がっていたのは、不思議な力で髪が揺らめくアンナちゃんだった。右手に何かを握り、服のポケットにしまい込む。
ゆっくりと顔を上げた、彼女の右目は……金と赤を混ぜた、歪な色をしていた。
声と顔つきだけは優しそうな男だった。濃い藍色のスーツを着ているけれど、科学者ってあんな感じなの?
しかし、あの男が喋るたび、アンナちゃんはティルの背中にしがみついて怯えている。何かブツブツと呟いているけれど、内容はわからない。
「おや。知らない人間がいますね。君たちは?」
「……自分の子供を実験体だなんて言う奴に名乗る名前なんかないよ」
「つれませんねぇ。まあ、その程度構いませんけど。私の邪魔さえしなければね」
微笑みを浮かべているが、油断ならない。
そういえば、シオンとソルはどこにいるんだろう。まだ一階にいるはずなんだけど……。
「ほら、いい加減戻るぞ! あまりみんなと離れるなって!」
「わ、わかってるから、引っ張らないでよシオン……!」
一階の探索をしていたはずの二人が、なぜか地下に続く階段を登って現れた。
またソルがシオンに引きずられている。地下は地上よりも興味溢れるもので満ちていたのかもしれない……。
「────野ネズミだったんですか。これは油断しましたね」
「はぇ?」
「やりなさい」
間抜けな顔で階段を登り切ったシオン。引きずられていたソルのたじろいだ顔が、その一瞬のうちに引き締まった。
「〈ティエーラ・ガードシールド〉!」
「うおぉっ!?」
緑をまとった魔力が二人を包み込み、突如襲いかかった何かを防ぎ切った。
────黒と灰、そして赤く小さな瞳を持った異形が、二人の背後にいた。どこから現れたの!?
「っ、シオン、ソル!?」
「シュレイド……まさか、人の身で魔物を飼い慣らしているのかっ!?」
二人は魔物から飛び退いて距離をとった。魔銃を召喚してすぐに構え、シュレイドに狙いを定めるメア。
凶器を向けられているにもかかわらず、平静を保っていた。
「魔物? ……ああ、君たちはそう呼んでいるのですか。私にとっては、ただの実験動物ですよ。この辺りでは随分と珍しい生き物ですが、その分貴重なデータがとれて面白いです」
魔物はシュレイドの背後に浮遊し、研究所の天井につきそうな巨体を地面に着地させる。
メアの言う通り、本当に飼い慣らしているみたいだった。神でさえ、魔物を意のままにできる者は数少ないというのに────
「シュレイド……テメェ、まだ異能力の研究なんかやってんのか」
「もちろん。それが私の生き甲斐ですからね。ティル、アンナリア。私は君たちをずっと待っていましたよ。四年前にこの研究所から逃げ出したあの日から、ずっとね……」
「わたしたちを……?」
「アンナ、あんな野郎の声なんか耳に入れるな!」
魔物を背後に控えさせたまま、シュレイドはティルの元に歩み寄ってくる。
銃を向けたままのメアはティルたちの前に出て、引き金に指をかけるが────
「遊んでやりなさい」
「────!!!」
「くっ……!」
魔物の触手がメアに伸びたが、とっさに放たれた光線がすぐに断ち切った。控えていた魔物はメアを狙い攻撃を繰り出し、彼女も対抗せざるを得なくなった。
「っ、オレも行ってくる!」
「シオン!」
「お前らは来るな! 目的を優先しろ!!」
召喚した戦斧を両手で構え、魔物に対抗するメアに加勢していく。
残された私とソルは、シュレイドへ向き直った。
「ふむ……行動力はありますね。無謀ともとれますが」
これで、シュレイドに対峙しているのは私、ソル、ティルとアンナちゃんになった。
「さて、一緒に実験室に来てくれたまえ。経過観察もできてなかったし────」
「お前は昔からそうだな。俺たちを家族だって思ったことないだろ」
冷たく響き渡る声に、シュレイドは僅かに表情を凍らせた。
ドゴォォォォン、と轟音が鳴り響き、研究所全体が大きく揺れた。
音の方向を見ると、研究所の壁に穴が開いていた。魔物とメアたちの姿がない。
「ええ、そうとも。戯言はいりません、早く来なさい」
一階のフロアの一番奥の扉へ歩いていくシュレイド。
この時点で、まともに話ができる状態ではなくなっている。それでも、私たちは行かなければ。
メアとシオンなら、きっと大丈夫だ。
一番奥の部屋は、シュレイドの研究室であった。相変わらず灰色の内装だ。
何の目的に使われるのかまったくわからない機械がいくつも並べられている。棚には、瓶詰めの植物や動物の内臓もあった。
正直、見ているだけで気味が悪いというのに、ソルは目の輝きを隠しきれていない。何かぶつぶつ言ってるけど、独り言だろう。
「……! ユキア、あれ見て」
「な、何よ……っ!?」
ソルに腕を掴まれ、指し示された方を見てはっとなる。
壁際には、私たちの身体の何倍もの大きさもの筒がいくつか鎮座していた。中は透明な液体に満たされ、異形が一体ずつ詰め込まれている。
「これって、魔物……?」
「そうとしか思えない。それも、僕らが普段倒しているものとほとんど同じだ」
「異能力の源体に興味があるのですか?」
私とソルの元に、シュレイドが歩み寄ってくる。
アンナちゃんはティルにしがみつき、そのティルは研究室の端の机の前で立ち尽くしていた。
「人間の中には、ごく少数ですが不思議な力を持つ者がいました。大半の人間が持ち得ぬ並外れた能力を、人々は『神の力』などと持てはやしていました」
「神の力……それが、君が『異能力』と呼ぶものなの?」
「似て非なるものです。神の力は先天的なものだったとされていますが、私が研究する異能力は、この源体がなければ使えません」
「ふーん」
やはり目の輝きは隠せていないが、できる限り落ち着くようにしているみたいだ。
私自身、こういう複雑な話は、ソルかメアが聞き手になって進めた方が何かとやりやすいと思っている。私やシオンじゃ難しい。
「つまり、魔物……源体を人間の体内に入れて、その力を使わせる……ということ?」
「その通りです。君は賢いですね、私の助手になりませんか?」
「……シオンも一緒なら考えなくもないよ」
「ち、ちょっとソル!? 何言って……」
「それは困りますね。そのシオンとやらを実験体にしてもいいなら、構いませんけどね」
男の満面の笑みに対して、一瞬のうちに凍り付く。顔には陰が落ち、凍てついた目でシュレイドを凝視する。
私でさえ、湧き上がる怒りを抑えるのが精いっぱいだ。この調子じゃ、私やメアまで同じ目に遭わせようとするだろう。
「友人や家族など不要です。私があの女と婚約を交わしたのだって、より効率よく研究を進められると思ったまでですから」
「シュレイド……お前、母さんに何をした!?」
怒鳴り声とともに笑うのをやめる。シュレイドの顔には、もう感情といえるようなものはなかった。
「別に。ただ道具として、私の役に立ってもらっただけです。ハルモニア、でしたっけ? 夢見がちで、現実も世間も何も知らない、哀れで扱いやすい女でしたよ」
「ふざけんなッ!! 母さんを死に追いやったのは、他でもないお前だろうがッ!!」
怒り狂うティルの口から出たのは、耳を疑いたくなるような言葉だった。アンナちゃんは、目を見開いたままみるみる青ざめていく。
「……あれはただ、崖から落ちただけでしょう? 事故の可能性は考えませんでした?」
「いいや、違う。俺は確かにこの目で見た。四年前、アンナを連れて研究所から飛び出したあの日……母さんは、この近くの崖から飛び降りて、死んだ」
崖から飛び降りた、という一節で思い出す。この近くに確かにあった。
そんな悲痛な出来事が、過去に起きていたと言うの……?
「お母さんが……どうして……?」
「アンナは覚えてないと思う。あの時はまだ小さかったんだから。それからもずっと、伝えるのが怖くて……母さんはもういないってことしか、伝えられなかった……!」
「……お兄ちゃん……」
小さな手で彼のシャツを握りしめるアンナちゃんは、涙を必死にこらえていた。
冷えた目つきを変えぬまま、ソルはシュレイドに向き直った。
「君……研究のためなら、同族さえも使い潰すつもり?」
「どれだけ利用しても、倫理的に許されるのはモルモットくらいです。しかし、それでは正確な研究成果に辿り着くのに時間がかかります」
付近で轟音が聞こえる中、コツン、コツンと規則正しく響く靴音がはっきりと聞こえてきた。
「異能力の研究は、我々の限界を超える可能性を秘めているのですよ。どこまでやっても終わりが見えない。しかし、人間の寿命は限られています。生きて百年、ほとんどはそれ以下で死にます。私は、課せられた呪縛からの解放を望んでいるのです」
「……人間にそんなことができると思ってるの? できないから、君たちは人間なんだよ」
「科学が発展さえすれば、いずれ不可能などなくなりますよ。だから、私は必ず研究を完成させる。邪魔は許しません」
「はぁ……これじゃあ、石と彼らを切り離してほしいって言っても、全然聞いてくれなさそうだね」
「せっかく作り上げた実験体を自ら解体するわけないでしょう? 偶然見つけた産物に、貴重な人間。手放すなんて考えられない」
望み薄だという現実を、嫌というほど突きつけられてしまった。
このままじゃ、ティルとアンナちゃんはヴァーサーたちと離れられない。私たちも目的を達成できない。
けれど────私は思ってしまった。私たちが倒すべきものは……本当に、彼らなの?
「話が終わったのなら研究に戻らせていただきます。こうなることなら、あの女にもっと働いてもらえばよかった。まだ若かったのに……」
「────うるさいっ!!」
アンナちゃんの大声で、とっさにその場から飛び退いた。
退いたのとほとんど同時に、私たちのいた場所に闇が生まれ、爆音とともに空間全体を揺らした。
シュレイドも、素早く砕けた地面から後ずさる。
「……ほう……まだ昼間だというのに、使えるんですね」
「アンナ!? お、お前、それ……」
驚くティルの前に立ち塞がっていたのは、不思議な力で髪が揺らめくアンナちゃんだった。右手に何かを握り、服のポケットにしまい込む。
ゆっくりと顔を上げた、彼女の右目は……金と赤を混ぜた、歪な色をしていた。
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